第4話『Girls Side ②-柴崎唯-』
お墓参り。
それは「死」を柔らかく言い表していた。
幼なじみの柴崎さんが亡くなったのはとても悲しいことだと思う。でも、それだけならどうして、直人先輩はあそこまで寂しそうに、私達から逃げるようにして去ったのかな。そして、引っ越す際にアルバムを置いていくのかな。
きっと、理由があって、柴崎さんの死で直人先輩が深く傷ついてしまったんだ。
「柴崎さんは病気を患って亡くなったの?」
渚先輩がそう訊くと、美月ちゃんは静かに首を横に振った。
「病気じゃないか。じゃあ、交通事故とかで?」
今度は私が問いかけるけれど、美月ちゃんから同じ反応が帰ってくる。
「交通事故ではなくて転落事故でした。警察はそう断定しました。今から2年前、唯ちゃんは洲崎町にある灯岬から、崖下に転落したんです。実は、その直前に唯ちゃんはお兄ちゃんに告白してフラれました」
「じゃあ、まさか直人が寂しそうにしていた理由って……」
「……お兄ちゃんは、自分のせいで唯ちゃんが自殺したと思っているみたいなんです」
今の話だけ聞けば、柴崎さんは直人先輩に振られたショックから、灯岬から身を投げたと考えられるかも。
「でも、警察は事故だと断定したんでしょ? どうして自分のせいで自殺だなんて」
「灯岬の近くで、唯ちゃんがお兄ちゃんに告白していたところを目撃した人がいたそうで。それが学校中に広まってしまったんです。そのことで、お兄ちゃんは学校で人殺しのように言われ続けて。そのことで、不登校になってしまった時期があったんです」
「そんな、あの直人先輩が……」
正直、信じられなかった。大抵のことには動じなさそうなのに。まさか、今の直人先輩が物静かなのはその経験があったから?
でも、今の話でさっきの直人先輩の様子も、このアルバムを引越しのときに持って行かないことにも納得した。写真に写っている柴崎さんの顔を見ると、彼女が亡くなったときのことを思い出してしまうから。
「それなら、どうして2年経った今になって、直人は柴崎さんのお墓参りに行こうと思ったんだろう?」
「その理由は聞いていませんけど、2年経って行く勇気がやっと出たんじゃないでしょうか。今まで、一度も行ってなかったんです。亡くなったことを知ったときから、唯ちゃんが亡くなったのは自分のせいだと考えて。お通夜も告別式も出席できなかったんです」
「ということは、直人先輩が最後に見た柴崎さんの顔は……」
「フラれたときが最後だったそうです。そのときは寂しそうに笑っていたそうです。ただ、唯ちゃんはいつも笑顔だったから、強がっていたのかもってお兄ちゃんは言っていました」
振ってしまった直後に亡くなったことを聞かされれば、自分が柴崎さんを追い詰めてしまったと罪悪感を抱いてしまうのも当然かな。きっと、そんな自分が亡くなった柴崎さんの顔を見る資格はないと思って、お通夜や告別式には出席しなかったんだと思う。柴崎さんと顔を合わせることや、参列する人達の視線が恐かったとも考えられる。
直人先輩にとって、今日……柴崎さんと2年ぶりの再会になるんだ。それはとても悲しい形だけれど。先輩は今、彼女に会いに行く中で何を想っているのだろう。
「今の話を聞くと、お墓参り以上に同窓会の方が直人にとっては辛いんじゃ? 柴崎さんのことで何か言われそう……」
「美緒ちゃんの他にもお兄ちゃんを支えてくれた友達がいましたから。その人達のおかげで、昔ほどではありませんが、笑顔を見せてくれるようになりました。今日は3年生のときの同窓会ですけど、お兄ちゃんの味方をしてくれる人がたくさんいるので大丈夫ですよ」
「そっか。それなら安心した」
渚先輩はほっと胸を撫で下ろしていた。
「直人先輩は今回の同窓会を機に、柴崎さんのことに向き合おうとしているのに、私達がついてきて良かったのかな……」
