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日常の三コマ

ロックアースを襲った魔物を殲滅するべく、第1騎士団は軽く作戦を立てたのち、メンバーを選抜してから部屋を出る。


作戦といっても大したものではなく、主に第4騎士団の迷惑にならない行動をする、といったようなピクニックでもに行くのか、というようなものである。


メンバーについても全員行くわけではなく、新しく入団したメンバーが大半を占めており、まずは仕事を成功させて自信をつけさせよう、といった魂胆がある。


ちなみに第5騎士団の入団者はいない。


団長は国からの依頼であるため行く必要があるが、そもそも魔物の数は多くても強力な魔物はいないため、主力メンバーは待機となっている。


ぞろぞろと第1団長であるユイットが数十人引き連れて歩いていると、その横を2つの風が通り抜けた。


「あれは…」


ユイットは走り抜けていった2つの人影が灰色の騎士服を着ていることを確認し、今のが誰かに検討をつけた。


「なんだ?今のは…」


「廊下を走るなんて危ないじゃないか!」


「今のは第5の者たちか…」


ユイットは後ろでざわざわと騒ぐ新米の声を聞き、また自分の部下であるフェムのため息交じりの声も拾う。


「今のなんなんですか?フェムさん。規律違反ではないですか?」


新米の一人が不満そうな顔をしてフェムに尋ねるが、自分もこの頃は同じような反応をしていたな、とフェムは苦笑いする。


実際のところ廊下を走るな、という規律はない。言われなくてもそうするべきではあるが。


騎士に反する行動は取るべからず、というものはあるため、それに含まれるかもしれないが、それは置いといて何か緊急な事があったのかもしれないとフェムは言う。


フェムに尋ねた新米は若干の不満を残しているような様子だが、周りから聞こえてきたあれは第5騎士団の色じゃなかったか?という声を聞いて、やや侮蔑の表情で再度フェムに話しかけた。


「第5って1番落ちこぼれているところですよね。あのままでいいんですか?騎士団全体に関わる事だと思うのですが」


一応団長は同格扱いであり、団員についてもそうであるが、団員の中にはそうではないと主張するものもいる。


その理由として、団員の人数と魔法についてに差があるという点だ。


第1から第4までの騎士団は平均すると大体80人程であるが、第1は50人程だ。


魔法の属性は第1騎士団から順番に火、水、土、風の四大属性である。


火の魔法に適正のあるものは少なく、また第1騎士団と総長を兼任しているユイットの存在があるため、火属性が当たりなのでは、と巷では噂になっている。


第5騎士団に関しては団員が5名の上、全員四大属性に適正がなく、無属性魔法ということになっている。


人数が極端に少ない上に、火属性よりさらに珍しい無属性魔法である第5騎士団が当たりなのかと言われたら、首を縦に振るものは少ない、というかいないのではないか、といった具合だ。


