第2話-2 ―――で、何でお前達がここに居るんだ?
番外編っぽくサクッと終わらせるつもりでしたが、卿夜達乱入のお陰で長くなりそうです……。
「百鬼夜行……って、この時代にぃ~?」
頭から信用していない様な夏邪の物言いに、しかし兄はもの凄く真剣だ。
「そう馬鹿にするなよ。これは東北支部もちゃんと確認している事なんだからな。
ただ、目撃した者の話では百鬼夜行と言うにはどうにも雰囲気がおかしいらしい」
うーむ、と考え込む素振りの春破に薄く笑う蒼眞。
「成る程ね。だから私とシュンという訳か。
もし二手に分かれたとしても、何とかなる人選だね」
「そういう事だ。それでもまだ夏邪を連れて行く気なのか?」
やはり妹の同行には難色を示す春破。
「過保護だなぁ、シュンは。可愛い妹に何かあったら許さないって事かな?」
クスクス笑っている蒼眞に、大慌てで言い返す。
「―――なっ、蒼眞?! ふざけた事言うなッ!! 誰が過保護だ!!」
「じゃあシスコン?」
蒼眞は完全に揶揄っている。
「違うッ!! もう良い! 連れてけば良いんだろ?! ならさっさと行くぞ!!」
苦虫を噛み潰したような顔で言い捨てると、春破が一人で本部へと引き返していく。
一連のやり取りを夏邪は目が点になる思いで見つめていた。
これまで春破は霧江の長兄という重責と、高位の術師になる事を望まれているという期待からか、これ程砕けた言動を見せる事なんて、この十数年殆ど無かったのに……。
「さぁ、シュンのお許しも出たし、そろそろ……?
あれ―――あの車……」
この本部の建物は、山の中腹に存在している。山の麓からはそこそこ葛折りの道路を上ってくる事になるのだが、その山道をかなりのスピードで駆け上がってくる一台の高級車が木々の陰から見え隠れしている。
「―――シュン! ちょっと待て。まだメンバーが増えるかも知れないよ?」
「はぁ? どういう事だ?」
* *
果たして。
本部前に停まった黒塗りの高級車には、真っ青な顔で制服姿の卿夜が乗っていた。
「お待たせしました、卿夜様。到着でございます」
運転席からドライバーが降りて来て、後部ドアを開けるが、降りてこない。
「―――卿夜様?」
促された卿夜は口に手を当てたまま降りると、脱兎のごとく本部の建物の中へと走って行った。
「顕秋……お前、どういう運転したんだよ?」
呆れたように春破に聞かれ、顕秋と呼ばれたドライバーは首を傾げる。
「いや、兄さん、普通だよ? 旦那様からなるべく早くとのお言いつけだったので、捕まらない程度に飛ばした位だから」
それを聞いて春破と夏邪は『あちゃー……』と二人して頭を抱える。
「卿夜、酔っちゃったんだな。まぁ、ここへの道で、先程のあのスピードでは仕方ないか」
同情する様に蒼眞が零す。
「―――で、何でお前達がここに居るんだ?」
春破が少し前と同じような言葉を繰り返す。
「ああ、そうだった。旦那様のご意向により、卿夜様と僕も、今回の任務に同行せよとの事です。
間に合ったようで良かったです」
爽やかな笑顔で話す弟に、春破は盛大なため息を付く。
「理事長の差し金か……。何があっても責任取らないぞ、俺は―――ッ!!」
自棄っぱちとはこういう状態をこそ言うのだろう。
「顕秋、良く間に合ったね? 車だったんだよね?」
「流石に蒼眞様じゃ無いからね; だから可能な限り飛ばして来たんだ」
同乗の卿夜がアレなのに、運転の顕秋はケロリとしていて。感心したような蒼眞の声が。
「運転者は酔わないんだねぇ。まぁ、当たり前か……。
ええと、顕秋君も確か今は二級だったかな?」
「はい。今度、夏邪姉と同時に昇級試験を受ける事になります」
「じゃあ、二級二人に仮免一級か。いざとなれば、緊急避難させれば何とかなるかな……。
それにしても、卿夜、遅いな?」
暫く待っていると、紙のような顔色の卿夜がげっそりして本部から出て来た。
「お疲れ様、卿夜。任務行けそう?」
労るような蒼眞の問いに、返ってきたのは本当にか細い声で。
「―――い゛ぐ……」
顕秋以外の面々が『あー……』という顔になる。
「ホント、顕秋はハンドル握ると見た目そのままなのに、性格ヒョーヘンするよね」
「え、心外だな~。夏邪姉は大袈裟なんだよ。そんな事ないって~」
「そんな事あるだろ。卿夜様、ヘロヘロじゃないか……」
霧江の兄弟達がわいわい話している間に、蒼眞が卿夜の額に手を当てて、何事か唱えている。
ふわりと柔らかい緑色の光が卿夜を包む。
「―――これでどうかな。少しはマシになったんじゃ無い?」
それまで死んだ魚のような目をしていた卿夜が、もうすっかりしゃんとしていた。
「はぁ、ヒドイ目にあった。でももう大丈夫だ。
任務でも何処でも連れて行け!」