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005:平原合戦

 中継地点のキャンプ村、そこに南下する者、北上する者、そんな者が集まる。

 また遊牧民族のようなゲルのテントの建物も味があり、立ち寄ったら一休みする程度の事も多い、その為にクエストを受ける為に代表を訪れるプレイヤーが余りに多く、仕方なく専用のゲルを作り、そこに担当者が案内する。

 プレイヤーと従者を雇う事も多く、また従者と上手くいかないプレイヤーもなんとか学び取ろうと集まる、町中ではないので仕事も多く、結果としては色々と学べるし、アイテムも手に入ることも多いので何かと生活しやすい。

 チュートリアルのないこのゲームでは、PCもAIの従者も何もかもが手探りの暗中模索だ。

 そんな事も有った日中だった。


 夕方頃になり、従者の6名が帰還した。

 狩りに出ていたダークエルフの騎士のピローテス、エルダーナイトの武道家のフォルゼン、ドリアードの召喚士のフォルスト、エルフの学者のディードリット・エント、ニクシーの戦士のホタテ、ドリアードの治癒師のホウヅキ。

 晩くまで狩っていたらしく、俺達は眠らずに待っていた。

 朝方まで1時間後ぐらいだ。

 つまり昨日の真昼の正午から一晩ぶっ通しの明け方前まで狩っていた。

 なにも言わず、食事と飲み物を出し、バッシュ、アリサ、俺の三名で作った共通の食品、従者食品という物だ。

 それを無言で食べるが、殆ど眠気に襲われ、手元が危うい。

 食べた後に宿屋に宿泊、主人と同じゲルなので、看病も行い、ウルカ、ユウヤ、ツグミの従者の居ないソロプレイヤーは、看病の手伝いを行う。

 特にツグミはピローテスにお世話になっていたので、健気に看病の手伝いをしていた。

 そんな明け方前から、時間が立ち。

 真昼になり、全員の従者がやっとのこと復活した。


「あんまり無茶するなよピローテス」

「何が有ったか聞かないのか?」

「薄々な、NPKに遭ったのだろ」


 PKプレイヤー・キラーNPKノンプレイヤー・キラー

 どちらも対人戦を好むプレイヤーが行う行動だ。

 盗賊プレイがしたい者、海賊行為がしたい者、賞金首になりたい者等、悪質な対人戦好きの者。それらがNPCの者と混ざり行うのが主人、従者のメジャーな組み合わせのPTに対して襲う行動をとる。

 結果PK、NPKとなる。

 これは厄介な問題でもある。何せ相手もNPCと混ざっているためにどっちが対処するべきか微妙な問題だ。

 よくゲームの中のPK達が好むやり方だ。

 その分崩壊させるのも色々と考えられた。

 まずは賞金を懸ける、次に少しずつ狩る。

 この二つで賞金がたまる一方のPC、減っていくNPC。必然的に不協和音が響くことになる。あまり良いやり方ではないが、襲ってきた者に寛大に成れないそんな者がいるのも仕方ない事だ。


「どうするのだ」

「まあ、あまり褒められたやり方じゃないが、集団に楔は打ち込む方が良いな」

「戦術という物か?」

「軍略ともいうな。人間はそれを長い年月考えてきた。酷い者を大量生産してな」

「学ぶべきか?」

「ピローテスはそれを欲した、ならば得ようとすればよい」


 スキル構成を変えたり新たに入れたりした。

 武器スキル:弓Ⅰ・Ⅱ、短剣Ⅰ・Ⅱ

 防具スキル:布製、

 装飾スキル:アクセ

 魔法スキル:弱体化

 補助スキル:魔法才能、無音、隠匿、隠密、軽業、身軽、敏捷、使役才能

 眼力、索敵、知覚、鷹の目、蛇の目、夜目、発見、看破

 生活スキル:使役、同時使役

 生産スキル:調合、毒物


 暗殺者スタイルのスキル構成だ。こういう事を考えた【C】の知り合いから組み立てられた対NPK、対PKなどに対応するためのスキル構成だ。

 薬品を作るには当たり【C】より毒物の生成に関してはかんならず提出する事と有るが、今回の薬物はそれほど強力な物ではない、精々出血量が増やす為に矢に細工し、これに痺れ薬を入れるぐらいだ。


「ピローテス、一応知らせるが本職じゃないぞ」

「マスター気合入り過ぎ、後、凄く嬉しそうにスキル構成をしていた」

「手加減しなくていい連中は、やはり潰しても心が痛まない敵なら喜んで叩こう」


 □


 レドはピローテスの言葉通り、キャンプ場より離れた場所の一つの雑木林に囲まれた一つの小高い丘のある場所。

 風上には寄らず、常に風下に立つように動き、見つけたネームがレッドのPC、NPCを弓と短剣で片付け、背後からさくりという奴だ。

 PVPゲームに慣れ親しんだゲリラ戦、小学校の頃には全く理解できないやり方であったし、卑怯ともいえるやり方だ。むしろ汚いやり方ともいえ、毒物を使う事に良心を痛める心優しい者には不向きのモノだ。と言うか、このゲリラ戦のやり方がマッチすると恐ろしい効果を生むことが分かった。

 姿を隠した暗殺者一人に対し、数十名に上るPK、盗賊NPCが狩られた。

 しかも一度倒したプレイヤーも、ランダムでドロップして消えるので、他のプレイヤー、もしくは盗賊NPCへの攪乱にもなる。忍術でいう金遁の術だ。

 人質が居ても凄く安心、隠れてから人質解放、その前に周辺の待ち構える者を一人ずつ麻痺させて無力化。

 そんな時に根城らしい大きな小屋から一人の男が現れる。


「何処のPKKだ」


 何やら騒いでおられるが、ちょっとした忍者プレイを試す必要もなく、周辺に隠れるPC・NPCを無力化し、その後に確実に仕留めながら、このボスらしいプレイヤーの後ろにいる真のボスらしいNPCの方向に罠を仕掛ける。

 物音がないこの雑木林の中で、糸などで作られた音を鳴らす簡単なトラップを作ってから、十分に離れた場所で糸を斬る。

 この音でボスらしいブレイヤーが突進し、真のボスらしいフードの男に背後からナイフで突き刺す。

 クリティカル判定を受け男の首元の背後を刺す。

 その後に直ぐに離れる。相手も罠を考えていたらしく上から投網が落ちてくる。その時には離れていたので当たらずに済むが、かなり面倒なことになりかけていた。

 小屋の中から人の声が聞こえる。

 人質を解放して欲しければ姿を現せというモノだ。

 非常に鉄板の様な事だが、こちらも基礎はそれなりに勉強した。

 睡眠薬のお香をたく。

 自分にはきかないように睡眠耐性もつけた。

 ひたすらお香をたくので相手よりも煙で視認されず、煙は入り口から奥へと流れた。

 ボスらしいプレイヤーは煙を吸い込んだらしく、煙での中でも視認ができた俺に向け突撃するが、接近するにつれ強くなる匂いに誘われそのまま倒れ込むように眠った。

 この後に麻痺のお香も焚く。その前に麻痺体勢を身に着け、アクセでの各種バットステータス耐性が身につけられるのは助かる。

 その後に人質を確保し、用心の為に盗賊同様に縛る。

 情け無用の暗殺者じゃないため、これが限界だ。

 キャンプ場では騒ぎになっており、PK、MPKのマークであるレッドネームになっているレドに帰還に、キャンプ場の者達は残念そうだが、一応言い分を聞くことを提案し、助けたNPCからの証言もあり、これは運営もGMも認め正式に無罪と認められ、本来ならば討伐クエストなどを受けてから行う事だが、盗賊団を倒してた後には財宝などを捕まっていた者たちに分け与えたので、レドは一つの小石も取らなかった事も有って、無罪放免となる。


 ログアウトしてから、翌日。

 朝方の5時に起き、トレーニングを積み、久しぶりの朝飯を食べ、シャワー、自宅の掃除、庭などの手入れ、昼食の用意を調べて足りなくなっていたので、外の買い物に出る。正式サービスが始まっての外出だ。

 近くのスーパーで買い物し、電動自転車での帰宅。

 仕分けなどと色々と生活の仕事を行い、洗濯物は洗濯機での乾燥まで行う。

 そんな訳で昼飯も食べてからログインした。


「あれ」


 ログインすると準備も終え、スイッチをオンにしたが、ダイブできない。

 モニターを見ると、公式メンテ中だ。

 時間が余ったのでまだログインしていないメンバーにメールを送る。

 タイムラグもなく<十字星の記録>のメンバーに届く。

 何でも〖イーニャ〗の四方にある四聖獣のダンジョンの公開クエスト、四方のダンジョン近くの村々の公開、町と村の中間のキャンプ場の正式な中継地点に決定。

 この四聖獣のクエスト、中継地点の各キャンプ場も合わせた村などの8か所に設置となるが、実質的には6か所だ。残る2か所は北側にあるのでイベント用だ。

 南の朱雀ダンジョン、その近くの村の〖イズミ〗、この中継拠点のキャンプ場が〖イクツキ〗と南は和風な名前が占めるが、西側の山林エリアのキャンプ場の〖美鈴〗白虎ダンジョン近くの〖鈴々〗の中華風の拠点、東側の中継地は〖キャサリン〗ダンジョン近くの村が〖ハワイ〗の6か所の居住地の拠点。3か所のダンジョン公開

