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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
88/193

隊長はつらいよ 05

「ようこそ、我が艦へ」

 シルバーブロンドの恰幅のいい妙齢の女性が乗船すると迎え出てきた。我が艦へという事はこの人が艦長なのだろうか。

「お招きいただき感謝します」

 美帆が前に出て挨拶を交わす。

「それで彼が例の?」

「そうです」

 じろじろと品定めするように見られた。

 気持ちは解る……解るけど露骨すぎだよ。

「私は、この艦の艦長を務める、ブリジット・マクミランであります」

 敬礼と共に挨拶された。

「皇軍左翼大隊第13独立部隊長、中島政宗であります」

 同じように敬礼を返し挨拶した。

「私達の隊長になってくれてありがとう。さぞ迷惑したでしょうね」

 やさしい眼差しで言われた。

 あれ?なんか最初と印象が違うぞ?

「ところで、一つ質問をしていいかしら」

「はい、どうぞ?」

 年齢か?それとも、メアリー達のことか?なんだろう。思わず身構える。

「何故、洋服を来ているのだ。サムラーイの平服はモンツキハカマと聞いていたが」

 ………へ?

「違うのだろうか?」

 余程変な顔をしていたのだろう。気をつかわれたようだ。

「ちょっと待ってください。その情報はどこからなのでしょうか」

「我等を見送りる時に長船殿下と謁見して、その時の服装だったのだが。聞くと日本ではそれがスタンダードだと言っていたが」

 あんのー糞野郎、歌舞伎やがったな。

 失笑が周りから聞こえた。

「だから言ったじゃないか、長船殿下のジャパニーズジョークだって」

 横合いから艦長に向かって話しかける人物がいた。

「アーウィン副長、失礼ですよ」

「ソーリー。この艦の副長を務めます、スザンヌ・アーウィンと申します。以後お見知り置きを」

 敬礼をもって挨拶とされたので、こちらも敬礼をして返す。

「それにしても、皆さん日本語がうまいですね」

 そうなのだ。名の気に無しに会話が日本語で成立しているのに今更気がついた訳だ。

「それが条件でしたからね」

 ウインクされた。

 察するに志願したなかで日本に来れるのが日本語ができること、ということか。

「中にはまだ下手くそな連中もいますが、おおむね会話は成立いたしますよ」

 ここまでできるのは彼女たち少数ってことかな。

「それでは、案内は副長に任せて、終わったら艦長室までお願いね」

「イエス、マム」

 と、言う訳で俺たちは艦内を案内された。


 軍艦オタクでもマニアでもないが、やっぱり男の子。戦う鉄の船というものには興奮を押さえることはできなかった。

 安西がいたらもっと興奮してたのだろうか。一度連れてきたい気がする。

 意外だったのは結構艦内の通路や部屋は大きめで、蛸部屋にハンモックで寝るような造りにはなっていなかった。昔に比べ必要な乗員が大幅に減っているせいでもあるのだろう。

 散々、戦艦(※巡洋艦です)というものを堪能し、俺たちは艦長室にやってきた。


 艦長室に入ると中には、ブリジット艦長の他に3人の外国人と1人の日本人がテーブルを囲んでいた。

 外国人は白人2人に黒人1人である。

 ブリジット艦長に艦内を見学させてもらったことに対して謝辞を陳べ、テーブルについている人々を紹介してもらった。

 その人達は駆逐艦の艦長であった。俺がくるからと集まったそうな。……まぁそうなるんだろうね。

 そして、日本人の1人が自己紹介をする。なんと男性である。

「初めまして、皇軍左翼大隊第9工作部隊所属の小早川優遥大尉であります。此度のお招きに預かり至極恐悦の所存であります」

 皇軍の人だった。そいや、俺って皇軍の人達と全然顔合せしてないよな……いいのかな。今更だけど…。

 軽く自己紹介が終わり、話が始まる。

 艦隊の今後についてである。全くもって蚊帳の外に俺はいた。

 相手方も俺の立場?を知っているのか、特に目立って何かを言ってくることはなかった。

 難しい話し合いは右から左へと流れていく。

 話の流れを聞くに、この巡洋艦を含めた4隻を練習艦として、帝国海軍が共に乗船し引き継ぎを行っていくということ。9月末に行われる総合演習に参加すること等々。確かに直接俺が係わるような話ではなかった。

 俺がここにいる理由は、単に部隊の隊長がそういう話を知らないでは済まされないだけであった。

 んー、まぁなんていうのかなー。急造の部隊で指揮系統もてんやわんやな状況なのは解るが、自転車操業だよねぇ。本当にいいのですか?


