第2話-4 お久しゅう……ございますッ
長らく間が開いてしまいました……。考えながらだと煮詰まる事多くなってきたなぁ。とほほ。
「ああ、そういや今代のミコトは……。―――成る程ねぇ。
まぁ、何にせよおめぇが復帰してくれるんなら、こんなに嬉しい事はねぇ!」
がははと笑う紅蓮を横目で見ながら卿夜はひたすら野菜を食べていた。もそもそと。
きじ鍋は最後に雑炊まで堪能してすっかり無くなった。
「ふあ~、美味しかった~♪」
夏邪が心底幸せそうにお腹をさすっている。
その様子を満足そうに見ていた紅蓮がまた手を打ち鳴らすと、再び子供達がわらわらと入ってきて後片付けを始める。その子供達の後ろに誰か居る。背のひょろ高い、痩せぎすの男性だった。
「おお、傘居。待たせちまったな、悪かった」
「いえ、少しも……。こちらが本部の方々ですか?」
「ああ、本部の助っ人だ。そうだ、傘居……。お前、覚えてねぇか? 蒼眞の事」
「―――えっ?!」
傘居と言う男は驚いた様に駆け寄り、蒼眞の前へ正座するとボロボロと涙を流し始めた。
「そ、蒼眞様……!! お久しゅう……ございますッ」
「傘居、泣く奴があるか。蒼眞が困ってるじゃねぇか」
仕方ねぇ奴だな、と紅蓮は呆れるが、傘居はまだ泣き続けていて。
「傘居―――久し振りだね。本当に、もう泣かないでくれ。私はこうしてここに居るから」
蒼眞がどこかほろ苦い懐かしそうな表情で話しかけると、傘居は漸く、しゃくり上げながら顔を上げる。
「す、すみませんッ! あんまり嬉しかった物で……」
「まぁ、気持ちは分かるぜ? 俺も蒼眞の名前を聞いた時は自分の耳を疑っちまったからなぁ。
ああ、いや……そんな事よりもだ。傘居、例の百鬼夜行の話を聞かせてくれ」
* *
傘居の話によると、この東北支部よりもまだ山の奥にあるという村で、夜な夜な妖怪達が出没しているという。
それも、ただ出没しているのではなく、何かから逃げている様に見えたと―――。
「それがまた、見た人間が一人や二人じゃ無いんですよ。村の年寄り達殆どが二度三度と見ているんです」
「逃げている感じ……か。百鬼夜行と言うからには、妖怪も一体や二体ではないと言う事ですか?」
春破が聞くと、傘居は頷く。
「ええ、少ない時は二、三人らしいのですが、多い時には十人を超えていたそうです。
私が見た時には、四人ほどだったんですが……」
「ああ、東北支部での目撃者は君だったんだね。
それで、逃げていた彼らを追っていたモノは確認出来た?」
蒼眞に問われて、傘居が残念そうに首を振る。
「何となく、”何か居る”感じは分かったんですが……すみません。
結局、逃げていた人達も見つからず会えず終いでした」
「当人達が見つかれば、話も聞けるんだがなぁ……」
紅蓮も渋い顔になる。が、蒼眞は横目でじろりと睨みつける。
「それで、本部へ助力を願ったのか。東北は紅蓮が居る筈なのに、珍しいと思ったら……」
「ははは。そう言うなって。
ミコトに相談がてら連絡したら久し振りに蒼眞の名前を聞いたモンでな? 無理言って寄越して貰ったんだよ。
それに、現場の村は俺に取っちゃあ懐かしい場所でな。何処ぞの悪党に踏み荒らされるのは我慢ならねぇんだよ」
遠い目をしている紅蓮に、蒼眞がやれやれと言いたげにぽつりと零す。
「分かったよ。―――じゃあ、腹拵えも済んだ事だしそろそろ現地へ向かおうか?
日も暮れてきた頃だ」
「おう。そうこなくちゃな!
ああ、傘居。ご苦労だったな。後、頼むぜ? 俺も出るからな」
当然の様に言い放つ紅蓮に、傘居が目を丸くする。
「え、紅蓮さ……支部長も行くんですか?!」
「たわけ。本部の助っ人だけに任せる訳にはいかねぇだろうがよ。
幾ら蒼眞が居るったって、こっちからも誰か付いて行かねぇとな?」
にやりと笑う紅蓮だが……。
「あ、分かりましたよ!
―――どうせまた蒼眞様と一緒に暴れたいってだけなんでしょう?!」
傘居の言葉は図星だった様で、紅蓮が分かり易く視線を逸らす。
「全く、紅蓮さんは偉くなってもちっとも変わらないんですから。
何かあるとすぐ、現場に出て行こうとする……」
ほとほと呆れ返った様に傘居が愚痴るのだが、蒼眞は笑っている。
「……まぁまぁ。そこが紅蓮の良い所でもあるんだから。
じゃあ、紅蓮、皆。出掛けようか―――」