 そして〖始まりの七日間〗ではあったスキルLvなどの各種Lvの実装だ。

 更に追加要素の、チュートリアルを含める初心者救済のための、冒険者育成学府〖ガーディアン〗が追加された。

 新エネミーの追加、新武装の追加、新スキルの追加、マイハウス追加、新騎獣追加

 〖四聖獣〗ダンジョンクエストキャンペーンに、一部クエストを公開

 〖イズミ〗〖イクツキ〗〖美鈴〗〖鈴々〗〖キャサリン〗〖ハワイ〗での正式な居住地して公開。


 ・同時に各拠点での生活クエスト実装。

 ・スキルLvのランク3を開放

 ・種族Lv、ジョブLv、クラスLvの実装。

 ・冒険者育成学府の〖ガーディアン〗の実装。

 ・出資者のマイハウス実装。

 ・共闘PT実装

 ・エネミー調整


 こんな数多い実装に、プレイヤーは大喜び、むしろやっとのこと正式なサービスが始まったというような勢いだ。

 ログインした。

 真夜中の日付変更時間の午前0時。

 雲一つない爽快な大パノラマの星空、月が煌々と地上を照らし、近くの湖畔に移る星空のまるで宝石箱の様なキラキラとした光を放ち、時々の風が水面を揺らし、その度に水面には揺れる星空に月、若草を揺らす季節の変わり目に来る僅かに強めの風が戦ぐ。


(幻想的と言うのかねえ)


 戦闘・生産プレイヤーのレドはそう感じた。

 フレンドリストを見ると、他の遊び仲間もログインしていた。

 始まりの町の〖イーニャ〗、朱雀ダンジョン近くの村の〖イズミ〗この二つの中継地点の〖イクツキ〗に居る。


 休憩所で食事をしながら公開されている〖四聖獣〗のダンジョンンクエストを読む。

『四門を開放せし者達よ、汝を彼の地に送らん。』


(たったこれだけで公開と言うのが)


 近くの遊び仲間のウルカが座る。

 相変らずの黒装束に顔は目だけを出す、アーモンド形の鋭い目つきがレドの横顔を睨む。


「ようウルカ」

「うむ。おはようか、家のリーダーの方針は」

「そう急かさない、ゆっくりと考えればよいのさ」

「学校優先か、それともクエスト優先か、それともキャンペーン優先か」

「仲間の意見優先さ。遊ぶ間に学校とかは嫌だが、な」

「だが、思わぬ拾い物をするかもしれないぞ」

「かもなあ。他の面々の意見もあるが、まっ」


 ゲルの入り口に一人の長身で整った顔立ちのエルフの青年が入ってくる。

 バッシュと言う遊び仲間の一人だ。


「ようバッシュ。眠たそうだな」

「ぬかせ」

「おはようバッシュ」

「おはようだウルカ」


 その後にハーフエルフのアリサ、ドワーフのチャイムが揃い、ウルフマンのユウヤ、フェルパーのツグミの4名も集まる。


「食事しながらでいい、少し聞いてくれ」


 6名の仲間にレドがそういうと、6名も食事をしながら向く


「現在の方針は特になし、だからこれからの方針を決めようとえ思う」


 もっともの話に6名も食事をしながら耳を貸す。


「まずは冒険者育成学府、四聖獣クエストキャンペーンの二つがある。そこで学府か、それとも四聖獣ダンジョンかの二択になる。また生活クエスト、マイハウスに関していえば、それほど大きな物とは言えないので、後回しだ。そこで皆の意見を聞きたい。一人一言位は意見を言ってくれ。まずは」


 一旦言葉を切り。


「まずはウルカ」

「うむ。私は学校だ」

「次にバッシュ」

「俺は、迷うが学校に行くべきだと考える」

「次にアリサ」

「やっぱり学校よね」

「次にチャイム」

「商売の事~勉強したいから学校~」

「次ユウヤ」

「俺も学校だぜ」

「最後にツグミ」

「私も同じく学校です。レドさんの意見は」

「ダンジョンもよいが、学校で学ぶのもよい、意見とするのなら学校優先だ」


 満場一致で学校になる。

 食事が終わり、この遊牧民のようなゲルのキャンプ場から旅立つことに、従者の6名も起きて食事し、騎獣に乗って向かう。

 街道を進みながら、片道1時間の距離を走る。

 いつもなら順調に行くが、今回は何故か平原のエネミーが襲ってくる。

 騎射が得意なバッシュ、ウルカの二人は射撃援護、従者の支援を担当、アリサ、チャイム、ユウヤ、ツグミは白兵戦の前衛担当を任せた。

 騎兵の経験がある俺は、指揮しながら後方から追ってくるエネミーを片付ける。

 イージーからハードに難易度が上がったみたいだ。

 騎兵の機動力、突撃力は非常に高いのだが、防御面に関していえばそれほど適さない、機動力からの突撃の方が効果的なのだ。


「なんでこんなに強くなってんだ。このエネミー」


 レドがぼやくが、思い当たることはある。


(エネミー調整)


 息なら強くなったエネミーに殆どの者が苦戦していた。

 別にダメージや被ダメージの数値が上がったわけではないだろうが、知性と言うべきAIが強化され、集団で襲ってくる、しかもご丁寧にリーダーエネミーが指揮するなど、今までにない動きをする。攻防に置いての削り役、盾役、妨害役などと多用に分かれたものだ。


「戦闘中だが、全員逃走の準備をしておけ」

「逃げるのか?」


 レドの従者のピローテスが驚きながら言葉にした。


「所謂足止め役だ。その内に他のエネミーも現れるぞ」


 あり得ない事ではあったが、レドは経験がある、このゲームの前のゲームで有った足止め役と倒し役に分かれた集団戦術だ。

 運営の名前は変わったが、中身は変わらない物だ。

 足止め役のプリン、削り役にはボアかウルフか、どちらにしても致命的ではないが合流されると厄介だとレドは判断した。


「おーし。逃げるぞ」


 程々で逃走する。

 イージーからハードになったこのゲームのモブエネミー達。

 特に苦戦することもなかったが、能力は格段に上がっていたし、リーダーエネミーによって能力が強化されていたことも一つの戦術だ。

 プリンの足は遅く、一般的な歩行速度より遅いので、直ぐに逃げ出せた。

 街道の主要な個所がエネミーに待ち伏せされていた。

 そんな時に生産者組合のクラフト・クラフト・クラフト、略称【C】の知り合いから連絡が入り、各地でエネミーの能力が強化され、各地で激しい攻防戦が始まっているらしく、必要になる染料などの提供が打診されたが、とてもではないが街道を北上するのも難しい。

 特にモブエネミーの集団で動くのはソロではとても戦えず、必然的なPTを組む者が急増する。


 〖イクツキ〗に押し戻されてから、レドは仲間の12名に休むように提案し、部下ではないので命じることはないが、指示する事はあるのは必要に迫られてからだ。

 レドもこのキャンプ場の固定PTや、ソロプレイヤー達が集まるクエスト受付所に入り、そこで色々と話を聞く。

 殆どのプレイヤーが、いきなり強化されたエネミーに大苦戦。

 運営の采配一つで、ここまでゲームが変わるのは、困った物ではあった。


「そこの少年」


 話しかけてきた一人の魔法使いのような外見女性、年齢はレドより一つ上ぐらいだ。


「なんだ?」

「もしや<十字星の記録>のリーダーのレドじゃないか」

「だとしたらどうしたので」

「うむ。このままではこのイクツキの閉じ込められたものだ。それは少年も同じではないのか」

「そうなるな」

「そこでだが、PT同士の共闘を提案したい」

「・・・確かに好い提案だ、しかし。俺はあんたを知らない、今知り合ったばかりだ。名前も知らない相手と共闘できるのか?」

「もうし遅れた魔法使いのアプリだ」

「おいおいPT名」

「注文の多い少年だが、PT名は特にない」

「じゃあ。何名だ」

「4名だ」

「PTの解散はないのだな?それともその場しのぎか?」

「その場しのぎではない、我々はこのゲームで知り合った者たちだが、中々気に入っている」

「了解した。あんたの提案を受け入れよう。」

「私は名乗ったが」

「まあそう気にするな。仲間を集めて出発の準備だ。話し合う事も有る、たぶんアプリ、あんたの狙いの事とかな」

「ふむ。特にないぞ」

「じゃあ。生産所で落ち合おう」

「了解した」


 仲間を集めて生産所に集まる。

 戦闘・生産プレイヤーが多い<十字星の記録>には生産所の方が居心地が良いのだ。

 共闘を申し入れたアプリ率いる固定PTは、アプリを含め四名だ。

 珍しく従者の居ないPTだ。

 リーダーの魔法使いのアプリ、大剣の戦士のビルド、全身鎧に大きな盾を持つアシル、ヒーラーらしいマキの四人組だ。

 7名のプレイヤー、6名の従者の合計13名、この固定PTの<十字星の記録>


「じゃあ。自己紹介も済んだし、まずはそちらの考えを聞こう」

「大所帯なら突破できるかもしれないと思ってな」

「なるほど、数を頼みに突破するか、それは悪くない選択肢だろうし。決して効果的ではないともいえるが、この人数では難しいだろう。なぜなら一度、二度は突破できてもアーツ、スペルなどのクールタイムが発生し、最後に待つのは袋にされる事だ」

