025「サポーター」
「俺一人では、同時に二人の面倒を見切れないから、合宿中は執事にも手伝ってもらう。といっても、移動は別便で先回りするから、屋敷に居る時と観光する時だけだけどな。ホテルのコンシエルジュか、旅行代理店のツアーコンダクターのようなものが一緒だと思ってくれ」
「えっ、執事?」
「この二十一世紀に?」
昼休みの高校。一年二組では、いつものように二つの机を三つの椅子でコの字に囲み、剛志、崎子、業平の三人が、サンドイッチやタンドリーチキンなどが詰め込まれたランチバスケットから、めいめいに食べたい物を紙皿に移して食べつつ、明日からの合宿について話し合っている。
天井にあるスピーカーからは、折を見て軽妙なジョークを交えつつ、放送部員による曲紹介やお便り紹介が行われている。
「驚くのは、まだ早い」
「でも、執事なんて身近に居ないから」
「そうよ。庶民感覚が無いわ。どうせ、インスタントラーメンの値段だって知らないんでしょう?」
「俺は、昔の首相じゃない。両親が家を留守にすることが多いから、家政婦代わりになってるだけだというのに、ヒドイ言われようだな」
紙皿からフライドポテトをつまみつつ、業平は話を戻し、その先を続ける。
「で、その執事は、今は亡き俺の爺さんが作ったんだ」
「……ん?」
「作ったって、どういうこと? 粘土やフェルトででも出来てるわけ?」
剛志が考え込みながら呟き、崎子が疑問をぶつける。業平は、崎子の疑問に答える。
「何を使って作ったか、どういう仕組みで動いてるかは知らない。けど、見た目は人間そっくりだし、言葉も通じる。あくまで試作品らしいんだけど、今のところ、動作不良は起きていない」
「……ますます、理解できないよ」
「つまり、ロボットってこと?」
「人間の代わりに労役を担う機械という意味では、ロボットに近いかな。まぁ、そんじょそこらの人間より、ずっと賢いよ」
「……自動で家じゅうの床を掃除してくれたり、衣類の種類や汚れを判断できたりする機能を、さらに発展させたようなもの、なのかな?」
「あぁ、なるほど。便利家電をギュッと人間サイズに詰め込んだんだと思えば、分からなくもないわね」
親指の腹に付いた油を小皿の脇に置いたナプキンで拭いつつ、ひとまず崎子も納得すると、業平は、話にオチをつける。
「人工知能開発を飛躍的に前進させた天才には違いないだろうけど、人間関係を築くのが下手で後進を育てられなかったし、おまけに、いつも研究資金が足りずに、晩年は借金返済に追われていたらしい。父さんが理系ではなく文系の弁護士になったのも、その背中を見て育ったからなんだってさ。――俺からは、以上だ」
(直前まで言い出せなかったのは、良いことばかりじゃないからなのかな。裕福な生活も、楽なことばかりじゃないんだな。――三粒くらい残ったか)
心の内で業平に同情しつつ、剛志は崎子の近くに置いてある魔法瓶を手に取り、中蓋を外して紙コップにコーンポタージュの残りを注ぎ切ってから、片目を瞑って底を覗いた。




