うたげ
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします
フィッシュオークが満足そうに目を瞑り、辺りには鳥の悲しそうな鳴き声と女性の泣き声が響き渡る。
冷めた目で棒立ちしながらフィッシュオークを見ていると、遠くの方からこちらへと近づいてくる怒声が聞こえてくる。
集落から出ていた魔物だろうか?
まだ泣き止まない女戦士を守るように立ち、剣を構え近づいてくる怒声の主たちを待ち受ける。
魔法の発動準備もしておこう。
「魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中、魔術師魔術修行中!!」
戦闘態勢が整い、いまだ後ろで泣く女戦士をなにがなんでも守ると、緊張しながらも決意を固める。
集落の入り口から現れたのは村の男たちだった。
村長のサオラムさんを筆頭に、鍬や鎌を手に持ち近づいてくる。
「おぉ、勇者様!! 微力ながら力に――」
その恐ろしい形相に、思わず僕は魔法を発動させてしまう。
「勇者ライトニング!!」
僕の放った雷はサオラムさんを中心に男たちを巻き込み黒こげにした。
「さぁ、その疲れた体を僕の愛で包み込んであげよう」
「イケメンの癒し(笑)」
村の男たちの怪我が癒えていく。
傷が癒え、サオラムさんが口を開く。
「なっ、なにをなさいます。我々は勇者様の手助けをしようと……」
「すみません。生き残りの魔物だと思いました……あと顔怖かったし」
サオラムさんは、僕がぼそっと呟いた本音が聞こえなかったのだろうか? 元の穏やかな表情を取り戻し話し出す。
「すでに、集落の魔物を討伐しておいででしたか。戦闘が終了した所に怒声をあげて近づいてきたわしらに非もあるのかのぅ。ともかく勇者様、魔物退治ありがとうございます。お疲れでしょう、宿の女将には話をつけております。あとの処理はわしらに任せ、宿で一休みしてくだされ」
「よし、村に戻ろう。私はもうくたくただ。」
「グワァ」
泣き止んだ女戦士とダチョウがサオラムさんに返事をする。
僕は見ていただけだから、まったく疲れてないんだけどなぁ。
そう思いながらも女戦士の後を続き、村の宿へと向かって行った。
「さぁ、夜には宴を開くぞ!! これだけオークの肉があるんだ、楽しい宴になるぞ!!」
去り際に聞こえてきた村の男の声は聞こえなかったことにしよう。
なんだかんだで、僕も疲れていたのだろうか。
もう日は沈み、宿の一室が月明かりで照らされている。
お腹空いたな。そう思い、部屋から出て宿のカウンターへと向かう。宿には誰も人の気配がせず外から声が聞こえてくる。
僕は人の声に誘われるように宿の扉を開けた。
お祭りだろうか。魔物の襲撃を乗り切ったのだ、祝いたくもなるものなのだろう。
村には一定の間隔を保って篝火が立てられている。暗闇の中を、篝火の光が楽しそうな村人たちを映し出し、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
村の広場に向かえば何か食べるものがあるだろう。
そう思い広場へと歩いていった。
広場に向かう途中出会った宿の女将に案内され、村長の隣の席へと座る。隣では女戦士が鳥の丸焼きを食べている。
「おぉ、勇者様お目覚めになられましたか。この度は誠にありがとうございます。襲撃から救ってくださり、さらには魔物の集落までも退治していただき感謝の言葉もございません。せめてものお礼にささやかですが宴をご用意いたしました。お楽しみいただければ幸いです。」
涙ぐみながら感謝の意を伝えてくるサオラムさんと話しながら、宿の女将さんが用意してくれた骨付き肉を切り分け、口に入れる。
お腹が空いていたからだろうか、凄くおいしい。この味は食べなれている、と言うよりこの世界に来てからこの味以外に出会えたことはない。
隣で鳥の丸焼きを、戦士という荒々しいイメージとは程遠いほど上品に切り分け食していく女戦士を見る。
女戦士と目が合い、少し緊張しながらも話しかけた。
「一緒に戦ったことは何度かあるけど、こうしてきちんと話すのは神殿以来ですね。僕は立石勇、よろしく」
「ああ、勇者だったな、よろしくな。あのとき順番を譲ってくれなかったら、この頑丈な剣とも出会えなかった。感謝している。」
うまい具合に聖剣の話題を出してくれた。
