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007「お決まりのスタート」

「止まらない地球温暖化により、私達の日本は、首都機能を、この北の大地に移管したわけですが……」


 新京都立第五特区第三高等学校第七回入学式という明朝体が躍る横断幕の下、壇上では、ピーコックグリーンのスーツを着た四十代と思しき女性が、パイプ椅子に座る生徒や教職員、ならびに来賓や保護者に向かって演説をしている。


(また、この手の話か。新たな首都が置かれたこの地は、地名を新京都と改め、第一から第十まで、四と九を除いた八つの特区に分割し、特区ごとに比較的自由裁量で統治がなされている、とか何とか言うんだろうな。耳に胼胝ができるくらい聞かされてるよ)


 藍色地に朱色のラインが入った詰襟を着ている剛志は、片手を口に添えながら退屈そうに欠伸をする。ふと左右を見渡してみれば、期待に胸を躍らせ、瞳を輝かせて真剣に聞き入っている生徒は少数派で、大多数の生徒は、舟を漕いだり、貧乏揺すりをしたりしている。


(学費と学用品、それから通学にかかる定期代は無料だと知って都立校に進学することにした。それは良いけど、第一、第二、第三と受験して、ここしか受からなかったのは、少し残念だったな。まぁ、一次は外国語も数学も自己採点で平均並みだと分かったし、二次の小論文も当たり障りないことしか書けなかったから、順当な結果なのだろう。所詮、人生に逆転のチャンスが来て、それまでの報われなさを引っくり返せるのは、作り話の主人公やヒロインだけなんだ、きっと)


「この第五特区は、別名をカオスタウンと呼ばれるほど、街には種々雑多な要素が混在しているわけですが、物事のすべては、混沌(カオス)から生ずるものです。是非、生徒の皆さんには、多様な知識と経験を糧にして創造性を育み、世界に通じるパイオニアになってほしいと思います」


 そう締めくくると、以上を学校長の挨拶に代えさせていただきます、というステレオタイプのエクスキューズを述べて壇上を降り、入学式は、教頭の司会による来賓と祝辞の紹介へと移る。


(これで、やっと式次第の四分の三を超えたな。あと二割五分だ。早く、無駄な拘束時間が終わらないだろうか。――ん?)


 剛志の隣の席で、詰襟と同じく藍色地で朱色のラインが入ったセーラー服を着ている女子生徒が、だらしなく口を半開きにして寝たまま、剛志の方へと寄り掛かってきた。剛志は、前身頃がパツパツに張るほど福福しい巨躯を肘で押し返すが、女子生徒は、尚もお構いなしに(もた)れ掛かる。


(やれやれ。気持ちは分かるけど、他人に迷惑を掛けないでくれよ)


 剛志は、心底仕方なさそうにポケットからハンカチを出し、口元に垂れている涎をトントンと拭いつつ、肩を貸した。

 この出来事が、後に高校生活を大きく左右する事になるのだが、この時点で剛志は、そんな事を知る由も無かった。

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