第2話-9 俺なら絶対挫折してたでしょうから
うーむ……。何とか東北出張編(?)終われそうな気配になってきました。
楽観的な見切り発車するのが悪いんですが、何とか纏まりそうです……。
「へーあんじだい……。って、あの平安時代?! ―――嘘ぉ?!」
春破は内心、他に平安時代があるのかと遠い目になる。
我が妹ながら、少々甘やかし過ぎたかも知れないと―――。
「本当だってば。蒼眞様は『鬼』に分類されてる超絶レア級妖魔のお一人だよ。
相当する術者階級も存在しないから”特級相当”なんて言われてるだけ」
自分と同レベルの筈の弟が何故かやたらと詳しい……。
「何でアンタがそんな事知ってんのよ?!」
「だって僕、蒼眞様が”隠居”開けの時に迎えに行ったから。ですよね~、卿夜様?」
ニコニコと卿夜に話を振る顕秋。
「―――ああ。俺が一級に合格した翌日だ」
そう言えば―――。今年の3月頃、何だか騒ぎになっていたような……。
承認式に合格した術者が無断欠席したとか何とかで。
で、それが卿夜様だったとか、結局翌日には戻って来たとか、でも理事長の大目玉食らったとか。
その後何だか本部の上の人達が、やたらとピリピリバタバタしていたのを何があったんだろうって思っていたけど、私達の様な下の方までは何も通達は無いままで―――。
「え、えーと……じゃあ、春先に本部がビミョーな空気だったのは、もしかして……」
春破が頷く。
「卿夜様が長らく隠居状態だった蒼眞を連れて戻ったからだよ。
正直、随分昔に卿夜様から妙な質問された時は、こんな大事になるだなんて少しも思ってなかったから、本当に驚いたよ―――」
「しゅ、春破さんッ!! そんな昔の話はしないで下さい!!」
慌てた様子で卿夜が声を荒げる。余り、その話はされたくないらしい。
「いやいや、凄いと思いますよ。俺なら絶対挫折してたでしょうから」
* *
「いや~、粘るね、奴も」
「紅蓮、お前手を抜いているだろう……?」
蒼眞の声が、少々険を帯びているような気がした。
「でなければ、会わない内に随分と枯れたか?」
そんな事を言いながら、ニヤリと嗤うから。
「抜かせ。長~い隠居開けのおめぇと一緒にすんなって。
俺はおめぇが居ない間もずぅっっと現役だったんだからな?
ま、どういう形にせよ、おめぇが復帰したんならそうそう悪さをしようなんて輩も居なくなるだろうよ」
「―――ヒメには随分詰られたよ。最後は泣きながら許してくれたけど」
苦笑気味に蒼眞が零す。
「それに関しちゃ俺も思う所は有るんだぜ、多少なりともな。
だが、いいさ。戻ってくれただけでもよ。
最悪、もう二度とおめぇの顔を見る事は無いかもしれねぇって思ってたんだから」
「何だか縁起でも無いな……。そこまででも無いと思うんだけど;
―――な、自爆ッ?!」
紅蓮の拳が当たった刹那、カッと光と黒煙が爆ぜる。
そのまま、煙の尾を引いて落ちていく。
だが……。
「マズい、シュンッ―――!!」
「そ、蒼眞?!」
慌てて追いかけるが、黒騎士の落下速度が異常に速い。
―――速すぎる!
漸く煙が掻き消えた黒騎士の姿は、真っ直ぐにランスを構えて春破達に突っ込んでいく。
「春破さんッ!!」
戦闘中に気を逸らした事を後悔しても後の祭りだ。
この距離、あのスピード……逃げられない。
受けるしか無い―――!
春破は渾身の力で護身用の結界を張り巡らせる。
突き破ろうとするランスの切っ先が結界越しに春破の右手と相対する。
「―――ぐ、ぅ……」
黒騎士も、死に物狂いだ。
最後の力でせめて一矢報いたいのだろうが、目の前の二人とは力の差は歴然。
勝てないと見るや標的を変えたのだ。より、弱い者達へ。
―――そしてそれは成功する。
こういう手合いの使うバリアは個人の精神力で発生させる物が殆どである。
そして、このランスによる攻撃は精神へのダメージが大きいのだ。
ただ、死ぬだけでは済まさぬ。お前達も、道連れだ―――。
「だ、めだ……力が、抜ける……」
「シュン兄……?!」
持ち堪えたのも数瞬。薄膜のように彼らを守っていた護身用結界は一気にひび割れ砕け散った。
―――折角才能有るのに勿体ないよ
先程の言葉が頭に浮かんだ。
「……こんな所で、立ち止まって居られるか!!」
ぐらりと倒れる春破を受け止め、瞬時に卿夜が結界を構築し直す。
「……きょ、や様……?」
そうだ。俺だって、一級なんだ。
仮免だろうがなんだろうが、一級は一級だ―――ッ!!
「―――卿夜ッ!!」