026「性格が出る」
「すでに包んで焼いてある物を買ってばかりだったから、久々だわ」
「スミマセン、お仕事が終わったばかりなのに。学校からは、いつも通りの時間に戻ってたんですけど、帰りにエントランスで、オーナーさんに引っ掛かってしまったものですから」
ダイニングテーブルの上にラップを敷き、和泉と剛志は、共にエプロン姿で挽き肉と刻みネギの餡を餃子用の丸い皮で三日月型に包みつつ、さきほどまでのことを振り返っている。
手際よく丁寧に包んでいく剛志とは対照的に、和泉の包んだ餃子は、ヒダが少なかったり、餡が多過ぎてはみ出したりしている。ハッキリ言って、手は早いが、仕上がりが雑である。
「長話に付き合わされちゃったのね。あの大仏さん、若い子が好きだからね」
「大仏さん?」
「そう。チリッチリのパンチパーマで、おまけに福耳だから、奈良や鎌倉に鎮座してる大仏像にソックリでしょう?」
「なるほど(今度会ったとき、失笑しそうだな)」
ホーローのバットが個性的な形の餃子でいっぱいになった和泉は、それを持ってキッチンスペースへと向かい、一旦、調理台の上に置く。そして、フライパンに持ち手をセットしてアイエイチ調理機の上に乗せて加熱を始め、ゴマ油を引く。
「分かってると思うけど、本人には内緒にしてね」
「はい。秘密にしておきます。―後ろ、失礼します」
綺麗に餃子が四列に並べられたバットを持った剛志は、フライパンの表面からこぶし一つ分上で手をかざしつつ頃合いを計っている和泉の背後を通り、調理台にバットを置く。そして、横から和泉の手元の方を覗き込む。
「これくらいで良いかな」
「あっ、待ってください!」
和泉がバットへと伸ばした手を止めると、剛志は、水道で軽く菜箸を濡らすと、水滴をフライパンの上に垂らし、フッ素樹脂加工によってプルプルと転がる様を見ながら言う。水滴の中には、小さな気泡がプツプツと出来ている。
(何を見てるのかしら?)
疑問に思いつつも、真剣な表情でフライパンの表面を観察している剛志を邪魔すまいと、和泉は口を噤む。数秒ほど沈黙が流れたあと、剛志が口を開く。
「卵焼きやホットケーキなら、これで良いですけど、今日は餃子ですから、もう少し待ちましょう」
「何か、目安があるのね?」
「はい。水滴の中に、大きめの気泡がブクブクと出来てきたら、ベストタイミングです。――もう良いですよ」
剛志がフライパンを指差す。その先では、水滴の中に大きな泡が立っている。
「並べ方にも、順番はある?」
「そうですね。周りに近い方ほど温度が低くなるので、ぐるりから並べた方が良いでしょう」
「オーケー」
和泉は、すかさず円周近くから餃子を並べ始めた。
合宿前日の晩餐には、半ナマでも黒コゲでもない、キツネ色でパリパリに焼けた餃子が出来上がった。




