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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
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Night raid 02

 夕餉も終わり、部屋に戻る。暫くすると、呼び鈴が鳴った。

 クリスティーナだろう。俺は車の鍵を持って部屋を出る。

「はいはいお待たせ~」

 扉を開けるとそこは……人だかりだった。

 正面にいるのはクリスティーナで、申し訳なさそうに御免と手を合わせる。

「一体何があったんだ?」

「いやぁ~それがさぁー」

 言い訳を聞いた。

 部屋に戻って早々ルームメイトに出かける話をした。

 ルームメイトは揃って狡いと非難し、なら一緒に行こうよという流れになったまでは良かったが、夕食でそのことを自慢げに周りに話した。

 ならば、私もと次々と……そして、御覧の有り様という流れだ。

「騒がしいがどうしたのじゃ?」

 背後から柊がやってきた。

 事態は更に混沌に陥ったのはいう迄もなかった。


「はいそれじゃ、シートベルトは全員絞めたね」

 エンジンをかけ、暖気をとる。

 車には自分含めて6人が乗っている。7人仕様ではあるが一つは補助席だからそこは外した計算だ。

 結局あの後、食堂に降りて我も我もと主張する騒々しい中、あみだくじで車に乗る面子を決めた。

 あーみだくじーあーみだくじー。引いても楽しくことなどなかったが、他に決める方法が思い浮かばなかった。

 因みに籤に参加したのは留学組で、日本組には遠慮してもらった。普段、見知った所を今更走っても仕方ないだろうという判断だ。源が散々ごねたのはいうまでもなかった。

 元々乗せる約束をしたクリスティーナを除いて4人。厳正なる抽選の結果、勝ち取った面子は…。

 ビアンカ・マーチ、メアリー付きのメイド。

 エレノア、エルフである。

 マルヤム・ズルカルナイン、双角の女の子。外出するので、角は引っ込めてもらっている。

 ジャネット・リシャール、外見は至って普通。特に変わったところはないが、なんだろう、微妙に睨まれている様な気がしないでもないが、あみだくじに参加したってことは、興味はあるんだろうな。

 以上である。

 それにしても、全員を代わる代わる毎日乗せる事になるとはなぁ……。ごねられた結果である。


 クリスティーナが助手席、残りはビアンカとエレノアが2列目、マルヤムとジャネットが3列目のシートに座っている。

 全員、学校の制服を来ていた。

「処でなんで制服なんだ?」

 勿論おれは普段着、ジーンズにジャケットという出で立ちだ。

「外出するときは制服を着用と、規則にあったからだけど、あんた……中島さんはどうして着ていないのだ?」

「規則?なんだそりゃ」

「生徒手帳に書かれているやつだけど?」

 ……そういや、そんなことが書かれていた気がしたような気がしないでもなく、気にしてなかったよ。

 ここは突っ込む所なのだろうか。判断に苦しむ。

「そうか、なら仕方ないな。処で、何時も着る普段着ってのはないのか?」

 良く考えたら、彼女たちは学校では制服、寮ではジャージ姿で、普段着ってのを見た記憶がなかった。

 いや、最初に見たな……でもあれは流石に普段の外出するような服ではない。とかく日本では、どこぞのイベントで見るような格好である。あの時見たヒラヒラとした露出の高そうな服装が思い浮かぶ。民族衣装といえばそれまでだが、それで日本の街を練り歩くのは想像したくないな。

 寮ならジャージ姿は俺もそうだし、面倒無くていいしで、着倒しているが、男と女とではやっぱりそういうところは違うもんだ。

「それってドレスってこと?」

 ……うっうーん、どう説明したらいいのだろうか。

 まかり間違って、普段着は“シャネルの5番よ”とかはないだろうが、文化の違いは侮れない。

 クリスティーナの顔をみると意地悪そうに笑っているのが見えた。コイツ解ってていったな。

「で、意味が解っているのは誰かな」

 無視して話を進める。

「存じあげております」

 言ってきたのはビアンカだ。流石メイドさんっ!頼もしい限りである。いいねーメイドさん、今が学校の制服姿なのが残念でならないが、最高です。文化の極みだよ。

「それじゃ、ドライブついでに君たちの普段着も買いに行こうか。出歩くときにないと困るだろうから」

 実際、寮母さんに頼めば済む話だが、その場合カタログみての取り寄せとなる。実物を見てないと後で問題になりそうなのが推測できる。

 それと、行く当てもなくぶらぶら走っても詰まらないだろう。何より俺の面倒が無くてよい。

 ショッピングモールまでは適度な距離もあるし、車の感触を掴むには丁度いい。

「それじゃ、行きますか」

 一路、車を走らせた。


 SUVは車体がでかい。普通車よりも一回り大きい。バイクと比べるまでもなくでかくて重い。

 戦闘指揮車と比べれば小さいが、それでも道路を走るとなると、でかさに苦労する。シートポジションが高めだから、見晴らしはいいのだが、車幅が車線一杯ともなると、気が抜けない。

 ブレーキもバイクとは効き方が違う。さっき一人で乗った時よりも、人が満載ともなれば制動距離は伸びる。

「下手ねぇー」

 助手席から野次が飛ぶ。

「知ってるよ」

 瑠璃が運転したときはこんな感じじゃなかった。もっと静かというか、スムースな動きをしていた。

 一人で運転したときは興奮して気がつかなかったが、人がこれだけのっていざとなると、思ったように運転できない。

「まずブレーキ。停まる寸前にスッと抜く。それでかっくんかっくんしないから」

 解っている。バイクでそれは経験済みだ。ただ、足と手とでは違いがありすぎて上手くいかないだけだ。

 これがATで良かった。MTだと何回エンストしてただろう…。格好悪過ぎだ。

 個人的にはMTを乗り回したい。そのために免許もマニュアルでとっているのだが、機会がない。バイク買うより先に中古でもMT車買った方がいいかなぁ。練習用にだから、安いやつでいい。

