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おんなせんし

 夕暮れ時の草原で、自分の身長よりも大きい大剣を振り回し魔物を屠っていく赤い髪の女戦士がいる。彼女の周囲には魔物の死体が散乱している。

仲間を多数倒され、残りわずかになり劣勢になりつつあるが、雄叫びをあげながら襲い掛かってくる魔物を上段からの振り下ろしで叩き潰す。

 その時、女戦士が振り回していた大剣から軋む音が聞こえてくる。

「チッ、この間買ったばかりなのにもう壊れそうだ……あと2体耐えてくれよ」

 彼女の腕力は人並み外れて強い。過去何度となく彼女の力に耐え切れなかった武器を壊していた。頑丈に、敵を叩き潰す為に作られたこの大剣も例外ではなかった。

 同時に襲ってきた2体の魔物を横薙ぎに大剣を振るい、まとめて叩き斬る。

「ふーっ、なんとか壊れなかったな」

 女戦士が独り言を呟くと、まるで待っていたかのように大剣は根元から折れた。

「……まぁ、戦闘中は耐えてくれたのだ。良しとしよう」

 そう言い剥ぎ取り用のナイフを取り出し、周囲に散らばる魔物の残骸から討伐証明の為の鼻を剥ぎ取っていく。

 一通り剥ぎ取りを終えた女戦士。

 武器が折れるのはいつものことだが、こう何度も買いなおすのは如何なものか。

 そう思いながら城下町へと向けて歩いていく。




 女戦士が城下町に辿り着くと、すでに日は暮れ夜になっていた。城下町はかがり火によって照らされ、活気に溢れている。

 日が暮れると普段は人通りが極端に少なくなるが、今日は酒に酔った人たちの歓声で楽しげな装いを見せている。

 今日は祭りでもしているのだろうか。

 そう思いながら、彼女はギルドへと続く道を歩いていった。

 受付で討伐証明部位を渡し、クエスト完了の報告を行う。

「討伐証明の確認をしました。オーク討伐クエスト達成です。おめでとうございます。こちらが報酬の30ゴールドになります」

「ああ、ありがとう。確かに受け取った」

 問題なくクエスト達成の報告を終え、女戦士はギルドを後にした。


 いつもの宿へと帰るため通りなれた道を歩いていると、女戦士の腹が鳴る。

(腹が減ったな……報酬もあるし、いつもの宿の食事じゃなく少し豪華な店で食事を取るか)

 そう思いながら歩いていると大きな木の下で、泣いている女の子を見かける。

「どうしたお嬢ちゃん、何故泣いているのだ?」

 女戦士は、細身だが女性にしては身長が高い。女の子に威圧感を与えない様にしゃがみ込んで、普段よりも優しく泣いている女の子に話しかけた。

「お人形さんがぁ、グスッグスッ」

 女の子は大きな木を指差しながら答えてくる。女戦士が指を指す方を見ると木の枝に可愛らしい熊の人形が挟まっている。

「なるほど、お人形さんが木に挟まって取れなくなってしまったのか。ちょっと待っていろ」

 女の子の頭を撫でながらそう言い。キョトンとした顔で泣き止む女の子に笑顔を浮かべ、木に登っていく女戦士。


 女戦士の人外じみた腕力は、生来のものだ。幼い頃はよく物を壊しては母親に怒られていた。

 幼い頃とは違い、今の彼女は力の加減の仕方を覚え日常生活では物を破壊しないよう力を抑えて、気をつけて生活している。

 例えば足場の不安定な場所で高所の物を取る為に踏ん張るような場合、彼女は――


 どうにか手を伸ばせば届く所まで木に登り、女戦士はつま先を伸ばして人形に手を伸ばし掴んだ。

 掴んだ瞬間、握りつぶしてしまい、元は可愛らしい熊の人形は破裂し、綿と布の切れ端に生まれ変わった。

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

 木の下から、女戦士が見かけた時よりも大きな声で泣き叫ぶ女の子の声が聞こえてきた。

 彼女は慌てて木を飛び降り、女の子の前にしゃがみ込む。

「す、すまない!! 力加減を間違えてしまった。」

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

 すでに人形は風に流されてしまい集めて直すこともできそうもない。そもそもが原型を留めていない。直すというより作り直すといった方がいいレベルだ。

 女戦士は、女の子を泣き止ます為に思いついたことを口にする。

「そうだ!! お嬢ちゃん、壊してしまった人形のお詫びに新しい人形を私が買ってあげよう。幸い今日は祭りをやっているようだし、人形を売っている露店もあるだろう」

「うりぃぃぃぃぃぃ……ほんとに?」

 女の子は女戦士の言葉を聞いて、泣き叫ぶことをやめた。

「ああ、本当だ。私がお人形さんを壊してしまったしな、代償をするのは当然だ!!」

「おねえちゃん、ありがとう!!」

 今日はクエスト達成の報酬もあるし、子供の人形くらい買えるだろう。そう思いすっかり泣き止んだ女の子と手を繋ぎ、露店を探しにいった。


 女の子と一緒に人形が売っている露店を探しながら、女戦士は尋ねる。

「しかし、今日はなんだってこんなに騒がしいのだ? この時期に祭りなどなかったと思うのだが……」

「おねえちゃん知らないの? 今日は勇者様が召喚されたことを祝う勇者召喚祭なんだよ!」

 女の子の説明で、数ヶ月前にこの国が勇者を召喚する準備をしている旨を知らせる掲示板を見たことを思い出す。

(今日だったのか……)

