第1話-7 ホントに何者ですの?
取り敢えず、一件落着……したんでしょうかね?
2階の生物室から、校庭の様子を窺っていた卿夜、雅、環樹の3人だったが、蓮が腕を上げた後、鳥妖がもの凄い勢いで落下してきた。
「鳥妖が……落ちた……?」
卿夜も雅も、鳥妖の面倒臭さは知っている。それが、理由は分からないが、何とも他愛なく呆気なく地に落ちた。
「卿夜さん、……蓮会長って、ホントに何者ですの?」
「―――…………。」
雅に問われても、卿夜は唇を噛んだまま答えない。
「―――と、取り敢えず、下、行きません? 鳥の妖怪さんも落ちた事だし……」
空気の重さに耐えかねた環樹の提案に、雅は一つ溜息をつくと踵を返して歩き出した。
「そうですわね……。飛び回らない鳥妖なんて、大して怖くもありませんし。
―――さ、行きましょう、卿夜さん」
雅に促された卿夜も、2、3歩遅れて校庭へと向かう為歩き出した。
* *
「お~~~い! 会長さーん! 会計さーん!」
手を振って走って来る環樹と雅の姿に、一瞬二人の注意がそちらへ向いた。
その時、最後の足掻きとばかりに鳥妖が羽手裏剣(命名:蓮)を飛ばした。
「え……ッ?!」
環樹の脳裏にさっきの光景がフラッシュバックする。
粉々に割れる窓ガラス。床に突き刺さっていた何か。
怪我をして血を流していた会長さん。
頭の中の何かが割れた音がした。
「ダメ―――ッ!!!」
カンッカカカカンッカカンッ!!!
ヒュ―――ゥ♪
それは、思わずタイチが吹いた口笛だった。
「たまちゃん、さん……あなた……」
驚きを隠しきれない、と言った雅の声に、閉じていた目を開けてみると、目をまん丸にして自分を見ている雅の姿が視界に入る。
「え、あ……ぶ、無事だったんだ、書記さん。よ、良かったぁ~~~」
「ええ、あなたのお陰でしてよ?」
にっこり微笑まれて、環樹が首を傾げる。
「前、見てご覧なさいな。あなたが作ったんですわよ?」
前を見ると、やや青みがかった半透明の……ガラスと言うよりは、樹脂の分厚い壁の様なモノが有り、羽手裏剣(命名は蓮)が跳ね返って落ちたように散らばっている。
「凄いじゃないか……えーと、たまちゃん?」
タイチも雅の無事が確認出来たので、安心したように褒めてくれた。
「こらこら、まだ終わってへんで~?
コイツどーすんのか決めんとアカンやろ。卿夜、どーするん?」
「あ、ああ……処理部隊呼ぶか?」
聞かれた卿夜が、通常踏む筈の手順を提案する。
「うーん。あいつら呼ぶんもえーけど……今から呼んだら小一時間掛からんか?
それまで帰られへんの、イヤやなぁ」
「それまでこの結界を維持しておくのも、体力的にちょっと厳しい気もしますわ。
一度上げた結界強度は下げられませんもの……」
蓮だけではなく、雅も難を示す。
「―――とは言え、これだけのデカブツ、俺達だけじゃ、処理しきれないだろ?」
会計さんがお手上げだとでも言いたげに溜息をついている。
「卿夜。お前もそろそろ体力限界ちゃう?」
「―――恥ずかしながら、な。鍛錬一からやり直しだ……」
もの凄く悔しそうな副会長さん。
「したら、しゃーないな。卿夜、1コ貸しな」
と、会長さんがスタスタと、未だに地に伏したままの鳥妖の頭付近に近付いていく。
そして、顔だけ振り返り。
「タイチ、雅。それに卿夜も。コレごときの鳥妖に上の下、更にその上て。―――ありえへんからな?
年が三百ぐらいの妖怪なんぞ、なんぼ高ぅ見積もっても精々中の中―――。
コイツなんか下の中ランクや」
『な、何だと、人間の小童がッ!!』
「それや、それ~。
オレの事『人間の小童』て言うてる時点でタカが知れとるっちゅうねん。
―――って、タカだけに?」
「蓮会長~、つまりませんわ~」
書記さんから冷え切った声が掛かる。うん、確かにつまんないケド。
「うーん、不発か……。じゃー、しゃーない。
八つ当たりみたいで悪いけど、アンタには人界からサクっと消えてもらおか」
『何モノなのだ、貴様は……?! 何故、我らを”送る”力を持つ?!』
「さ~ね~。ほな、さいなら~。」
と、蓮会長は左手をすっと上に差し上げる。その手の中に光の棒のような物が現れて、ストンと落とすように振り下ろした。
光る棒の先端が鳥妖に触れた瞬間、その大きな身体は一瞬にして光の粒と化して、弾けて、消えた。
「ウソ……だろ?! あんなデカい奴を一瞬で消しちまうだなんて……」
「ゆ、夢でも見てる……訳ではなさそうですわね」
書記さんと会計さんが愕然としてるけれど、やっぱり会長さんは飄々としたままで。
「さー、結界解いてとっとと帰るで~。
ああ、何や腹減ったなぁ。そうや。卿夜、ラーメン奢ってー」
「―――何でそうなる?」
憮然とした副会長さんの返事にも、会長さんはめげない様で。
「今さっきのん、1コ貸しって言うたや~ん。丁度良ぇからラーメンでも奢ってや」
「あ、あの、会長さん!! コレ、どうしましょう?」
言わずもがな。さっきの半透明のカベの事である。
「ああ、多分それ、結界解いたら一緒に消える筈やで」
「そ、そうなんですか?」
ちょっとだけ安心した。こんなの、どうやって出来たのかも良く分からないから消し方だって良く分からないし。ふぅ、と胸をなで下ろしているとまっすぐこちらを向いた会長さんから声が掛かる。
「うん。ところでな、たまちゃん。」
「は、はい?!」
「”生徒会見習い”の件、どーする? ―――辞めるか?」
た、確かにちょっと、怖かったけど……。でも、―――。
「さ、さっきのカベみたいなの、皆さんのお役に立ちますか……?」
怖々周りを見渡してみる。
書記さん。
「めっちゃ立ちますわよ~! 実際、助けて頂きましたもの!」
会計さん。
「ああ。充分過ぎるくらいだ」
副会長さん。
「―――まぁ、役には立つ、かもな」
最後に会長さん。
「勿論やん。あんな防御壁使えるん、なかなか居らんで?」
「じゃ、じゃあ……続けます!
そ、その、どこまでお役に立てるかはよく分かりませんけど……。
よ、よろしくお願いしますッ!」
もう少し……ううん。もっと、この人達と一緒に居たいと思ったから―――。
「そんなら歓迎会せなな~。よーし、みんなでラーメン喰いに行こ~!
卿夜の奢りで!」
「だから、何でそうなるんだッ!!」