表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
99/193

暁の地平線 04

「さて、今体験した様に、フォースパワーは肉体の強化効果がある。覚醒の夜で得た新たな力だ。お前たちに改めて言う話でもないがな」

 一同を見回して告げる。

「一部全然なのは居るがな」

 余計なこと言うなっ。

「では、この力は何のためにある?平坂言ってみろ」

「国防のためであります」

 軍人家系らしい返答だった。

「ここじゃ、それで正解かもしれないが、俺の意見は違う。各人それぞれに理由はあろう。だが言っておく、先ずは己を守るために使え。そして、余裕があれば他者を守るために使うんだ、いいな」

 了解でありますと皆が一斉に返答した。

「では、フォースパワーの有意義な使い方を体得しよう」

 言った事とは裏腹に、実戦的な授業が始まった。


 授業の終わりを告げる鐘が鳴る。

「よし、ここまでだ。各人、己の得意な点、苦手な点は理解できたな。次にやるとき、どこまで伸び、克服できているか確認するからな。鍛練を怠らないように」

 六道先生がそういって締めた。

 ぞろぞろとグループで教室に戻っていくのを眺める。

 余りにも力の差が歴然だった。

 少しくらいフォースパワーが使えるようになったからといって、このクラスの面々…所ではない、安西や平坂にもそれは及んでいないのを実感した。

 昨日は幾何学模様なんかが見えた。でも、今日は全然だ。昨日と何が違うのか、それとも昨日のが運良く上手く廻ったというのか?

 確かに、色々と危険な状況ではあった。今とは緊張感や危機感といったものは雲泥の差だ。だからなのか?

 火事場の馬鹿力ってやつだなぁ、たぶん…。

「主よ、ちょっといいか?」

 千歳が目の前に立っていた。

「どうした?」

「しゃがんでたもれ」

「どうしてだ?」

「いいから、しゃがめ」

 なんなんだ?取り敢えず言われた通りにしゃがむ。

 ぱっと目の前が暗くなった。次の瞬間、肩にずしりと重みが伝わる。

「ほら、立ち上がるのじゃ」

 千歳が俺に飛び乗ったのだ。これって肩車?

「なんでこんなことを」

「さっさと立ち上がるっ」

 意図が掴めないままに立ち上がる。

「おー高い高い」

「何がしたいんだ?」

「おっとそうじゃった。主よ授業でやったように、手にフォースパワーを集めてみるのじゃ」

「そのために肩車?」

「いいからやるのじゃっ」

 何かあるのか?まっ、お姫様の言うこと聞いといてやるか。多少の期待も出てきた。

 大きくゆっくりと呼吸を行い、頭上から前を通って下腹へ、下腹から背骨を通って頭上へと廻してみる。

 2度3度、4度5度と呼吸と供に廻し、掌に集める。

「………これでいいか?」

「うむ、よいぞ。ではもう一度じゃ。妾の呼吸に合わせて同じようにやってたもれ。駄目だと思ったら、手を挙げるのじゃぞ」

 何がしたいんだか……。

「いくぞっ」

 千歳の呼吸に合わせるように、こちらも吸い、吐き、同じようにフォースパワーを廻す。

 1回目、さっきと同じ。2回目、何か頭上から鉄の塊がどかっと突き刺さるような重みが伝わった。

「わっなんだこれ?」

「慌てるな、集中して妾に併せるのじゃ」

 今のって千歳のフォースパワーなのか?背筋がゾクゾクした。さぶいぼが立ったぜ。

 呼吸を整え、千歳に併せてフォースパワーを廻す。ズシリとした重量が彼女を通して伝わってくる。

 膨大な量が身体を巡る。そのままでは破裂しそうだから、一部を四肢にも流し強化に廻す。

 少し楽になった。

 ふむん、なんとなくコツが掴めてきた。ギリギリではあるが、なんとか制御できている。

 このまま掌を通るように流れをイメージし、強化させた。

「主よこのままの状態を保つのじゃぞ。源、一撃入れてみろ」

「あっし?」

 帰る途中に始まったコレを脚を止めて見ていた源が自分を指差して聞いてきた。

「おい……」

「主は黙っておれ、集中を乱すではないぞ」

「いいのかい?本気だしても」

「構わぬ」

 あっさりと千歳は言う。待てやこら。

「妾を信じろ」

 信じろといったってなぁ…。

「いくぞ、オラァッ」

 瞬間、股がキュンと絞め上がった。

 同時に號音が鳴り響く。

 俺の突き出した掌に、源の拳が納まっている。何事も無く!

