第2話-11 ……何でも無い
取り敢えず、東北からは帰還しました。
見慣れない天井……。―――ここは、何処だ?
目を覚ますと、本当に知らない和風旅館の一室のような場所だった。
両側には右手側に蒼眞が、そして左手サイドに春破が自分と同じように布団で寝かされている。
「―――えーと……どうしたんだったっけ」
まだイマイチ働かない頭で考える。
ああ、確か、黒騎士のランスの攻撃を受けて、防御の為の結界を張ったは良いけれど、蒼眞の声を
聞いたら安心して、完全に意識がブラックアウト。
―――なんて様だ。
ほら見ろ。仮免一級なんて、精々こんなモンだ。情けない。
蒼眞なんて、あんなに巨大な結界を敷設して、更に戦闘だって紅蓮と遜色ない程こなしていたのに。
そりゃあ『特級相当』と仮免一級なんて揶揄されているのを比べる方がおかしいのは分かっているけれど。
それでも、悔しい。その絶望的な実力差が―――。
「―――はぁ。先行き暗いなぁ……」
頭を抱えて、ふと隣を見るといつの間にか蒼眞が寝返りを打ったのか顔がこちら向きになっている。
いつもの顔色では無く、少々青ざめて見えるのはそれ程消耗していると言う事か?
俺が気を失ってからそんなに消耗するような事があったのだろうか……。
あの時点で既に勝敗は決していたように見えたんだが―――。
顔に掛かる長い髪を直そうと手を伸ばしたら、その手首を捕まれた。
「―――ん……卿夜? もう起きていたのか……」
寝ぼけ眼を擦りながら、蒼眞が目を覚ました。
「今何時だろう……」
欠伸を噛み殺し、起き上がる。んーっと伸びをして、またこちらを向く。
「ああ、シュンはまだ寝てるんだね。仕方ないか。あのランスの攻撃まともに喰らったんだから。
どうしたの、卿夜? さっきから全然喋らないけど」
そう言われるまで、自分がぼんやり見つめていたのに気付いて、何だか気まずくなり、ふいと目を逸らす。
「……何でも無い」
扱いづらいと思われてるだろうなと自分でも思う。
そしてそんな自分が嫌で嫌でたまらない。
「卿夜、明日学校だよね。今日中に帰らないといけないんだけど……。
来た時の術、まだ使えそうに無いんだ。―――どうしよう?」
もの凄~く恐縮そうなその声に、思わず卿夜は愕然とした顔で言った本人を見直した。
* *
結局。
紅蓮と話が有るからと、居残る蒼眞以外の面々は皇﨑家専属運転手こと顕秋運転の車(本部にある筈の、皇﨑家の物である。何でここに有るんだ?)で帰途についた。
未だ昏々と眠る春破を助手席にシートベルトで固定し、卿夜と夏邪が後部座席へ。
「ではお先に失礼します。お世話になりました!」
「……お、お世話になりました……」
にこやかに挨拶している顕秋とは裏腹に、後ろの二人は妙に硬い表情のまま、見送りに出ている紅蓮達にお礼を述べていた。
「さぁ、行きますよ~♪ ……じゃなかった、帰りますよ~」
何故か、指をわきわきとさせた後、ハンドルをガシ、と握ると初速からどうしてそのスピードになるんだ?! という速度で車は発進した。
「ひぃぃぃぃぃ~~~~ッ!!!」
恐らく夏邪の物だろうと思われる悲鳴が遠くなって行く。
「シュウの運転で本部までだと、なかなか大変だろうなぁ……」
見送った蒼眞が溜息を付く。
「そうし向けたのはおめぇだろうが」
紅蓮は苦笑い頻りだ。
「わざわざ本部にあったあの車、ここまで取り寄せたんだろ?」
「―――まぁね。大きい次元通路開くよりそっちの方が楽だったから。
色々お前と積もる話も有るし、私一人なら家まで跳べるしね」
ふ、と息を吐くと紅蓮は”東北支部長”の顔に戻る。
「―――助かる。気になる事があるのは俺もだ。
恐らくはまだ、あの子らの耳に入れたくねぇ話になるだろうからな。
それにしても……何で隠居止める気になったのかは俺にも聞く権利が有るんだろうな?」
「もう何となく、気付いてるんじゃ無いのか?」
また蒼眞はくつくつと笑う
「大吟醸出してやるから、おめぇの口から聞かせろよ」
「じゃあ、炙ったイカも付けて」
「こんな山ん中でイカとか……。イナゴの佃煮ならあるぞ?」
「とんぶりは?」
「―――贅沢言うなっつーの」
蒼眞と紅蓮達は笑いながら建物の中へと戻る。
* *
ヘロヘロになった卿夜が自宅に辿り着いたのは日付変わって月曜日の深夜。
「お帰り~、卿夜。色々大丈夫やったか~?」
同居している蓮に出迎えられて、げっそりとした表情のまま、玄関で突っ伏してしまった。
「卿夜?! おーい、卿夜?!」