エピローグ
魔物の群れを追い払ってから数日間は、学園はお休みになり、後片付けと事実の確認に追われた。
リリアーナ様は目を覚まして、自分が魔女に取り憑かれていたことを認め、責任をとって学園を去った。
本来ならば、王子や貴族の子弟に害を成したという大罪なので、もっと大きな処分をされるところだったが、まだ未熟な学生の身分だということと心の弱さを利用されたということで、魔女にあらがうことは困難だったとみなされ、王都を離れた土地でひっそりと暮らしながら反省してもらうことになったらしい。
国を揺るがす程の魔物の大群が現れ、それを学生たちが一晩で追い払ったという大事件は、国中に知れ渡り、どういうわけかわたしは伝説の魔法アミュレットを使い皆を勝利に導いた聖女として有名になってしまった。
次期国王でもある麗しのレンドール王子と、その危機を救った聖女である婚約者の話は国民の皆さんにたいそう好まれ、お芝居となって上演されているほどだ。
こっ恥ずかしいことである。わたしなんて鵜飼い状態で何も役にたっていないのに。
しかも、この戦いの時わたしが白い耳付きマントを身につけていたことから、耳付きファッションが流行してしまった。ちまたでは耳の付いた帽子やフード、カチューシャまで様々な物が売り出され、レンドール王子は街に行っては嬉々としてわたしにお土産として買ってくる。
恥ずかしいので、こっそり学園長に交渉して、学園での耳の使用は禁止してしてもらった。耳を見ると王子が興奮して貞操の危機を感じると言ったら、学園長は複雑な顔をしたが二つ返事で願いをきいてくれた。王子はがっかりしていたが、これも健全なお付き合いをするためなのだから仕方がない。
遠慮のないメイリィには、聖女ネタでだいぶ笑われてしまった。
まさかの伝説魔法に興奮したメイリィは是非とも研究させて欲しいとわたしに迫り、ようやく手に入れた魔法のことを知るのもいいかもと思ったわたしはあと二年かけてじっくりとアミュレットについて調べることに同意した。
時々王宮を訪れて王宮の魔導師とも接する機会が増えた。
メイリィは、このヒョロッと背が高い温和な筆頭魔導師のことが好きみたいだ。わたしが彼の事を持ち出すと、真っ赤な顔をして涙目になって反論する。この可愛い姿を見て高笑いするのが、最近のわたしの楽しみである。
そうそう、わたしとレンドール王子は、皆の前で熱烈な口づけをしてしまったことについてはおとがめなく、学園長に一言釘を刺されるだけで済んだ。
その後、王子が卒業するまでは学生らしい健全なお付き合いをした。
他の学生の模範であろうとふたりとも、特に王子はよく頑張ってくれたと思う。
彼のたゆまぬ努力と、ライディやエルダをはじめとする従者一同の目配り気配りのおかげで(約一名、隙あらば道を踏み外させようとする不届き者がいたが)(サンディル・オーケンス、お前だ!)わたしは無事にヴァージンロードを歩けることになる。
「ミレーヌ様、お時間になりました。殿下がお迎えにいらっしゃいます」
「わかりました」
白いドレスをまとったわたしは、従者の手を借りて椅子から立ち上がる。
ドアに向かうと、ゆっくりと開き、同じく白い礼服を身につけたレンドール王子が現れた。
「……ミレーヌ、とても美しい」
王子のあまりのかっこよさに恥ずかしくなって俯くわたしの顎に指をかけ、彼はそっと上を向かせる。
「今日お前に永遠の愛を誓えることを、喜ばしく思うぞ」
胸がいっぱいになり、涙が一粒転がり落ちた。
「お前は本当に泣き虫だな」
「だって……」
わたしも、この日が来るのをずっとずっと待ちわびていたのだから。
「お嬢様、お化粧がはげてまだらな顔で神への誓いをしたくなかったら、それ以上泣くのはお止めくださいませ」
「いちゃつくのは後にしてくださいねー。どうせ夜になったらしたい放題ですから」
わたしと王子は顔を見合わせた。
わたしは真っ赤になり、王子はにやりと悪い顔になる。
「エルダ、ライディ、余計なことを言うのはおやめ! 少しは主を祝福している姿勢を見せたらどうなの?」
「あら心外な。この上なく祝福しておりますわ、人騒がせなお嬢様がようやく片付くのですもの」
「いやー、まさか王宮まで俺たちが連れて行かれるとは思いませんでしたよ。せっかく放浪の旅に出ようと思ったのに」
「ふふん、主を主と思わないお前たちに一泡吹かせるまでは手放さなくてよ。覚悟なさい!」
おほほほほ、と高笑いでしめる。
再びドアがノックされ、迎えの者が声をかけた。
「さあミレーヌ、行くぞ」
「はい」
わたしはレンドール王子の腕にそっと手をかけた。
「お嬢様をよろしくお願いいたします」
殊勝な声がしたので驚いて振り返ると、ライディとエルダが深々と頭を下げていた。
「お前たち……」
また涙が流れ出そうなのをぐっとこらえる。
「大切なお嬢様なのです。どうかお幸せに」
「わかっている。必ず期待にこたえてみせよう」
レンドール王子は、従者たちに頷いて見せた。
「ミレーヌを幸せにする」
「わたくしも……わたくしも、レンドール様を幸せにいたしますわ」
この一年にあったことを振り返りながら、わたしはレンドール王子と共に礼拝堂へと歩いた。
まだまだ未熟なわたしだけど、こうして一歩ずつ、王子の隣で人生を歩んでいくために、これからも素敵な王妃になれるように頑張っていきたい。
扉が開き、わたしたちは視線を合わせてから王国の人々が待つ礼拝堂に足を踏み入れた。
FIN.
これでこのお話は終わります。最後までお付き合いくださいましてありがとうございました! 無事に完結を迎えることができたのは、あなたのおかげです。
完結したので、感想欄を開かせていただきますね。




