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【書籍化】悪役は恋しちゃダメですか?【コミカライズ】  作者: 葉月クロル


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恋と魔法とライバルと その4

「ミレーヌ、黙っていてもわからない。申し開きがあるなら言ってみろ。サンディルと何を話していたんだ?」


 両手で肩を抑えられて、レンドール様の秀麗な顔が近づく。

 わたしは泣きたかった。

 でも、必死に堪えた。

 わたしを責める青い光を、お腹にぐっと力を入れて弾き返すように見つめる。


「……あ、しょう、……」


「何?」


「レンドール様は、愛妾を、作られるのですかっ?」


「何だって? 愛妾?」

 

 それは予想外の言葉だったらしく、王子はいぶかしげな表情になる。

 わたしはレンドール王子の制服を両手で掴んだ。


「サンディル様が、おっしゃってました。レンドール様の愛妾になりたがる女性からアプローチを受けられていると。そうなのですか? 本当にさっきのリリアーナ様を愛妾になさるおつもりなのですか!」


「は? お前は……」


 言いかけたレンドール王子の唇に、ほのかな笑みが浮かんだ。


「リリアーナに妬いているのか?」


 わたしの頭にかあっと血が昇った。

 手に力が入って、掴んだ制服がぐちゃぐちゃだ。


「やはり、やはりそうなのですね! わたくしに女性としての魅力がないから、レンドール様は大人っぽい方を愛妾に……」


 結婚したらわたしはお飾りの王妃になって、レンドール様は別の方を寵愛するの?

 わたしの目の前でリリアーナ様に優しく笑いかけて、撫でて、キスして。

 なんて酷い……そんなのいや、耐えられない。

 堪えきれない涙が頬を伝った。


「いや、だから、少し落ち着け」


 大声を出して言い募るわたしに、レンドール王子の腰が引けた。

 やっぱりやましい気持ちがあるのね!

 わたしという婚約者がありながら、キスまでしながら、別の女性にも甘い言葉を囁いていたなんて。


「落ち着いてなどいられませんわ! わたくしが……」


 えくっ、えくっ、と子どものようにしゃくりあげてしまう。


「わたくしが幼すぎるからいけないのですね。身体つきだって、リリアーナ様みたいにグラマーじゃないし、胸もちょっとしかないし、」


 わたしの顔もきっとぐちゃぐちゃだ。


「子ども過ぎて、口づけより先は知らないし、口づけするのも本当は少し怖いし」


 そう、レンドール様の事はとても好きなのに、大人の色っぽい顔をして近寄られると、少し怖くなるの。


「だけど、レンドール様はもう17歳だから、子作りをしたい年頃だってライディが言うし」


「なんだと?!」


 レンドール王子はさっと離れたところにいるライディを凄みのある顔で見て、「貴様、余計なことを……」と唸るように呟いた。


「だからなの? レンドール様はもう、愛妾候補の方とお付き合いされて、いろいろなさっているの?」


 それは、身体が地の底に沈んでしまうくらいに恐ろしい考えだった。


「いや待て、ちょっと待て」


 レンドール王子は明らかに動揺している。

 まさか、本当にそうなの?


「うっ、ふうっ、うええええええん!」


 もう我慢できなくなったわたしは、小さな子どものように号泣した。


「いやあっ、やだあ、レンドールさまあっ」


 わたしはわあわあ泣きながら、レンドール様の身体を揺すぶった。


「お願い、愛妾なんて作らないで! わたし、がんばるから、口づけよりも先のこともちゃんと覚えて、レンドール様がしたい大人のお付き合いも子作りも全部できるようにがんばるから、レンドール様の赤ちゃんもたくさん産むから、だから、わたしのことを……」


 レンドール様の胸に縋り付く。


「捨てないでえ……」


「……」


 わたしは人形のように微動だにしない王子の胸に顔を埋めて、両手でしっかりと制服を握りしめて、泣いた。


「殿下、泣かせすぎです」


「ひでえなこりゃ」


 ライディと、いつの間にか様子を見にやってきたサンディル様の声がした。

 こんなこと、みっともないのはわかっている。

 だけど、わたしはどんな事をしても、レンドール様から離れたくなかった。

 嫌われたくなかった。


「ミレーヌ……」


「お願い……がんばるから……」

 

 わたしの肩からレンドール様の手が離れた。

 押しのけられまいと、わたしは指が真っ白になるほど力を入れて縋り付く。


「俺を、煽って、あぶり殺す気か、お前は」


 見上げると、レンドール様の顔は真っ赤で、とても怖い表情をしていた。


「お前は……お前は、なんでそうばかなんだ」


 怒ってる。すごく怒ってる。だってこんなに真っ赤だもん。 


「愛妾づくりとか、お前は俺をなんだと思ってるんだ、ええ? ったく、従者に何を吹き込まれたんだ」


「いやー、リリアーナとべたべたしていたレンドールも悪いよなー」


「サンディル! お前もミレーヌに余計な事を言うな!」


「え? 俺のせい?」


 なぜか怒りのとばっちりを受けたサンディル様が、いやーな顔をした。


 頭の上で、なんだかわあわあ言っているけど、わたしは強張った指をそっと開いてレンドール王子の制服から手を離した。

 一歩後ろに下がって、身体を離す。


 わたし、みっともない事をして、レンドール様をすごく怒らせた。

 こんなだから、わたしはレンドール様にふさわしくないんだ。


「ミレーヌ?」


「ごめんなさい……」


 そうっとレンドール王子の手の届かないところまで下がる。

 足ががくがくして、その場にうずくまりそうになるのを堪える。


「ごめんなさい」


「待て、なんで謝る? おい」


 わたしはふらつきながら身を翻してその場から立ち去ろうとした。


「お待ちください、お嬢様」


 ライディはそう言うと、上着を脱いでわたしの頭からかぶせ、横抱きに抱き上げた。


「そんな顔をさらして歩けませんよ」


 不細工で悪かったわね!