「あーっ、えっと、それなんだけど聖剣を――」
「グワァ」
聖剣を返して貰いたいと伝えようとすると、僕の言葉を遮るように横から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
女戦士は青いダチョウに視線を向け話しかける。
「すまない、お前もお腹が空いているよな」
女戦士は、料理が並べられているテーブルへと足を運び皿に白身魚の切り身を載せ戻ってくる。
「これでいいか?」
そう言い、ダチョウへ白身魚が載せられた皿を差し出す。
ダチョウは女戦士が持ってきた白身魚の切り身を美味しそうに嘴で啄ばむように食べていく。
それを見ていた僕は、思い出し女戦士へと告げる。
「そう言えば、ペティの家も知らないで飛び出したって聞いたけど、ダチョウを見つけてもどうやって返すつもりだったんですか? ああ、ペティって言う子は女戦士さんが取り戻した青いダチョウの飼い主の女の子の名前ね」
「頭に血が上り城下町を飛び出してきてしまったからな、探せば良かろう。それより何故そのことを知っているのだ?」
戦い方通りに、あまり物事を考えない人なのかもしれない。そう思いながらも答える。
「僕が城下町を出るときにペティに会って話を聞いたんだよ。女戦士さんが飛び出して行ったから困っている所を偶然通りかかってね。ペティの家も教えてもらったから、城下町へ帰るときは一緒に行きましょうか。女戦士さんもペティの家を探す手間がなくなるし、僕も女戦士さんを連れてくるって約束しましたし」
「それは助かるな。勇はやはり勇者なのだな、困った人を見過ごさない」
告げられた言葉と共に、花が咲くような笑顔を見せる。
そんな女戦士を見て、赤面しながらも話を続けようとする。
「そっ、そういえば女戦士さんと呼ぶのも何ですし。お名前を――」
お名前を教えてもらえませんか?
そう言い切る前に宿の女将に遮られ、会話に割り込んでくる。
「あらあら、二人ともせっかくの宴なのだしもっとお食べになって。何か持ってきましょうか」
「ああ、そうだな。すまないがパスタを持ってきてくれ」
女戦士に続いて、会話を邪魔されたから少しぶっきらぼうに答えてしまう。
「じゃあ同じものをお願いします」
「そっ……そんな……勇者様にそんな粗末な食べ物なんて無礼なことできません!!」
宿の女将は、まるで世界が終わってしまうような絶望を顔に滲ませ答えてくる。
……パスタは粗末な食べ物なのだろうか? 異世界だから価値観が違うのだろうか、女戦士は良くて僕にはダメなのか……
不思議に思いながらも女戦士を見ると、気にした様子もなくダチョウを撫でている。
ダチョウは撫でられながらも白身魚の切り身を食べている。
ちょっと試してみよう。
今にも発狂しそうなほど慌てている宿の女将に伝える。
「じゃあ、あの白身魚の切り身をください」
僕はダチョウが食べている白身魚の切り身を指差し宿の女将さんに伝える。
途端に宿の女将の顔が安堵に包まれ、疲れた旅人をその笑顔で迎え入れているのだろう、慈愛に満ちた心落ち着く笑顔を見せながら返事を僕に返し、白身魚の切り身を持ってくる。
パスタはダメで、ダチョウが食べている魚はいいのだろうか? 僕は頭の中がハテナマークでいっぱいになりながらも、用意された白身魚の切り身を切り分け一口食べる。
その瞬間、僕の頭は真っ白になった。何も考えられない、疑問なんて吹き飛ぶ美味さだ。次から次へと白身魚の切り身を食べていく。
この白身魚は凄い。確かに白身魚特有の淡白な味はそのままだが、噛む度にホロホロと口の中でほどけながら、上品かつ繊細な味が津波のように何度も僕の味覚へと襲い掛かってくる。
そう、これはまるで母なる海が生み出した奇跡の魚料理だ!! この先、僕は白身魚を食べるたびに後悔するのだろう。なぜこの味を知ってしまったのか!! この味を知ってしまえばもう、ほかの白身魚など食べられないじゃないか!!
あまりに美味しくてつい聞いてしまった。
「このお魚凄まじく美味しいですね!! なんて言う魚なんですか」
「フィッシュオークです」
宿の女将は慈愛に満ちた笑顔を崩し、意地が悪そうに口角を吊り上げ笑った。
視界の隅に、穏やかで暖かみのある顔を崩し、意地が悪そうに口角を吊り上げるサオラムさんが見えた。
僕の意識は、母なる大海原へと流されていった。
ダチョウは過去を振り返らない!!




