第1話-10 頼むから、味わって喰ってくれ;
うわーい、10個目だ。一話目がなかなか終わってくれない……。
「蓮、お前……春にウチに入るまで何やってたんだよ?」
呆れた様な会計さんの言葉に、会長さんは唇尖らせて拗ねてしまった。
「そやかて、オレ、ココ来るまではド田舎の山ん中に住んでたしー。
こんな都会に突然来たら、そらお上りさんになるやん?」
「お上りさんって、全然そんな風には見えませんでしたけど……」
書記さんから見た感じでは、ごくフツーの高校生でしか無かった様で。
「そんなん、卿夜に恥かかす訳にいかんし、必死で取り繕ってるんやで?
髪とか、服とか、色々と。大変やねんで? ホンマ」
喋りながらもパクパクと……よくもまぁそんな器用なまでに食べられるなという勢いで豪華なパンケーキが無くなっていく。
「……頼むから、味わって喰ってくれ;」
「もー、ちゃんと味わってるって……?」
ブブブ、ブブブとバイプレーター音が聞こえる。
「あ、オレか」
会長さんはスマホを取り出すと、今ではスマホ使用者の大多数が使っているだろう通信アプリを開いた。
「―――……」
心なしか、会長さんの目つきが変わった様な?
「あー……お呼び出し喰らってもぅた。
しゃーないなぁ。悪いけど、オレちょっと先にお暇するわ。
たまちゃん、みんなにちゃんと自己紹介しときや? でないとみんな名前覚えてくれへんで。
逆もそうや。何時までも役職で人呼ぶんは失礼やで? まして、これからも一緒に居るんやったら尚更や」
頭をポンポンとしながら、会長さんは小さな子に言い含めるように話す。
「うっ……す、すいません。ちゃんと直します……」
「ん、良ぇ返事や。じゃあ、後頼むわ。家送ったってな。
ああ、卿夜。晩飯先に食っといて」
「了解。あんまり遅くなるなよ」
会長さんと副会長さんって、晩ご飯も一緒なのかな? 二人揃って寮住まい、とか?
「ほーい♪」
手を振りながら会長さんがお店を出て行った。
「呼び出しって、今日土曜日ですのに?」
「―――学校じゃ無いだろ、どうせ。
卿夜、前々から聞こうとは思ってたんだが……蓮は―――一体どういう素性の奴なんだ?」
「ああ、それ、わたくしも知りたいですわ!
触れ込みは、卿夜さんの遠縁の親類って事になってましたけど、桜庭なんて名前の親類、居ませんでしたわよね?」
会計・書記コンビに追及されても、副会長さんは黙ってコーヒーを飲んでいる。
「―――話せる時が来たら、話す。
ただ、言えるのは……蓮は、俺なんかよりずっとずっと上だって事だけだ」
「―――それって階級がって事ですの?」
「色々だ、色々。今の俺がアイツに勝てる物なんて何一つとして無い」
副会長さん、悔しそう……?
「まぁ、そりゃあ、なぁ? ”仮免”一級だしな」
「そうですわよね? ”仮免”ですものね」
シリアスな雰囲気はどこへやら? これは完全に二人とも弄ってる、よね。
「だからッ!! その”仮免”って言うのやめろっつってんだろッ!!!
俺だって結構気にしてんだよッ!!」
「あのぉ~、その”仮免”ってなんなんですか?」
その場に居た三人が一斉に私の顔を見た。
「わ、忘れてた……部外者、だったんだ」
「蓮会長がフツーに連れ回してましたから、わたくし、てっきり関係者だとばかり……」
「―――こうなったらもう、仕方ない。
ゆくゆくは彼女にも階級試験受けて貰うしかないだろう……。
ったく、蓮の奴ッ……」
え、えーと……。もしかして、聞いちゃいけなかった、とか?
「取り敢えず、それは、後で説明するって事にして良いか? ええと―――」
「あ、じゃあ、私、自己紹介しますね。
私は、昨日、一年C組に転入してきた神崎環樹と言います。
なんか、会長さんからは”たまちゃん”と呼ばれてます」
会計さんがこめかみを押さえている。
「何となく、だが……どうやらアンタも巻き込まれ型っぽいな?」
「あ、あはは……土岐塚先生経由で、いつの間にかそうなっちゃって」
私としては、ホントにそうだったとしか、言えない。
「―――土岐塚先生か。クラス担任な上に、蓮とは妙に仲が良いからな。蓮も良く化学準備室に入り浸ってるし」
副会長さんの言葉で、何で会長さんが昼休みにあの部屋に居て、しかもコーヒーまで入れてたのかが分かった。
「昨日のお昼休みに美味しいコーヒーとパン、ご馳走になったんですよね」
と話すと、役員さん達は三者三様の呆れ返り方を見せる。
「何て言うか、蓮のあの……人誑しっぷり? 半端ないよなぁ。
普通に考えたら、異様な程の人懐っこさなのに、イヤだとか感じないんだから」
会計さんは片肘付いて頭抱えてるし。
「そうですわね。
さっきの”タイチ”の件もそうですけど、よくよく考えると、わたくしも名乗ったすぐ後からミヤビって下の名前で呼ばれてましたけど、全然なんとも……。
むしろそれが普通って納得しちゃってましたもの」
書記さんは初対面の時の事を思い返し、副会長さんはソファの背に深くもたれて、腕組みしている。
「それすらもひっくるめて、蓮って事か。
―――で、お互いどう呼ぶんだ? 蓮曰く、役職呼びはダメなんだろ?」
「あ、そっか……えっと、どうしましょう?」
「俺は……流石に神崎と苗字呼び、だな。いきなり蓮みたいに軽くは呼べん」
「うーん、俺もだなぁ。多分、何回かは呼んだと思うが、やっぱり女の子の名前呼びは軽々しく出来ないし」
という会計さんの言葉に、思わず書記さんが気色ばんで言い返す。
「えぇ?! タイチ、わたくしの事は”ミヤビ”って名前呼び捨てじゃありませんか?!」
「いや、待て。お前は幼馴染だろうが……。」
「何だか釈然としませんけれど……。じゃあ、わたくしはたまちゃん、さん?」
「いえ、そこは”たまちゃん”で!
確かに会長さんに初めてそう呼ばれた時は結構びっくりしましたけど、いい加減もう慣れちゃいましたし。
私からは、皆さん苗字呼びの方が良いですか?」
「ダメですわ! わたくしが”たまちゃん”なのですから、あなたも”ミヤビ”と呼んで下さいませ!」
「えー……じゃあ、ミヤビ、さん、とか?」
「よろしくってよ!」
と、ミヤビさんはとっても嬉しそうに笑う。
「雅は同年代の女の子の友達いな……少ないからな。是非仲良くしてやってくれ、神崎」
「もう、タイチ、一言余計ですわよ!」