第1話-12 もう学校には慣れたかな?
変な方へ話が転がりました。新キャラが登場しました。初回のお兄さんが再登場しました。
大鴻池さんが話している間、何故か苦虫を噛み潰したような表情をしていた皇﨑さん。
「―――蓮の奴、あれ程言ったのに……。
とにかく、だ。蓮は蓮だ。見たままを受け入れてくれ。お上りさんだから、素っ頓狂な事もするだろうし突拍子もない事もしでかすかも知れないが、アイツはアイツだから……」
また、皇﨑さんが遠い目をする。が、その雰囲気をぶち壊す軽快な電子音が―――。
「―――……ゲ。親父だ。」
スマホに表示された名前を見て本ッ当に嫌そうな顔になる。
「早く出ろよ……卿夜。出るまで鳴ってるぞ、絶対」
なかなか出ようとしない皇﨑さんに大鴻池さんが忠告すると、チッ、と舌打ちして渋々応答する。
背を向けて何やら話し出す。
「一体なんでしょうね、皇﨑のおじ様。
卿夜さんに直接電話してくるなんて珍しいですわね」
「さあな。あそこは色々面倒臭い家庭環境だからな」
暫くして、更に険しい顔になっている皇﨑さんが振り返った。
「悪い、俺も呼び出しだ……。後頼んで良いか?」
と、私の方を見る。
「ああ。ちゃんと送って行くよ。お前こそ、あんまり理事長と喧嘩ばかりするなよ?」
「別に俺は……喧嘩するつもりはない。いつだってな」
溜息を付きつつ、皇﨑さんは後ろ手に手を振ると公園を出て行く。その前へまるで計った様に一台の黒塗りの高級車が滑り込む。
「……顕秋さんか。いつもながら、凄いタイミングだな」
「ホントですわね~。お祖母様がいつも感心してますわよ。
霧江は代々最高の家令の家系だって」
うぅーん。分かんない事だらけ……。皇﨑さんは当然のように高級車に乗って行ってしまうし。
「おっと。神崎、置いてきぼりで悪いな。
皇﨑の家ってのは、ちょっとばかりややこしい家なんでな。ま、これから追々分かるだろ」
「卿夜さんも、とっつきにくいかも知れませんけど、決して悪い人ではありませんのよ。
とは言え、高校に上ってからの超キャラ変は蓮会長の影響なのでしょうけど」
「なんかね、クラスの人が皇﨑さんの事”会長の追っかけ”とか何とか言ってた様な……?」
と、話したら、二人に大爆笑された。どうやら妙にツボに入ってしまったみたいで。
一頻り笑うと、ひーひー言いながら雅さんが目尻の涙をハンカチで拭いながら聞いてくる。
「たまちゃん、お家はどちらですの? 蓮会長の言い付けでもありますし、送って行きますわよ」
「あ、えーとですね……」
* *
さっきとは反対の方向へ商店街を歩いて行く事になる。
「す、すみません……最初に話しておけば良かったですね」
「構いませんわよ。わたくし達も方向は同じですもの。
あ、そうですわ! 是非今度遊びにいらして下さいませ!」
そう言えば、前に何気なく地図アプリでこの辺りを見ていた時、自分の住むワンルームマンションの少し先に普通の3~4街区を纏めたような広大な敷地の家があって、そこの名前は確か……。
「え、じゃああのおっきい高津さんってお家って雅さんの……?」
「そうそう。そのでっかい家な。で、隣の街区で向かい合ってるごくフツーサイズの家が俺んちだ」
「幼馴染みって、お二人はお隣さん……というかお向かいさんだったんですね~」
「まぁ、なんだ。俺んちが後から越してきたんだけどな。ええと、幼稚園ぐらいの頃だったか」
「ふふ、そうでしたわね。同年代のお友達なんて、卿夜さん以外に居ませんでしたから、まるでお兄様が出来たみたいで、すっごく嬉しかったんですのよ?」
なんて、思い出話を聞きながらお馴染みの商店街を歩いて居た……んだけど。
突然、二人が一斉に周りを見渡し警戒し始める。
「ど、どうかしたんですか……?」
「結界が……張られてる? ―――でも、いつの間に?!」
「け、結界???」
「わたくし達を閉じ込める為……でも、なさそうですわね。
別の物に対する限定的なモノですわ。それにしても、こんな結界一体誰が……」
いつの間にか、人通りの多かった賑やかな商店街は、人っ子一人居ない、寂しいを通り越して不気味な空間になっている。
だが、喫茶店の看板は置きっぱなしだし、お豆腐屋さんの店先には並々と水の張られた台の中に白い豆腐がたくさん並んだまま。やっぱり、人だけが居ないのだ。
あ、あれ? 何だか前にも似たような事があったような???
「―――高津家の雅様?!」
声のした方を見ると、ショートカットにスレンダーなスーツの美女がこちらへ駆け寄ってくる。
「あら……夏邪さんですの?」
「雅様、何故こんな所へ―――?! 大鴻池の坊ちゃんも?」
心底驚いているらしい彼女は、どうやら二人の知り合いのようだ。
さっき言ってた『妖怪退治の組織』の人なのかも……。
「ええと、その、わたくし達は彼女を家まで送りがてら帰るところですのよ。
夏邪さんこそ、どうして……。もしかして、この結界は夏邪さんが?」
「いえ、この結界敷設は私ではありませんが……。
皆さん、青い長い髪の男性を見ませんでしたか?」
「青い髪? いいえ、見ていませんわ。どういう方ですの?」
―――青い髪?! もしかして!
「あ、あのっ! その人って、青い髪が腰くらいまであって、赤い瞳で、背が高くて、ビジュアル系みたいなイケメンの人じゃないですか?!」
「神崎? 知ってる奴なのか?」
「いや、あの、知ってるというか、一回会っただけ……なんですけど。
大きなブタみたいな化け物から助けて貰った、んだと思います……」
「何か、随分曖昧な話だな?」
大鴻池さんが微妙な顔してる。
「だ、だって、私もあんまり現実離れし過ぎてて、てっきり夢だと思ってたんですもん……」
「たまちゃん……。その方はイケメンさんですのね?」
「え、ええ、そりゃあもう! 結構中性的な美人って感じの!」
拳握って力説していると、
「―――いや、その……。
そこまで言われるとかなり過大評価なんだが……」
背後から、少し恐縮気味な聞き覚えのある声が……。
みんなの視線が、私を通り越してその後ろを瞬ぎもせず見つめている。
振り返ると、やっぱりあの時の人が居る。
「―――蒼眞様! すみません、結界内に人が入ってしまいました……」
「構わないよ、カヤ。どうもこの子とは縁が有る様でね。
こんにちは、転校生さん。もう学校には慣れたかな?」