表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】悪役は恋しちゃダメですか?【コミカライズ】  作者: 葉月クロル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/27

異変と魔女 その1

ここから最後のエピソードに入ります。よろしくお願いいたします。

「ミレーヌくん、参考資料が届いているので、後でわたしの部屋に来なさい」


「はい、ありがとうございます」


 わたしは魔法実践の先生にお礼を言った。

 魔力はたっぷりあるのにそれが使えないというわたしには、何か隠された力があるはずだから文献を調べながら探すようにと指導されている。

 先生はわざわざ王宮の魔導師に相談してくれて、わたしたちは王宮図書館から貸し出された資料の中にになんとかヒントを探しだそうと頑張り中だ。

 魔法関係には天賦の才があると言われるメイリィも手伝ってくれている。

 彼女に言わせると「いい研究材料だわ」ということらしい。

 わたしに気を使わせないように言っているのかと思いきや、結構本音のようだ。

 さすがいい仕事に就くためには努力を惜しまないメイリィである。

 そして、彼女は王宮の筆頭魔導師(20代後半、ややイケメン)には何か特別な思い入れがあるらしく、わたしはそれが憧れから恋へと成長するのではないかとにやにや見守っている。


「筆頭魔導師様から、一度わたしの魔力を見てくださるとお声がけいただいているのだけれど、もちろんメイリィも一緒に来ますわよね?」


「あら、別に、行っても構わないけど」


「筆頭魔導師様とはお知り合いなのでしょう? それに王宮魔導師になりたいのでしたわよね」


「そうよ、お給料がいいし! わたしも魔力を何度か見てもらっているから、知り合いだけど、別にそれだけなんだから」


 ツンデレメイリィ、顔が赤いです。


「とりあえず、山のような資料を片付けましょうよ。どこかにミレーヌの魔法の手がかりがあるといいんだけど」


「そうですわね。もうずいぶんと魔法の歴史に詳しくなりましたわ」


 魔法には攻撃、回復、人や物に対する魔力付加、結界作成、などがあり、人によって得手不得手がある。

 例えば、メイリィは回復魔法が得意で、少ない魔力で大きな治癒効果を出すことができる半面、攻撃魔法はごっそり魔力を使う割にはたいしたことができない。

 レンドール王子は武器に炎や雷などの属性を付与したり、自分の身体にかけて一時的に身体能力をあげることができる。いわゆる魔法剣士なのだ。

 ところがどうわけかわたしはそれらを使うことができない。できるのは、ちょっとの魔力でちょっとの効果を出す生活魔法だけだ。

 指先に火を起こせるがそれを大きくしたり飛ばしたりはできないのだ。

 かといって、身体能力に秀でているわけでもなく、腕っ節に自信はない。

 これでは、再来年のキャンプ実習ではお荷物になってしまうこと間違いなしなのである、うわーん。


「変わっていてレアな魔法、ないかしら」


「これはどう? 使えるかもよ」


 無駄に大きな魔力の使い道を探して、わたしと先生とメイリィはひたすら文献を読みあさり、これはと思ったものをピックアップしては魔法練習場で試してみるのだが、いまだに成功しないのであった。





 その噂を聞いたのは、先生とメイリィと三人でせっせと魔法の知識をため込んでいる時期であった。

 三年生のキャンプ実習はもうとっくに終了し、生徒たちは全員無事に帰還したというのだが、その頃からリリアーナ様の様子が変だというのだ。

 中身は高飛車なお嬢様だけど見た目はお上品なタイプであったリリアーナ様なのだが、なぜだか妖艶な女性に変わったらしい。

 キャンプで何かあったのだろうか?


「あのね、先輩方に聞いた話ではね」


 身分差をものともしない大胆なメイリィは、交流のある三年生から情報を得てきたらしい。フットワークの軽さといい、コミュニケーション能力といい、大変優れた人材になりそうなので、将来は側に置いておけないものかとレンドール王子と画策している。本人は王宮魔術師希望だから、その線から引っ張り込みたい。

 ちなみに、腕のいいサンディル・オーケンスのこともレンドール王子は狙っているので、おそらく騎士団経由で勧誘するだろう。彼は悪い悪戯もたくさん知っているから、王子に悪影響がないか心配なんだけど。


 そうそう、メイリィの得た情報によると。


 リリアーナ様たちのグループは、キャンプ中にちょっと不思議なことがあったそうなのだ。とある洞窟の近くで突然リリアーナ様が「呼んでいる声がする」と言ったので、特に魔物の気配もないので中へ確かめに行ったらしい。


「それで? 何がありましたの?」


「何もなかったそうよ。みんなで、もちろん先生も一緒に洞窟の奥まで入ったけど何も変わったことはなくて……気がついたら洞窟の外にみんなで立っていたらしいの」


「気がついたらって……記憶がなくなっていたということですの?」


「いいえ、もっと曖昧な……なんだ空耳か、みたいにお喋りしていたらいつの間にか外にいたんですって」


 んー、何かあったような、単なる勘違いだったような、微妙な事件ね。先生がいたから、確認はしっかりしたと思われるし。

 だけど、リリアーナ様の様子がキャンプを境に変化したというのなら、その事件に原因が隠れているという線も捨てきれない。


「洞窟の中に女性的魅力が増す魔法の泉でもあったのかしら」


 だとしたら、ぜひわたしも行きたいところだわ。


 この時わたしはまだ、物事の重大さに気づいていなかった。





「レンドール様?」


 異変はじわじわと日常を蝕んでいた。


 わたしは魔法の発見にかかりきりでろくにレンドール様と会えない日が続いていたので、婚約者と健全に交流を深めようと三年生の教室に行ったのだが、そこで信じられない光景を見た。


