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第2話-3 卿夜、喰 う よ ね?

東北支部へ出張……ですか、そうですか。きじ鍋喰ってみたいなぁ……。

 まるでどうにでもなれとでも投げやりに言った卿夜(きょうや)に、


「―――もしかして、私と一緒は嫌だったりするのかな?」


 蒼眞(そうま)が聞くと


「……い、嫌に決まってるだろ。只でさえ絶望的な実力差だって言うのに。

 一緒だと余計に実感するし……」


 不貞腐(ふてくさ)れたような返事が戻る。


「ふぅん。理事長は一体どうしたいんだろうね?

 まぁ、考えたって始まらないか……。

 そろそろ現地に向かおうか? 百鬼夜行と言うからには、日が暮れてからが本番だろうけど」

「段取りとしては、一度東北支部へ寄ってくれとなってる。

 じゃあ、よろしく! 蒼眞」

「はいはい。どうせ私の一番の活躍場面だよ」


 ゾロゾロと、当初二名だった筈が最終的に五人にまで増えた一行は、本部のとあるドアの前に集合する。


「あぁ、そうだ。今、東北支部の支部長って誰かな?」


 思い出したように蒼眞が聞いた。


「えーと、今の支部長は確か緋之原(ひのはら)さんだったような……?」


 春破(しゅんや)が、まだお会いした事はないけれど……と付け加えたその名を聞いて、皆に少し離れておくようにと蒼眞は言い含めてからドアを開けた。

 いきなり、太い腕がもの凄いスピードで突き出されてくる!!

 しかし、蒼眞は読んでいたのか極僅かな動きで(かわ)すと、拳の力の方向を逸らせる様に(さば)き、逮捕術よろしく腕を決めてしまった。


「―――ははッ! 腕は(なま)っちゃいないようだな?」

「それはこちらの台詞だよ、紅蓮(ぐれん)


 いきなり殴りかかって来たのは、獅子のたてがみの様な赤い髪に赤い目の、厳つい壮年の男性だった。

 蒼眞とは旧知の仲なのか、がっちり決められていた腕は既に、堅い握手に変わっている。


「蒼眞様、お知り合いなのですか?」


 まだポカンとしている周りの者に、大男は豪快に笑い出し、蒼眞はいつもの微笑みを返した。


「おおよ、蒼眞とは昔二人でこの辺りをブイブイ言わせたもんさ、なぁ?」


 ドヤ顔で言い放つ大男。


「紅蓮……。そんな大昔の暴走族みたいな言い方しないでくれないか? 流石に恥ずかしいだろう……」


 やれやれと溜息を付く蒼眞。


「えーッ?! そんな事言うなって! 大体、折角久し振りに会ったんだぞ?

 おめぇももう少し嬉しそうにしろって! 俺ばっかり嬉しいみたいじゃねーか;」


 少し拗ねた様な表情になる紅蓮だったが、ふ、と一息つくと皆の方へ向き直る。


「皆、もう分かっているだろうが、この大男が東北支部支部長の緋之原(ひのはら) 紅蓮(ぐれん)だよ。

 彼とはもう随分古い友人でね。

 ここら辺りの悪い奴らを二人で蹴散らしていた事があるのは事実だけど……。

 取り敢えず、ドア締めてくれない? ホント疲れるから―――」


 情けない表情でお願いされて、最後尾だった卿夜が慌ててドアを閉める。


「ありがと、卿夜。

 じゃあ、紹介しておこうか。こちらから、霧江春破君、夏邪(かや)ちゃん、顕秋(けんしゅう)君、それから皇﨑卿夜君」


「ほう、霧江四兄弟の内、三人までがお揃いか。

 それに、あの最速記録の御曹司とはな。こりゃ強力な助っ人じゃねーか」


 がはは、と笑い紅蓮は先に歩き出す。


「まぁ、取り敢えずは話を聞いて貰おうと思うんだがよ……その前におめぇら、腹は減ってねぇか?」


 そう問われて霧江三兄弟と卿夜は顔を見合わせると


「「「「減ってますッ!!!」」」」


 と、見事なハモり方で返事した。


「そうだな。下手をすれば長丁場だ。今の内に食事は済ませておいた方が良いだろうね。

 紅蓮、お前がそう言うからにはしっかり用意してあるんだろう?」

「おうともよ!