「なるほど、確かにその通りだろう。ならそちらの考えを聞きたい」

「俺と有る可能性を考える。騎獣の足の強化だ」

「ふむ。それが可能なら提供してもらいたい」

「まあ落ち着け。騎兵の有効モノは?」

「足だな。一度に短期間で大量に運ぶための物だ」

「そうだ。だが可能はどうかはまだ不明だ。まあ勝算の方はあるのだが、そちらは騎獣を持たない面々なのだな?」

「なるほど、何故分かった」

「持っているのなら乗ってくるはずだ。それが出来なかった」

「ふむ。困った」

「安心しろ。共闘するPTならそれなりに考える、そうだな馬車とか」

「感謝したいが、そちらとしては大丈夫なのか」

「問題ない、見ての通り大所帯なので馬車の必要なのさ」

「こちらが提供できるのは火力などのプレイヤーの援護だ」

「問題ない、そちらは生産なんかはやらないのか」

「生産プレイヤーは居ない」

「生産も面白いぞ?まあそれは置いて、馬車を作る、騎獣の足を強化するこの二つだが、それ以上に大切なものもある」

「金か?」

「そんな物はどうでもよい、必要なのは素材だ。これを使って、物を作るのがこのゲームの楽しみの一つだ」

「・・・・・素材?」

「そう素材だ。これが無ければとてもではないが物は作れないからな」

「ふむ。そちらの方では特に役立つこともないな、そちらに任せる」

「そうか。生産がしたくなったら【C】でも訪ねるといい。素材集めぐらいなら手伝ってやるよ」

「どうも噂とは随分と違うな。」

「噂?そんな物はどうでもいいさ。んじゃあ。共闘申請を送るぞ」

「まて細かい事はどうするのだ」

「あんたらも誠意を持つ。俺達も誠意を持つこれ以上に必要か」

「まあもめ事の度に話が上がることになるぞ」

「それでも良いさ。それで少しずつ経験値がたまるのだからな」

「なるほど、メリットのない我々は経験値扱いか」

「そういう事も有ると判断している。これからはソロプレイヤーも減るしな」


 協議が終わり、共闘を組む。

 レド率いる<十字星の記録>の面々は出し惜しみはしない方針なので、騎獣強化のためのチームと、馬車製作のチームに分かれ、早速作り始めた。

 幌馬車を作るチームが設計図、必要な工具、必要な素材の三種類に必要なスキルも取得する。生産プレイヤーが大半の為に直ぐに開始された。

 騎獣強化の為にバッシュ、レドの二人は生産に籠ってアイテム生産。

 生産プレイヤーでもないツグミ、ユウヤの二人は手伝いで急がしく働く。

 PT<ノラノラ>の面々はやることもないので暇そうに干し肉を齧っていたりした。


 □


 そうやって完成した幌馬車第1号に、完成した騎獣用速力特化型の衣類に使う染料。

 この騎獣用の速力特化型染料で染め上げた騎獣用の衣装などによって、走る速度が上昇し、バッシュの限界数値突破の特殊なスキルによって大きく性能が向上し、その足の速度はおよそ2倍に達する。

 色々と工夫し、作られた防御力+10、速力+10の二つがある染料、塗料を作り、これを<ノラノラ>にも無償で提供し、仲間にも提供し。


 □5月28日04:00~12:00


 真昼の出発する予定で弁当を食べながら、休み。

 幌馬車は2重車輪の6輪車、この為に10名も乗れる上に速力も早いのだ。

 バッシュが御者をして馬車に乗る者は騎獣を馬車に繋ぐ。

 レドが指揮し、ピローテス、チャイム、ホウヅキ、ウルカ、ユウヤ、ツグミの7名が騎獣に乗り込む。

 バッシュ、ディード、ホタテ、アリサ、フォルスト、フォルゼンの6名と、<ノラノラ>の4名だ。

 馬車の速力は凡そ20kmの陸鳥の速力から30kmにまで増加、単騎の場合は40kmに登る。

 これでエネミーの包囲網を突破する。

 まずは騎士担当のレド、ピローテス、<ノラノラ>の盾役のアシルの三名がアーツを使う。


「《アンカー・シールド》」×3


 これで盾役に引きつく、この時に火力担当がスペルを使う。

 チャイム、ディード、アプリの元素魔法、ウルカの忍法、レド、ピローテスの暗黒魔法のスペル


「《ファイァーボール》」×3

「《火遁の術》」×1

「《ダーラ》」×2


 一期に焼き付かされた突破口に、馬車を守る様に7騎の騎兵が守りながら全速力で進む。

 すでに〖イクツキ〗より突破を図る者が大量にいるのでこの突破のやり方が模倣され、ソロプレイヤーは臨時PTを作り、固定PTはエネミーの突破口を作り始める。

 スペルをひたすら使い続け、その間も盾役が立てアーツを使う。

 なるべく温存しつつ突破を図るのは無理、と、判断した二つのPTのリーダーの考えた作戦だ。

 後方での戦いが惹きつけている間に手薄になった前方、この方角からエネミーの大軍を突破して進み始めた共闘PT。

 火力兼盾のレド、ピローテス、盾役のアシル、前衛火力のウルカ、ユウヤ、ツグミ、ホタテ、フォルゼン、ビルド、後衛火力のチャイム、ディード、アプリ、後衛ヒーラー役のホウヅキ、フォルスト、マキ。

 持てる火力を突き次と計画的に投入し、爆発的な火力で突破した。


「おうし。気を抜くな。索敵に引っかかる者がいる」

「マスター、足止め役を置くべきではないか」

「いや。そういう訳にもいかない、いざというときの護衛が減ることを意味するからだ。特に前衛火力の面々には防御力が不安だ」


 前衛火力の面々は確かに強固な防御力がない回避頼みの為に、攻撃力があっても身を隠す場所もないために微妙に投入し難い。


「前方より索敵範囲にエネミー軍」


 索敵担当にウルカが報告する。


「前方に火力集中、一点突破を図るぞ。固定スキルのアーツ、スペルは使うな!計画通りに行けば次の突破で接近する!」


 アプリの考えた使ってもよい状況下での通常、アーツ、スペルに対し、固定スキルのアーツ、スペルは強力なので温存しつつ戦うのが良い。

 全員が1次派生スキルの為に、一つのアーツ、スペルなどを使った後に別のアーツ、スペルを使い、このリサイクルでひたすら戦っていた。

 突き進む中、二番目のエネミー軍の壁に、有りっ丈のアーツ、スペルを使いその壁に穴を作る、そこに前衛火力の騎兵を投入し、次々と真正面のみに火力を集中、さすがのエネミー軍もこの突破火力には穴が開く。

 後はひたすら戦い、二度目の壁を抜ける。

 速力が精々1km程度のプリン、せいぜい2kmのボアは相手にならず蹴散らされた。

 ウルフたちは素早い動きが肉薄するが、魔法使いの、奥の手の、上位の火力によって粉砕されていった。

 近接前衛の面々も次々とアーツを使い、切り札を除いて全スキルアーツ、スペルを使い切る。


「マスター、十分距離は稼いだぞ」

「おうし。一時休憩、休憩時間は10分だ」


 回復するだけではなく、戦い続けた結果失われたHP・MP・TPだけではなく、消耗したと飛び道具の装填など、使い過ぎて減った耐久力の回復、短時間でおえらせばそれだけで強みとなるが、訓練もなしには出ず、全員が整うまで待つ。


「アプリちょっといいか」

「何か?」

「今の場所がここだが、偵察を出すべきか悩む」

「具体的には何騎ぐらいだ」

「左右、前方に、二人一組で派遣する。時間としては15分ぐらいだ」

「せめて一人では?」

「無理だろう。いざというときの支援役が居なくなる。しかし。得られる情報が多ければ、その分次に生かせるのも魅力的だ」

「二人乗りは可能か?」


 レドは他の面々に聞くと、試しに軽そうなビルドをウルカの後ろに乗せる。


「大丈夫みたいだ」

「なら問題ない」

「偵察部隊を編成する、ウルカ、お前が指揮を取れ」

「分かった。横暴な話だが、いつも世話を掛けているし了解しよう」

「すまん」


 ウルカが偵察部隊を編成し、前方に1騎、後方にも1騎、左右にも1騎ずつの4騎、これに二人一組で乗り込み、速力は劣るが後方に攻撃できる利点がある。

 二人乗りで馬車より遅くなるが、それでも徒歩よりは早い。

 左右の方には特に異常はないらしく、前方にはエネミーの大軍が、プレイヤー勢とのガチバトルだ。


「突破は難しいと思うかウルカ」

「軍略はわからんが、敵の背後を突くというのはよくわかる。前を向いているの背後から棍棒での突っ込みを受けたら吹き飛ぶしな」

「精々ヒノキの棒程度だが、さてどうしたものか」


 平原マップには特に拠点となる得る施設はない、特に林もなければ、丘もない、川もなければ、当然の様に真っ平らの平原が広々と見渡せ、散々考える。


「温存しておいて正解だった」


 全スキル、アーツ、スペルの解禁が提案され、計画通り過ぎて困るほどだ。

 少数の人数による前方の突破には成功したのが二回、最初は〖イクツキ〗包囲網、次は予備兵力的な第二相の壁の突破。

 全て火力と機動力によることと、前方に火力を集中させた結果最弱と呼ばれる平原のエネミーのスペックでは耐えられない火力でもあった。


「あんた凄いな」

「はっはっは。計画通り初めて進んだ」

「まあ、突破出来たら馬車位譲ってやる」

「ありがとう」

「で、リーダーとしてはどうするのか」


 アブリとウルカの話からレドに向けられる。


「壁だ。あれは壁だ」

「今不真面目なことを言ったら」

「まず、壁ってのは、木の柵のような物だ。平原のエネミーは総じて耐久力が恐ろしく低い、騎士槍を持っての突撃にも耐えられないし、魔法使いたちの攻撃にも耐えられない、ならばどのような戦術を取るか、予想してみたが、壁を何重にも建て、これをわざと突破させて相手の火力を奪うのが当初の目的だ」