「そうか、勇者が召喚されたのか……だから、こんなに町の人たちが騒いでいるのだな」

「うん、勇者様がこの国をへーわにしてくれるんだよっ!」

 話しながら歩いていると、目的の人形を売っている露店を見つけ、二人で陳列されている人形を見渡す。

「わっ! この子、ペンタグラムちゃんにそっくり!」

 ペンタグラムちゃんとやらは、握りつぶしてしまった人形のことだろうか。

 そう思いながら女戦士は、女戦士が持ち上げた熊の人形を見つめた。

「おねえちゃん、この子がいい」

「ああ、気に入ったのがあって良かった。すまないが、この人形を売ってくれ」

「はいはい、ありがとうございます。お値段が30ゴールドになります」

 愛想よく値段を言う露店の主の顔を、目を丸くしながら見返す女戦士。

(高すぎるだろう!! 子供の人形に30ゴールドだと? クエスト報酬と同じ値段じゃないか)

 彼女が女の子を見ると、人形を掲げながらキラキラした瞳で見つめ返してくる。

「……ああ、これでいいか」

 しぶしぶ30ゴールド支払いながら、新しい武器を買う金がなくなってしまった。これからどうしよう……と考えていた。


「おねえちゃん、ありがとう! ペンタグラムちゃんがいなくなった時は悲しかったけど、こんなにかわいい子をプレゼントしてくれた」

「気にするな。元々私のせいだしな、喜んでもらえて何よりだ。しかし、もう随分と遅いが家に帰らなくて良いのか?」

「あっ!! 急いで帰らないとお母さんに怒られちゃう! おねえちゃん、今日はありがとう。ペンタラムちゃんを壊した時はびっくりしたけど、おねえちゃんくらい力が強ければ、伝説の聖剣を抜けるかもね!」

「おくってい――」

 女戦士が言い終わる前に、女の子は大通りに消えて行った。


「伝説の聖剣が抜けるってどういうことだ?」

 女の子との話を聞いていた露店の店主が、女戦士の呟きを聞き、答えてくれる。

「お客さん知らないのかい! 勇者召喚祭に合わせて神殿で行っているイベントだよ。なんでも王女様が発案したらしくてねぇ、祭りの期間中は明日の朝に勇者様が到着するまでの間、聖剣を抜く挑戦ができるよ」

「それで、あの子は聖剣が抜けるかも。と言ったのか……しかしそれだと勇者が到着するまでに誰かが抜いてしまうのではないか? それにあの子は私なら抜けるかもと言ったが、いまさら挑戦できるものなのか?」

「誰も抜けやしないさ、伝承だと異世界の勇者様しか抜くことができないらしいからねぇ。挑戦する人たちも大半がこれから平和を導いてくれる勇者様が見たいのと、聖剣に触れてご利益をあやかりたいだけさ。ほら、あそこに神殿が見えるだろう神殿に向かって行列ができているからそこに並ぶだけさ。でも、さっき見てきたとき長蛇の列になっていたからねぇ…… 今から並んでも挑戦できるのは朝になるかもねぇ……」

 遠くに見える神殿を見ながら女戦士は考える。

(伝説の聖剣か……もし抜く事ができたならば、今までの武器のようにすぐ折れたりしないだろうか? どうせ、武器を買うお金もないのだしいい機会だ、私が全力で引っ張ればもしかしたら抜くことができるかもしれない)

「よし、決めた! 私も挑戦してこよう。ありがとうな、店主」

 そう言い、彼女は腹が空いていることも忘れて神殿に歩き出した。


 神殿に着き、長蛇の列に並び、結構な時間が過ぎた。真夜中といって良い時間帯、町の喧騒も徐々に収まりつつあり、静けさを取り戻していく。

 列が進み、中ほどになって気がついた。というよりお腹の音で気づかされた。

(お腹が空いたな……そういえばクエストの最中からなにも食べてなかったな。何もせずにただ並んでいるだけというのは暇で眠たくもなってくるな。しかし、ここまで進んだのだ。今更、食事を取る為に列を抜けるというのもな……)

空腹と睡魔、両方と闘いながら夜が明けていく。


 時間は流れ、すでに日は昇っている。

もう、朝食の時間も過ぎた頃だろうか?

 そんなことを思いながら、女戦士は前に並ぶ人たちがあと数人になったことを確認する。

(眠たくて意識が朦朧としてきた……早く宿に戻り横になりたい……)


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