第2話-6 誰に言ってやがる!
……一つ、思いついた話が有るんですが。春破の子供の頃のお話。
……滅茶苦茶脇道過ぎますねw 生徒会離れすぎやろ、ってゆー。
「……でゅ……???」
紅蓮が思いっ切り『何だそれ?』な顔をして蒼眞の方を見る。
「”デュラハン”。
元はアイルランド辺りの中世の伝承なんかに出て来る妖精だけどね。
最近では”不死の怪物”とか、そっちの方が有名になってしまったかな?
どちらにしろ、『死を予言する存在』なんて、山奥の平穏な村には余りにも似つかわしくない」
説明を受けて、紅蓮の顔が険しくなる。
「……縁起でもねぇ。村の年寄り達はまだまだ元気なんだ。
うめぇ野菜の為にもお引き取り願うしかねぇな」
……鍋の野菜はこの村で作った物だったんだな。と、卿夜が考えていると、件の黒騎士は頭上高くに位置取りし、挑発する様にしきりに蹄を鳴らしている。
―――空中の癖に。
「シュン、暫く守りを固めてくれるか? 一度、紅蓮と仕掛けてみる」
「―――了解。こちらは任せてくれ」
春破が頷く。
「はっはっは、こりゃあ良い! こんなに早く、またおめぇと暴れられるとはな!」
紅蓮はバキバキと指を鳴らして既にやる気満々だ。
「出るぞ、紅蓮。抜かるなよ」
「誰に言ってやがる!」
一瞬にして黒騎士の高さまで跳び、同時に仕掛ける。
「特級相当と準特の支部長のコンビ技、か。
って、ヤバい……; 俺でも完全に追えないなんて……参ったな」
春破の言葉通り、攻防が目で追い切れない。
某アニメの戦闘シーンを彷彿とさせる、ぶつかり合う音は聞こえるのに、実際やり合っている人物達は一切見えないという、アレ。
「何か、今更ながらに格違いってカンジ……」
目を凝らして見つめる物の、一向に見えていない夏邪が溜息と共に吐き出す。
「うぅん、流石だよねぇ。準特以上って凄いなぁ」
まるで他人事の様な顕秋。
「―――これが特級相当……」
卿夜がぽつりと呟いた。
それから数度の衝撃音の後、元居た場所へと二人が着地した。
「かーッ、固えな、奴は!」
ブラブラとしきりに手を振りながら紅蓮が愚痴る。
「本当に。流石は甲冑なだけあるね」
やれやれと言いたげな蒼眞。
二人とも、特に見た目に怪我を負ったとかの変化は見当たらない。
「で、どうだった?」
春破の問いに、答えたのは蒼眞。
「まぁ、予想通り中身は無いな。とは言え、かなり固いよ。
それに、あのランスの攻撃は、もし一度でも喰らうと結構なダメージになるだろうな」
「ああ、同感だな。掠っただけでもがっつり精気を吸われかねん。えーと、何つったか……?」
また紅蓮が蒼眞に聞いている。
「エナジードレイン、だよ。
―――それにしても、何故あんな奴がこんな東の果ての島国の、しかも山奥に出没してるのやら……。それに、どうやら手負いのようだし」
―――衝撃ッ!!!
「手負い?! ―――アレで?!」
騎乗の癖に、二人掛かりの幾ら小手調べの攻撃とは言え遣り合いながら、未だに頭上で平然と存在し続けているアノ存在が、手負いだなんて。
愕然とした表情で遙か頭上を見上げる夏邪。
「―――もしかして、敵から逃げてきたんじゃないか?」
おずおずと卿夜が切り出す。
「それで、ここに流れてきて手負いの傷を癒やす為に土地の妖怪達を―――」
「ふむ、あり得るかもな。外国の妖怪? なんて、この辺にゃ、そもそも居なかったんだしよ」
「確かに……。最近は地域性も随分薄れては来たけれど、流石にこの辺りで気精からデュラハンが生成するとは思えないしね。
戻ったらミコトに欧州の情勢を確かめて貰おうか」
と、春破の方を見る。
「それはそれとして……まずは全員生きて帰る事を考えないと」
と深刻そうな返事をする彼に、特級相当と東北支部長の肩書きを持つ二人は至って平静で。
「いや、まぁ……、あの手の輩の対処法ってのは決まってるっつぅかな」
なぁ? と紅蓮が蒼眞を見遣る。
「そうそう。特に、奴は”取り付く島”も分かり易いしね」