 蒼眞(おめぇ)が来るって聞いたしな?

 俺様じきじきに腕を振るったきじ鍋を喰わせてやるぞ」


 ―――じきじきに腕を振るった?! 作ったの? 支部長が?!


 一瞬思った事は皆同じだった様で。霧江三兄弟と卿夜はぎょっとした顔になる。


「ああ、そんな顔しなくても大丈夫だよ。

 紅蓮のきじ鍋は絶品だから。久し振りだし、私も楽しみだよ」


 蒼眞の太鼓判で安心した顔になる面々を尻目に、先を歩いていた紅蓮はがらりと引き戸を開けて、外に出ると少し離れたところにある古風な民家へと向かう。

 茅葺きと思われる古民家に入ると、それまでも微かに漂っていた空腹を刺激する良い匂いが一際強くなった。

 囲炉裏に掛けられた大鍋がグツグツと沸いていて、季節の野菜やキノコ類、豆腐などがぎっしり煮込まれている。


「さ、好きな所に座りな。

 肉類は早く入れると固くなっちまうからこれからだが、野菜もうめぇぞ」


 ご機嫌な紅蓮はそのまま鍋の給仕までしてくれるつもりの様で、自らもどっかりと座り込むと、パンパンと手を打ち鳴らした。

 すると、わらわらと小さな子供達が入って来て、甲斐甲斐しくお客様の食事の準備をし始める。


「おう、ご苦労さん。一人増えたんだが大丈夫か?」


 子供の一人に紅蓮が聞くと、その子はうんうんと頷きにっこり笑う。


「そうか。頼んだぜ。

 ああ、それからな、もう少し後で良いから、傘居(かさい)の奴を呼んで来てくれるか?」


 子供はまたうんうんと頷き、囲炉裏の部屋を後にした。

 それを見ていた夏邪が、


「―――シュン兄、あの子達って……」


「ああ。座敷童(ざしきわらし)だな。流石は東北。妖怪の宝庫だなぁ」


 と呑気に答える兄に、夏邪が顔を(しか)めて反対側に居る弟に意見を求める様に振り返るが、当の顕秋はもうちゃっかり鍋に舌鼓を打っていて。


「いや~、きじ鍋って初めてですけど、すっごく美味(うま)いんですね~♪

 あ、もう肉煮えてます~?」


 ―――何、この馴染みよう……?!


 見回せば自分以外の面々は、すっかり食事の態勢に入っていて。


「夏邪、早く食べないと無くなってしまうよ?」


 にこやかな蒼眞に言われてしまっては仕方ない。確かにお腹は空いてるし、と紅蓮から受け取ってそのままだったお椀から一口食べる。


 お、美味(おい)しい―――!


 以降、夏邪は黙々と箸を進める。その様子を見ながら、蒼眞が更ににこやかな表情で隣の卿夜に念を押した。何故か、表情とは裏腹な、妙にドスの効いた声で。


「―――卿夜、野菜も食べるんだぞ。」

「う゛ッ―――」


 見れば卿夜の器にはキノコ類と豆腐と肉しかない。


「大丈夫、ここの野菜はホントに美味しいから、騙されたと思って食べてみな?」


 と言いながら蒼眞がひょいひょいと野菜ばかりを山程入れてしまった。


「~~~~;」

「卿夜、喰 う よ ね?」


 笑顔なのに有無を言わさぬ圧が凄い……。仕方なく観念して口に放り込む。丸呑みしようとしたら、それも見越していた蒼眞が一喝。


「ちゃんと噛んで食べるッ!!」


 逆に、思わず飲み込んでしまいそうになったがもぐもぐとしっかり噛んで飲み込む。


「……美味い」


「ははは、そーだろーそーだろー!! ウチの野菜は格別うめぇだろう!

 ―――しっかし、蒼眞。まるで御曹司のお袋さんみたいな物言いじゃねーか?」


 珍しい物を見た、とツッコむ紅蓮に蒼眞がほろ苦く笑う。


「ミコトから頼まれちゃってね……。思いっきり厳しくしてくれって」

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