「消耗させる、持久戦か」

「厳しいが、俺達の火力も其処まで万能じゃない、いずれ火力を失い、敵中のど真ん中で立ち往生の危険もあるのが総員突撃だ」

「ゾッとする」

「まだ策はあるのか」

「そうだ。敵中のど真ん中で暴れまわる、所謂強行設置だ。相手の陣中のど真ん中で世界樹を基本とした円陣を組む」

「ドリアードの切り札か、ふむ。確かに有効だ」

「その世界樹とは味方をヒールで支援する木の事か?」

「そうだ。惜しみに惜しんだ結果使う切り札だ」

「他には木香、闇木香も、使うのだな」

「もちろんだ」

「風の加護、清流も?」

「全許可だ。まあ出し惜しみはない。全力で暴れまわるぞ」

「我々はどうするのか」

「すまん、出来たら協力してほしい」

「馬車代ぐらいは働くか」

「結果的に有償に成ったが、騎獣の方も紹介しよう」

「それは助かる」

「おーし。全員全力戦闘をするぞ。好きなだけ暴れるのも一つの良い事だ。敵のど真ん中で世界樹を設置するぞ」


 拠点を作り後はただひたすら暴れる作戦には、誰もが不安もあるが、レドが勝算も無くに行うとは非常に考えづらいので、意見はまとまる。


 ▽作戦説明


 まずこの強行拠点の設置に必要な森系のエルダーナイト、ドリアード、エルフの恵みの森の【世界樹】の設置にはエルダーナイトのフォルゼン、ドリアードのフォルスト、ドリアードホウヅキ、エルフのバッシュ、ディードの5人だ。

 ダークエルフのピローテスにはこの固定スキルはないが、MP・TPを回復させる闇の木香がある、これはレドも備えているので二人だ。

 清水の【清流のカノン】を使い水明移動が可能になる固定スキルアーツもある。

 エルフ特有の風の加護を使う事での矢避け、速力上昇もある。

 ハーフエルフのアリサからは精霊の加護がある、範囲内の味方の属性力を倍化するアーツだ。

 ドワーフのチャイムは武具などの耐久力を回復させる鋼の匠がある。

 ヒュムのウルカは特にないが、強力な忍法が使え、これを使った火力になるので安心だ。

 双子の方はウルフマン、フェルパーなので、強力なスキルはない様に得るがウルフマンには魔獣化、フェルパーには絶対五感の二種類がある。

 ヒュムの<ノラノラ>にはない物なので、切り札中の切り札の取得法をレドより教えられ、貴重な切り札のスキルを敵のど真ん中で採ることになる。下手したら押し潰される可能性すらある。予想は出来る範囲でも予想できない効果が付属する可能性が高いからだ。


「盾は集まってくれ、盾系のリミテッドアーツを教える。」

「剣の方はどうするのですマスター」

「直ぐに分かるアシル、まずは一番どうでもよい盾系のアーツを選んでくれ、ピローテスも意味は分かると思う」


 全身甲冑のアシルは片手で持つ大型の盾のスクトゥムを構える。


「一応だが、馬上で使う事も考慮する必要があるぞ、特に盾役は動きが遅いからな。問題ないのなら声を出せ」

「了解」

「十分だ」

「よし、なら使う物を見せるぞ、もし変化があればすぐに分かる」


 盾アーツのアンカー・シールド、これを使った後に付加魔法の防御力上昇のプロテクトを使う。


「【護りの盾】を取得しました」

「【護りの盾】」


 全体に防御力+1、防御障壁が現れる。


「今のだ。タイムラグは絶対に出すな」


 二人も同じアーツ、スペルを使い、同じリミテッドアーツを取得した。


「さてと、今度は剣、刀の方だ。希望者は集まれ」


 盾役の三名に比べ前衛火力のウルカ、ユウヤ、ホタテ、ビルドの四人だ。他にも剣のスキルがあるディード、他にも待つツグミ、フォルゼンの武道家の二人もいる。


「じゃあ。剣、もしくは刀のアーツを選んでくれ」


 ピローテス、アシルは片手剣、ウルカは片手刀の一種の忍者刀、ユウヤは両手を使う双刀、ホタテ、ディードも片手用の刀、ビルドは両手持ちの大剣。


「選択したら、すぐわかる」


 レドが片手剣のツインスラッシュの二連撃の後に、速力上昇のスピードの付加を使う。


「【速さの連撃】」


 これを取得した後に直ぐに使う。

 四連撃の攻撃を行う、この連撃の一振りごとに速力は上昇し、見るからに速くなる連撃には、刀剣類の者も十分学ぶに値した。

 全員が同じように戦い、7名は直ぐに取得した。


「じゃあ。切り札に使い格闘に行ってみよう」


 これにツグミ、フォルゼンの二人も加わる。


「使ってもよい格闘技、主にカバー範囲の広い格闘がお勧めだ。威力を重視するのなら限定個所もよい、好きな物を選ぶと言い」


 全員が選択し、レドの闘魂撃の蹴り上げに、直ぐに攻撃力上昇のアタックを使う。


「【闘魂】」


 自分の攻撃力を大幅に上昇させこの渾身の一撃を食らわす技だ。

 このアーツとスペルの組み合わせは意外にも知られているが、ネットに公開されているわけではないので、多くの者が知る切り札の一つだ。

 この為にPKが流行らないのはこのためだ。


「こんな感じだ。さて要領はわかったと思う。体験してみてわかると思うがどんなアーツ、スペルの組み合わせでもその使われたモノは一度しか取得できない、どんなアーツで有れ、使われたスペルで有れ一度のみだ。これをリセットすることも再度取得する事も出来ない、一度のみ、よく考え覚えろ」


 全員が貴重なリミテッドアーツの事なので、その考えには迷い悩みがつきものだ。


「いいか、このリミテッドアーツは知られてしまえばどうともなる、まだ見ぬ未来は確かに怖い、しかし、それが目の前に現れれば、それは未知な物ではなく、単なる障害だ。それならどんな障害も超える事が出来る、どんな攻撃も防ぐことができる、だが、相手がまだ取得していないモノが有れば、それはどんなものかわからない、言い換えれば未知なる先の話だ」


 戦う者なら納得のいくたとえ話に、弓使いのバッシュ、ハンマー使いのチャイム、治療師のホウヅキ、召喚士のフォルスト、治癒師のマキ、元素魔法使いのアプリの後衛組もこの話には納得がいく、正体不明のエネミーには気をつけるからだ。

 だから敢えてリミテッドアーツは取得しなかった。


「レドさん」

「ツグミ?」

「あの、対戦相手になってください」

「了解した」

「え?」

「全員の体勢が整うまで待機だ。これから死にに行くことになるのに急ぐこともあるまいて」


 色々な仲間や知り合った人々、それより強い面も多いレドの一つの事、それは精神的な簡単な事


(覚悟が違うんだ・・)


 自分の学んだこと、格闘技にもある精神的な強さ。

 ツグミの拳の師匠と同じような物だ。

 このゲームでは死に戻りを選択する者が滅多にいないのは、非常に痛いからだ。

 同時にテイムエネミーには死に戻りはない、だからこそ従者たちを大事にしているレドの様なテイマーは多いのだ。

 それなのに死地に飛び込むのは、相応に何かの狙いがあるとツグミにも考えられた。


「すぅはぁ」


 息吹を行い、己の能力を整える同時に戦闘に対する息を整える。


「闘氣功」


 使った氣功の技、己の能力を向上させる。


「【闘牙の息吹】を習得しました」


 これを使う。

 己の能力を底上げする。

 強力な個人用バフにより、能力が+10を超えて底上げされた。


「若いねえ。真っ直ぐだ」

「参ります」

「おうおうどんと来い」


 身体能力が二倍以上に底上げされた結果、その能力はすさまじく、通常のプレイヤーより遥かに速く、それに一つの迷いもない万全の状態だ。

 レドの盾役もあるが、アーツ、スペルを使わずに戦おうと決めていた。

 踏み込んだツグミの回し蹴り、これを盾で受ける、連続した拳技の正拳突きが放たれるが、レドの盾によって防がれる、連続した手足の打撃を、盾一つで防ぎ。

 身体能力ではなく、戦いの経験からどんな技が来るかすべて読んだ上で盾を動かす。

 攻撃を読まれることにツグミは焦らなかった。

 迷いなく全力で戦ってみたいと思えたからこその戦いだ。

 読まれるのも承知のうえで拳技のアーツを使う。

 《流星打》の一撃が放たれるが、盾で受けられる。

 《鳳凰撃》、打ち下ろし、打ち上げの連続打を8回繰り返す。

 どの技も読まれていたらしく、全て防がれる。

 だからこそ、このまま全力で戦う。

 《火竜蹴撃》の強烈な蹴り上げ、防がれる。そのまま足技のアーツを使う。《旋風脚》、回し下の連続技だ。これもレドの盾で防ぐが、初めてレドの動きに迷いらしきものが現れた。