「待て、ミレ……」


「お嬢様はご気分がすぐれないようなので、これで失礼させていただきます……このヘタレが」


「……」


 なんか最後に不穏な言葉がくっついたように聞こえたけど、気のせいだろう。

 いたたまれないわたしを軽々と抱き上げたライディは、早足でわたしを寮まで連れ帰ってくれた。






「ぶちゃいくですね」


「こういう犬がいましたわね」


「ぶちゃカワ犬ですね」


「ぶちゃいくも一周回ると可愛く見えてきますのね」


「お嬢様は回りきってないようですが」


「がんばってくださいませ」


「何をがんばらせようっていうの! あなたたち、主に向かって発言が失礼すぎるわ!」


 腫れたまぶたを濡れタオルで冷やしながら、わたしは不遜極まりない従者と侍女に向かって叫んだ。


「よーしよーし、お茶でちゅよー」


「エルダ! 主を犬扱いするのはおやめ! しかもその無表情で赤ちゃん言葉とか怖いから!」

 

 まったく、なんでわたしのお付きの者はこうなの?

 ……いや、いい人はわたしが片っ端からクビにしまくったせいだから、自業自得なんだけど。


 ああ、やってしまった。

 思い出すと『ギャー』と叫びながら床をごろごろ転がってしまいたいくらいの黒い歴史を作ってしまった。

 『捨てないで』ってどこの三流メロドラマよ。

 レンドール王子にドン引きされたこと間違いなしだわ。


「大丈夫ですよ、お嬢様もばかですが、殿下も相当のあほですから」


「あらまあ、お似合いのカップルで良かったですわね」


「ははははは」


「ほほほほほ」


「主がこんなに傷ついているというのに、何を高笑いしているの! しかも、王族に向かってあほとか言ってるし」


「だってねー」


「ねー」


 ライディとエルダが意味ありげな目配せをしているので、主を仲間外れにするのはやめるように言おうとしたら、ドアをノックされた。


「はい」


 エルダが出ると、寮監の先生がいた。


「ミレーヌさん、お客様がいらっしゃっているから、応接室に行ってね」


「お客様、ですか」


 ライディとエルダが「ほら来た」なんて言っている。


「ありがとうございます。どなたですの?」


「ケイン殿下よ」


 ケイン様が? なぜ?

 なんでだろうと従者たちを見ると、こっちも「え?」っていう顔をしているので、どうやら予想していた人物ではなかったらしい。


 わたしは首を傾げつつ、ライディを連れて応接室に向かった。






「ミレーヌ。随分泣いたみたいだね。目が真っ赤だよ、かわいそうに」


 わたしの顔を見たケイン様が駆け寄ってきて、目の周りを指でそっと撫でた。

 相変わらずの麗しい美人っぷりで、近くで見るとドキドキしてしまう。


「ねえ、ミレーヌ、本気で僕の国に来ない?」


「え?」


 そっと手を握られる。


「レンドールとの婚約を解消して。そこまで思いきれないなら、来年から僕の国に留学してみるのもいいよ。結婚は延期して」


 突然の話についていけないわたしは、目をぱちくりさせて目の前の綺麗な顔を見る。


「あの、心配してくれてありがとうございます?」


「うん、ミレーヌの事は心配してる」


 なぜだろう?

 学年も違うし、ケイン様は王立学園に来てまだ日も浅い。

 そんなにわたしと関わっていないはずなのに。

 わたしも自惚れていないから、容姿でケイン様の心を射止めたとか思わない。

 だいたい容姿といったらケイン様は最強で、どんな美女も太刀打ちできないと思う。


「それはどうしてなのですか」


 わからないことは素直に聞いてみる。


「君は似てるから」


「誰に?」


「リス」


「はい?」


「可愛がっていたリスに似てる」


「……」


 いつもはあまり表情の変わらないケイン様が、ふわりと笑った。

 ああ、大好きなのね。

 リスが。


 ……ペットかよ!


 部屋の隅で待機しているライディが、ぷっと吹き出した。






「ミレーヌ、僕のところにおいで。優しくして泣かせたりしないから。レンドールは君に意地悪すぎるよ」


 手をすりすりと撫でながら、どうやら天然くんらしいケイン様が言う。

 こんなに甘い優しい声なのに、それはリスに向かってなのね!

 残念すぎる。


「可愛がるから。ね?」


「わたくしはリスではありません」


「大丈夫、女の子の可愛がり方もちゃんと知ってる」


 いやいやいやいや、それはやめてほしいわ。

 なんか今、身の危険を感じましたよ。


「僕がミレーヌを女の子として可愛いと思っているのは本当。レンドールが幸せにしてくれないなら、うちに連れて帰る」


 すりすりと触っていた手を持ち上げて、チュッと口づけられてしまった!


「君がうんと言ってくれたら、すぐに手に入れる手配をする。ね?」


「ちょっと待ってください、わたくし、混乱していて」


「ごめんね、そこにつけ込んでる」


 美麗なる王子様は、予想外に策士のようです。

ケイン王子は小動物が好き。

だから、黒くてくりっとした瞳のミレーヌがあわあわしていると、可愛くて欲しくなってしまったのです。

レンドール王子の婚約者じゃなかったら、絶対にお土産に持ち帰られていましたね。

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