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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
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隊長はつらいよ 03

「どこまで話をしたか忘れてしまったわい」

 福士中佐が苦笑いしながら言う。

「もう、かい摘んでいいですので、速く結論に辿り着いて下さい」

 かなり恥ずかしい状態です。できれば、帰って布団にもぐり込みたいくらいに。

「まあ、そういいなさんな。若い衆と話をするのはわしにとってもよいことだからな」

 にやりと笑みをこぼす。

 もぉぉぉぉ。単に晒者見たいだけじゃないのかっ。

 しかし、それは言えない。

「10月の体育祭だったな。そこでZ組を優勝に導いてもらいたいの所まで言ったな。理由については、指揮能力が見たいというとなのだが、そもそもどうしてそういう話がでたのかというとだな」

 滔々と説明された。

 なんとも重い話だった。

 というか胸くそが悪くなる。

 つまり、皇が俺に本気で惚れていることが、あの武闘会が原因で上層部に伝わった。今までは、皇が学校に行きたいが為の方便ではないのかと勘繰っていた連中も事実を知って慌てた。

 皇族を政争の道具と見なしている連中がいて、それが原因でUKに嫁ぐという経緯もある。

 婚約を破棄され、帰って来た皇に、そんじゃ次はこいつねなんてのは流石に言えず、ほとぼりが醒めるまで様子見をしていたとのこと。

 それが、本気で好きな奴が現れた。なんてことになり、卒業を待って色々と仕掛ける算段だった連中は血相を変えた。

 だからといって、一本だたらを撃退した英雄を排除できるわけもなく歯噛みしていたら、どうやらもうロボテクスには乗れないということが伝わった。

 本当にこのまま俺は乗れないままなのだろうか……。回復しさえすれば……何時になるのか…。

 それで連中はこれ幸と、反抗にうってでることにした。別れさせるネタにできると。ただ、そのまま直では言えない。だから難癖をつけることにした。

 それが、少佐であれば十分な指揮能力があるはずだ。ならば、体育祭でクラスを優勝に導くことなど造作もなかろうという流れに……。目茶苦茶な理論だ。

「そこで、わしは一計を案じた。基本、優勝するのはAクラスだからな。制度的にもそのように編成されておる。今までのクラスでは流石に勝てない。なら、勝てるクラスにしてしまえと。ついでに中島少佐の処遇もある。纏めてしまえば一石二鳥、いや三鳥四鳥になると」

「それがZクラスに自分が入ることになった理由なのですね」

 少佐という立場、周りの女性たち、人外疑惑、エリザベスの策略……満貫だ。そういった諸々が作用した結果という訳だった。

「幸い、1年生の本格的なクラス分けが2学期からというのが功を奏した。それと君一人では心もとないだろうからと、級友に話を持ちかけたら二つ返事で了承してくれた。後は、こちらとを繋ぐために霧島君が入ったという流れだ」

 古屋会長が話を締めくくる。

 いいように使われているのを理解した。

 まぁ、それもいいだろう、皇たちに助けられた命だ。恩義は返さねばならない。

 Zクラスの面々の力があれば、優勝もたやすかろう。基礎能力がダンチなんだから。俺が指揮するまでもなく……って、あっ。

「一つ問題が……」

 恐る恐る手を挙げて告げる。

「クラスの皆には、隊長としてあーだこーだ言わないと確約しちゃってます」

 既に指揮権放棄してましたっ!

 生徒会の面々に福士中佐は口を大きく開けてぽかーんとした顔になった。

 だってしょうがないじゃないですかー。そんなコトになっているなんて全然知らなかったしー、大体そんな器じゃないって、皆知ってんでょー。

 えも言われぬ沈黙が流れる。

 ……泣くぞ、ちくしょー。

「大丈夫だ。我が旦那なら問題ない」

 なんか久々に聞いたよ、その台詞。

 大きく息を吸い、吐く。

 うむ。

「まぁあれだ。少佐とか階級なんてなくてもなんとでもなるもんさ。同じ高校生、やることは一つ、友情・努力・勝利だ」

 意気揚々と宣言した。

 ………。

 しらけた空気が流れていた。

 ………あっれぇ~?