(やっぱり)


 格闘のアーツを使う。

 《乱殴打》による連続した正拳突きの連打が決まる。

 格闘Ⅱ、拳技Ⅰ・Ⅱ、足技Ⅰ・Ⅱを使い切り最後の技を使う。


「闘魂撃」


 食らったレドが初めて受けずに盾で受け流す、そしてもう片手の片手剣を突き付ける。


「参りました」

「すげえ連打だな。6つの技も使う、なんつうコンボ職」

「全部読まれていました」

「ああ。読み易かったが、盾を壊す気だっただろう?」

「気付ていましたか。力及ばずです」

「仲間同士は攻撃判定がない」


 レドが話すと、ツグミは自分の抜けたと所に殴りつけたくなる衝動に駆られた。


「ちなみに誰かに教えてもらったとかないな」

「はい。誰か同じことをした人がいるのでしょうか」

「俺がエルダーナイト相手に使う連続アーツでの盾壊しと同じ戦法でな」

「同じですか?」

「避けれよ」


レトの《アクセル・エッジ》(剣Ⅰアーツ・4HIT)を使う。突進系の刺突を繰り出し、これが連続した多段ヒットを起こす、そのままつなげる様な剣Ⅱアーツを発動、前方に向けての扇状の衝撃波の《レイド・インパクト》(剣Ⅱアーツ・1HIT)によりボスが微かにノックバックする。

 追加する様な片手剣アーツを使う。

 《レギオン・エッジ》(片手剣Ⅰアーツ・5HIT)の回転計の振り回しの5回転を行い、《ダンシング・アタック》(片手剣Ⅱアーツ・6HIT)の連続した突き技を食らわせ。


「ちょっとレドさん!」

「中々貴重な体験だったろ?」

「ダメージはないですけど、格闘系アーツと同じぐらいのラッシュです」

「片手剣スキルはそんな感じだ。片手に持つ限り剣であればなんでも装備可能、騎士剣も暗黒剣も聖剣も同じく、そして片手用騎士剣を装備したら暗黒剣の系統にも入る片手用暗黒騎士剣を使う連続技だ」

「意外に高火力だったりするのですね」

「俺のメインは盾、使い道のない剣技だがな」


 何やら盾役として思う事が有ったことが伺えるようなセリフだ。


「じゃあ。そろそろ」

「特に敵勢に変化はないぞ」

「ウルカ、誰か送っていたのか?」

「ユウヤに頼んでおいた。随分と懐かれたな」

「真っ直ぐを見るとつい手助けしてやりたくなるのさ。ツグミと同じような真っ直ぐな奴だしな。姉弟ってのは似るモノだ」

「それで何かの策でもあるのか、無策で挑む必要もないと思うが」

「組織ってのはそう易々と行かない物だ。下手な大軍でも10分の1に負ける戦もある、死地に追いやる必要はない、拠点を作り其処を頑固に守り続けることで、エネミー軍に出血を強いる、結果エネミー軍は俺達を無視するだろう。並みにエネミーでは勝てないからだ。なら勝つためにはどうするのか、ど真ん中の俺達を無視し、壁に囲まれたイーニャを落とす方を優先するだろう。だからこそ、予想外な俺達は美味く稼げるのさ。丁度Lv制度も導入されたしな。良い経験値稼ぎだ」


 レドの色々な意味での言葉に。


「それってイーニャのプレイヤーは」


 ツグミが悲痛な声で言う。


「当然の様に犠牲になるな、だが、悪い話ではない、一見無茶苦茶の様だが、前方を薄くするためにこちらがいるのだと思えばいい」

「ウルカ今度から参謀役な」

「限定の指揮官だけで十分だ」

「まあいいさ。全員準備を整えろ、そろそろ全力戦闘だ。勝鬨を上げるぜ」


 レドの迷いすらないぼろ儲けを企む人の悪そうな笑顔が、味方のメンバーには頼もしく感じられる。


 □


 〖イクツキ〗を出て1時間、前方のエネミー軍に真後ろに陣取る。

 ウルカかユウヤに渡した望遠鏡で偵察しつつ、同時にエネミーの索敵範囲に入らない間合いの取りで、その攻城戦のタイミングを見計らう。


「おうおう随分とエネミーがいるぜ。まるで素材の山だ」

「マスター、タイミング見計らいすきせて失敗する事も有るぞ」

「そうだなぁ。まっ当たり前ではあるが、変化を与える必要もないだろう」

「意外に慎重だな。てっきり突っ込むかと思ったぞ」

「簡単にいえば、俺達は馬車と言う火力を収納した戦車に、単騎駆けが可能な武者の乗った騎兵が守る。二度の壁を破壊して進んだ。結果としてはどのプレイヤーも真似できない功績を上げてた計算だ。だが、それは時間の問題だ。次々と突破を行う者が増える、必然的に、まあここからは」

「なるほど、私たち自身にも変化は必要と言う事か、実に勉強になるが、召喚士が足りないと思うが、別行動か?」

「あの二人なら朱雀ダンジョンに籠って狩りまくりだ」

「あの難関に籠る。どういう召喚士なのだ」

「一人は年齢の割にはよく考えて動くタイプだ。もう一人の方は弱いからこそ創意工夫を行い、強くなったタイプだ」

「興味の尽きない話だ」

「兄ちゃん。前は変化なかったけど、後ろから何個かのPTが」

「お出でませ。気張っていこうか」


 全員が突撃準備に入る、ヒーラー職のホウヅキ、マキの二人は緊張していたらしく二人とも無言だ。

 世界樹は5つも作られるが、言い換えればこの5個だけだ。

 カバーするメンバーが増えないなら変化はなかったが、後方より押し寄せるPTなどにも回復が回れば必然的にカバーが増え、自分たちの回復が追い付かなくなる。


「マキさん」

「は、はい!」

「ちょっと怖いですね」

「・・・・・」

「成功する事だけを想像しましょう。私はそれで抑えています」

「・・・そうですね。少し楽な感じです」


 従者も怖いのだ。当然のように死に戻りがないからだ。

 テイムエネミーは主人によく似る。

 ピローテスのようなタイプは非常に珍しいのだ。攻防、魔法、何でもできる万能型の指揮官タイプは、ホウヅキはそんな事を思い、恐怖と戦う。

 ドリアードの召喚士のフォルストも同じらしく、何度も祈るような言葉を口にする。

 死ぬかもしれないが、レドへの信頼感が勝る。自らの主人への思いもあるし、大丈夫だと自らを言い聞かせる。

 ドリアードのリーダー格の様なセリルが居れば、防御の必要はないと簡単にいう。

 レドが指揮するPTは一度レドが攻撃を盾で受けることが一度だけだ。

 回復すら不要とセリルは苦笑していう。

 ダメージを受けたものは居ないPTでもあり、当然の様レドに主人や仲間への思いも強まる。

 だがらこそ無茶苦茶な作戦でも成功することがイメージが出来た。


「勝鬨吼えぇ!」


 一言でいえば勇ましいタイプのレドの、こういう時は役者ぶりも見事だとアリサは思う。自分がどのような影響を与えるか熟知したようなものだ。

 こういう大軍の時のみ見せるレドの勇姿だ。

 幼い二人にはよく響く、不思議と勝ち残ることが思いつくような独特の怒号に、全員から叫び声が響き、エネミーすらも注目する一団が突っ込む。


「アンカー・シールド、アンカー・ハウル、ダークアンカーシールド、ダークアンカーハウル」


 最初にピローテスが引きつける、次にアシルが使い、最後にレドが使う。

 盾役が三名も居るという贅沢使い方だ。

 レドが先頭に暗黒騎士槍を握り、重戦車の様な突撃を見せる。これと同じくしてピローテス、アシルの重武装騎兵の突撃が始まり、そのエネミー軍の傷口を無理屋の広げる様なアリサ、ビルド、ツグミ、ユウヤ、フォルゼン、ホタテの6名の突撃も始まる。

