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【書籍化】悪役は恋しちゃダメですか?【コミカライズ】  作者: 葉月クロル


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20/27

初デート その4

『愛している』『愛している』『愛している』

 レンドール王子の腕の中で、ただいま絶賛愛の言葉のリピート中!

 今、わたしの顔は火を噴きそうに赤くなっているはずだ。

 ツンデレ俺様王子に、愛の告白をされてしまった。

 なんだかパニックになってしまい、どうしたらいいのかわからないので、とりあえず本能のままにレンドール王子の身体に手を回してひしと抱き着いてみる。

 この早いドキドキは、レンドール王子の心臓の鼓動なのかしら、それともわたし?

 馬車に揺られながら、わたしたちはしばらく無言で抱き合っていた。


「ミレーヌ……早く結婚したい……離したくないが、離れないといろいろ我慢ができなくなる」


 いろいろ……おおっ、男の事情ですね!

 エルダの教育のおかげで少し察することができるようになったわたしは、もそもそ動いて王子から離れた。顔を見上げると、王子は目元を赤くして笑った。

 恥ずかしかったけど、わたしも笑い返した。


「今日は楽しい一日にしよう」


「はい」


 馬車が止まってドアを開けると、エルダが駆け寄って来るのが見えた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「安心しろ、心配するようなことはしていない」


 ちょっとちゅーしちゃいましたけどね。


 エルダは疑わしげにわたしをじっと眺めてから「ふっ、大丈夫だったみたいですわね」と呟いた。

 何その超能力!


 レンドール様はわたしと手をつないでくれた。

 彼の手は大きくて節がしっかりとある男の人の手で、わたしの手はその温かさの中にすっぽりと包み込まれてしまう。

 そして王子はポケットから出した書き付けを見ながら、わたしをいろいろな場所に連れて行ってくれた。


 どうやらレンドール様はこの日のためにお店を調べてデートプランを立ててくれたみたいだ。

 憧れの手つなぎデートに満足してご機嫌のわたしを、王子はアクセサリーの店に連れて行っては髪飾りを選び、カップルに人気のカフェに連れて行っては「あーん」と口にケーキを入れてくれて、護衛たちの生温かい目に見守られながらこれぞカップル!ということを繰り広げてくれる。しかも、まったく照れない。人目も気にしない。カフェのお姉ちゃんが照れまくりながら「あーん」と口を開けるわたしに向かって「リア充爆発しろ」的な目で睨んでも、キラキラ王子はまるっと無視なのである。さすが未来の国王陛下、大変な精神力だ、わたしも見習おう。

 これが初めてのデートだというのに、なにもかも完璧にこなす。

 さすが国一番の由緒正しいイケメン王子である。

 わたし? 恥ずかしくて死ぬかと思いましたけど!


「ミレーヌ、一件付き合ってほしい店があるのだが」


 そう言うと、王子はデートにそぐわない店にわたしを連れてきた。

 木製の看板には盾の絵が描いてある。


「防具専門店、なのですね」


「ああ。もうすぐ3年生はキャンプ実習があるからな、良い防具を揃えておきたいと思って」


 キャンプ実習というのは、生徒が5、6人のグループになって魔物のいる森で一週間を過ごすというサバイバルなもので、一グループにひとり先生がついて評価を行う授業である。聞くところによると、食べ物もできる限り現地調達するらしい。もちろん、すべての計画は生徒に任され、戦いもあるのだ。

 貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんも学園で2年以上勉強すると、かなりタフな身体と心へと鍛えられるというわけ。

 わたしたち一年生も、2年後には先輩たちのようにたくましくなれるのかしら?


「防具は大切なものですから、ゆっくり選んでくださいませ」


 大事な大事なレンドール王子のお身体をお守りするものですものね!


「貴重なデートの時間を割いて、申し訳ないな」


「何をおっしゃいますの。わたくしはレンドール様と一緒の空間にいられるだけで幸せですわ」


 きゅっと手を握りあって、見つめあって。

 ふたりの間にピンクのハートが飛び、周りの護衛は砂を吐きそうな顔になる。

 お役目ご苦労様です、これもお給料のうちよ。


 意外と広いお店の中は、鎧のコーナー、盾のコーナー、ときちんと区切られていて、様々な防具が整然と並んでいる。高価な魔力が付与された指輪や腕輪などのアクセサリーはカウンターに置いてあり、店員さんに声をかけると見せてもらえる。


 レンドール王子が手甲を探している間に、わたしは手近にあるマントを眺めていた。

 分厚く、野営の時に布団がわりにできそうなマントや、魔法使いの着るローブもある。

 ちょっとお高そうなコーナーを見ると、ボレロにフードが付いた白い防具がケースに飾ってあった。防具らしくない可愛さで、なんとフード部分には耳が付いている。

 なぜ耳?

 しかも、犬とか猫のような先の尖った耳ではなく、フェレットのような小動物に付いていそうな白くてまあるい耳である。緊張感の感じられない半円型のそれなのである。


「こちらは様々な機能が付いた逸品なのですよ」


 店員さんが説明してくれる。


「生地には魔法がかかったミスリルを織り込んでありますので、夏場は日差しを遮って涼しく、冬場は保温機能が働きたいそう温かい上、装着すると素早さが約1.5倍になる魔法がかかっています。この耳型の部分が魔法効果を高めているので、実質2倍近くのスピードアップ効果がございます」


