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011「発車オーライ出発進行」

「それじゃあ、出掛けてきます」

「そこは『行ってきます』よ、木崎くん。それから、帰って来たら『ただいま』って言うの。借り暮らしにせよ何にせよ、今はココが木崎くんの家なんだから」


 申し訳なさそうに玄関に向かう剛志に対し、和泉は発言を訂正する。すると、剛志は照れ臭そうにはにかみつつ、元気よく出掛けて行く。


「はい。――行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 和泉より先にマンションを出た剛志は、どこか足取りも軽やかに、今にも鼻歌交じりにスキップでもしそうな陽気さで、剛志は共用部にある階段を駆け下り、あっという間に街の幹線道路へ。

 今日の剛志は詰襟ではなく、ハイネックの薄手のセーターを着て、ジーンズを履いている。今日は私服で登校することにしたらしい。

 念の為に説明しておくと、新京都にある公立では、式典行事以外の場では、制服の着用が任意とされているためだ。このことは、性的マイノリティーへの配慮でもある。年配の教職員連は、この決定に当たって難色を示したが、理想に燃える若手教職員とマイノリティー生徒による強い要望で、全新京都内で広く多様性が認められた。ただし、今でも保守派は、その実効支配ぶりに顔を顰めている。


「パネルに携帯端末をタッチし、――ご利用ありがとうございます。パネルにケータ――、ご利用ありが……」

 

 シティートラムと呼ばれる低床車体の路面電車に乗り、剛志は第三高校へと向かう。余談だが、このトラムは架線の無い地表集電方式で走行しており、四両編成の車内には乗務員が常駐せず、非常時を除いては、無人による自動運転である。


(こんなに良い気分で学校に通える日が来るとは、夢にも思わなかったな。中学時代の僕が知ったら、きっと有り得ないと思うことだろう)


 ロングシートの横にあるステンレス製の垂直ポールを掴みつつ、ホクホク顔で車窓を眺める剛志。周囲にいる人間は、そんな剛志を「高校デビューで浮かれているなぁ」という目で見ている。


「次は、七条二丁目。七条、二丁目。都立第五特区、第三高校へは、次でお降りください。お降りの際は、車両が停止してから移動願います」


(オッと、いけない。感傷に浸ってる場合じゃなかった)


 剛志は、ふと我に返って電車が完全に停まっているのに気付き、足元に置いているスクールバッグの紐を肩に担ぐと、手前のポケットから携帯端末を取り出し、パネルにタッチして降車した。

 剛志が愉快な新生活をスタートさせてる一方で、和泉の職場では、課長がおブスなことをしているのだが、それは、この次の話で。

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