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032「露骨なフラグ」

「えっ、もう帰ってくるの?」

「はい、スミマセン。急に羽生くんが、今回の合宿はココまでにすると宣言したものですから。予定を狂わせてしまって、申し訳ないです」

「あっ、いや。帰ってくること自体はありがたいのよ。でも、唐突ね。何かあったの?」

「それが、その……。いきさつを話せば長くなりますから、帰ってから説明したいのですが……」


 キッチンの作業スペースで、人参やジャガイモの下ごしらえをしながら、和泉が剛志とハンズフリー機能を使って携帯端末で話していると、そこへ、廊下からドアを開けて和海が現れる。


「誰と話してるの? ――あっ、剛志くんだ!」

「今の声は……」

「ううん、気にしないで。それで、キッカケは何だったの?」

「(和海さんが来てるんだ)実は、オルゴールが見つかりましてね」

「オルゴール?」

「あぁ、分かった! 手の平サイズで、グランドピアノの形をしてるモノでしょう?」


 和泉は、乱切りにする手を止め、キッと眼光鋭く睨みつけるが、和海は、どこ吹く風とばかりに素知らぬフリで受け流す。そんな無言劇が交わされているとは、つゆ知らず、剛志は、和海の発言に助けられて話を続ける。


「そうです。どうして、それを?」

「だって、志織さんにそのオルゴールを贈ったのは、このあたしだもの」

「ちょっと。勝手に二人で納得しないでよ。わたしにも説明して」

「あら、ゴメンナサイね」


 和海は、和泉に軽く謝ったあと、端末に向かって話しはじめる。


「今から、かれこれ十年以上も前の話だけど、まだ幼かった剛志くんは、夜泣きが酷くてね。金剛くんから、志織さんがノイローゼ気味だと相談されてたのよ。それで、気休めにでもなればと思って、癒し効果の高いお香と一緒に、そのオルゴールもプレゼントしたの」

「なるほど。そんな背景があったんですね」

「お母さんも、たまには気の利いたことを考えるのね」

「たまには、は余計よ。――で、そのオルゴールが、どうしたの?」

「はぁ、それなんですけど。……話は飛びますけど、お恥ずかしながら、僕、両親の事故のこともあって、ずっと飛行機が乗れないんですよ」


 やや口ごもりながら、もじもじとしてる姿が目に浮かびそうな声で、剛志がカミングアウトする。


「トラウマになっても、無理ないわ。……ん? ちょっと待って。今、空港のラウンジから電話してるのよね?」

「えっ、そうなの?」

「はい。懐かしさから、同じオルゴールを衝動買いしてしまいましてね。それを糸口に、飛行機に乗れないことを三人に暴露する破目になったんです。そしたら……」

「分かった。羽生くんや伊勢さんのことだから、トラウマを克服させてやるとか何とかうまいこと言われて、半強制的に連れてこられたんでしょう?」

「あら、大変。大丈夫、剛志くん?」

「えぇ。ほぼほぼ、その通りです。――今のところ、落ち着いてますから。新京都国際空港まで、飛行機が無事に着陸出来ることを祈っていてください。カレーなら、二人分も三人分も大して変わりませんよね。それでは、そろそろ搭乗らしいので、一旦ここで切ります」

「あっ、待って!」


 通話は、そこで途絶えた。

 和泉は、包丁をまな板の上に置いてリダイヤルしたが、剛志の携帯端末は電源が切られていることを告げる自動音声が返ってくるだけであった。

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