「一つと言いながら三つ言ってます」

 背後から咲華に刺された。


 あの後、日本側の面子の資料も確認して生徒会室を後にした。

 意気揚々と宣言したが、一癖も二癖もありすぎる面々に、早速前途多難であるのが身に沁みた。

「難しいか?」

 皇が聞いてきた。

「んー、どうだろうね。身体能力的には問題はないはずだし、足の引っ張りあいをしなければ優勝することはそう難しいことじゃないと思うが」

「そうか」

「何か心配事でも?」

「いや、なんでもない。いざとなれば我が全ての種目にでればと思ったのだが」

「それ、一番やっちゃいけないパターンだな」

「…そうだな」

 勝つためには手段を選ばず。勝って官軍、負ければ賊軍。

 そんな言葉も有るが、こと今回に限っては正々堂々と勝ちをもぎ取らなければならない。

 皇が全種目に出て、優勝を掻っさらう。できないこともないだろうが、そうなれば相手に突っ込みをいれられることになる。俺に指揮能力が皆無だと、皇に全て任せて能無し呼ばわりだ。

「まぁ、出場するなとは言わないよ。皇もZクラスの一員だ。出さない方がおかしいしな」

 といっても、個人種目に出させるのはちょっと無理がある。同じように咲華と柊も扱いには注意が必要なのはいうまでもない。と、なると、鍵は……。

「源さんとメアリーさんか」

 派閥のまとめ役である彼女たちの双肩にかかってきそうだと思案する。

「2人がどうかしたか」

「いやなに、双方の代表みたいなポジションだから、まずはその2人と交渉したほうがいいのかなって」

「無理じゃろ」

 柊が断言した。

「源は単にうるさいだけで、皆を率いている訳ではない。皆我が強いからな。衝突せぬ限り我関せずであろうな」

「でも、委員長の選出時に代表で来たのは彼女だろ?」

「あれは間部もおったからな。大抵の雑事に源を連れ出しているのがきゃつじゃ」

 あーなるほどね。となれば、間部と話を着ければ言い訳だ。彼女なら意図を読んでくれるだろう。

「それじゃ、日本組は置いといて、留学組から先に交渉した方がいいのかな」

「それは下策ですね」

 今度は咲華が言ってきた。

「委員長選出で、こちらは両方と距離をとり、平坂氏を選出しました。今また留学組にだけ話を持ちかけるのは、日本組が不信に陥るでしょう。それと、メアリー殿下も留学組のまとめ役ではないでしょう。強いて言えば引率者辺りかと」

「そうなん?」

「おそらく」

 ふむん。咲華の言葉はにわかに信じがたいが、彼女の分析力は一目置いている。かなりばっさりと評価するけどね。俺も一度評価されたし。

 となると、どうすりゃいいかねぇ。話の持っていき方に悩む。

 ほんと、政治家にはなれそうにないや。安西の言葉が今になって身に沁みた。


「おーい」

 お茶?

 じゃなくて、校門の所まで来たら呼び止められた。

 その正体は中江先輩であった。

 非常に頑丈そうな車から身体を乗り出して手を振っていた。

 大型のSUVスポーツ・ユーティリティー・ビークルだ。バイクでない中江先輩って初めて見た。

「先輩、車も乗るんですか」

 近寄って聞いてみた。

「ん?一応免許持ってるよ。君も持っているでしょ?別に珍しくもない」

 確かにそうだ。

 でも、普段はバイクの人がこんな車に乗るなんて……バイクを運ぶバンならまだ解るが、これだと運べないよな。中を改めて見た。

「やほー」

 後部座席には先程生徒会室で別れた東雲副会長が乗っていた。

「副会長?」

「そうですよ」

 ふむ?

