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閑話 レンドールside

 俺が婚約者となった少女を意識したのは、うるさい家庭教師から逃げ出して王宮内を走り回っていた時だった。


 俺はゼールデン国の第一王子として生まれたため、王位に1番近い人間として幼い頃から厳しい教育を受けてきた。

 しかし、子どもだった俺はまだまだ遊びたい盛りだし、何となく自分の身分がわかりはじめたため、隙をみては勉強から逃亡してうるさい大人の思い通りになるものかと鼻息を荒くしていた。


 そんな俺にはすでに婚約者がいた。

 彼女は公爵家の令嬢で、俺に一目惚れしてどうしても結婚したいと大騒ぎをしたのだという。

 まったく女というのはませているものだ。

 身分的にも釣り合うということで、公爵家に押し切られた形で進められたこの婚約には、俺はまったく興味がなかった。


 婚約者であるミレーヌは、王妃教育を受けるために足繁く王宮に通ってきた。

 時折一緒にお茶を飲まされたのだが、黒い髪に少し釣り上がった子猫のような丸い黒い瞳をしたミレーヌは、俺の顔を見て嬉しそうににこにこしていた。

 俺は外見的には恵まれていたため、どうせそれに騙されているのだろうと、ミレーヌを邪険に扱って両親に叱られた。


 ある日、いつものように脱走していた俺は、植え込みの中からミレーヌがいる部屋を見つけて覗き込んだ。

 彼女は教師に叱られでもしたのか、部屋に入ってくるとそこに立ち尽くし、黒い瞳に涙をためてふるふると震えていた。

 いつも頭をツンと振り上げてすましているミレーヌも、俺よりふたつ年下のまだまだ幼い子どもだ。

 勉強ばかりの毎日は辛いのだろう。

 俺のように逃げ出すだけの根性はあるのだろうかと眺めていると、彼女は驚くべき行動をとった。

 部屋の中で大暴れを始めたのだ。

 クッションやらなんやらを手当たり次第に投げつけたかと思うと、ソファに飛び乗りこぶしをブンブン振り回しながら飛び跳ねる。

 まるで小さな鞠が跳ね回っているような見事な暴れっぷりに、俺はむしろ感心した。

 

 唖然として見ていると、どうやら暴れ終わったらしく、こぶしで目に溜まった涙をぐいっと拭いて、いつものように頭をツンと振り上げた。

 そして、迎えにきた女性について、何事もなかったかのように部屋を出て行った。

 別の授業に行くのだろう。

 口元に笑みさえ浮かべて部屋を出て行くミレーヌを見て、俺はなんというやつだろうと思った。

 俺よりも小さな女の子には、辛い毎日だろうに、周りからのプレッシャーに負けそうになることだってあるだろうに。

 それらを我慢してまで、そんなに王妃になりたいのか、あの子は。

 というか、そんなに俺と結婚したいのか。


 勉強から逃げ回る俺を見たら、彼女はツンと頭を振り上げて、俺を見下すように見るかもしれない。


 何となくふたつ年下の少女に負けたような気持ちになるのが面白くなくて、俺は自分の部屋に戻った。

 そして、その日からは真面目に勉強に取り組んだのだった。

 

 もともとやればできる人間だった俺は、勉強も剣術もめきめきと腕を上げて、なんでもできる優等生となった。


 あの日、口をへの字に曲げて悔しげに部屋の中を暴れ回っていた少女は、いまだに俺の横に立とうと王妃教育を頑張っているらしい。

 そして今年、王立学園に入学してくるという。

 俺を見たら、どんな顔をするのだろうか。

 ツンと頭を振り上げて虚勢を張るのか、それとも、嬉しそうに笑うのだろうか。

 

 撫でてやったら、俺のものになるだろうか?

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