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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
83/193

なんかようかい 05 + 幕間

「貴方、それ計算?」

 間部がメアリーに詰め寄りだした。

「なんのことですの?」

 二人は見つめ合う。

「そう、それならいい」

 独り納得したような間部であった。

「なんの──」

「乙女の会話に男子は無用」

 間部の言いように、俺とメアリーは何のことかとお互いに顔を合わせた。

「あっあ、ああ」

 いきなり顔を真っ赤にしだすメアリー。

「な、なんでもございませんー」

 脱兎の如く自分たちのグループに駆け戻っていった。

「訳が解らん」

「案外、彼女たちも普通なのかしらね」

 そう評価する間部である。

 怒ったり、取り乱したり、訳が解らなかったり、確かに普通そうだなと俺も感じた。

「それじゃ、時間の様だから後はよろしく」

 そのまま間部が去っていった。


 さてどうするか。時間はもう無い。速く決めなくては。

 皇はどうだ?駄目ですね。生徒会とのやりとりもあるんだ。そんな所に出るのは影響力がありすぎる。

 咲華はどうだ?ん?結構いいんじゃないか。実務能力は折り紙付きだろう。ただ、あの性格がなぁ。

 柊はどうだ?ムリデスネー。つか皇と反対の意味で影響力がありすぎる。

 俺?嫌だ。

 霧島書記は既に生徒会メンバーで、選べません。残念すぎます。

 安西は?………選ばれればこなしてくれそうではあるが…余計なこともしでかしそうだ。却下。

 あれ?となると平坂しかないわけだが……。ふむん、ちょっといいかもしれない。このクラスのメンバーにも動じていない。軍人家系だから見慣れているのだろうか?それならそれで分け隔てなく接していくだろう。実務能力も普通にあるだろうし……問題はないんじゃない?結構適任だったりするのか。後はやる気か……。

「なぁ平坂は学級委員やる気ある?」

「柔道部で忙しい」

「そっか、学級委員になれば、生徒会とも繋がりが──」

「みなまで云うな、お前の気持ちは理解したっ」

 キリッと真面目な顔をして了承してきた。

 あっさり問題は解決した。


 六道先生が教室から出て行く。

 これで、終業式は終了だ。後は帰るだけ。三々五々と皆が席をたち帰路についていく。

 そいや安西たちはあの寮には入らないのか?聞いてみた。

「あそこって僕たちが入るような所じゃないでしょ」

 しれっと言い返してきた。

「じゃぁなんで俺が?」

 安西は黙って俺を見つめる……。一瞬尻がキュンと危機感を発したがそういうことではない。

「何故そこまで自覚がないんだろうね。称賛に値するよ」

「はぁ~?」

「君は、武闘会で何を倒した?普通の人間なら一人で倒すことなんてまずできない代物を倒したんだよ。意味が解るか」

「いや、だってあれはサクヤのお蔭なんじゃない?生身でなんて無理だろ」

「まともな武装もない人形同然だったのに?」

「ほら、Fドライブもあったから、ゴムとはいえ強化すれば普通に武器になるだろ?」

 呆気にとられた安西だった。

「はぁ、お前本当に自分のしでかしたことを解ってないんだな。説明するのもいやんなる」

「なんだよ、その言いぐさっ」

「それはともかく、お前さんのしでかしたことで、一般寮生から苦情が殺到。柊事件もあってお前は晴れて転寮となった訳だ。詳しいことは生徒会長にでも聞いてくれ。どうせこれから行くつもりだったんだろ」

「一般寮生?」

「ちょっと待てや、なんでそれを知らないんだ。そんなの普通誰かにって……そうかお前は長船殿下と常に一緒やったからな。そういう話は聞いてないのか」

「なにそれ、美味いの?」

「先ず、学生寮はだな、一般寮、優生寮、軍家寮の3種類がある。優生寮は成績上位者と政治家や裕福層、これは簡単。軍家寮ってのは、家系が軍とそれに関する者だ、それ以外が一般寮となるわけだ。僕や霧島さんは優生寮ね。平坂は軍家寮だな」