 馬車に乗る後方火力も全力で真正面の障害を破壊し続ける。


 重装騎兵、軽装騎兵の突撃で、エネミー軍の壁を易々と突き進む。

 一そう気持ちの良い位の無茶ぶりだ。


「設置!」

「【世界樹の木】」×5


 設置型固定スキルのアーツで、巨大な世界樹が5つ、馬車を囲むように設置される。

 重装騎兵の盾役の三名は、それぞれの担当方向で盾アーツを使い、一気にヘイトを稼ぐ、盾アーツ、騎士盾アーツ、レド、ピローテスの暗黒盾アーツだ。

 更にヘイトが集まるリミテッドアーツを使う。


「【護りの盾】」×3


 急上昇するヘイト、味方への防御+3、防御障壁+3

 レド、ピローテス、アシル、ホタテの槍スキルのアーツを使う。


「《ランスランス》、《ランスチャージ》」


 槍のⅠ・Ⅱのアーツを使い切る。

 騎士職のクラスに付き物の、魔法剣を使う。

 暗黒魔法剣を槍で行う。


「《ダークウェポン》」


 闇属性に包まれる暗黒騎士槍。


「《ダークチャージ》」


 槍より射出された暗黒属性の貫通衝撃波。

 一方、長柄武器のアーツを使うツグミ、ユウヤ、アリサの三名。


「《フルスイング》」


 横薙ぎの一閃、直ぐに続ける長柄武器Ⅱを使う。


「《ヘビーオブジェクト》」


 上空から起こるダウンバーストだ。

 槍、長柄武器の二つはアーツを使い切る。

 盾役の三名は片手剣に持ち替えた。

 ビルドも両手用騎士剣のアーツを使う。


「おらおらおら!」


 ビルドの大剣乱舞が決まり、間合いのエネミーは消えるが、それを上回る速度でランク初級のエネミーが押し寄せる。

 精神的に厳しい物でもある。


 レドの剣、片手剣、騎士剣、暗黒剣のⅡまでの8連技。

 フォルゼンは騎から降り、最も柔らかい箇所のアシルの横を守る。

 前衛の総火力によりリドたちの周囲は空白で、その間に後衛火力が馬車を中心に位置に付き、ヒーラーの二人は同時に持つ強化系、防御系のひたすらかける。


「ちと腹減ったな」


 レドがそんな事を呟き、従者のピローテスが聞けば頭を抱えて寝込みそうな状況だ。

 近く手に定着したウルカが素早ま顎を打ち抜く。


「どうしてお前はそう」

「普通だったら失神だぜ。いっそのこと格闘士に変えたらどうだ」

「やかましい。皆が頑張っている間にお前ときたら腹減っただと」

「好いじゃねえか。暇だろ?」

「暇ではない、忙し過ぎてこのままでは死ぬわ」

「血圧上がるぜ」


 二人の阿保の会話に仲間の面々は頭が痛くなる。特に長い付き合いのアリサは頭が痛くなるとポーションを一口飲む。そうやってストレスに対応していた。

 盾役の三名と、前衛火力の5名の補佐につく。

 弓使いのバッシュ、その従者の学者のディード、元素魔法使いのチャイム、アプリ、ヒーラーのマキ、ヒーラーのホウヅキ、戦技召喚士兼サブヒーラーのフォルゼン。

 周囲に対しての遠距離攻撃を開始する。

 この間に前衛の9名は待機だ。

 見ていてスカッとするほどの圧倒的な火力による、断続的な様々な効果音。

 固定スキルアーツを使う。


「【木香のコンツェルト】」×5


 バッシュ、ディード、ホウヅキ、フォルスト、フォルゼンが固定スキルアーツ使う。


「【清流のカノン】」


 ホタテの固定スキルアーツを使う。


「【深きラプソティ】」×2


 レド、ピローテスの固定するアーツを使う。

 クールタイムの短縮、水面への移動可能、MP・TP自然回復率上昇。


「はいは~い」


 戦場と化すこの場所でも常にのほほーんとしたチャイムが<南十字星>のお得意技を使う。


「はいっよ」


 元素魔法の6元素の水のスペルを使う。

 同時に氷属性でこの水の柱を固める。

 更に雷属性の雷を落とす。

 砕かれた水だった氷柱が砕かれ、そのまま水となる。


「ディード」


 ディードも同じ魔法を行う。

 突然にやり始めた意味不明な行動に、初見の者は不安そうに注目した。

 現れ始めた水溜り。

 これを繰り返しⅠからⅡと進み、大き目の氷塊が解けて大きな水溜りになる。

 この水場を作る<南十字星>のお得意の強行地形変化戦術。

 水溜りが増えるに従い、エネミーはそれを避けて進む、必然的に道は混み、絶え間なく行われる水溜り作りは、次第に水場を作る。

 Ⅰ,Ⅱと行き、1のスペルがクールタイムから回復する。

 激しく散らばっている周囲の水場、繰り返されるたびにエネミーの進路は狭まり、結果としては陸の孤島になっていた。

 後は弓なんかの射撃武器、手裏剣なんかの投擲武器、攻撃系の魔法スキルのみで片付けられる。


 自由に水面を移動できる面々は、これを幸いに休む。


「チャイム、ディード、グッドジョブ」


 そんな声が飛び交う。

 平原のエネミーが水を嫌う特性を生かしたのだ。

 平原には水場が少なく、殆どのエネミーには未知のモノに見えるからだ。

 よしんば押し寄せても、火力でどうにも切り抜けられる。

 その他にも木属性の上昇の、世界樹の地形ボーナスも追加されていた。


「おーし。弁当配るぞ」


 ホッとして腹が減った者も居た。

 戦場のど真ん中で弁当を食べ始める<十字星の記録><ノラノラ>の面々。

 恐らく誰も予想すらしていない事だ。

 遠くから見る〖イーニャ〗のプレイヤー達もこれにはあきれる者が占めた。

 単純にすかっすかっのMP・TPのゲージと食事後のボーナスと、やはり美味い物は食べたいという食欲だ。

 ただ<十字星の記録>の中でもウルカ、アリサのプレイヤーの二人と、従者ピローテス、フォルスト、フォルゼンの3名も合わせた5名にはどうしてか突拍子もない事をするレドの事が共通の悩みの種だ。

 戦場で弁当などの貴重な経験を積む結果になったが、回復の事を考えれば合理的だ。

 だからこそ悩みになるのも致し方ない面もある。


 飯を食った後は、陸の孤島の周辺でうごめく初級ランクのエネミー達を狩る。入ってこれない水の壁腰にひたすら射撃、投擲、魔法スキルで狩る。


 そんなレド達に、後方からは〖イクツキ〗から突破したプレイヤーが数が揃い、突撃を開始した。


 真正面の〖イーニャ〗からのプレイヤーとの攻防戦もあるので、エネミーの指揮官は前後から攻撃され、ど真ん中には水に囲まれた陸の孤島がある。この陸の孤島を使いレド達は火力による攻撃を繰り返していた。


「おーい。元素の使い手、さっきの強行地形変更を行ってくれ」


 元素魔法の使い手はチャイム、ディードの二人と、アプリの合計三名だ。

 残る戦士系の面々はアーツを使い、ひたすら狩る、一撃で倒れる為の素材を稼ぎ放題だとレドには思えた。


 〖イーニャ〗攻防戦の南門での戦闘は〖イクツキ〗より突破してきたプレイヤー達の数が増え始め、レド達の様な拠点を作り、周辺を水で固める、水を嫌うエネミーはこれを避ける。これを知ったプレイヤー達はスペルを使い急激に水面を作る。

 これによって地形を変更するという発想が、有効な戦術的一つの策と判断できた。


 □


「随分と減ったな」


 誰一人ダメージを受けず、誰一人脱落しない、非常に稀な戦いを行っていた<十字星の記録><ノラノラ>の17名。

<ノラノラ>のリーダーのアプリは、この見事なやり方が真似出来るとは思わないが、一つの手本となるようなものだ。少なくてもノーダメージと言う有り得ない成果をたたき出すこのPTには感心する。


「どうしました」


 隣のエルフのディードが話しかける。

 アプリは少し考えて話す。


「レドの指揮ぶりで被害を受けたことはないのか?」

「知る限りゴーレムとの戦いで盾で受け損なって一撃のみです」

「ほう。ゴーレム?」

「その理由もらしいというべきか、ヒリュウさんを庇ってダメージを受けたのです。その時もふざけた言葉を言うのが、はぁ」

「しっかりとしていれば、よい奴なのがよくわかる」

「人の良い所も多いのですが、なんといえばいいか」

「しかし。実績の方は素晴らしいのだな」

「ええるそれは勿論です」

「一度チェスをさしたいな」

「そういうゲームだと手を抜くのです」

「困った男だ」

「だから古参の面々からすれば、悩みの種なのです」

「少しぐらいなら、分かる気もするな」

「出来れば教えてもらえませんか、後ほどでもよいですから」


 なんとも苦労してきた従者のディードのようだ。

 アプリも「了解」と答え。

 水面を自由に移動できる二つのPTは、次第に水場の範囲を広げ、あちらこちらに水場を作り、それが繰り返されることで連結し、結果的にエネミー達にとってみれば障害でしか無い物となる。

