たじゅうえいしょう
47分オーバー
今日仕事早く帰れると思って油断した
宿の一室で目が覚め、寝ぼけた頭で昨日のことを考える。
宴の途中から記憶が曖昧だ、いつの間に宿に戻ってきたのだろう。
ベッドに腰掛け、抜けた記憶を探っていると声と共にドアがこちらに吹き飛んでくる。
「おい、起きろ!! 城下町に向かおう」
女戦士がこちらを見ながら言ってくる。
「とりあえず朝食を食べましょう。それとノックはちゃんとしてください」
「ノックしたのだが、力加減を間違えた」
女戦士の異常な力は何度も見ている。あれだけ力が強いのだ、しょうがないのかもしれない……
僕はため息をつきながら答える。
「ドアについては、宿の女将に僕から言って弁償しておきますから。準備するから先に朝食を食べていてください」
女戦士を見送り、着替え始める。
「そう言えば勇――」
「きゃあああ!! ちゃんとノックしてくださいって言ったじゃないですか」
唐突に戻ってきた女戦士に僕は思わず脱いだ服で体を隠しながら叫んだ。
「だってドアないじゃないか」
「あっ」
そう言えば、僕の名前覚えてくれたのか。
宿で用意された朝食を頂く。
女戦士にはサンドイッチとスープ、朝食らしく軽めのものだ。
僕には朝からステーキだ。霜降りが乗った、分厚いステーキはとても朝に食べるものではない。
とりあえず一口食べてみる。うん、おいしい。安定のオーク味だ。それにしても、露骨にオーク推しされている気がする。
重たい朝食を食べ終え、胃もたれ気味のお腹の為に一休みをしてから城下町へと向かっていった。
ノカコド村から城下町へと向かうために、村を出るとダチョウが騒ぎ出した。
何をアピールしたいのか分からないが、グワッグワッと言いながら自分の背中を指で指している。
「もしかして乗せてくれるのか?」
女戦士がダチョウにそう尋ねると、ダチョウは頷く。
乗せてくれるのか。ダチョウに乗っていけるなら帰り道は早くなりそうだ。
そう思っていると、女戦士は颯爽とダチョウへと跨る。
それに続き、僕も女戦士の後ろへと飛び乗った。
僕たちを乗せたダチョウはゆっくりとスピードを上げながら駆け出していく。
思ったよりも速い、つかまるところもないから振り落とされてしまいそうだ。
「勇、振り落とされないように私につかまれ」
なぜだろう? この人もつかまるところがないはずなのに僕とは違い凄く安定して座っている。
そんなことを思いながら、僕は揺らされながらも女戦士へと手を伸ばしていく……
「勇、確かに私はつかまれと言った……確かにそこは出っ張っているし、掴みやすいだろうが、私も女だ。流石にそこを鷲掴みされているのは恥ずかしい。せめて腰をつかんでくれないか?」
揺らされていて腰をつかむつもりが、目標を誤り、女戦士の胸を鷲掴みしてしまった。
僕は慌てて返事をしながら、手を離す。
「わっわっ、ご、ごめん」
思わず後ろへと体ごと反らしてしまい、僕はダチョウから落ちた。
気を取り直し再度、ダチョウに乗ろうと立ち上がり、走り出す。
このダチョウは後ろに目でもついているのだろうか? ダチョウに近づき飛び乗ろうとする度に絶妙なタイミングで加速する。僕との距離が離れてくるとスピードを落とす。その繰り返しだ。
ダチョウは嘲笑するように鳴きながら走っている。
遊ばれている!! 鳥の分際のくせに生意気な……
遊ばれていると分かっていながらも、ダチョウに乗りたい……チャンスなんだ!! 僕は、女戦士の肌に触れるほど近くにいたい!!
