ドロボーごっこ(ショートショート16)
夕食後のこと。
「パパー、ドロボーになって!」
娘がオレのところにやってきた。
「ドロボー?」
「うん、ドロボーごっこ」
コクンとうなずく娘は四歳になったばかり。たぶん幼稚園で、ドロボーごっこなるものがはやっているのだろう。
「いいぞー」
「じゃあ、パパがドロボーで、あたしはおまわりさんをやるね」
娘ははしゃぐように言って、その小さな指でピストルの形を作った。
「パパのドロボーは強いぞー」
両手をカマキリのように上げ、さっそくおそいかかるマネをしてみせた。
娘が指のピストルをオレに向けて叫ぶ。
「バーン」
ここは娘を喜ばせる場面だ。
オレはクルリとひとまわりし、大げさに床に倒れこんだ。それからいっとき体をくねらせ、もがき苦しんでみせた。
――どうだ、パパはうまいだろう。
うす目を開けて娘の表情をうかがった。
娘がかたまって、じっとオレの動きを見ている。
――幼稚園にはいないだろう。こんな迫力のある死に方をするヤツは……。
ひとしきりのたうちまわってから、オレはピタリと動きをとめて死んだふりをした。迫真の演技だと、われながら感心する。
「パパ……」
娘は泣きそうになっている。
父親を撃ち殺したことで、おそらく罪の意識にさいなんでいるのだろう。なんと純真、まったくいじらしいではないか。
――泣き出すかな?
オレは意地悪く死んだふりを続けた。
娘がピストルを頭にもっていった。
自分も死ぬというのか。
そこまで娘にさせるとは、オレの演技はそうとうなものだったようだ。
――そんなに思いつめなくても……。これは演技なんだからさあ。
おかしくて、笑いをかみ殺すのに必死になる。
娘は、ピストルの銃口――ひとさし指の先をコメカミに当てた。
――いよいよか。
オレはそのときを待った。
娘がひとさし指をクルクルとまわす。それから天井に向け、五本の指をパッと開いた。
「パパ、アホみたい」