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ルピナス  作者: 桜庭かなめ
特別編-入れ替わりの夏-

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第18話『ガールズトーク』

 絢さんと奈央さんのお誘いで、絢さんと遥香さんが泊まっている部屋で女子会を開くことに。絢さんが隼人さんを誘ったのですが、隼人さんは調べたいことがあるとのことで隣の部屋にいる。

 奈央さんが3人分の紅茶を淹れ、昨晩に購入したというお菓子を用意して女子会がスタートした。


「彩花さん、遥香の体には段々と慣れてきたかな」

「はい。何だか、私の体よりも軽い感じがします」


 私よりも体重が軽いんだろうなぁ。特に胸の辺りがあまり重くなくていいかな。

 あれ……ということは、遥香さんは今頃、私の体を重いって思っているの? うううっ。


「大丈夫? 彩花ちゃん」

「ええ、大丈夫です。まあ、強いて言えばお腹の調子があまり良くないですね」

「遥香、今朝になってから急にお腹が痛くなったからね。彩花ちゃんとぶつかった直前、遥香はお腹が痛くなってお手洗いに行ったんだ」

「なるほど……」


 ホットのピーチティーを淹れてもらって正解だったな。


「それにしても、喋らなければ入れ替わっているとは思えないよね。まあ、喋っても遥香ちゃんの声だから時々分からなくなるけど……」

「そうですよね。ただ、遥香さんの姿も声も可愛いですよね。絢さんはそういうところに惹かれて、遥香さんのことが好きになったんですか?」

「……う、うん」


 絢さん、イケメン顔なのに遥香さんの話になると、途端に顔が赤くなって可愛らしい顔になるんだ。遥香さんはこういう二面性に惹かれたのかな?


「遥香はとっても優しいんだ。芯のある女の子でもあって。私、昔に色々なことがあったんだけど、遥香に出会ったおかげで救われたんだ。好きになったきっかけは一目惚れだけれど、告白したのは私のことを救ってくれたすぐ後なんだよ」

「へえ……」


 絢さんは王子様みたいな雰囲気の人だから、彼女が遥香さんのことを助けたのかと思ったら、実際は逆だったんだ。


「あったねぇ、そんなこと。そのとき、隼人と遊園地でジェットコースターに乗ったんだけれど、その時も昨日みたいに気絶してた」

「……お兄さん、本当に絶叫系が苦手なんですね」

「苦手なのは分かっているんだけど、隼人と一緒に乗りたくなっちゃうんだよね」

「奈央さん、お兄さんに対してだけはSなんですね」

「……だって、1人で乗るよりも2人で乗る方が楽しいもん」


 奈央さん、不機嫌そうに頬を膨らましている。昨日、直人先輩が注意していなければ、今日もウォータースライダーで隼人さんは気絶していたのかも。


「奈央さんが、隼人さんのことを好きになったきっかけって何だったんですか?」

「私と隼人は幼馴染だからね。気付いたら好きになってたよ。隼人は落ち着いていて、とても優しいし。あと、今でこそ普通だけれど、つい最近までは女性恐怖症で、家族と私以外の女性にはまともに接することができなかったんだから。そんなことに優越感を覚えていた自分がいたっけ」

「そう思えるのも、隼人さんのことが好きだからなんですね」

「そうだけれど、人から指摘されると恥ずかしいね」


 奈央さんははにかんでいる。可愛い。気付いたら好きになっていた、っていうのが幼馴染らしい感じ。

 それにしても、隼人さんが女性恐怖症だったなんて。全然そういう風には思えない。むしろ、女性と上手に付き合えそうな感じがするけど。


「遥香さんは藍沢さんとどんな感じで好きになって、付き合うようになったの?」

「そうですね……私が直人先輩のことを好きになったのは、私が不良に襲われそうになったところを助けてくれたことです」

「へえ、憧れちゃうな、そういうの。でも、私の場合は遥香を助ける方かな?」


 ふふっ、と絢さんは爽やか笑みを浮かべている。本当にかっこいい人だなぁ。よくしゃべる女版の直人先輩みたい。


「両親と学校の許しを得て、直人先輩と一緒に住むことになりました。ただ、そこから付き合うまでに色々とあって。直人先輩、とても格好良くて優しいから先輩のことを好きな女性が何人も現れて。直人先輩は記憶を失った時期もあれば、過去に経験したことに苦しむ時期もありました。それらを乗り越えて私のことを選んでくれて、付き合うことになったときはとても嬉しかったです」


