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ゆくえ

  異世界から召喚された僕しか抜けないはずの聖剣……あれは抜けたというのだろうか? 女戦士が担いでいる聖剣を見る。明らかに台座に突き刺さったままだ。あれは抜いたとはいわないはずだ……。

 そもそもあの人、台座ごとむしり取ったよな……とんでもない腕力だな。

 去っていく女戦士の後ろ姿を見ながら、勇は思った。

 神殿内が静寂に包まれる。

 ずっと唖然としていたお姫様がなにかに気づいた様に声をあげる。

「はっ!! おっ追ってください!」

 金縛りからやっと解けたとでもいうように、とたんに騒がしくなる神殿内。

「そ、そうだ! あの聖剣は勇者様が抜き、世界を平和へと導くものだ。どこの輩かわからない戦士が持っていていいものじゃない。兵士たちよ、追いかけるのだ!」

 神官っぽい人がそう言うと、周りにいた兵士たちが走って女戦士を追いかけていく。

「いっ、勇様! 申し訳ありませんが、想定していなかった不測の事態です。あの女戦士の足取りがわかるまでお城に戻りましょう」

 そう言われ、勇は頷くことしかできずお姫様と一緒にお城に戻っていった。




 女戦士の足取りが分かるまで、ただ城で待っていて時間を浪費するのもあれなのでお姫様から魔法の適正を調べる検査をやらされた。

 定番の水晶に手をかざすと、水晶は金色と白に輝く。

「ほう、勇者様は、雷と光魔法に適正があるようですな」

 ちょっと偉そうな爺さんに詳しく聞くと。

 光魔法は攻撃するタイプの魔法はなく、解毒や傷の手当に特化した魔法みたいだ。

 雷はまさに勇者しか覚えられないドラクエタイプのデイン系だった。

「適正があれば、経験を積むと呪文が頭の中に浮かんできます。後々使えることになりますじゃ」

 つまり、魔物を倒して経験値貯めてレベルアップしろってことか。

「レベルアップした時に浮かんできた呪文を忘れた時はどうすればいいの?」

「大丈夫ですじゃ。一度覚えた呪文は一生忘れることができません」

「そうなんですか……安心しました……」

 安心なんかできねーよ! と勇は思った。

 無事に魔王を倒して元の世界に戻った時のことが心配だった。

 例えば、ラーメン屋の行列に並んでいる時。あー早く食べたい。行列すっ飛ばしたいって思ったら頭の中でルーラの呪文が浮かんでくる。

 例えば、DQNを見た時にライデインで吹き飛ばしたいと思ったら頭の中で呪文が浮かんでくる。

 おじいちゃんとの死に別れの時にザオリクの呪文が浮かんでくる。

 もう、実生活に影響が出る呪いでしかないだろう、それ。


 問題なく魔法の適正検査を終え、次は城内にある訓練場にやってきた。

 勇がそもそも、戦いとは縁のない生活をしていたことは、お姫様にも告げてあり、実際に魔物と戦う前に訓練をしておくことになった。

 訓練場にやってきて軽薄そうな騎士のお兄さんと話し、まずは型などで素振りするよりも実戦に近い形で模擬戦を行い、戦いに慣れることから始めることになった。

「さぁ勇者様、どこからでもかかってこいッス」

 軽薄そうな騎士のダルそうな声を聞き、見よう見まねで騎士の構えを真似して、騎士に向けて走り出す。

 地球にいた頃よりも明らかに速く走れている! 異世界に勇者と召喚されたことで身体能力が上がったのだろうか? これだと腕力も上がっているかもしれない! 勇は驚きながらも騎士に接近し、全力で振り下ろすつもりだったが、全力で振り下ろすと騎士が二枚におろされる恐怖映像が見れそうだった。そんなグロいシーンを見たくもないし作り出したくもなかったから、力を抜き、軽薄な騎士の構えている剣に軽く当てるつもりで剣を振り下ろす。

 コツンと剣と剣がぶつかる音が聞こえ、ワンテンポ遅れて騎士が後ろに吹き飛んだ。

「うおおおお、まじパネェっす!! 勇者様まじパネェっす!! 明らかに力抜いた振り下ろしに吹き飛ばされましたよ。まじパネェっす勇者様、訓練なんかいらないじゃないっすか」

 軽薄そうな騎士はイラっとする言葉遣いで僕を褒めてくる。

「えっ? 今のって自分から後ろに吹き飛ばなかった?」

「ぷえええ、まじパネェっす!! 勇者様。今のまじっすよ、達人級の剣を受けると衝撃が後から来るとか、先から来るとかそんな感じっす。まじパネェっすよ勇者様!!」

 軽騎士のイラッとするけど褒めちぎってくる言葉に何も言えなくなった。

「初めて剣を握ってこれだけ強いんだから、まじ大丈夫っすよ。あとは型の稽古を軽くやって十分戦えますよ、勇者様まじパネェっす」

 イラつきながら型を教えてもらい一日を終えた。




 次の日、メイドさんに叩き起こされ朝食も食べていないのに謁見の間に来ていた。

「勇様、女戦士の行方がわかりました。城門の門番の報告によると、つい先ほど城下町を出てノカコド村へ向けて出発したようです。急な話で申し訳ないのですが、勇者様もノカコド村に向かってほしいのですが……」

(お城から出て旅をすることはかまわない。勇者として召喚された僕は近いうちに魔王を倒すために旅をしなくちゃいけないことは覚悟していた。元の世界にも戻りたいし……でも今の僕は、模擬戦モドキをしたくらいで、命をかけて戦ったこともない。この世界のこともよく分かっていない。せめてお供してくれる人とか道案内してくれる人とか用意してもらえないのだろうか?)

 考え抜いた末に勇はお姫様に告げる。

「ノカコド村に向かうことは問題ありません。元々、魔王を倒すためには旅に出なければいけないことは分かっていましたし。しかし僕は戦闘経験もなく、この世界のことについてもよくわかっていませんが、一人で旅に出ろとおっしゃるのですか?」

「申し訳ありません。お供を用意する時間もないほど事態は切迫しています。勇者様にはご無理をおかけしますが、お一人でノカコド村へ向かっていただけないでしょうか」

 とお姫様は少しイラっとした顔をしながら言ってくる。

「それに、報告は聞いております。前に出て発言を許します」

 お姫様がそう言うと、一緒に訓練をした軽騎士が前に出て発言する。

「ハッ、先日行われた模擬戦におきまして勇者様は初戦から私など相手にならないほどの成果を挙げております。このままお一人で旅をしても問題ないと思われます。いやーまじ勇者様パネェっす」

 「だそうです、勇様。お一人でも戦える力がすでにあなた様には宿っておいでです。各村にお触れを出し、勇者様がお困りにならないよう配慮もいたします。なにとぞ聖剣を取り戻してきていただけないでしょうか?」

 お姫様から低姿勢で言われ、頷き返すことしかできなかった。

 あとから耳にした話だとお供する人たちは、ちゃんといたらしい。このパネェ軽騎士もその一人だった。パネェは僕のお供がすることが決まってから同僚に、まじだるいっすわぁ勇者と一緒に魔王を倒せとか転職考えるくらいまじだるいっすわぁ。と愚痴をこぼしていたらしい……。

 あと魔法使いと神官が僕と一緒に魔王を倒す旅に出る予定だった。でも魔法使いは魔王退治に任命されてから家に引きこもるようになり、最近、壁ドン魔法をマスターしたらしい。神官は任命されてから勇者様を助けるためにこのままの私ではダメだといい、修行の旅に出たらしい……。


 こうしてなし崩し的に、一人旅は始まった……


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