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前編:社長のわがまま

 夏と言えば海、花火、部活に宿題。

 だが、バスターである篠原快は一般的な回答は持っていなかった。


「任務だ、任務。今年の花火大会はお前らで行ってこい」

「ええ〜っ!!」


 TEAM本社食堂。大人から子供まで、快の台詞に驚いた。


「快ちゃん!! 今年も射撃勝負するんじゃなかったのかよ!」

「私の林檎飴とタコ焼きと焼きそば〜!!」


 白真と翡翠がそれぞれ文句をたれるのはいつものこと。

 とは言っても、かなり自分勝手な言い分ではあるが……


「仕方ないだろ。うちの馬鹿親父が母さんと祭に行きたいがために俺に掃除屋会に出てこいって言うんだ。これ以上副社長に迷惑かけられねぇよ」


 さすがは跡取り息子である。誰もが中三にしてはしっかりしてると思ったが幹部達は静かに立ち上がる。そして……


「許せん!! 社長を締め上げるぞ!!」

「おお〜!!」

「やめといたほうがいい」


 その意外な言葉を快がさらりと言う。


「母さんが絡んでいるときのあの馬鹿に戦力で挑んでも」


 誰もが知っている常識。副社長がいない限り勝てない。そしてその副社長は出張中。結論、自分達は殺される。


「翡翠ちゃん、今年は諦めなさい。相手が悪すぎた」

「そうそう、おいしいものなら私たちがおごってあげるから」

「うん……」


 いつもなら喜ぶはずの翡翠が今日だけは違った。



 そして祭当日……


「夢乃さん綺麗……」

「あら、ありがとう」


 アップにした髪に赤い小花の髪飾り。紺色の浴衣には銀色の花が咲き乱れている。誰もがうっとりする美貌の持ち主は今日は一段と磨きがかかっていた。


「だけど、快ちゃんに掃除屋会に行かせてよかったの? 去年、翡翠ちゃんと約束してたでしょう?」


 義臣も間違いなく覚えているであろう、快と翡翠の約束。しかし、それを義臣はさらりと流した。


「ああ、もちろん覚えてるよ。だけど、これぐらいの演出はしてもいいだろう?」


 義臣はニヤリと笑うが、夢乃は冷静な判断をした。


「掃除屋会ってたいてい長引くのよね。あなたはいつも寝てばかりだから知らないでしょうけど」


 さすがの義臣でも、これに反論する術はなかった……



ちょいと書きたくなった番外編。ゆっくりお楽しみ下さい。

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