第3話-8 この世界でのお約束を教えとく
一向に話が進まない……。
途端に情けなくなる蓮を、嘲笑うかの様にバラバラバラッという機械音がする。
「あっちだ……って、ヘリ?!」
タイチが指差す先には砂漠仕様なのか茶色系の迷彩を施された大型ヘリが、爆音を響かせながら登場した。
そのヘリからは梯子が垂らされており、誰かが……全然忍んでいないくノ一の様な衣装を着た女の子が掴まっていて―――。よくよく見れば、先程ベッドで眠っていたミトちゃんの顔だ。あの窶れた面影とは全然違い、血色も良く元気いっぱい大声で語りかけてくる。
「わーはっはっはっは! 貴様らの指揮官はワタシが頂いた!
最終ステージで待っているぞ、ハイスクールレンジャーズ!」
と言い残すと、そのまま高笑いしながらヘリは飛び去った。
……えーと。
一体何がどうなってんの???
「なんや、色々ツッコミどころ満載なカンジやなぁ……」
ため息とともにどこか疲れた蓮の呟きが零れた。
「いや、待て……ツッコミどころ満載なのは、お前も同じだろうが?
何、他人事みたいなツラしてんだよッ?!」
「取り敢えずこの訳の分からない状況を説明して貰おうじゃないか?」
既にブチ切れ気味のタイチと卿夜に詰め寄られ、更に―――。
「そうですわ!! ど、どうしてワタクシ達は、その……全身タイツで、蓮会長だけそんな普通っぽい服なんですの?!」
そうそう、メンバー内で蓮兄ちゃんだけが唯一、タイツじゃないのがみんな引っ掛かっているみたいで。
「いやいや、全身タイツちゃうで? 戦闘用スーツやん。
んで、オレだけ違うのんは、追加メンバーやからやろ、多分。
……知らんけど」
「「「追加メンバー???」」」
「うん。見た事無いか? 日曜の朝にやってる戦隊番組。
大体最初は5人くらいで始まって、途中で追加メンバーが出て来んねん。
フツーに組織の後輩やとか、部外者スカウトしたり、時には敵から寝返ったりとかパターンが色々あんねんよ。
んで、単独行動する場合はちょっと強かったり、特殊能力あったりとか……」
本筋ではない説明を長々と喋っている蓮にそろそろ本気で切れ始めたのか、タイチがとうとう胸倉を掴んで凄む。
「―――で、何でこうなってんだよ? 一から全部、分かるように話せッ」
「……イ、イエッサー」
* *
「ぶっちゃけると、ここはミトちゃんの……ある意味『夢の中』で、現実世界ではないんや。
卿夜に本部から取って来てもろた『夢香』ゆう特殊なお香の効果で、肉体を現実世界に置いて、精神体だけが彼女の夢世界へ侵入してる状態や」
と、言われて思い出したのだろうタイチが手を離す。
「そういや……なんだか妙に甘ったるい匂いがしてたが、アレか?」
「あー、うん。それ夢香の香り。
ちゅーか、センセまで巻き込むつもりは無かったんやけどなぁ。
正直、何があるか分からんから、まーくんにも外れてもらう予定にしとったのに……卿夜が部屋入ってすぐに香焚いてまうから……」
ブツブツと言い訳臭くぼやいている。
「あーもー、悪かったよ!! だったら先にその予定ってのを全員に話しとけ!!」
と自分の所為にされては卿夜も怒る。
「ちょ、ちょっと待って下さいませ。何があるか分からんってどういう事ですの?!」
「え、いや……手始めにオレらのこの、なんちゃらレンジャーのコスプレとか、さっきのミトちゃんの悪の組織の女幹部みたいな言動とか―――。
彼女の精神世界だけあって、影響モロに受けるから趣味全開状態やん?」
「ミトちゃん、戦隊モノ好きだったんだ。知らなかった……」
「まー、最近は結構若手のイケメンとか出とるしな。って、戦隊モンの話は置いといて。
この世界でのお約束を教えとく」
漸く本題の話に入るらしく、蓮の表情が真面目な物になる。
「「「「おやくそく???」」」」
「そ。オレとかタイチみたいに格闘系で戦うタイプはそのままでえぇけど、術タイプの卿夜とミヤビ、後、多分攻撃手段のないまーくんも。
ここはミトちゃんの精神世界で、オレらは侵入者―――当然”支配率”は向こうの方が高い。
よって、オレらが武器なり術なりを使う為には余計に”手間”が掛かんねん」
いきなりこんな所に連れてこられているのだから、もう少し丁寧に解説して欲しい。
”支配率”だの”手間”だのと言われてもさっぱり分からない。
「意味が分かりませんわ……」
「まぁ、そうやろな。
モノは試しや。卿夜、何か簡単な術使ってみ?」
卿夜は怪訝そうな表情で、しかし左手で指を2本立てて瞑目し、さっと払うように前へと伸ばす……ものの、何も起こらない。
「……?! 術が……発動しない?」
「そ、そんな……じゃあどうすれば……?!」
術が使えない、なんて悪い冗談にしか思えない。
多分ここに巣食って居るだろう敵と戦う為の力が完全に奪われてしまった事になる。
「な? 出来へんやろ。後は、そうやな~。例えばその戦闘用スーツの装備の銃」
「え、ああ……そう言えば、付いてるな?
なんて言うか……その、すげー昔のSFっぽい? 形って感じだな」
それぞれがホルスターから出して見て、みんなが思っただろう感想。
「それ、単なる飾りやからな?」
「えっ?! 撃てないの、コレ?!」
正冬が心底がっかりした声を上げる。
「それはホンマに形だけ、やからな。じゃ~、ちょっと見ててな?」
蓮が左手を広げて、皆に見えるように出す。すると、モヤのような物が渦を巻く様に集まり、急速に何かを形作っていく……。