「そういう分け方なんてあったんだ」

「そらあるよ。そうでなければ、問題が起こりすぎるからだよ」

 ふぅん、そういうもんなのか。

「まあ、所謂って所で、厳密ではない。その辺は緩いさ。それは置いといて、実はもう一つ寮がある。もうわかるよな」

「あの寮か」

 ぐるりと高く頑丈な塀で囲まれた寮。普通じゃありえんな。

「あんまり人はいないようだけどね。それでも数人はいるんだ。今年に限って言えば、例外中の例外だろうけど。長船殿下も笑いが止まらないんじゃないか」

「ヤツのことはどうでもいい」

「とりあえず、一般寮生からして見れば、君が怖いってことだよ。そういう流れもあったし、柊事件もあったしで纏めて転寮となった訳だ」

「さっきも言ってたが、柊事件ってなんなんだ?」

「聞いてないのか?」

 安西は、柊の方を見る。

「その話は本人から聞いてみるんだな。どうせ相部屋だろ。僕はまだ命がおしいしな」

 あ゛ーなんだかとても嫌な予感だらけだ。

「僕からはそんなとこだよ。ほら、君に話をしたそうに伺っている娘に後は任せるよ。じゃあね、また明日」

 振り向くと、そこには霧島書記がいた。

「じゃ、後はよろしく」

 安西はそのまま教室を出ていった。

「生徒会室ですね。俺も行くつもりでしたよ」

「はい、お願いします」

 聞きたいことも言いたいことも沢山ある。ありすぎて、忘れるくらいにだ。

「それにしても霧島さんも大変ですね。なんだか色々巻き込まれたみたいで」

 普通なら特Aクラスの住人だ。Zクラスにいるような人じゃない。

「生徒会役員ですので……」

「それにしたって、このクラスにくる事じゃないですか」

「それは、色々ありましたので」

 目をそらし、外を見つめる霧島書記。黄昏てるなぁ。

 彼女の事情を知るよしも無く、なにがどう転んでこうなっているのかなんて察することはできないが、本当御愁傷様です。



幕間 迷走する留学生


 政宗たちが住む人外達の寮のミーティングルームに留学組が集まって話し合いをしていた。

 壇上にはメアリーが立ち、司会進行役を努めている。

「今日から、学校が始まりましたが、皆さん疑問点問題点などありましたら、言って下さい」

 一人が手を挙げ、メアリーが指名した。

「マルヤムさんどうぞ」

「確認するが、学校では人の姿、寮では元の姿で良いと言っていたが、外出するときは、人の姿にならないと駄目なのだな」

 浅黒い肌した双角の少女が自分の角を指差して聞く。

「そうですわね。要らぬ騒動を起こさないためにも、人の姿でいて下さい。それと、市街は普通の人しかいませんので、そのように振る舞ってください」

「普通ねぇ」

「私達は姿を変える事はできませんが、その場合はどうすれば?」

 自分の耳を指差して問う。耳の上辺が尖っていた。彼女はエルフである。

「カルディアさんでしたわね。その場合は帽子を被るなりして隠して下さい。学校ではその位ならば大丈夫という事はお伝えした通りですので気にしないで下さい」

「その位ってのが何処までなのだ」

 マルヤムが再度問いかける。

「駄目なのが、角、翼、尻尾、獣化形態、巨大化、ロリ化、熟女化、ババァ化……なんですかこれはっ」

 資料を読み上げて書かれてる項目にかなぎり声をあげる。

 その資料とは長船から渡されたものである。

「つまり、年齢を変化させることも禁止ということですね」

 カルディアが要約してまとめた。

 取り乱しかけたメアリーは咳払いを一つして、そうですわねと頷く。

「次に、諸注意として過度の装飾は禁止、ピアス、タトゥなど身体に傷を付ける行為も禁止、過度な露出も禁止、不純異性交遊も禁止、逃亡はしたければどうぞ。その場合は当局の加護は無くなるので気をつけること……」

 わなわなと震えながら、読み上げる声が段々と低い声になっていく。  

「ノリノリな文章だな。流石は殿下」

 マルヤムが笑う。

「あの御方は……」

 想像している理想像が音を立てて崩れていくのが聞こえた気がしたメアリーであった。

「その辺は渡された資料の再確認ですね。それよりも、これからの私達のことが問題。本当にあの条件でいいの?」

「クリスティーナさん、条件とはあのことですわね」

「それしかないでしょ」

 肩をすぼませて云う。

「この学校を卒業し、軍に最低1期侍従することを決めた時点で、日本人に帰化できます。また、卒業時点で自国に帰国するのも構いません。もしくは、UKに行って新たな路を模索するのも可です」