そんなことを知らずに直人先輩のことを困らせちゃった。直人先輩のことが好きなのに先輩のことを全然考えることができてなかった。それがとても悔しい。
「そんなことないと思いますよ。お兄ちゃんは彩花さんと渚さんのことを信じていますって。だからこそ、あたしにこのことを話してくれと言ったと思いますから。2人がいることがとても心強いと思いますよ」
「もし嫌だったら、きっとここに連れて来ないと思うよ、直人なら」
「……そうだと嬉しいです」
直人先輩が同窓会から帰ってきて、もし元気がなかったら先輩のことを元気にしたいな。私にも先輩に何かできるかもしれないし。
「……そういうことか」
渚先輩ははっとした表情でそう呟く。
「何かあったんですか?」
「先週、彩花ちゃんが浅沼達に連れ去れたとき、彼から直人に脅迫の電話があったの。その通話が切れた後に直人、気を乱しながらこう言ってたの。俺はもう誰も失いたくないって」
「そうだったんですか」
私が誘拐されていたときに、直人先輩がそんなことを言っていたなんて。私のことで気を乱していたことがちょっと嬉しい。
「もう誰も失いたくない。その言葉に違和感があって、ずっと頭の中に残っていたの。だから、柴崎さんのことを聞いてやっと納得したよ。二度と大切な人を失いたくないって思っていたんだろうね」
「ちょっと待ってください。彩花さんにそんな危険なことがあったんですか!」
「うん。でも、直人先輩や渚先輩達が助けてくれたんだ」
「そうだったんですか。きっと、彩花さんに危険が迫っていることを知ったとき、唯ちゃんとどこか重なっていたのかもしれませんね」
そういえば、ルピナスの花畑で助けてくれたとき……直人先輩、とても恐かった。あの恐さは何だったのだろうと思ったけれど、柴崎さんのことが影響していそう。あのときは、何が何でも私のことを助けてくれようとしていた。かっこよかったな。
柴崎さんが写っている他の写真を見てみると、直人先輩と柴崎さんが剣道着を着ている写真を見つけた。
「直人先輩って剣道部だったの? 胴着を着た2人が一緒に写っているから」
「はい、そうです。唯ちゃんも剣道部でした。お兄ちゃんはとても強かったですし、唯ちゃんも女子の中では一二を争う強さでした。でも、唯ちゃんが亡くなったのを機に、お兄ちゃんは辞めてしまいましたけど」
「高校でも直人はどこにも入部してなかったな。でも、スポーツはかなりできるから、どうして入部しないのか不思議がられていたのを思い出したよ」
「高校に進学しても剣道を再び始めることはなかったんですね。ちょっと残念です」
はあっ、と美月ちゃんはため息をつく。
そういえば、私を助けてくれたとき……棒を使って浅沼達を倒していた。圧倒していたけれど、あれは剣道をやっていたからだったんだ。
「1年以上も直人と一緒にいても、彼の過去は全然知らなかったから、色々と知ることができて良かったよ。物凄い内容だったけれど。話してくれてありがとね、美月ちゃん」
「いえ。あたしはただ兄に教えてあげてくれと言われただけで。でも、2人には話して良かったと思います」
「疑問に思っていたことが、今の話を聞いて色々と分かりましたよね。何だか、より直人先輩のことが魅力的になりました」
もしかしたら、直人先輩が故郷に連れてきたのは、私や渚先輩に自分のことについて知ってほしかったのかも。直人先輩は今まで自分のことを全然話さない人だったから。
「ねえ、美月ちゃん。もっと直人の写真を見てもいい? 直人がいないときじゃないと色々見られないと思うからさ」
「いいですよ。あたしのアルバムにも、お兄ちゃんが写っている写真があったと思います」
「どんな写真があるんでしょうね。ちょっと楽しみです」
今の話を聞いても、直人先輩のことはこれっぽっちも嫌だと思わない。むしろ、直人先輩のことがより好きになった。
その後もアルバムを見ながら、直人先輩のことで話が盛り上がるのであった。