「あら、ミレーヌ様。ご機嫌よう」


 レンドール王子の隣で婉然と微笑むのは、まるで別人の様な大人っぽい雰囲気をまとったリリアーナ・ヴィレットだった。王子の腕に自分のそれを絡め、身体をしな垂れかからせて、その姿はまるで獲物を捕らえた蛇の様だ。

 そして、驚いたことに、レンドール様はそのような不埒で下品な振る舞いをリリアーナ様に許しているのだ。


「リリアーナ様、身体をレンドール様からお離しください」


「あら、どうして?」


「学生がするに相応しい振る舞いではありませんし、だいたい婚約者のいる男性に対してそのようなことをなさるのは」


「誰が誰の婚約者ですって?」


 リリアーナ様はふふふ、と含み笑いをした。


「大丈夫ですわよ、殿下はもうすぐあなたとの婚約を解消されますから」


 婚約解消ですって? そんな馬鹿なこと。


「ねえ、殿下」


 レンドール王子の顔を見る。

 さっきから全然視線が合わないのはなぜだろう。

 いつもわたしを見て輝いている瞳は、曇りの日の湖のように鈍い色をしている。


「それでは失礼。殿下、まいりましょう」


「レンドール様、お待ちください」


 なんでリリアーナ様の言いなりになっているの?

 王子はわたしを視界に入れず、教室に入ってしまった。


「レンドール様! どうなさったの!」


「しつこい女性は嫌われましてよ」


 リリアーナ様は振り返って、赤い唇の端をつり上げた。






「サンディル様、こっちにいらして!」


 わたしは教室の中にいたサンディル・オーケンスを呼び付けると、腕を掴んで人気のないところに引っ張って行った。


「だからお前はもっと先輩を敬えよ」


「レンドール様に何がありましたの? 明らかにおかしいではありませんか」


「……まあな。キャンプから戻ってからリリアーナが今まで以上に纏わり付くようになって、最初はレンドールもうまくかわしていたんだけど、段々と……何なんだろうな、あれ。お前がなかなかやらせないから色仕掛けに落ちたんじゃん、いてっ!」


 わたしは飛び跳ねて、背の高いサンディル様に脳天チョップを食らわせた。


「なんたる不敬な発言! 殿下に代わって成敗いたしますわ!」


「先輩を殴るなよ!」


「レンドール様は目先の快楽に惑わされるような方ではございません。常日頃から自分のお立場を考えて行動なさる方ですわ。まさか、リリアーナ様にあやしい毒でも盛られて錯乱なさっているのでは……」


「毒か。うーん、まさかとは思うけれど一度調べた方がいいかもしれないな。じわじわと精神をやられるようなやつを……だが、あのリリアーナがそこまでするか? 王族に毒を盛るなんて、一族郎党首が飛ぶような犯罪だぞ?」


「証拠の残らない毒が存在するとしたら? レンドール様の精神を歪めて寵愛を得られるような毒薬ってあるのかしら?」


 今日もわたしに仕えている傍らのライディに聞くと、「そんな毒薬は聞いたことがありませんね」と答えた。


「おいつんつん女、万一毒を盛られているとしたら、どうやって飲ませているんだ? レンドールも俺と一緒に普通に食堂で食べているが、俺の見ている限りでは食事時にリリアーナは近づいていないしな」 


「うーん……鼻から吸わせているとか?」


「周りの人間も吸い込むから、すぐにばれるんじゃないか?」


「接近して肌にすりこんでいるっていうのは?」


「制服は長袖だし、素手で毒を扱うリリアーナの方がヤバいんじゃね?」


「そうね……じゃあ、毒ではないのかも」


 それじゃあ、何がレンドール王子に起きているのだろう。

 わたしはレンドール王子の事を信じているから、リリアーナがなんらかの悪しき技で王子に害を与えているのだと思う。


「魔女……」


「うん?」


「なんだかリリアーナ様がお伽話の魔女のように見えるのよね」


 魔女は王子に、なんの魔法をかけたのかしら。


「魔法……は、どうかしら? リリアーナ様にはどんな力があるの?」


「確か、水を操る魔法だったと思うが、たいした力はない。攻撃よりも防御を得意としている。授業では水のバリアを作っていたぞ」


「精神を操る魔法を使えるのでは」


「それを使っているところは見たことないな。それに、気絶させるとかいうレベルならともかく、人の意識に関わるような魔法って難しいんじゃないのか? リリアーナはそれほど魔法の優等生ってわけじゃないぜ」


 笑いの形に歪んだ唇が脳裏に甦る。

 あれは確かに魔女の笑いだ。魔女が人を嘲笑う、ねじ曲がった心の笑い。

 キャンプの夜に、リリアーナ様の身に何が起きたのかわからないけど、それがレンドール王子を害するというならわたしがなんとかしなければならない。

 彼の婚約者として。

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

お話を迷走させないで(いろいろ考えて止まってしまうので)終わらせるために、ただいま感想欄を閉じています。無事に完結したら開く予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