「さて、諸々の手続きはほぼ終了しました。後は中島少佐に決めて頂きたい事案だけですね」

 小早川大尉が俺を見る。

「自分でありますか?」

「えぇ、少佐にです」

 一体何を決めようというのだ?

 俺が何か判断するようなことってあったっけ。

「この艦の名前ですよ。貴官に決めてもらわなければ始まりません」

「いいんですか?」

「ええ、どうぞ」

 唐突に振られても名前なんて思いつかないが……はてさて…。

「巡洋艦ってことは、命名規約では山の名前ですよね」

「そうですね」

 一つだけピンと来るものがあった。山の名前、英国から来た船というと思いつくのはアレである。

「駆逐艦は河川名でしたよね」

「はい、その通り」

 3隻揃った繋がりが解る名前……うーん。思いつかねー。

「巡洋艦はコンゴウでどうですかね」

 ……周りの反応は、あぁやっぱりといった顔だった。

 単純で済みませんねっ。駆逐艦の方は驚かせてやるっ。

「コンゴウですね。丁度今は他の艦船で使われていませんし、問題ないでしょう」

 淡々と、小早川大尉が進める。

 さぁ次だ。

 ………。

 一介の高校生がですね。そんなに日本の地理が詳しいと思うのでしょうか。いやない。

 決意も空回り、知識がなければなんにもらなぬ。無い棒は振れないのである。

 とりあえず最近のことを思い出せ。なんか関連するものが思いつくかもしれない。

 美帆と瑠璃をみる……。

 期待に目を爛々と輝かせている。そんな目で見ないでぇ~。

 ん?そいや夏は耐久レースがあったんだな……ふむ。一つは決まった。

 もう一つは地元から取るとして、後一つ。何かないか…。

 自分に関係すること……って最近つけたのはサクヤだよなー。もしかして、これから先も名前を決めていく運命が待ち受けているのだろうか。まさかねっ。

 サクヤ関連というと、神の名前だ。神が元の川の名前……うーん。サクヤは姫、姫といえば、生贄。生贄で有名なのが……。そいや、なんか似た様な名前の川があったきがしないでも。

「いいのが浮かんだ?」

 美帆が急かしてきた。

「…一応は」

 でもいいのかなぁ、こんなんで。

 悩んでも仕方ない。駄目ならまた次を選べばいい。そん時は有名どころでもなんでも言えばいいや。

「キノ、スズカ、クシダ……どうかな」

 言われた一同は目配せをする。なんだか反応がいまいちだ。

 艦長さんたちは、日本の地理が良く分かってないだろうから仕方ないとしても、残りの三人が微妙な雰囲気だった。

「変ですかね?」

「いえとんでもない。コンゴウの事もあったので、もっと有名どころの名前が出てくるものかと思っていました。3隻セットですからそれに併せて命名するとかってね」

 小早川大尉が淡々と答える。

「そんなに詳しくないんで、セットとか言われても知りませんですよ」

「そうなのですか。サクヤといいコウゴウといい、そのへん熟知しているのと思っていたのですがね」

「たまたま、たまたまやでぇー」

 単に連想して出てきただけだからなぁ。

「それはおいといて、確かにこの名前は使われていませんね。承っておきましょう」

 これで、問題は全部解決したかな。

「それじゃ、もう他にやることはない?」

「いえいえ、最大のメインイベントが残っておりますよ」


 小早川大尉の顔つきが変わる。

 これ以上何があるというのだ?

 顔見せした、これからの予定を確認した、艦の名前も決めた。もうこの艦隊で俺が係わることってないよな。

 その前に、話が違ってきてないですかね?

「いやいや、それはこの艦隊に対してのことではなく、少佐本人に関係することですよ」

「……はぁ。自分がですか?」

 ふっ、いやぁ~な予感がするぜ。

 小早川大尉の顔が、マッドサイエンティストなそれへと変貌した。不気味な笑いが怖い。

「この艦はですね、2世代前の艦なのですよ。アイルランド謹製の船です。フフフ楽しそうじゃありませんか」

 にじり寄って来る。まて、なぜ、そうなる。

 つかこの船って結構昔の艦船ってことか。2世代って言うと、もう退役寸前じゃないのか?

