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024「世間話はお好き?」

「わたしのことは、それくらいにしてくださいよ。そういう先輩は、明日から何か予定はあるんですか?」

「へっ、わたし?」


 隣に座っている和泉が、意表を突かれて驚いていると、和泉が再び口を開く前に、向かいに座っている久喜が答える。


「和泉ちゃんは、ともかく。剛志くんは、旅行に行くのよね?」

「へぇー。木崎くんは、道内旅行に行くんですか。良いですね」


(正確には同好会の合宿だけど、まぁ、旅行みたいなものか)


「でしょう? 連休後半は天気がぐずつくらしいけど、観光にはもってこいの季節だわ。あたしも、実家に帰るのをやめようかしら」

「あっ。課長さんは、帰省されるんですね」

 

 昼休み時、春日、久喜、和泉の三人は、天窓から晩春の柔らかな陽射しが降り注ぐ南仏風の喫茶店で、ランチを楽しんでいる。テーブルの上には、中央に大きめのプレートでチーズやトマトをハーブをベースにしたソースで和えたパスタ料理が盛り付けられており、三人は木製の大きなスプーンとフォークで、めいめい勝手に自分の取り皿へと移して食べ進めている。誰か一人が三人分を取り分けるということは、していない。


「駄目ですよ。課長には、仔牛ちゃんが待ってるんですから」 

「仔牛ちゃん、というと?」

「あら、言ってなかったかしら。この春先に、また一頭、牝牛が産まれたの」

「じゃじゃ馬で、大変らしいわ」

「フフッ。仔牛ちゃんなのに、じゃじゃ馬さんなんですね」

「オホホ。そうなのよ。困っちゃうわ」


(今のは、フリじゃなかったんだけどなぁ)


 口元に軽く手を添えつつ、春日と久喜がお上品におかしがっているのを横目にしつつ、和泉は心の中で呟きながら、リングイネをフォークに巻きつけて口に運ぶ。


「でも、剛志くんが旅行に行っちゃうと、困っちゃうんじゃなくて?」


 久喜が、取り皿にあるトマトをフォークで刺しながら話を振ると、和泉は、さきほどの二人とは違う目的で口元を押えつつ、久喜に問い返す。


「どうして、わたしが困ることになるんですか?」

「あら、しらばっくれちゃって。決まってるじゃない。家事を一人でこなさなきゃいけなくなるからよ。――和泉ちゃんって、仕事は完璧だけど、家事には弱いのよ。底の浅い鍋でスパゲッティーを茹でて、火災報知器が作動したことがあるんだから」

「まぁ、大変!」

「ちょっと、課長。過去の失敗談を、勝手に暴露しないでくださいよ」

「ゴメンナサイ。でも、和泉ちゃんって、どこかビジネスライクに割り切ってるところがあるから、割り切れずに余りが出ることもあるってエピソードがあった方が、親しみが湧いて良いのよ」

「そうですよ、先輩。課長さんのおっしゃる通りです」


(二対一じゃ、分が悪いわ)

 

 このあと、和泉は課長の思い出話によって、ガラガラと「デキル女」像を崩されていったのであった。

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