無属性魔法は大抵何かに特化している。が、それがいい事とは限らない。


ヴァンに関しても、ノイン曰く感じやすいだけの人、という事であり、それ以外に使える魔法はない。


普通に四大属性を使える方がいい事がほとんどだ。


そのため、珍しくはあるのだが、大抵は外れ扱いを受けることになる。


それはフェムも良く知っているため、どう答えたものか、と悩んでいると、ユイットが口を挟んだ。


「たしかに変わった連中ばっかりだが、落ちこぼれというわけではない」


「何か凄い力があったりするんですか?」


「アルヴァンの事は良く知っている。あいつは別に強くはない。魔法の攻撃手段もないしな」


新米は鼻で笑いながら、やっぱりか、と思う。だが、次のユイットの言葉に眉をひそめる。


「だが、弱くはない。少なくともお前に勝算は万に1つもない。あいつの力を目にする機会があったらよく見てみるといい」


この新米はかなり優秀な方だ。


当然勝つ事は無いにしろ、無属性魔法相手なのだから善戦できるだろうと、運が自分に向けばあわよくば勝てるのではないか、と思っていた。


それがユイットに万に1つも勝ち目がないと言われて

当然いい気はしない。


俺の実力をユイットは知らないのではないか、と新米は思う。


実際のところこの新米は才能もあるが、努力も重ねていたこともあり、第1でも新米の中ではトップクラス

の実力を持っており、本人もそれを知っている。


なのでユイットに見る目はないのではないか、と落胆しつつ、不快な気分にされた原因であるところのヴァンに対して敵意を向けるのであった。




「お先っすー!」


ノインは先に城塞から飛び出して、空高くに跳躍して高い建物の屋根に着陸する。


ノインの魔法は脚力強化である。


俊敏な動きや高い跳躍を可能にし、また、その足から繰り出される蹴りはとても少女のものとは思えない威力を持つ。


その足を生かした探し方をするべく、とりあえず高いところから探そうと、ノインは辺りを見渡す。



「クソが、足速すぎんだろ、あいつ!」


遅れてヴァンが城塞から飛び出る。


ヴァンの魔法は感覚強化である。


ノインからは感じやすい人と評価されてしまったこの魔法だが、使い方は様々である。


遠くを見渡す視覚、少しの物音でも聞き逃さない聴覚。


こういった探し物関係でヴァンほど適正のあるものはいないだろう。


夕飯を吐くほど食べてノインの懐を貧しくしてやろうと、ほくそ笑みつつ、ヴァンは魔法を使用する。


感覚を研ぎ澄ませる。


ノインほどではないが、ヴァンも高い建物に登り、視覚と聴覚を強化する。


視界が広がり、遠くまで見通すことが出来るようになったが、ヴァンの視界に猫が入る事はない。


ならば、と聴覚に意識を傾ける。


ーーー人の足音。言い争う男女の声。馬車の引く音。布団を叩く音。風の吹く音。動物の足音。子供の遊ぶ声ーー


「向こうから動物の足音が聞こえたな。猫が分からんが行ってみるか」


ヴァンは動物の足音が聞こえた方向に走り出す。


猫である確証はないが、少なくとも馬の蹄から出る音ではなかったし、体重的には近いであろう音だった。


と、はたとヴァンの足が止まる。


「そういえばどんな猫か聞いてねえ…」


ノインとの勝負に急ぐあまり大事な情報を逃したことに気づき、ヴァンは頭を抱える。


しまったなあと思ってももう遅い。


こうなれば適当に猫を探してそれが目当ての猫だという可能性にかけるか、とヴァンは考える。


それで違ったら今度こそ特徴を聞けばいいかと結論を出した。


ーーーキャー、助けてー!止めてー!!!


突然どこかで女性の声が聞こえた。切羽詰まった余裕のない悲鳴だ。


猫の捜索は後回しに、女性の悲鳴が聞こえた方向に走り出す。


ーーーいや、止めて!触らないで!誰か、誰か!!


ーーーうるせえ、大人しくしろ!おい、縄で縛って猿轡しておけ!大事な商品だ、傷つけるんじゃねぇぞ!


悲鳴と男の会話から、時間に猶予はあまりないと判断して、走る速度をさらに速める。


急ぎつつも、ヴァンは考える。


この都市、というより国では奴隷や人身売買の類は禁止しており、それを行なったものの刑罰は非常に重い。


良くて鉱山労働、無難なところで危険な魔物が出ると予想される未探索地域の露払い、悪いとそのまま処刑台に一直線だ。


実際のところどれも死刑のようなものだが、鉱山労働と露払いは生き残れば解放される。


大抵は死んでしまうが、運良く生き残れたものはその過酷さからほとんどは真人間になるらしい。


とにかく、他の国ならいざ知らず、重罪であるような行為なのに何故行動に移したのか。


よほど高貴な身分の娘を攫ったか、何にせよ重罪のリスクがチャラになる程の仕事なのだろう。


ーーーキャー、ふがふが、ふがー!


ーーーおい、どうする?服も剥いでおくか?


ーーーそうだな、裸の方がいいだろう。


ーーーふがー!?



ビリビリと布を引き裂く音と共にくぐもった悲鳴が大きくなり、ついにその声の出所を捉えた。


裏路地に入り、少し行った先の扉で事が行われているとヴァンは確信した。


「ーーここかっ!」


ヴァンは扉を蹴り破り、中に侵入した。




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