 ……って状況に流されてますね俺。

 それでも動き出すとスムースに進む。なんせギアは勝手にアップダウンするし、速度調整はブレーキを軽く踏むだけの簡単な作業だ。高い支点から全体を眺めることもあって、良好といえよう。

 それでも駄目出しが助手席から飛んでくる。

 こいつ本当に無免なのか?どうしてこんなに乗り慣れてんだろう。

「信号赤っ。ブレーキ踏むのが遅い。ほら、踏力が一定でないから、車体が波打つ」

 カックン。

 そして停まる。

 発進すると、これまた叱咤が飛ぶ。

「アクセル一定にする。隣の人の頭が前後に揺れているだろ。下手な証拠よ、女の子を扱う要領で優しく丁寧に」

 これまで気にしてなかった所、いや気付いていなかった所だな、それを次々と指摘された。

 教習所では問題視されなかった細々したところをちくちくと突いてくる。

 ほんと、教習所ってのは公道を最低限安全に乗るための練習場所だったんだなと、改めて思い知らされた。

「車両感覚はいい方だね。交差点曲がるときは奥まで進んでいるのもいい。めんどくさがってショートカットしようものなら、内輪差で人轢くことになるからね」

 褒められたっ!まぁこのへんはバイクでも培った経験ではあるし、大きな車だけあって気をつけていたところだ。

 それにしてもドライブは、思いの外緊張と叱咤とで、教習所以上に教習所だった。イエス・マム次の指示を下さい!なんちゃって。

 いいムードになって流されてしまったらとか……考えてた俺はどうしようもなく阿呆であった。


 ショッピングモールに漸く辿り着けた。

 バックで車を駐車スペースに入れる……2回程切り返しをやって、最後の最後まで罵倒された。

 車の運転ってこんなに………胃に穴が開きそうだ。

 バイクの方が楽だ。やっぱ車は要らねぇ。


「あぁ生き返るぜ」

 車を降りるなりマルヤムが爽やかに言う。

 下手くそで済みませんでしたねー。

「とりあえず、君たちの服を買うからな。出かけたりするのに必要だろ。お金は持っているよな」

 不思議がられた。

「あんた…中島さんが連れてきたんだから、中島さんが買ってくれるんじゃないの?」

 え!?

 クリスティーナがなんだかとんでもない事をのたまった。

 まてまてまて、なぜそういうふうになる?

「いや、自分の着る服だろ?自分の金で買えばいいやん」

「だって僕達お金持ってなーい」

 顔をまじまじと覗く。嘘は言ってないようだ。

 他の4人の顔も見る。ゲラゲラと笑うマルヤムを除く3人は無表情で俺を見つめている。

 普段着くらい買う金は持っているが、部下とはいえ奢る理由がない。だが、クリスティーナは買ってもらうつもり満々だ。

 何処で行き違ったのか……。

 こっこれが、文化の違いなのかっ!

 うーむ、ここは買わなければいけない流れなのか?そんなバナナ!

「中島様、ご安心ください。姫殿下よりカードを預かっておりますので、支払いに関しては問題ありません」

 助け船がやってきた。メイドのビアンカからだ。

「そ、そうなんだ」

「はい、彼女たちの生活については、私共が管理しております」

 ひとまずは胸をなでおろした。

 あみだくじでメイドさんかメアリーが当たってなかったら大変だった。思いつきもいいが、その辺は今後考えないといかんな。

 反省、反省っと。

「そんじゃ、中見ていこうか」

「株落ちたね、大将」

 ぐさりとクリスティーナの一言が突き刺さった。


 思えば、女の子と買い物に来ることなんて今までの人生一度も無かった。

 学祭の買い出しくらいは有るが、そういうものとは全く違う。

 女三人寄れば姦しいとはいうが、5人である。

「サバトだ……」

 クリスティーナが派手で大胆な服を選び、ビアンカがそれなりにお洒落な服を見繕う。エレノアは質素で簡素な服をマルヤムは原色系の頑丈そうな生地の服で、ジャネットは何かしらブツブツと呟きながら服の海を彷徨っていた。

 どれがいい、あれがいい、これがいいと5者5様に服をあてがったりして騒いでいる。

 一向に決まらない。

 俺なら、サイズの合う服を適当に選ぶんだが……。付き合いきれないぜ。


 早々に退避し、モールの通路にあるベンチに独り座り、女性陣の買い物が終わるのを待っていた。

 もう一時間は過ぎたはずだ。

 することも無く天井を見上げる。

 これを残りの人数分繰り返すのだろうか。もうお腹一杯だが、今日良くて明日駄目って言えば反発されること請け合いだ。

 うむぅ。免許を他に誰か持っていれば、変わってもらおうかなぁ。と、免許といえば、クリスティーナだ。

 ……やっぱり持って無さそうだよな。

 咲華が持っているだろうか。ヤツなら何でも持ってそうだから確認してみるかって、それを聞いてどうする。運転代ってって頼む?無理無理、無理すぎる。

 あーこれ詰んだな。

 それにしても暇だ……どうしよう。

 やることなさ過ぎる。買いたいものもないし……ってあるじゃん俺っ!

 いやいや、今買うのはどうよ。絶対バレル。それだけはあっちゃいけない。落ちた株が更に下降し額面割れする。

 威厳も何も無くなること請け合いだ。

 さりとて、本屋に行く案はいいか。立ち読みでもしてれば時間を潰せるだろう。

 そうと決まればと、立ち上がり今だ物色中の彼女たちに告げ向かった。


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