第1話-8 アイツがヘンなのはもう、慣れた。
ヘンって言うか、何て言うか。そもそもそれ”ヘン”って纏めちゃって良いもんなのか?
大きい鳥の妖怪さんを消した後、結界を解かないといけないからと言われて2階の生物室に戻った。
「今日の結界は、張った所でしか解除出来へんのが難点やな~」
溜息と共に愚痴っている会長さんに、書記さんが拗ねたように返す。
「だって……仕方有りませんわよ。私達、まだ実務可能な術師じゃありませんもの」
じゅつし? って何だろう。
「私達って……一緒にするなよ、雅。俺は一応二級はもう取ってるぞ?
大体、それ言い出したら卿夜は既に一級なんだし」
会計さんに言われて、書記さんはもっと拗ねたように唇を尖らせる。
「……でも、卿夜さんの一級は仮免じゃありませんかー。」
「ぷっ、仮免!!」
吹き出したのは会長さん。
「―――悪かったな、仮免で……」
相変わらず、すこぶる不機嫌な副会長さん。
見れば、黒塗りの箱へ教卓に置かれていたのだろう何かを丁寧に仕舞っている。
「さー、終わった終わった~。ラーメン喰いに行こ~♪」
という会長さんの声と、放課後特有の校内のざわめきが戻って来るのが同時だった。
そして、グラウンドの方から何やらわっと言う騒ぎ声も。
「ん? うっわ……マジかー。」
窓に駆け寄った私達がグラウンドを見てみると。
「あ、あれ……さっきの……?!」
そう、高さと幅が約2mずつ、厚みが20cmもあるだろうか。
先程のカベがまだそこにしっかりと存在していた。
「まさか現世まで残るとは思わんかったな~。
でも、それはそれでスゲェな、たまちゃん。ホンマ、なかなか居らんで?」
消えると言われていたから安心していたのに、あんな物、自分でもどうやって作ったのかすら分からないのに―――。
「で、でも……あれ、どうしたら……?!」
「大丈夫大丈夫。何とかなるって。オレ先行くから、みんなはフツーに降りてきて」
と、会長さんはまたひょいと2階の生物室の窓から事も無げに降りてしまった。
ううう……。ホント、会長さんってどういう人なんだろ?
「おーい、たまちゃんさーん、行きますわよ~?」
え、と思って振り返るともう生徒会の役員さん達は生物室を出て行ってしまっている。
慌てて追いかけていく。
「お、驚かないんですか? 会長さん普通に窓から行っちゃいましたけどっ」
「? ああ、蓮か? まぁ、アイツがヘンなのはもう、慣れた。」
会計さんが呆れたように言い放つ。
「そうですわね~。蓮会長が編入して来て、まだほんの二ヶ月ちょっとくらいですけど、初っ端から……何て言うか”ぶっ飛ばして”ましたものね~」
「……ぶっ飛ばして???」
こういう場合にはあんまり聞かなさそうな言葉のような?
「編入試験満点からの、生徒会選挙出馬・当選、会長就任、各部挨拶廻りでの撫で切りっぷりったら、運動部・文化部関係なしだったからなぁ。
アレ見てたら、もう、アイツに関しては何見ても驚かん気がしてくる」
「え、運動部だけじゃなかったんですか?」
食堂で会った運動部の方達と会長さんは何気に(一名除いて)仲良さそうだったけど。
「えーえ、そりゃあもう!
華道部、書道部、美術部、吹奏楽部、伝統芸能部一門、天文学部にESS部、その他諸々、果ては
Eスポーツ部に映像研まで!
何をどうしたら、あそこまでマルチに出来る様になるんだか……」
書記さんも呆れ顔だし。
「だからもう、アイツは何でもありなんだ、と校内の奴等は妙に納得してるのさ。
ウチの学校は良くも悪くも実力第一主義だから」
「そんなだから、教師含め生徒達も一目……どころではありませんけれど、置いてるし、注目もされてしまうんですわね」
そこまで話した所で先程のカベのある所まで野次馬をかき分け辿り着く。
「―――それにしても、見れば見る程不思議なシロモノだな……」
それまでずっと無言だった副会長さんがカベを眺めて唸っている。
「で、蓮。このカベ何だか分かったのか?」
副会長さんがしゃがみ込んでいる会長さんに聞いてみるけれど……。
「―――うーん。構成しとる物質は大体分かるねんけどー。
なんでこうなったんかはイマイチ良ぅ分からん」
「ふぅん。お前でも分からない事があるんだな?」
「そんなんいっぱい有るっちゅうねん! まぁ、でも取り敢えずは―――」
会長さんがよっこいしょと立ち上がって、おもむろに両手をカベに翳す。
「会長、なにすんの?」
「コレなーに?」
「いきなり出て来たんだぜ、コレ」
ざわざわと野次馬の輪は、会長さんが居るせいか、さっきよりも随分増えてきている。
「……ど、どうしよう?! このカベ、ホントにどうしたら……」
グラウンドにこんな物がそびえ立っていては、邪魔な事この上ない……と、思う。
私、出した本人なのに、消し方が全然分からない!!
「大丈夫やって、たまちゃん。泣かんでええよ。ま、見とってみ?」
会長さんは笑ってそう言うと―――。
「3、2、1―――ハイ!」
カベが、忽然と消えた。
「ハ○ドパワーです♪」
くるりとギャラリー達の方を振り返ると、真面目くさった表情で、どっかの超能力者? みたいな事をポーズ付きで宣った。
「おお~~~~ッ!!!」
パチパチパチパチパチ!! 野次馬達から拍手喝采が起こる。
「もー、蓮会長ってば驚かさないでよー」
「わぁ、会長、すっごーーーーい!」」
「もしや、自作自演???」
「会長氏、超能力まで使えんのか?!」
無責任な声が飛び交うものの、見るべき物もなくなった野次馬の輪は三々五々解けていく。
「な、たまちゃん。何とかなるやろ? さー、今度こそラーメン喰いに行こー?」
相変わらず飄々と会長さんは笑ってみせた。