僕の考えが読まれたのか、ダチョウはまたバカにするように笑った。
城下町の入口が見えてきた。
行きが一日野営したのに、帰りは早い。まだ昼前だ。
「おお、早く着いたな。流石だなダチョウ」
「……ハァハァ……そう……だ……ね……ハァハァ」
女戦士に途切れ途切れになりながらも返事を返す。
「早速、少女にダチョウを返しに行こう。場所はどこだ?」
「ハァハァ……ペティの家は……ハァハァ通り沿いの……ハァハァ」
「ハァハァ、ハァハァと気持ち悪いぞ!! もっとハッキリと喋れ、勇!!」
「ハァハァ……ごめ……ん……ハァハァ」
城下町の大通りを進むと、青い屋根の大きな宿が見えてきた。
宿の入口で暗い顔をして、座り込んでいる少女を見つける。
「おーい、取り戻してきたぞ!!」
女戦士の声に気づき、少女は俯いていた顔をこちらへと向ける。そして先ほどの暗い顔が嘘のように笑顔に変わる。
こちらへと駆け寄ってくる少女。ダチョウも飼い主と気づいたのか、目を潤ませ歓喜の泣き声を上げながら駆け寄っていく。
「ジェリービーンブロッサム!!」
ダチョウの名前だろうか? おかしな単語を声に出しながら、少女はダチョウへと抱きつこうと飛び跳ねる。
ダチョウはそれまでの感動の再会が嘘のように避けた。
空中で体勢を立て直し、着地と同時に飛び跳ねダチョウへと抱きつきに行くペティ。
さらに避けるダチョウ。
何度となく繰り広げられる攻防戦。
ペティが飛び跳ねるフェイントを入れ、フェイントに引っかかったダチョウの一瞬の隙をつき素早く懐へと踏み込み、潜り込む。
そしてペティは、ダチョウのみぞおち目掛けて捻り込む様に回転を加え、抱きつくことに成功した。
「ぐっ、ぐえー」
「ふふっ、私の勝ちね」
ペティは優越感に浸り呟く。
いつもこんなことをしているのだろうか? 女戦士のラッシュを避け続けられたのも日頃の訓練の賜物だろうか。
ダチョウは悔しそうな顔をして鳴いている。
するとそこに、騒ぎを聞きつけたのか宿の中から従業員が出て来る。
従業員は僕と女戦士を見て話し出す。
「お嬢様からお話は聞いております。この度はお嬢様のペットを取り戻して頂きありがとうございます。こちらはささやかですが宿からのお礼です」
そう言い、従業員は皮袋を女戦士に手渡してくる。
「すまない、本来なら受け取るつもりなどないのだが……金がない、ありがたく受け取らせてもらおう」
そんなやり取りをしている女戦士を見ていると、軽薄そうな騎士がこちらへと近づいてくるのが見えた。見たことのある顔だ、そして見ているとイライラしてくる。
唐突に、僕は魔法について考える。
オークの集落の時は、魔法を詠唱して待機状態にさせることができた。連続して詠唱した場合は、魔法を多重に待機状態にできるのだろうか?
実戦あるのみだ!!
「魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中!!」
「魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中!!」
「魔術師魔術修行中、魔術師魔じゅちゅ修行中、魔術師魔術修行中!!」
「魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中!!」
僕が三回の詠唱に成功したとき、軽薄そうな騎士はすでに近くまで迫っており、話しかけてくる。
「勇者様、よくぞ無事お戻りになったッス、お城で――」
「勇者ライトニング!!」
軽薄そうな騎士は読んでいたかの様に鮮やかに避ける。
チッやっぱり避けるか。訓練の時は演技か!!
「勇者ライトニング!!」
2度目の魔法も横に跳び、あっさりと避けられる。
でも僕だって何も考えなかった訳じゃない!!
着地の瞬間を狙って3度目の魔法を唱える。
「勇者ライトニング!!」
「ぎゃっ!!」
よし!! 当った。
「お城で王女様がお待ちッス。女戦士さんもご一緒に……痛さパネェ」
言いたいことを言い切ったのか、パネェは気絶した。
僕は心が晴れやかになった。




