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第3話-4 まぁ良い。乗ってやるよ。

相変わらず会長クンに振り回されてる人達……。

 朱鷺之台(ときのだい)学園初等部の校舎は、学園の敷地の最東部に、幼稚舎と併設されている。

 明るく広々とした作りは他の建物と共通だが、こちらの校舎は設備などのカラーがパステル調で柔らかく纏められ……とはいえ中学年・高学年と段々色調は落ち着いた物へと変更されていくので、一行が目指していた6年1組の教室は、もうほぼ中等部の教室と比べてもそう変わる所はない。

 授業参観と言うだけあって、この学年の教室だけはざわざわと人の気配で賑わっている。


「何やったら、みんなはココで待ってても()えで?」


 もう目指す場所の目前でそんな事を言い出す蓮に、また卿夜以外の3人はビミョーな表情を浮かべるが……。


「その代わり、ちょっとこの辺り調べてみて欲しいんや。

 そんで、何か気になる事があったら後で教えてくれへんか」


 などと、珍しく真面目な顔をする物だから、ずっとむくれていたタイチと雅も少し態度を改めた。


「そういや、修行の成果がどうとか言ってたもんな、お前。

 まだイマイチ俺達に何をやらせたいのかが不明だけど……まぁ良い。乗ってやるよ」

「―――この間の超豪華パンケーキで手を打ちましてよ? ワタクシ」


 と二人が渋々なのとは対照的に、環樹がおずおずとこんな事を言い出した。


「うーん、修行の成果と言われても、よく分かんないんですけど……。

 でも、なんか、ちょっと……その、変な感じ? しません……か?」


 逆に聞かれてタイチと雅はますます真剣味を増す。

 なんと言っても、タローちゃんの実践教室で一番()()()のは環樹だ。

 元が素人なのだから、当然と言えば当然なのだが……正直、術者組の二人が焦りを覚える程だった。

 雅は俄然(がぜん)やる気を見せ、タイチも一級術師認定試験を受ける為に、頑張ろうと内心思い始めたのだから。

 環樹の言葉に唇が弧を描く様な笑みを見せる蓮とは反対に、卿夜はもう見慣れた渋面になる。


「変な感じ……か。俺には良く分からんが……。―――行くか」

「そうですわね。動ける格好をと思って服を選びましたから、さすがに授業参観のご父兄に混ざるのもちょっと、アレですし……」


 昨日蓮が修行の成果がどうのと言ったものだから、皆、高等部の制服姿の卿夜以外は普段着……というよりは運動着に近い格好をしている。


 蓮はそのまま教室に向かい、卿夜達は取りあえず辺りを回ってみる事にした。


()のヤロー、最初からそのつもりだったんだろー。自分だけスーツなんだし」

「でも、父兄の皆さんの居る所に居心地悪い思いしながらずっと立ってるより、探検してる方がよっぽど楽しくないですか?!」


 妙に目を輝かせる環樹のテンションが、先ほどからどーにもこーにもおかしい……。


「た、たまちゃん……? 今日はなんだかいつもとノリが違うんですけれど……?」

「―――えぇッ?! そ、そうですかね? えっと、こーゆー所って初めてで何だか楽しくって~」

「そんなに珍しいか? 小学校なんて、どこもそんなに変わらないんじゃないか?」


 呆れた、いや何となく既に疲れた雰囲気を漂わせるタイチに


「いえいえ、そんな事ないですよ! 楽しいですもん、私!」



   *     *



 一方、教室に向かった蓮はというと。

 教室に入る前に緩めていたネクタイをきちんと上まで戻し、ついでに卿夜に借りたメガネを掛けて中に入る。

 教室内には大勢の父兄(と言っても母親が大半だが)が、既に詰めかけている。

 それまで静かだったお母様方が、一斉にざわざわとし始める。

 蓮が入って来たのだ。

 その気配を子供達が読み取って殆どが後ろを向いた。

 正冬(まさと)も例に漏れず振り返った。スーツ姿の蓮と目が合って笑顔になる。

 小さく手を振る彼につい振り返して担任に注意されてしまった。


「霧江くーん、嬉しいのは分かるけど、授業に集中して下さいね~?」

「は、はいッ! ごめんなさい……!」


 その後は(とどこお)りなく授業は進み、終了。

 父兄達は教室を退出し、一足先に玄関ホールへ移動。児童達は連絡事項を確認して、解散。

 保護者と落ち合って自宅登校者は帰宅。寮生達は希望すれば保護者と外出可能―――という流れなのだが、何故か子供達がなかなか帰ろうとしない。


「ねぇねぇ、霧江君の……保護者さん、超カッコイイんだけど!」

「いつも話してる、一番上のお兄さん?」

「それとも、二番目のお兄ちゃん?」

「あの人、どっかで見た事が……」


 児童が集まっている輪の中心で霧江 正冬が質問攻めに会っていた。


「こらこら~。みんな早く帰りなさーい。

 保護者の方が、ホールで待ってるんですからね~?」


 担任に急かされて、児童達は渋々諦めて帰って行く。


「すみません、エリナ先生……。みんな、僕の保護者が来るの珍しいみたいで……」


 6年1組の担任、鏑木(かぶらぎ) 絵璃奈(えりな)。見た目と口調はふんわりとした優しい感じだが、本気で怒らせると鬼のように怖いと(もっぱ)らの噂である。


「まぁ、珍しいというよりはもっと別の理由のような気もするのだけどね~。

 それより、あの方が例の……?」


 エリナの声が低く抑えた物に変わる。


「はい。この辺りの担当者の一人なんですけど……。とにかく、合流しましょう」

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