「ざっとこんなものじゃ」

「ああん、ちょっと待て、今のは手加減して半分の力しか入れてない。いや、3割り?2割り位だったかな。て、ことでもう一度」

 有無を言わせず連打を掌に浴びせてきた。

 その全ての連打を俺の掌はなんなく防ぎきった。

「……いらなんでも嘘だろ?」

 唖然とする源。俺も唖然だ。

 人外の力なのである。一発まともに貰えばミンチになっててもおかしくない。いや、普通そうなる。それがどうだ?平然と受け止めたのだ。

 幾ら千歳からフォースパワーが廻ってきてたとしても……いや千歳だからなのか?

「主よ、確かに源の力を防いだのは妾のフォースパワーあってのことじゃ。じゃがな、そのフォースパワーを操ったのは主自身なのじゃ。多少は自身を持ってもよいぞ」

 ……俺が凹んでたから、元気づけてくれたのか。

 ちょっと、ときめいてしまったぞ。

「これで、妾の疑問も多少は解決した。流石、妾の主っ」

「ちょっとまて、何、今のって俺を実験台にしたってことか?」

「そうとも言う」

 ………冷や汗が滝のように流れた。

 こんなんばっかなんて、嫌過ぎるぅぅぅ。人外の中心で普通を叫んだ。


 今日も今日とて、足代わり。

 罰当番の便所掃除から帰って、飯食って、ショッピングモールへと車を出した。

 今日の面子はこれだっ。

 アラキナ・マーチ、メイドさん。

 シンディ・マーチ、これまたメイドさん。今更ではあるが、4姉妹である。髪の多少の色違いと髪形以外そっくりである。二人並んでいると余計に解る。

 マルガリータ・ゴンチャロフ、陶磁ような白い肌、俺より少し背が高い。そしてイリージョン級のでかさを誇っている。こいつはけしからんぜぇ。スーパーボンキュッボンである。

 ドゥルガー、千歳よりは背があるが、低い方だ。アジアンビューティーという感じ。それにしてもこの名前って、本名じゃないよなぁ、聞いてみたいが今はそんな仲でもないしな。のんびりいくか。

 シルヴィア、エルフの最後である。

 そいや、メアリーも含めて全員が16歳か17歳ってことは……ないだろうなぁ。マルガリータの身体を見て思う。色々と反則だろこれ。

 エルフだってそうだ。伝え聞くところでは、成人するのが100歳を超えてからだとかなんとか……。覚醒の夜以降のことなんで、本当かどうか解らんが…。誰が本当の歳で誰がなんちゃってなのか……確かめたい気もするが命の方が惜しいので詮索はしないことにした。


 昨日と同じように待ち合わせ場所と時間を決めると、彼女たちは一団となって服を物色しに行った。

 さてと…俺はどうすっか。

 ── 彼女にプレゼントってやつかー──

 朝の一幕を思い出した。

 弥生たちには色々世話にもなっているし、瑠璃と美帆のこともある……。多少は甲斐性見せないといかんよなぁ。

 でも、何を買ったらいいんだ?服なんてサイズも解らん。となるとアクセサリーとかの小物がいいのだろうか。

 今まで彼女なんて呼べる存在はいなかった。で、あるからして、今までプレゼントなんて買ったこともない。やったとすれば、小学生の時の誕生日会くらいなもんで、全然参考にならない。

