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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

集結せよ! 暦防衛隊マンスウォーリアー!

閲覧ありがとうございます。

「はぁ……。あんなひどい言い方しなくてもいいと思うんだけど……」


 わたしの名前は、柿染琥珀かきそめこはく。元日生まれで、なりたてほやほやの普通の会社員。


「また先輩に怒られた……。今日もセツナさんのところに行こ……」


 大学を出たばかりで、まだ右も左も分からない。自分が悪いことも当然あるけど、不条理に上司や他の人に怒られることもしばしば。だから、わたしはここ最近行きつけのレズ風俗に毎晩のように通いつめている。学生時代からずーっと行きたかった場所だったけど、その期待は裏切られなかった。えっちなマッサージは、本当に身も心もやわらかくほぐしてくれた。


 セツナさんがいる風俗店に行く道中、わたしは後ろから人が走ってくる音を聞いた。危ないなぁ。日が暮れてきたとはいえ、こんな人の多い都会の歩道で走るなんて。そんなに急用なのだろうか。


「きゃっ!」


 なんてことを思っていたら、その後ろから走ってきたらしい人がぶつかってきた。


「……もう、余計気分悪くなってきた。…………ってえぇ!? わたしの…………!」


 たった今まで左腕から提げていたはずのカバンが無くなっていた。前を見ると、わたしに構わず走り去っていこうとしているあの人の手にはわたしのカバンが。


「ひ、ひったくりです!」


 驚きと恐怖を抑えながらなんとか声を出して助けを求めることができた。必死に言えたけど、さすがに「赤いウインドブレーカーを着てフードを被った」とまでの細かい情報までは言えなかった。


「待ちなさい! 今日こそは逃がさないわよ!」


 わたしの声に応えてくれた……わけじゃないみたい。

 わたしの後ろから、五人組の女の人達がひったくりの犯人を追いかけていってくれた。


 しばらくすると、五人組の先頭を走っていた女の人がわたしのカバンを持って戻ってきた。胸ポケットからピンク色のハンカチをのぞかせている、クールビューティーな感じの人だ。


「……ごめんなさいね。なんとかカバンは取り返せたけど、犯人には逃げられてしまったわ」

「い、いえっ! わたし、びっくりして動けなくなっちゃってたので…………。ありがとうございます!」

「……紹介が遅れたわ。私、こういう者よ」


 そう言って女の人がコートの内ポケットから取り出したのは、ドラマとかでよく見る警察手帳だった。


「警察の人だったんですね。えっと……」

「『百瀬眞知子ももせまちこ』って読むのよ。この近くの署を拠点にして、最近よく現れるあのひったくり犯を追っているわ。なにかあったら……ここまで連絡して。もしかしたら、あとで署で詳しく話を聞くかもしれないけど。それじゃ」


 わたしが名刺を受け取ると、女の人達はまた忙しなく走り去っていった。……ん。


 ひと安心して気が緩んだせいか、お腹のムシが鳴いた。


「……セツナさんのお店に行く前に、夜ご飯食べて行こうかな」



 ◆



「いらっしゃいませー! お好きな席へどうぞー!」

「こんなところに洋食屋さんがあったなんて……」


 初めて来たお店だけど、おしゃれな外装に引き寄せられた。


「ご注文お決まりですかー?」

「えっと……。……じゃあ、この『特製チーズドリア』を」


 席についてメニューを開いていたわたしに注文を聞いてきたのは、ここに入ってきたときに「いらっしゃいませ」と元気な声で言っていた小学校高学年か中学生くらいの女の子だった。…………ん?


「え、え?」

「……あ、わたし、お姉ちゃんのお店を手伝ってるんです」

「あ、あー、なるほど」


 納得して女の子が指し示した方を見ると、カウンター席に座る……決して痩せているとはいえない黄色いパーカーを着た女の人と、カウンターの向こうからその人と話しているスラッと痩せた女の人がいた。緑色のエプロンには、フランスとかスペインとかそっち系の文字で店名らしきロゴが書かれている。


「うーん、んまーい! やっぱりみどりの作るグリーンカレーは最高だよぉ」

「本当に美味そうに食うよな。そのままブヒブヒ戯れ言言いながら家畜になっちゃえよ、このデブ」

「うん! 毎日みどりのご飯が食べられるなら、家畜になってもいいよ! だから一生作ってね?」

「……っ! ま、まあ、せいぜいブクブク太るんだな」


 女の子に「お姉ちゃん」と言われていた女の人が、頬を赤くしていた。そういう関係なのかな、あの人達。



 ◆



「へぇ? そんなに美味しかったんだ。そこのドリア」

「そうなんですよー」

「……じゃ、今度食べに行こうかな、そこに」


 わたしはベッドの上で膝枕をされながら、セツナさんにさっき行った洋食屋さんのことについて話していた。わたしもセツナさんも、それぞれ白と赤の下着姿だ。


「それにしても災難だったね。バッグをひったくられるなんて」

「ほんとですよー。もうびっくりしちゃって、なんにもできなかったんですから」

「でも叫べただけ、すごいんじゃないかな。ちゃんと助けを呼べたんじゃん」

「うーもっと褒めてくださいー。わたしを癒してくださいー」

「よしよし、えらいえらい」


 やっぱりわたしにとってのオアシスだ。セツナさんは。


 このあとも二時間ほどセツナさんから「マッサージ」を受けたわたしだった。



 ◆



「もうっ、荻原おぎわらさんったら! なーにが『どんな男の人がタイプ?』なの! 百歩譲って『どんな人がタイプ?』なら分かるけど、なんで男限定で言ってくるの! ほんっとに頭きた!」


 営業先の人に怒りを覚えながら、なんとか沸騰した頭を冷やそうと昼のオフィス街を早歩きしていた。


「まったくもう…………あ、もうお昼か。ちょうど外回りでここまで来たし、また昨日のお店に行ってみようかな」


 この間家電量販店のワゴンセールで買った腕時計を見てあの洋食屋さんの方へ向かおうとすると。


「ひったくりです!」


 女の人の声に驚いてそちらへ振り向くと、大学生らしい女の人がポーチをひったくられていた。犯人はもちろん、あの赤いウインドブレーカーの人だ。


「待ちなさい!」


 百瀬ももせさん達も、あっという間に駆けつけていた。……いくらなんでも早すぎない?


