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020「グッドタイミング」

「あっ。洗い物が終わってる。置きっぱなしでも良かったのに」


 (えり)ぐりが伸び、ウエストゴムも緩くなっているスウェットを着た和泉は、ショートヘアから滴る(しずく)をタオルで拭いつつ、食器棚からグラスを出してキッチンスペースにある冷蔵庫に向かっていたが、途中で、シンク横の作業台の下に備え付けられている食器洗い乾燥機に「取り出しオーケー」のランプが点っているのに気付く。

 それを見た和泉は、グラスをダイニングテーブルに置き、食洗機の扉を開け、洗い残しや縁の欠けが無いかを検めつつ、セットしてあった皿やグラスを作業台の上に並べていく。


「何にも言わなくても、家事を率先してやってくれる子がいると、一人じゃないと実感するわ。まだ高校生なのに、言われて渋々手伝う今までの彼氏より、ずっとシッカリしてる」


 並べた食器を重ねて食器棚にしまいつつ、和泉は、これまでの恋愛経験を振り返っている。どうやら依存心の強い異性とばかり付き合ってきたらしい、ということが、言葉だけでなく表情からも(うかが)い知ることが出来る。


「さて。木崎くんが上がる前に、電話を済ませてしまおう」


 和泉は、浄水器の水をグラスに注ぎ、それを飲みながらリビングへと移動する。そして、水が半分に減ったグラスをローテーブルの上に置くと、ポケットから携帯端末を取り出しつつ、脱力して一気に体重を預けてボフッとソファーに座る。

 それから、携帯端末の着信履歴を開き、一番上から三回ほど連続して掛けてきている「鷲宮和海」に繋げる。


「もしもし」

「あっ、和泉ね? もう。何度も掛けてるのに、どうして出ないのよ」

「夕食と入浴の時間に掛けてくる方が、どうかと思うわ。で、用件は?」

「今度の十連休なんだけど、様子見に行こうかと思って」

「見てもらわなくて結構よ。何も問題無いから。それじゃあ」

「待ちなさい、和泉。あんたは良くても、あたしが良くないのよ。ちょっと、剛志くんと代わりなさい」

「今、お風呂に入ってるわよ。わたしと入れ替わったところ」

「そうなの。バスタイム中じゃ、仕方ないわね。――預けておいてアレだけど、あんたとうまくやっていけてるか、お母さんも心配してるのよ。ウチで預かれたら良いんだけど、第三高校からは遠いのよねぇ」

「何だ。お目当ては木崎くんなのね。でも、残念でした。彼なら、この十連休は、同好会のお友達と旅行することになってるの」

「あら、そう? 若い子は、順応が早いわね。まぁ、同年代に気の合う子が居るのは、良いことだけど……」


 あからさまに気力を削がれた様子で、和海(なごみ)の語勢が急に弱くなったのを受け、和泉(かづみ)は大きなため息を一つ吐いたあと、慰めるような口調で言う。


「家での様子なら、わたしが話してあげるから、娘の顔だけでも見に来てよ。出発は連休初日だけど、ひょっとしたら、早めに切り上げて帰ってくるかもしれないし」

「そうね。あたしも、あれやこれやと話しておきたいことがあるし、渡しておきたいモノもあるのよ。五月に入ったくらいに伺うわ」

「変なお土産なら要らないから、手ぶらで来てね」

「失礼しちゃうわ。木彫りの熊のことを、まだ覚えてるのね。あれは、泉治(せんじ)さんの趣味よ。あたしなら、もっと良い物を選ぶわ」

「どうだか。まっ、とりあえず、期待しないで待ってるわ」

「まぁ、可愛げのないこと」


 和泉が話を切り上げようとしたところで、パジャマを着た剛志がドアを開け、リビングにいる和泉に話しかけるが、途中で通話中であることに気付く。


「いいお湯でした。――あっ、電話中だったんですね」

「気にしないで。もうすぐ切り上げるから」

「ちょいと、和泉。今の声、剛志くんでしょう? 代わりなさい」


 この後、和泉はイヤイヤながら剛志に携帯端末を渡し、剛志は、時に赤面したり困惑したりしながらも、和海のデリカシーの無い質問に答えたのであった。

 和泉は、何を訊かれたのか気になりつつも、グラスに残っている水を飲み干し、ドアを開けてトイレに向かった。

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