 なるほど、魔法はイメージが大切だから、素早く動く小動物をイメージする耳を付けることによってより強い効果が現れるようになっているのね。


「しかも、普段のお出かけにも使えるデザインとなっております。どうぞ、羽織ってみてください」


 店員さんがわざわざボレロを下ろして肩にかけてくれた。


「あら、とても軽いし、フードをかぶっても意外と邪魔にならないのね」


 視線が遮られるかと思ったらまったくそんなことはないし、白くて柔らかな生地はふわりと肩を覆ってなかなか品も良い。


「はい、もちろん戦闘時に対応しておりますので、動きを妨げることはありません。どうぞこちらの鏡をご覧ください」


 ……今日のワンピースにも似合っているし、耳がポイントになって可愛いわ。しかも、素早さがアップするなんてお得な効果ね。日よけにもなるし、防具にしては高級感があるわ。


「良い品でございますので、お値段は少々するのですが、一点もので他では手に入りません」


「そうね、気に入ったわ。ねえレンドール様、どうかしら?」


 手甲を試しに付けているレンドール王子に声をかけると、こっちを振り向き。


「ん? ……」


「素早さが1.5倍になるんですって。すごい効果でしょ。攻撃回避に特化しているみたいよ」


「……」


「こうして普段使いにもできますのよ。似合うかしら?」


 なぜか口を開けたまま固まって、まじまじとわたしを見つめている王子に向かって首を傾げて聞く。

 返事がない。


「んもう、レンドール様ったら、なんとか言ってくださいませ」


 わたしがととととっと走り寄ると、レンドール様はなぜか震える両手を伸ばし、耳の部分を掴んでもみもみした。


「……なぜっ、耳なのだ」


「この耳が魔法付与の部分なのですわ。優れものだと思うのですけれど……わたくしにはこの耳は似合いませんか?」


 わたしはメイリィみたいなふんわり可愛い系ではないから、やっぱり耳はミスマッチなのかもしれないわね。

 残念だわ、すごくいいボレロだと思うんだけど、似合わないんじゃ嫌だわ。


「やっぱりやめて……」


「いや、いい、すごくいい! とても似合っている。だがな」


 レンドール様は両手でわたしの肩を掴んで真剣な顔で言った。


「この防具は、俺か、信頼できる護衛がいる時以外は絶対に身につけてはならん。この姿は破壊力がありすぎるんだ」


「破壊力? 防具だから攻撃力は上がりませんわ」

 

「そうではない! この耳を付けたお前の姿は、ある趣味を持った者にとっては非常に理性を揺さぶるものなのだ。うっかりすると、お前をひょいとさらいかねないくらいに」


 王子の言葉に、なぜか護衛の皆さんがうんうんと頷いている。

 おまけにエルダも頷いている。


「ある種のマニアにはたまりませんわね。鎖に繋がれ監禁される恐れもありますわ」


 何それ。怖いんですけど。


「あまりにも危険過ぎる、リスクの多い防具だ。だから、お前の身の安全が護られている時以外は着るなよ? 約束できるか?」


「ええと……買わない方がよろしくて?」


「買う! そして、このまま着ていくのだ!」


 レンドール王子は男らしくきっぱりと言い切った。

 そして、笑顔の店員さんに少なくない代金を払ってボレロを買ってくれた。


「あの……ありがとうございます」


 良いものをプレゼントしてくれたので、にっこり笑ってお礼を言ったら、赤い顔でしばらくぶるぶると震えてからぎゅうっと抱きしめられてしまった。


「ぐうっ、可愛すぎて、もはや凶器」


 だから、防具で攻撃力はないのですよ?






「よく歩いたから、少し休もう。足は痛まないか?」


「はい、大丈夫ですわ」


 レンドール王子はまたポケットから書き付けを取り出した。調べてきたお店を確認しているのだろう。


「こっちだ」


 手を引かれながら歩く。レンドール王子とわたしは頭ひとつ分近い身長差があるので歩く速度が違うのだけれど、最初にそれに気づいてからはわたしに合わせてゆっくりと脚を進めてくれている。

 その気遣いが嬉しくて、顔を見上げて笑うと、空いた手で頭を撫でられた。

 きゃあ、撫でポですね!

 レンドール様、大好きです!


「今日のためにおすすめの場所を調べて下さったのですね、ありがとうございます」


「デートに詳しい友人に聞いてきたのだ。……あのサンディルだが」


「ああなるほど、サンディル様ですか。お詳しいでしょうねえ」


 女性にもてもて、女たらしのサンディル・オーケンスなら、あらゆるデートスポットを把握されているでしょうからね!


「さて、ここがサンディルおすすめの休憩場所らしい」


「はい」


 わたしはレンドール王子に手を引かれながら、二階建ての建物に入った。受付のようなものがあり、カフェやレストランではなさそうね、と思っていたら、怖い顔をしたエルダがやってきた。


「なりませんわ、外へ出てくださいませ」


 わたしの背中をぐいぐいと押して来る。


「ちょっとエルダ、どうしたの?」


「どうしたの、ではございません。殿下、どういうおつもりで……殿下? ここがどこかわかって……らっしゃらない?」


「疲れたら休む場所……ではないようだな! ミレーヌ、出るぞ」


 赤い顔をしたレンドール王子に引きずられるようにして、建物の外に出た。


「サンディルは一回サクッと斬っておいたほうが良さそうだな」


 なぜか黒い笑顔で物騒なことを呟く王子。

 あの建物はなんだったのかしら。

 見ていると、カップルばかりが入っていく。

 みんな肩を抱いたり腕を組んだりして仲が良さそうだ。

 

 こ、これはもしや。

 異世界ラブホ……?


「いいんだミレーヌ、耳の似合うお前の来るような場所ではない。結婚したらこういう所にも連れてきてやるからな、今日は違う店に行こう。」


「……はい」


 わたしは真っ赤になって俯いた。

 おのれ、サンディル・オーケンス!

 ここは節操のないやつの行きつけの場所なのだな、あの女の敵め!

 

 わたしは想像の中で、オレンジ頭をヒールの踵でぐりぐりしてやるのだった。

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