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033「テイクオフ」

「やっぱり、僕だけでも列車で帰るよ」

「何を弱気になってんだよ、木崎。俺たちが一緒だから、安心しろ」

「そうよ。席に着いちゃったんだから、腹を括りなさい」


 急に落ち着かなくなり、席を立とうと腰を浮かせようとする剛志を、両サイドに座る業平が肩を、崎子が膝を押さえつけて止めながら、覚悟を決めるように促す。そうこうしているうちに、シートベルト着用を促すサインランプが点灯し、客室乗務員による四ヶ国語のアナウンスが流れる。


「機内のお客さまに、ご連絡いたします。当機は、まもなく離陸体勢に入ります。各座席の右手にございますシートベルトを、腰の低い位置でしっかりと装着くださいますよう、お願い申し上げます。本日は、新京都エアラインをご利用いただきまして、まことにありがとうございます。アテンションプリーズ……」


 アナウンスを受け、崎子は剛志の座席にあるシートベルトを、業平へと手渡す。業平は、それで木崎の腰を固定してしまう。 


「よし! これで逃げられないぞ」

「ホントに大丈夫かな。もし、誰かが携帯端末を操作してて、計器にトラブルでもあったら……」

「大丈夫! 道内線は、これまで墜落した例が一度も無いって、パイロットの人も言ってたじゃない」

「そうだそうだ。これは、海外の航空会社が運営する国際線じゃないんだ。日本人なら、日本の航空会社を信頼しろ」

「でも……」

「でも、じゃない。お喋りしてると舌を噛むから、しばらく黙ってて」


 口では無茶苦茶なことを言いつつ、業平は剛志の左手を、崎子は右手をガッチリと握り、何とか平常心を保てるように促している。


(ここまで来たら、言い訳はやめるか。この試練も、いつかは役に立つ好機なんだろう。いつまでも避け続けるわけにはいかないんだ、きっと)


 剛志は、ギュッと目を瞑って下を向く。

 その間に、飛行機は滑走路の端へと移動し、離陸体勢に入る。

 やがて、飛行機はジェットエンジンによって離陸推力を上げ、浮上できる速度まで加速すると、揚力に従って機体が持ち上がり、大空へと飛び立った。


 離陸開始から、完了して機体が安定するまでの数分間のこと。揺れる機内で、剛志は、以下のようなことを考えていた。


(お父さん、お母さん。もう一度会いたい気持ちはヤマヤマなんですけど、僕の人生は、ようやく良い方向へと進み始めたところなのです。だから、もう少しだけ、天国で待っていてください)

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