 直人先輩のことを話したら、今すぐにでも先輩とキスがしたくなって。その先のこともしたくなってしまう。あっ、でも……今は遥香さんの体だからダメか。


「そっか。藍沢さんと彩花ちゃんはそういう経験をしてきたのか。確かに、藍沢さん……凄くしっかりしているように思えた。彩花ちゃんと遥香が入れ替わったことにもあまり動じていなかったし。性格っていうのもあるのかもしれないけれど。2人の間には確かな信頼があるように感じられたよ」

「そう、ですかね……」


 とは言うけど、実際には嬉しかったし、誇らしかった。

 ただ、そんな風に言われる直人先輩と付き合っている自分に嬉しくなってしまって。そんな自分だから、遥香さんとの入れ替わりが起きてしまったのかな、って思うの。試練とか、罰とかそんな感じで。もちろん、遥香さんが悪いわけじゃなくて。


「彩花ちゃん、その……絶対に元の体に戻れるから!」

「そうだよ。戻ったときには藍沢さんに思いっきり甘えちゃおうよ!」


 絢さんと奈央さんが私の頭を撫でて、優しい言葉をかけてくれる。2人に気を遣わせちゃうなんて。私、気持ちが顔に出ちゃっていたのかな。


「……はい。元の体に戻ったら先輩に思い切り甘えて、えっち……いえ、甘えちゃいます、から……」


 慌ててごまかしたけど、元の体に戻ったら直人先輩とえっちなことをしたい気持ちでいっぱい。直人先輩と繋がりたくて。けれど、そんな気持ちを口にしちゃったことがとても恥ずかしいよ。


「……そういえば」

「はいいっ!」


 あ、絢さんに何を言われるのかな!?


「……いや、彩花ちゃんじゃなくて、奈央さんに。昨晩、隣の部屋で隼人さんと……え、えっちなことをしていましたよね。遥香と一緒に花火を見終わって、ここに戻ってきたときに隣の部屋から奈央さんの気持ち良さそうな声が聞こえたので。遥香も気になっていましたよ」

「えええっ!」


 隼人さんに聞こえないように、絢さんは小さな声で言ったのに……奈央さんは顔を真っ赤にして大声で叫んでしまった。


「奈央、どうしたんだ? 凄い声が聞こえたけれど」

「……な、何でもないから。彩花ちゃんの恋愛話にキュンときちゃっただけ」


 隣の部屋からひょっこりと顔を出した隼人さんに対して、奈央さんは苦笑いをしながらそう答える。


「まあ、それならいいけど。……あっ、電話がかかってきた」


 隼人さんはすぐに姿を消した。電話の相手はもしかして直人先輩かな。


「絢ちゃん、彩花ちゃん。隼人と……え、えっちなことなんてしたことないよ」

「でも、あのとき……」

「昨日の夜は、ベッドの上で隼人にマッサージをしてもらっていたの。気持ち良くて、声が出ちゃって。2人にはその声が聞こえたんだよ」

「そ、そうだったんですか」


 えっちなことをしているように勘違いされるって。多分、絢さんと遥香さんはその現場を目撃せず、声しか聞かなかったから勘違いしちゃったのかな。おそらく、奈央さんは隼人さんのマッサージがとても気持ち良くて、可愛い声を出しちゃったんだと思う。


「その……勘違いをしてしまってすみませんでした」

「ううん、こちらこそ勘違いさせちゃってごめんね。あと、遥香ちゃんには絢ちゃんの方から伝えておいてくれるかな」

「分かりました。遥香も気にしていたので、伝えておきます」


 絢さんと遥香さんの心の中にあった1つの謎が解明されたんだ。この勢いで、私と遥香さんの体が入れ替わってしまった理由も早く分かればいいんだけど。


「みんな、今……藍沢さんから電話があった」

「直人先輩からですか?」

「ああ。奈央がさっき言っていたこのホテルにお化けが出る、っていう一言から藍沢さんと遥香がこのホテルについて調べたそうだ。色々なことが分かったから、それをみんなに話すために俺も女子会に混ぜてほしい」

「うん。入ってきていいよ、隼人」


 絢さんの勘違いのせいで、今の奈央さんの言葉がちょっと厭らしく聞こえちゃうよ。

 さっきの電話、やっぱり直人先輩からだったんだ。直人先輩、遥香さんと一緒にこのホテルについて調べていたんだ。何が分かったんだろう。期待もあるけど、同時に同じくらいの不安を抱いてしまうのであった。

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