「これからご帰宅ってことですか?」

「それよりこれどう?新車だよー」

 中江先輩が上機嫌で言ってきた。

 確かに車体はぴっかぴかで傷もない。ホイールもぴっかぴかで、タイヤもすり減っていない。

 使い込まれた手垢なんてものが全くない。

「凄いですね。夏休み中に買ったのですか」

「ふふふふー見たい?」

「え?そりゃ、多少は…」

 なんだか、凄い迫力で迫られた。新車ハイというやつか?

「それじゃ、こっちへ」

 いつの間にか背後に東雲副会長が立って、俺を後部座席に誘う。

 車内に入ると、まだ匂いが新しいのが解る。新車特有の匂いだ。

 3列シートの7人乗りか。結構高いんじゃないのこれって?

 しげしげと内装を見る。

「それにしても、先輩ならスポーツカーを買うものだと思ってましたけど、どうしてこれを?」

「瑠璃っち今よ」

 東雲副会長が乗り込んでくるなり言い放つ。

「ガッテンデーイ」

 SUVなのに激しいホイールスピンをしつつ急発進した。

「ちょっとお借りしますねー」

 背後に遠くなる皇たちに向かって、東雲副会長が叫んだ。

 一体何が起きたというのだ?


 車は猛スピードで市街地へ向かってひた走る。

「あのー、これってどういう?」

「ちょっとね3人でゆっくり話せるところへ行くだけよ」

「それってどういう……」

「あら解らないの?」

 妙になまめかしい仕種で東雲副会長が問いかけてくる。

 脳裏にあんなことやこんなことが、浮かんでは消えていく。ぶるるるっ、そういうことじゃないだろ。

「うふふっ、いま変なこと考えたでしょ。鼻の下伸びてたわよ」

 言われて咄嗟に鼻から口元を手で隠した。

「か、からかわないで下さいよ」

 抗議の言葉を挙げるがどこ吹く風。いやまぁ遊ばれているのは解っているけどさ。

 年上の人か……一個しか違わない筈なんだけど、やっぱ皇達とは雰囲気違うもんだな。

「ところでさ、約束憶えてる?」

「約束?何かしてましたっけ」

 二カ月入院してた時、見舞いに来てもらったことがあるけど、退院したら遊びにいこうとかそういう話しはしたことなかったよな。

「退院祝いに何かもらえるとか、そんな約束してましたっけ?」

「もっと前の話よ」

 もっと前?身に覚えがない。勉強の約束をしてたのは霧島書記だったし。特段何をしようかというのも無かったよな。

 あぁ約束と言えば一つあったな。それも、朝の集会のときに謝って済んだ話しだし。

「レースのお手伝いが出来なかったってのは、朝既に中江先輩に話したし、うーん、本当に何か約束ってしてましたっけ?」

「呆れた。えぇ呆れましたですよー」

 眉を逆ハの字にして東雲副会長は怒りだした。

「武闘会優勝の話を忘れていますっ」

「いや、でも、あれって優勝してないし、中江先輩にも勝ってないし、ってあぁそうですね。その場合、庶務になるんでしたっけ」

 負けた場合のコトを思い出した。Zクラスに廻されて庶務をやるのはどうなんだろう。それこそ生徒会の目的から外れる行為になりそうだ。

「んもー本当に解ってないっ。君は優勝したんだよ。ゆ・う・しょ・う!色々なことがあって、結果は没収試合になったけど、君が優勝したことには変わりないんだからね」

 つんと人指し指でおでこを突つかれた。

「だって中江先輩に勝ってないし、条件を満たしたってことになってないんじゃ?」

「私が出した条件憶えてる?」

「優勝すれば、付き合うでしたっけ。でもそれは中江先輩を倒しての優勝のはずですよね」

「瑠璃っちを倒すなんて条件はつけてないわよ。順当にいけば、決勝戦は瑠璃っちになるよって話だけです」

「……あれ?そうでしたっけ」

「そうです、そうなんです。だからっ、君はっ、私と瑠璃っちの彼氏になれるんですっ、いえっなるのです。なってもらいます」


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