 中には水場から退避が間に合わず、水の中に取り残されるエネミーが現れる。

 こうなると護り続けていた南城門が開かれる。

 内部から現れた、陸鳥に乗り込む前衛たちの総突撃に、エネミー軍は上手く対応できず突破され続ける。

 障害と化した水により、それを無視して突撃する騎兵達。

 水溜りと呼んでも精々数cm程度の水だ。しかし平原系のエネミーにとってみれば入れない領域の様で、これによりプレイヤー達の勝利は目前となる。


「おーい。そこの騎兵隊、こっちの救難者を助けてくれ」


 誰もが首を傾げるような言葉だが、騎兵達には届いたらしく、一直線に突っ走る。

 後方のプレイヤーも全力で突っ走る。

 レドの言葉は誰にも意味が理解できなかったが、ウルカは二つの援軍から、後で揉めることになるなと一人溜息を吐いた。

 二つの直線により、当然の様にエネミーは両断された。

 そんな事も有るが、後に一言位と拳の一撃程度が贈られる結果となる

 しかし。レドの妙ともいえる真新しい戦略に則った作戦、その後の戦術など、多くのプレイヤーに影響を与えるのは頷けるところでもあった。

 こうして南門での戦いはプレイヤーの優勢が確固たるものになる。

 点と点が線となり、隊長らしいプレイヤー話すが、レドはあっさりと冗談と話、緊張したプレイヤーも居たが、少なくてもレドの判断は間違ってはいなかった。

 三つの天が繋がり線となり、そこから強行に押し潰そうとするエネミー、線を維持しようとするプレイヤー達の熾烈な戦闘が行われていた。

 細かった戦は次第に拡大し、太い線、もしくは道程度になる。

<十字星の記録><ノラノラ>の拠点を作ったこともあり、これを模倣する者も現れる。

 戦闘中の中、一行はレドの案で町内に入る。


 町内には合計1万名ものプレイヤーがログインしているが、合計7か所の居住地があるので分散し、居るのは半分程度、主に初心者プレイヤーだ。


「あー楽しかった。やはり合戦はいいなあ。昔を思い出す。いや~懐かしいねぇ」

「さて、我々もこの共闘は終わりだな」

「そうなるなあ。まあ楽しかったぜ?騎獣の店を紹介する予定だったが、馬車用があるかは別だぞ」

「重ねて礼を言う。ドロップアイテムに関していえば、多すぎてどうしようもない、そこでそのままでよいか」

「俺としては構わない」

「ならリーダーとしては」

「誠意を持っているのなら安心だ。俺達のたまり場はクックと言う店だエネミーフードが豊かでねえ。美味い和食と養殖が中心だ。中華系は微妙だがな」

「あの弁当は美味かった」

「ああ。各種詰め合わせセットだが、下手な豪華料理よりうまい」


 馬車は〖ユニコーン〗の前で止まり、<ノラノラ>の四人を紹介し、アシル、ビルドの二人は騎獣を気に入り、金を出して新たに購入し、アプリとマキは馬車用の物を購入する。

 これらを終え、フレンド登録は各自で行い、リーダへの二人はいつでも援軍に駆けつけられるよう登録PTを行う。名前が変わっても<星空の記録><南十字星>の☆繋がりなので覚え易い。


 □


 騎獣に乗って〖クック〗に集まる。

 客はNPCぐらいだが、店員の女性ヒュムは一同を覚えていたらしく、直ぐに騎獣を店の前に繋げ、いつもの場所に案内した。


「メニューの方は」


 全員が食べられるメニューから選び。

 その後のドロップアイテムのいつも通りのオークション。

 初級のエネミーなので大したものはないが、それでもまとまった数は最低でも数百に届き、下手したら千を超えるモノすらある。

 こういった素材系がまとまった数が入るので生産プレイヤーの5名は生き生きとオークションをしていた。

 大所帯の良い所でもあるワイワイとした騒がしさ。

 裁縫・革細工のウルカ、細工・装飾のアリサ、調合・細工のバッシュ、鍛冶・商売のチャイム、調合のレド。


「全員に配るぞう」


 集金と分配を行い。


「なんか希望はあるか、なければ生産タイムにするが」

「兄ちゃん。訓練を受けたい」

「ツグミも同じです。正直な話、南側のエネミーの強さに慣れましたし、もう少し上を目指したいです」

「なるほど、一番関係なさそうなアリサ」

「レドのその笑顔には慣れたわよ?でも何を企むのかしら」

「どうどう」

「がうがう」


 このコントのようなやり取りに思わず吹き出す者も居た。


「正直な話、アリサの防御力さえ高ければ回避メイン盾も出来るぞ、あまり知られていないが、大鎌を使った対人戦ではだれにも負けない、かなりの腕利きだしな」

「余り活躍の場がないから忘れていたわ。そういえば私は強かったってね」

「マスターの大鎌は確かに凄い、一切ぶれないし、揺らぎもしないで円を描く」

「全くだぜ。ああ違った全くだ」

「うんうん。好い家族を持ったわ」

「そんな訳でアリサとも戦うと言い、他の面々も参加するさ。何より連続技を使うのなら対人戦が一番だ」

「久し振りに双小剣を使うか」

「は~ん~ま~」

「刀スキルでも使うか」

「このPTの良い所だ。あの二人はどうしているやら」

「あの二人なら安心よ。ヒリュウとリードの二人なら強くなって帰って来るに決まっているわ」

「言えてらぁ。まずは飯だな」


 運ばれてきた料理にさっそく食らいつく、腹ペコの為にひとまず飲食に没頭する。

 従者の6名はクックの近くの定宿の宿屋に行くが、人手が足りずに営業していなかった。町中でテントを張るしかなくなった気分のピローテスだ。

 テイムエネミー、召喚獣とも従者と呼ばれる者達には町の者も慣れたが、少しの偏見から断られる事も有り、泊まれる宿屋を確保するのは意外にも大変だ。

 そのことをピローテスが伝えると。


「任せておけ、いつもの恩返しだ」


 レトが一肌脱ぎ、訓練は少し待ってもらい、その宿屋に亭主と交渉し、一人で切り盛りするフェルパーの女性に、1泊200Gを一か月分の6000Gを一度に支払う。それも6名の為に3万6千Gだ。

 この大金に店の主人も快く応じ、纏まった資金を元に人手不足の中、賃金を支払らえる安定し収入源が出来た。


「おーし。ちょっとした訓練だ。まずは見て覚えることも大事だ。という訳で組み合わせはどうする」

「あたしとしては全員と一度は戦ってみたいわ」

「それは従者の方も入るのか」

「いいえ。入らないわ。あの子達に傷はつけられないもの」


 ここまで言われれば従者の二人も喜ぶだろう。

 過保護な感じのアリサだが、戦闘に関しては厳しいと言われがちだが、その為に訓練も厳しくなりがちなのに、こういうのだから随分と愛情が注がれているようだ。

 。

「俺も全員と戦ってみたい」

「私は~全員でいいや」

「右に同じ」

「じゃあ。全員メモ帳に好きな数字を書いてくれ」


 メニューシステムに書き込む。

 レドが剣を適当に倒す。

 向いた方向にはアリサがいる。


「アリサ、裏と表どちらが好きだ」

「せめてダイス位は使ってほしいわ」

「じゃあ。好きな数字だ。この数字より下なら手を上げてくれ」

「8」


 上がったのはウルカ、チャイムの二人だ。


 二人にジャンケンをしてもらい。

 チャイムが勝つ。


 第一の訓練試合はアリサVチャイムだ。


「残るはウルカVバッシュだ。俺は最後にしておく」

「行くよ~アリサちゃん」

「かかってらっしゃい。なんか格ゲーみたいね」

「見てからの対空技とか~」

「それじゃあ。食らうわよ」


 150cmほどの身長のチャイムが、身の丈ほどもある巨大なハンマーをぶんぶんと振り回す、アリサも大鎌を回転させ二人とも構える。

 先に仕掛けたのはチャイム、先手必勝と大きく振りかぶった一撃を繰り出し、途中でアーツを使う。

 クラツシュハンマー。

 加速したハンマーの一撃をアリサは紙一重で避ける、そのまま大鎌を回転させチャイムの首元に突き付けようとするが、チャイムも補助スキルのステップで強制的に横にステップを踏み、間合いから逃れる。


「やるじゃないの♪」

「アリサちゃんも~あれを見切るの?」

「余裕じゃないわよ?」

「うむむ~仕方がない、切り札一号行きます」


 リミテッドアーツが来ると判断したアリサは、距離を取るために飛び退く。

 トコトコと犬耳、尻尾のドワーフのチャイムが、突っ込む。

 チャイムの技は巧みだ。見切っていた初見も我ながらよくやったと言って善かっただろう。しかし。二撃目は予想できない、リミテッドアーツのその真価を体感するアリサは、決断を迫られた。

 いつものアーツでしのぐが、それとも同じ切り札のリミテッドアーツを使うか。

 レドの説いた例え話、未知だからこそ恐れる恐怖がある事だ。

 そして彼女はⅡランクまで上げたプレイヤーだ。

 選択肢は豊富にある、元素系の魔法派最低でも6種類の基礎スペルが有るから、相応にリミテッドアーツに使う組み合わせも豊富だ。

 だからアリサも切り札の一つを使う。

 長柄武器アーツの【フルスイング】。

 先制攻撃を受けたチャイムは真後ろに飛び退く、だがアリサはこれを予想しアーツ中のアーツを発動した。

 《デス・レギオン》

範囲[中]ダメージ率[小]ヒット率[1]

備考:大鎌―つの基本的な技

突進してからの大鎌の回転斬り。


《デストロイヤー・ダンシング》

範囲[中]ダメージ率[小]ヒット率[8]