 犯人の腕が、掴まれた。

 ひったくり犯を止めたのは、犯人の何倍も体格が大きい男の人だった。男の人と比べてみると、犯人は女の人のようにも見える。


「くっ!」


 犯人が、聞いたことのある声を発した。追っていた百瀬ももせさん達は、なぜか足を止めた。


「そう何度も何度も……邪魔をされてたまるか!」

「うわっ!」


 放り投げられた犯人はやっぱり聞いたことのある声をしていた。それもそのはず。コンクリートの地面に転がり落ちて脱げたフードの中からのぞいたのは…………セツナさんだったのだから。


「セツナさん!?」

「…………や、やあ」


 気まずそうな顔をして、セツナさんは言葉を返した。


「ふんワァァァァァッ!」


 男の人が力んで叫ぶと皮膚が徐々に色褪せ、そのうち恐竜のような姿の化け物になった。それまではスマホを向けていた野次馬も、悲鳴を上げて逃げ始めた。お昼のオフィス街が、突如パニックとなった。


「おのれェ! 誕生日の月と日が同じ奴から生命エネルギーを奪って爆弾を作る俺達の計画をォ!」

「やっぱりそんなことか。だったら私達を狙えばいいでしょうが」

「お前ら強すぎるんだよ!」

「率直な意見ね。あなた達、みんなを避難させて」


 百瀬ももせさんが部下の人達にそう促すと、慣れた様子で町のみんなを避難させ始めた。そして、当たり前のように横に並ぶ百瀬ももせさんとセツナさん。


「1月1日、12月12日。そういう誕生日の人達が襲われているという共通点を見つけた私達は、ひったくりの騒動を起こしてその人達をお前達から守っていた」

「彼女が盗って、アタシが取り返す。……相変わらず、一人で憎まれ役をかって出るのが好きね」

「そういう性分だからね」

「知ってるわ」


 そうか。だからわたしもひったくりに遭ったんだ。


「もう我慢ならん! 俺様ティラッティラノ・オハダーが直々に倒して、お前らを爆弾の材料にしてやる!」

「できるモンならやってみろ」

「ご飯はみんなのエネルギーになってもいいけど、みんなを爆弾のエネルギーにするなんて駄目だよぉ」


 てぃらってぃ……なんとかの言葉に返したのは、これから行こうと思っていた洋食屋さんのお姉さん達だった。ピンクのハンカチ、赤いウインドブレーカー、緑のエプロン、黄色いパーカー。色とりどりの女の人達が、横一列に並ぶ。


「じゃかぁしい!」

「元気いいねぇ」


 てぃなんとかが叫ぶと、青い外車のオープンカーの助手席に女の人を乗せた、青い眼鏡をかけた女の人が現れた。


「……じゃ、行ってくるよ」

「……気をつけてね」


 女の人達が、急にキスをしだした。こんな町中で。そしてなによりこんな緊迫した状況で。


「遅かったじゃん」

「愛する妻と買い物に行ってる最中に呼び出されたこっちの身にもなってくれよ……」

「相変わらずきれーな奥さんだねぇ」

「アンタもなってみるか?」

「みどりの奥さんに? ボク、家畜じゃなかったの?」

「…………っ! 忘れろ、忘れろ!」


 オープンカーから降りた青い眼鏡の女の人も並び、五人組のグループができた。


「ようやく揃ったな。最高のエネルギーにしてやる! 人間の歴史も、ここまでだ!」

「悪いけどそれはさせない。私達が、いる限り。行くよ、みんな!」

「そうこなくっちゃ」

「ああ」

「いっくよー!」

「ええ」


 女の人達……セツナさん達はどこからともなく白い銃のような物を取り出した。カレンダーみたいなパーツが付いた、特殊な物だ。


『カレンブラスターです』


 銃から、電話のナビ音声にあるような女性の合成ボイスが鳴った。「カレンブラスター」という名前らしい。


『5月』

『7月』

『4月』

『10月』

『3月』


 五人がカレンダーの部分を上にめくると、それぞれのカレンブラスターから月を表す単語が発声された。


「「「「「こよみチェンジ!」」」」」


 そう叫んだ五人は、銃を背後に向けて構えた。


『まもなく、変身をお知らせします』


 カレンブラスターから発声されたあと、時報のような「ピッピッピッポーン」という電子音が流れた。五人の背後には巨大な日めくりカレンダーが出現し、それがめくれてゆく風圧で五人は色とりどりの姿へと変身した。


「端午の節句に輝くくれない! マンスレッド!」

「七夕彩る群青の空! マンスブルー!」

「深緑薫る出会いと別れ! マンスグリーン!」

銀杏ぎんなん黄色く食欲の秋! マンスイエロー!」

「桃の節句は乙女の宴! マンスピンク!」

「五つの月が明日を照らす! 暦防衛隊!」

「「「「「マンスウォーリアー!」」」」」


 五人の背後で、カラフルな五色の爆発が起こった……が、周辺の建物には傷一つついていなかった。


 こうしてわたしは、世界の存亡を……人類の歴史と平和を守る闘いに巻き込まれることになった。

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