「その辺で。少佐が怯えてますよ」

 美帆が助け船を出してくれた。思わず傍らに寄り添う。

「残念。もう少し恐怖に怯えた顔を眺めていたかったのですが。確かに時間もありませんね。やることをやってしまいましょうか」

「やること?」

「そうですっ」

 きりっと真面目な顔で答えられた。

 なんとなく、安西を連想させられるのは何故なんだろうね。安西の場合はメカに対してだが、この人……人間に対してなんかやばいものを持ってそうですよ!

「少佐、貴君は現在、ロボテクスを操縦できない。そうですね」

「えぇ、そうですね」

 今更そんなことを確認しなくても……。

「そうですよ。そうなんです。ロボテクスに乗りたいよね。とてもとても乗りたいと思っているよねっ」

「えー、今すぐ乗りたいとは思ってないかなー。時間経てば元通りのFPPになるって言われているしぃーそれまではのんびりとぉーですねー」

「君っ!今の現状解ってるのか?乗れなくなったために無理難題を押しつけられているんだよっ。悔しくないのかい?怒らないのかい?見返したくはないのかい?」

 怒濤のように言葉が俺に突つき刺さる。

「まぁ色々言われてはいますが、多分なんとかなると思ってますので、今更何かって言われてもですね」

 誘惑が目の前で踊っているのは解る。だが、安易に手を差し出すのは躊躇われた。

 だってねぇ……目茶苦茶胡散臭いじゃーあーりませんかっ!

「大丈夫、痛いのは最初だけ。それが過ぎれば新しい自分に出会えること間違いなし、試しに一回だけやってみてもいいだろう?」

 言い方が凄くやらしく聞こえるのだが、突っ込むだけ無駄なんだろうなぁ。

「はいはい、それじゃとりあえず帰ってから熟考の末に結論を出しますから、何がどうなのか資料だけでも下さい。帰って読みますので」

「残念だが、それはできない。今、ここでしかできない。今を逃せば次は無い。査察が入る前にやらないと停められてしまうだろうしな」

 はい!そこ、とても危険なことのたまったー。

「じゃっそういうことで、帰り──」

 後ろから羽交い締めにされた。瑠璃が後ろから抱きついてきたのである。

「私も興味あるんだ。それに、ロボに乗れるようになるのって何時?1カ月後くらい?それなら待てるけど、そうじゃないでしょ。君との対決はまだ終わってないのだから。それにまだまだ君を鍛えたいしね」

 気に入られているのはいい。もうそれは彼女でって迫られてもいたのだから当然な話だ。

 でもなんなんだ。この迫力。

 何をどうして彼女を走らせるのか。って、その前にやっぱりさっくりと元のFPPには戻らないのか。それはそれで困った話ではある。

「いーやー、それでも、いーやー」

 じたばたじたばたともがくが、拘束はきっちり嵌まってて逃げれない。

「もうそんなんじゃ駄目よ。仕方ないからコレっ」

 美帆が俺の耳にイヤホンを突き刺した。目の前に情報パッドをちらつかせて……。

「ぽちっとなー」

 情報パットが映像を再生する。

 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁすーーーなんでこれがこんなところにあるんだよぉぉぉ。

 肉付きがよく露出が高いコスプレした少女たちが画面に映っていた。

 しかも、ある部分を拡大した映像がじっくりたっぷりねっぷりと……。

 ──いやぁ、ほんと目の毒だなー──

 そーれーおーれーのこーえー!!!

 なんでソレがここにあるんだー。サクヤと共に消えてなくなったんじゃなかったのか。

「どう?私の言うことを聞く気になりましたかー?」

 にこにこと美帆が迫って来る。そのにこにこも口の端が引きつっていて一緒に笑える雰囲気は毛頭無い。

「くっ殺せ。殺してくれっ」

 羞恥にまみれ俺は叫んだ。

「んー解ったわ。じゃーれっつらーごー」

 艦の奥へと連行されていった。


大工(工作部隊)だけに第9デース。

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