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012「縦と横の繋がり」

「これでも、新京都が一般的な常識と教養を兼ね備えていると認めた、れっきとした公務員なのに」

「書類に不備が無く、試験の成績が優秀だったから合格させてみれば、まさかのオネエだったとは、試験官は、つゆほども思わなかったでしょうね」

「どういう意味よ?」

「さぁ。賢い頭で、お考え下さいな」


 姫宮と和泉の二人は、それぞれ自席で卓上端末を操作しながら、軽口を叩いている。和泉が送信した書類を、姫宮がスクロールして確認し、末尾にタッチペンで「姫宮久喜(ひさよし)」とサインしている。ちなみに、印鑑の撤廃とペーパーレス化により、どちらもデスクの上は非常にスッキリとしている。

 作業の単調ぶりから、そこはかとなく苛立ちが言葉にトゲとしてこもり、会話のキャッチボールがドッヂボールに変わってきたところへ、パタパタと若々しい軽やかな足取りで、春日が戻ってきた。


「只今、戻りました~」

「おかえり、花崎さん」

「ただいま、先輩」


 春日が和泉に返事をしたところへ、久喜が春日に声を掛ける。


「春日ちゃん、おかえり。その様子だと、スムーズに進んだようね」

「はい。課長さんが、おっしゃった通りでした。誤解されてただけだったようです」


 久喜のデスクの前に来て、春日が満面の笑みで答えると、久喜もニコリとして労わってから、和泉に話を振る。同時に春日は、自席に着いて引き出しの読み取り機に人差し指の腹を付け、底の浅い引き出しをを解錠して開けると、中から両手でソッと卓上端末を取り出し、ケーブルを繋いで机の上に置いて使い始める。


「ご苦労様。自分の仕事に戻って良いわよ」

「はーい」

「まだ新しい部署だから、他の部署からの雑用も回ってくるわね、和泉ちゃん」

「仕方ないですね。総務課は各課を総括する部署だって言えば、何とはなしに聞こえが良いですけど、実質は小さな係の寄せ集めで、他の課から便利に使われてる何でも屋ですから」

「そうね。……あら?」


 久喜が画面を睨むように眉根を寄せると、和泉は、送信した書類を検めつつ、怪訝そうな様子で話し掛ける。


「何か不備がありましたか?」

「ん? いいえ、和泉ちゃんの書類に対してじゃないの。たった今、ローカルでメッセージが入ったんだけど、それが出納課にいる同期だったものだから。――あの舞台女優ばりに厚化粧な顔を、ピンヒールで踏んづけてやりたいわ。今度の十月の異動で、都外に飛ばされてしまえ!」


 久喜が小声で呪詛ともとれる恨み節を発すると、春日はデータを入力する手を止め、心配そうな顔で和泉にコソッと話す。


「同期さんって、どなたですか?」

「ほら。さっき花崎さんが行った出納課に、メタボな課長が居たでしょう?」

「はい。細谷(ほそや)さんですね?」

「そうそう。で、それと一緒にコバンザメみたいにベッタリと引っ付いてる、やたらと胸がデカイの秘書が居たと思うんだけど」

「あぁ。たしか、太田さんでしたっけ?」

「そう。彼女と姫宮課長には、浅からぬ因縁があってね」

「因縁、ですか?」

 

 春日が和泉の話に興味を持って身を乗り出したので、和泉も作業の手を止めて話を続けようとした。すると、久喜は二人の方へ鋭い視線を飛ばしながら言う。

 

「その先の話は、ココではしないでちょうだい。残業が無かったら、仕事終わりに向かいのパーラーで話してあげるから」

「わぁ! それは、朗報ですね。早いところ、お仕事を終わらせないと」


 久喜の甘い誘いに乗り、春日が張り切って仕事を片付け始めると、和泉は小さく溜息を吐きつつ、新たに文書作成ソフトを立ち上げた。


 この日は、三人とも運良く残業を押し付けられることなく定時で上がることが出来たのだが、和泉は、その後のパーラーでのスイーツタイムで、ドッと疲れが溜まってしまった。その模様は、剛志の話を挟んだ後で。

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