「時間あるし、見て回って気に入ったものがあれば……でいいか?」

 一歩を踏み出す。

 その時、ねっとりとした視線を感じた。

 振り返って辺りを見回すが、何もない。ただ、客の流れがあるだけで不審な所は感じない。

「気のせいか?」

 色々振り回されたから、ナーバスになっているのかねぇ。

 そんなことより、プレゼントだ。指輪?論外だ。イヤリング?どこで着けるというのだ、学校じゃそういったものは禁止されている。

 貴金属系は駄目だな。じゃぁ何がいいんだ。

 やっぱり服?無理無理、そんな金はどこにもない。アルバイトも禁止されているから、稼ぎようがない。寸志程度の給金で何が出来るというんだ。

 安くて、手がかからなくて、意味深でなくて、それなりに意味があるもの……。

 ぶらぶらと店に並ぶ商品を眺めつつ、行ったり来たり。食器もいいか?いやぁそれだって意味深だな。

 ……深く考えすぎ?とりあえず食器はパスしてと、ううむ、本当に何がいいのやら。

 ハンカチか……、歩いていると目に入った。これなら丁度いいか、特別な意味も無いだろうし、手頃な値段でもある。

 刺繍や模様が様々あって、凝ったものほど高かった。見れば観るほど、いい物の方が値段が高いがプレゼントするなら、その位のものでないと駄目だろう。手頃と思ったが、枚数を買うとなると其れなりに出費する。これは痛い…、でも…あぁ迷っている場合でもない。

 5枚程、程度の良い物を見繕って各々包装してもらった。


 昨日と同様、集合時間を多少遅れて戻ってきた彼女たちと、ラーメンを食べる。三日連続は流石に食傷ぎみになる。たまに食すからいいのであって、こうも連続ではなぁ…油分がきつい。

 まぁそれも今日までだ。メアリーは行かないと言っていたから、これで留学組は全員となる。

 必要な日常品もこれで揃っただろうし、もう連れ出すことも無いだろう。

 日本組は……まぁいいだろう、籖引きも遠慮してもらってるいし、蒸し返すとまた混乱の元だ。

 これからは、必要時に出動ってことで。

 自分の都合以外はなー。あぁこれでようやく開放されたというものだ。


 帰りの道すがら、プレゼントは何時渡した方がいいだろうかと考える。

 タイミングを計ってとかしてるとずるずる行きそうだしな。帰ったら渡そう。

 ということで、戻ってきて早々3人に渡した。

「退院祝いもしてくれたんで、お返しだ」

 渡した途端、その場の空気に慣れなかった俺は即効、風呂道具を抱え大浴場へと逃げ込んだ。

 あとは2枚残すのみ。明日逢ったら渡そう。


 学校にやってきた。今日は特段騒ぎも無く登校できた。毎日がこうであって欲しいぜ。

 今日は土曜日だから半ドンだ。とりあえず何時渡すかだが……。

 休み時間にのこのこ教室までいって渡すのは憚れる。どこかへ呼び出して、渡す?それはそれで意味深だ。

 彼女なんだから気にするなという声と、おいおい、天狗にでもなったか、いきなりすぎんぞという心の声が対立している。

 無難なタイミングでさり気なく渡せればいいんだが、何時よ?こういった経験の無さが恨めしい。自ら進んで、こんな経験をほいほいとしたいとも思わないが、動じない位の経験……度胸か、は持っておきたいものである。

 そんな事を考えていると、あっさり昼になった。もう帰る時間だ。

 その前に奉仕活動という罰当番があるのだが…。

 3日目ともなると、汚物を観るような視線にも多少は慣れた。んなわけないだろっ。

 だが、その視線の中にも別のものが混じっているのを感じる。好意はなさそうだが、好奇の視線ってやつだ。奉仕活動をさせられる原因とは何か、詳しい話を知っているものがないだけに、色々と憶測が飛び交っているようだ。また、いらんことになんなきゃいいんだが、火事でもないのに、煙を炊かないでくれよ。


 奉仕活動という便所掃除が終わり、職員室へ報告しに行く。

 六道先生から、ご苦労と気のない労いの声を頂き退出する。

「おお、そうだ。ちょっといいか?」

「はい?なんですか」

 扉を閉める一瞬前、六道先生に呼び止めれられた。

「お前、当分独りで出歩くなよ」

「はぁ?」

「あんな騒動の後だ、何かと煩いんだよ。ワ・カ・ル・ナ!」

 謹慎してろってことか。

「もし出かける必要があるなら、クラスの誰かと複数でいけよ」

「はい……解りました」

 確かに、またぞろ騒動起こしたら、理由いかん問わず何かしらの処分をしなければならないということか。ほとぼり醒めるまでっていつなんだろうな……。

 ま、“とうぶん”大人しくしておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