表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

018「嵐の前の静けさ」

(ふぅん。今度の十連休に、木崎くんは羽生くんたちと旅行するのか)


 夕食時、ダイニングでは剛志と和泉がテーブルを囲んでいる。二人の目の前には、両手幅ほどの真っ白な陶器の大皿に料理が載せられている。今晩のメニューはオムライスで、フワッとした薄焼き卵の上には、デミグラスソースがかけられている。

 二人は、そのラグビーボール大のオムライスをスプーンで切り崩して口に運びつつ、今日の出来事を話し合っているのである。


「というわけで、クラスメイトの伊勢さんも一緒に、道内にある羽生くんの別荘に行くことになってしまいました」

「なるほど。で、いつから行くの? 初日から?」

「あっ、えーっと」


 口の端に付いたチキンライスを指と舌で舐め取りつつ、和泉が飾らない調子で素朴な疑問を訊く。すると、剛志は「それは盲点だった」とばかりに、一瞬、驚きに目を見開いたあと、一言断ってから携帯端末を取り出し、ナプキンで指の油を拭ってから操作しはじめる。


「スミマセン。羽生くんに、メッセージで訊いてみます」

「あら。決まってなかったら、急がなくて良いわよ。まだ、休みまで半月近くあるから」

「いえ。鷲宮さんに言われて、僕も気になりだしましたから(日程とか場所とか、合宿の詳細を教えて、っと)」


 剛志がメッセージを送信すると、携帯端末をズボンのポケットになおす間もなく、着信を知らせるバイブレーションが鳴り出す。画面には「羽生業平」という文字が表示されている。


「わっ! 電話で来た」

「出て良いわよ。わたしに聞かれるのが恥ずかしいなら、席を外して自分の部屋に行っても良いから」

「あっ、はい。それじゃあ、お言葉に甘えて。――木崎です。えっ? メッセージを打つのがメンドクサイって、何だよ。うん。いや、気持ちは分かるけどさ……」


 通話を続けつつ、剛志はテーブルを離れ、ドアを開けて廊下に出て行った。

 その後ろ姿を、和泉は見るともなしに見ていたが、ドアが閉まり、話し声がフェードアウトして物音がしなくなると、おもむろにグラスを手に取り、水滴で張り付いたコースターをテーブルに置きつつ、ぐ~っと水を飲む。


(どうやら剛志くんは、高校での新しい生活を、うまく軌道に乗せることが出来たみたいね。順調な滑り出しだわ)


 和泉は、グラスをコースターの上に戻すと、フォークを手に取り、付け合わせのガロニに突き刺した。その刹那、フォークの曲面には、静かな微笑みが映った。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