「なんとも望外な報酬だな。本当にここを卒業するだけで自由の身になれるとはね」

「別に貴女達を拘束したつもりはありません。ここを今すぐにでも立ち去っても構わないですわよ。ただし、長船殿下から賜った加護が無くなるだけです」

「ふんっ、そういうことにしておくよ。で、だ。もう一つの方だが…」

 マルヤムが、メアリーをじっと見つめる。いいのかと目で訴えている。

「それも含めて」

「まあそうだろうね。既に抜け駆けした奴もいることだし」

 ちらりと視線を別の少女に這わせる。

「返り討ちにあって素っ裸にはされたくないが、面白そうな相手じゃないか」

 視線を向けられた少女は黙ったままだ。

「退屈な学校生活の色ってことだ。精々気張らせてもらうよ」

「その余裕が、後悔にならないことを祈らせて貰いますわ」

 メアリーが嘲笑う。

「はっ、自分が駄目だったからって他も駄目と決めつけるなよ。恩義があったから初手は譲ったんだ。後は好きにやらせてもらうさ」

 一触即発の睨み合い。

「その辺にしてください。これ以上は……」

 割って入ったのはメイドの格好をした少女だ。

「アラキナっていったけ」

「アラキナ・マーチです」

 対峙する二人。

 そのままマルヤムがアラキナの背後を確かめる。後ろには更に三人のメイドがいる。

「こんな処で騒動を起こすつもりはないさ。ただ言っておくが、ウィンザーだろうとここでの立場は同じだからな」

「解っていますよ」

 メアリーが何か言おうとしたのを押さえて、アラキナが返答する。

「それでは、他に何かあるかたいますか」

 アラキナが話を進める。

 一人が手を挙げた。

「はい、クリスティーナさんどうぞ」

「学生するのはいいけどさ、ここでどうすればいいのよ」

 いかにも抽象的な問いであったが、皆感じていることだった。

 学生生活を営むといっても、今までそんな体験をしたものはメアリーを含めて少数だ。何をどうすればいいのか解っていないのだ。

 生まれも違えば、生きてきたこれまでも違う。違うことだらけで、統一した考えなどあろうはずもない。

 アラキナが資料を捲り、当該事項がないか探す。

「恐らくこの文面がそれに該当するものかと……。友情・努力・勝利で平和に過ごす…」

 そこまで行ってアラキナが固まる……えもいわれぬ表情だ。

「つまり好き勝手にすればいいってこと?」

 クリスティーナが要約して問う。

「そういう意味ではないと思いますが」

 明確な指針がないことに、アラキナも戸惑っているので、これだと言い切れない。

「もっと明確なルールはないの?」

 更に資料の中を漁るが、明確なものは出てこなかった。

「それは生徒手帳にでも書いてあるんじゃないの。そっちは?」

 横合いから褐色の肌をした少女が言ってきた。

「カナンさん、それは学生での行動で、普段の行動を記すものではないと思うけど」

「見た?結構細かいこと書いてあったわよ」

 皆がそれぞれ生徒手帳を開いて書かれているものを見る。

 が、殆どのものは書かれている文字が読めなかった。

「日本語なんて良く読めるわね」

 クリスティーナが毒づく。

「私は日本の方々と交流が少々ありましたから」

 しれっとカナンが答える。

 日本語での会話は、長船が集中的に教えたが、文字までは手が回っていなかった。

 なので、日本語が読めるのは元々知っていなければならない。

 書かれている文字を見て、こんなのが少々係わった程度で読めるはずがないと、クリスティーナは判じる。結構入れ込んでんじゃないのよと、自分にしたって字画の多い漢字というのは良く分かっていない。

 アラキナが代表して、書かれている内容を読み上げた。


「……なあー、それ本当に全部守らなければならないのか?」

 マルヤムが呆れた顔で言う。

 こと細かに書かれた内容を聞いて、周りの皆も同様な表情だ。

「日本の諺にこういうのがあります。それはそれこれはこれ」

 カナンが生徒手帳を振りまわす。

「それじゃあ結局何も解らないってことじゃないの。あんた本当に日本語読めるの?」

 クリティーナが、提案者を見て呆れ顔になる。

「少々と言ったよ。全部読んでいたらこんなこと言わなかったよ」

 へーへーそーですかーと、両手を大仰にあげて反論を聞いた。

 それじゃあどうするのだと、皆がメアリーに視線を集める。

 突然、振られてたじろぐメアリーであったが、そこは表情に出さずに答える。

「では、中島少佐に今後のことを含めて聞くことにしましょう。それであれば、あの条件にも適うことになるでしょうし」

 結局まる投げであるのだが、全員が頷いた。

 彼女たちの前途は多難であった。


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