備考:連続斬り

大鎌での連続斬りを8回連続して切り裂く。


 長柄武器のⅡのアーツは《ヘビーオブジェクト》。

 ダウンバーストの攻撃により、四重のアーツを使ったので食らった方のチャイムもただでは済まないが、PT内の模擬戦の結果、ダメージも何も受けないで吹き飛ばされた。

 観戦していた5名は、大鎌、長柄武器のアーツが使われた程度の認識だ。


「あっちゃぁ」

「やり過ぎだ」


 レドとバッシュが溜息をこぼしながら呟く。


「・・今のは何だ?」

「なにってアーツじゃないのかよウルカ姉ちゃん」

「アーツ?何を言っているあれほどの攻撃が、一つのアーツにある訳がない」

「ノックバック系でしょうか?」

「いやどちらかと言えば黒竜剣のような技に見える」


 誰もがよくわからないアーツに、よくわからないまま訓練試合の一つが終わる。


 双小剣のバッシュ、刀のウルカ。

 二人とも無言で一歩ずつ、確かめ、読み会い、相手より一枚上手であろうとした。

 二人ともハードパンチャーではない。

 手数と弱点を突く技巧派の方だ。

 しかし。二人とも奇襲などは好まないので、真正面きっての戦いを好む方だ。

 その二人がぶつかる。

 にじり寄りながら、自分の間合いに居れようとする。

 最初に動いたのはウルカだった。

 刀1のアーツを使う。

 燕返しの折り返し技。

 バッシュはこれを受ける。

 だがウルカも最後の一枚を切った。

 刀スキルⅡのアーツ。月下之剣

 突進の刀技だ。

 しかし。バッシュは冷静に足払いを掛けて倒し、双小剣を突き付ける。


「お見事」

「タイミングは完璧だったが、リーチかな」


 ウルカの身長は160㎝程度、対するバッシュは185㎝ほど、25㎝のリーチ差がある計算だ。

 当然のように、刀が届く前に、足を引っかければ、アーツは失敗だ。


「じゃあ。第三試合だな。どっちから行く」


 勝ち残ったアリサ、バッシュ、まだ戦っていないユウヤ、ツグミの四人だ。


「残った4名+1名の俺とのジャンケンだ」


 5名でじゃんけんし、勝ったのはアリサ、だがアーツのクールタイムが終わっていないとこれを辞退した。

 残った4名でのジャンケンはユウヤとバッシュの二人。


「バッシュ兄ちゃんには勝てる気がしないけど、まずはご指南いただくぜ」

「何故か和むな」

「バッシュ兄ちゃん、それは酷い言葉だぜ。俺は男だ」

「実の事だが、実際はもっと大きいのが俺なのだ」

「何食ったらそんなにでかくなるんだ」

「よく食べて動く、かな。レドの方も随分長身だしな」

「でけえよ。なんか巨人と戦う小人の気分だ」


 双刀を構えるユウヤ、双小剣を構えるバッシュ。

 ちなみにユウヤの身長は145㎝だ。

 40㎝もの身長差が有るので、下手な攻撃は届かずに避けられることが分かる。

 二人かせ構えた瞬間、二人とも飛び出し、直ぐにアーツを使う。

 双刀スキルのアーツ、ツインスラッシュを使い二刀流の4連撃を繰り出す。

 バッシュも双小剣のアーツを使い、ラッシュピアースの連続した突き技。

 リーチ差からユウヤの攻撃は当たらずにバッシュの連続した突き技が当たり吹き飛ぶ。


「それまで」

「では私とレドさんです」


 今回は珍しく、ツグミは薙刀を握る。

 レドは片手用暗黒騎士盾、片手用暗黒騎士剣の二つを握る。

 レドの身長は177㎝、ツグミの身長は145㎝、32cmの差があるが、薙刀は2mあるので、1m程度の騎士剣よりは長い。

 ツグミは構える、レドも構える。

 最初に動いたのはツグミだ。

 長いリーチからの突き技を放つが、レドに利く筈もなく盾によって防がれる。

 ツグミからすれば、レドの盾・剣を使った一つの防御戦法は非常に硬い、元々剣技でも防御に主眼を置いた剣技を使うレドが、盾を使うこしとでその硬さは何倍にも上る。


「レドさん。剣で戦ってらえませんか?」

「別にいいぞ。ただもっと硬くなるが」

「構いません」


 レドが盾を外し、暗黒騎士剣を片手で握る。

 ツグミの烈破の気合と共に放たれた突き技を、レドの剣が簡単に弾くその弾かれた隙に突進し騎士剣を突き付ける。

 鮮やかな剣技だったので、誰もが驚く。

 一言でいえば、硬すぎる。

 勝ち残ったバッシュ、レド、アリサの三名。

 ジャンケンし、アリサとレドが戦う。


「一度戦ってみたかったのよ♪」


 歌うような弾む声のアリサに、レドは相変わらず盾、剣を構える。


「レ~ド~行くわよ!」

「おう。どんと来い」


 アリサの大鎌の一撃をレドは盾て防ぐ、斬撃しか来ないが、それでもどな長柄武器の使い手より鋭く速い。


「あっ。分かったわ♪」


 今までの攻撃からアリサは足払いの様に大鎌を振るレドは直ぐに盾を地面に近くに卸す。しかし。アリサは無理矢理起き上がってどの首元に大鎌の葉を向ける。

 そこに右手の剣が攻撃を受ける。


「惜しい!」

「今のを防ぐとか、どんだけ硬いのよ」

「今のは素晴らしい好い攻撃だ。普通なら首が跳ねられていたぜ」


 アリサは素早く回転し、下から大鎌を振り上げ、素早く横薙ぎに変え、この二つが防がれるも、上段の攻撃に切り替えて振り下ろす、そこにレドの盾が防ぎ、今度は横薙ぎ帰る、この激しい攻防戦に、通行人も観客のように見る。

 真上、真横、真下の三か所からの連続した大鎌の斬撃、これにはレドも盾のみではなく剣も使って防ぎ、防戦に一方のレドに対し、アリサは激しい攻撃を繰り返す。

 二人ともアーツは使わない、意地の様にプレイヤースキルのみで戦う。

 更に斜めも重なり、8方向からの斬撃に、さすがのレドも苦しそうだ。

 数分間に上る攻防戦は、レドが防ぎ続けることで、反撃が出来ないようであり、そんな攻防戦の中、初めてレドが前進する。

 これにはアリサの顔にも焦りが現れる。

 少しずつ前進するレドに、アリサは意地でも退かない。

 意地と意地のぶつかり合いに、仲間の5名も固唾をのんで見守る。

 いつの間にか片手剣の間合いにアリサは置かれる。

 初めて反撃したレドの剣に、アリサは横に飛んで避け、そのまま斬撃も放つ。

 レドの防御能力の高さは誰もが認めるモノだ。

 だが仲間はよく知っている。レドは回避メインの盾だ。

 ダゲを取って逃げ回るのが本領だ。

 つまりレドは何故かこんな攻防戦をするが、本領は全く違うのだ。

 だからこそアリサも避けずにいたが、仕方なく避けた。


「おいおい。俺も避けていいという事か」

「駄目」

「ひでえなおい、面倒だから行くぜ」


 かなり不味い事になるが、アリサは必殺の四重アーツを使う。

 しかし。レドは素早く飛び退いて避ける。


(詰んだ~!)


 剣と盾の衣類だけに切り替え、スキル枠限界50を組み換え、武器は剣系のみ、防具は衣類と盾系のみの身軽な恰好になり、ユウヤ、ツグミの二人は知らないが、身軽になって本領発揮だ。


「行くぜ~」

「滅多切りにつてあげるわ」


 突っ込むレドに、アリサは破れかぶれの大鎌を振り下ろすが、剣で受け流され、盾の突撃を受け吹き飛ぶ。

 アリサも直ぐに空中で体制を整えるが、その時にはレドの二度目の突撃を受け再び吹き飛ぶ。

 連続した攻撃にアリサも敗れる。


「おし。バッシュ、試合しようぜ」


 とても生き生きとした顔にバッシュも困る。

 重ければ動きが鈍いので強くても捉えられたが、身軽になると途端に動き回る。


「分かった」


 双小剣のバッシュが構える、レドも盾、剣を構える。

 突撃するレドに、バッシュも足技を考えたがすぐにやめ、別の攻撃を行う。

 突進突き技系のラッシュピアース。

 連続した突き技をレドは横に避けて、直ぐに盾で突撃した。

 体当たりを受けたバッシュは、体勢を立て直すのも一苦労で連続した追撃を避けた。

 素早くなったレドはその真価を発揮するような機動力を発揮する。

 バッシュも大苦戦、この試合で、ユウヤもツグミもレドの本領を見て驚いた。


「軽いっていいな」


 レドの嬉しそうな顔に、バッシュも苦笑する。


「行くぞ」


「おうよ」


 バッシュも最後のアーツを使う。

 双小剣Ⅱのアーツ、ソニックブーム。

 衝撃波の2連撃だ。

 これをレドは盾で防ぎ、攻撃が済んでから突撃する。


 ◆◇◇◆


 南門での激しい戦闘は終わった。

 南門攻防戦においての戦闘貢献ランキングが発表され、これに応じて報奨が与えられた。

 レド達、アプリ達の所属するPT名もあり、<十字星の記録>&<ノラノラ>は貢献ランキング9位に上り、その報奨も不明ながら、運営より特別賞も提供されるユニーク賞も取った共闘PTだ。

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