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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
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なんかようかい 04

「さて、始業式も無事終わった。次いくぞ。まずは諸注意だ。お前たちは普通の学生とは違う。解っているとは思うが、基本FPPがAA以上となる問題児たちだ」

 笑いながら告げる。それは六道先生自身にも当てはまる事だ。

「神秘学でも学ぶことだが、俺たちは普通の人とはちょっと違う状態だ。だから注意しなければならない。特に、一般人に紛れて生活するにはな──」

 つらつらと説明される。

 まぁそうなるわな。ここにそれに達してないのは俺、平坂、安西と……咲華もなのか?後は霧島書記もそうなるのだろうか。

 俺と咲華がこのクラスになるのは100歩………100億歩譲って仕方ないとしても、あの三人はなぜこのクラスなんだ?

 そいや安西が俺がいるから了承したとかいってたっけ。となると、平坂もその口か?サクヤ関連があったからこそ安西が二つ返事だった訳で……、平坂の理由はなんなんだろうか。

 それに霧島書記もこのクラスになるのは自分の意志ってことになる?教室に入ってきた時に見た顔は、何故私がここにって感じがする迷子の小犬のような感じだったが……。

 後で聞いてみるか。場違い衆で固まるのもまた一興。

 いや、そうではない。これからこのクラスでやっていくためにも、FPPが低い者たちで協力していくかない。

「──以上だ、解ったな。解らない奴には鉄拳が待っている」

 シーンと静まっている。

「解ったかっ」

「了解でありますっ」

 意味を理解した途端、全員が声を揃えて応えた。

「ならばよろしい。では次いくぞ次、クラス委員を決める。自薦他薦構わん10分協議の時間を与える。先ずは話し合え」


 俺はクラスを眺めた。クラス委員ねぇ。誰かがやれば云いとは思うが……では誰が適任者だ?

「中島が立候補すればいいんじゃね?」

 安西がやってきてのたまった。

「確かに、お前が元凶なわけだしな」

 平坂まで言ってきた。

 状況を考えてみる。現状、寮では少佐の身分はバレている。バレたうえで、非常時以外は普通の学生生活を謳歌しろと宣言している。それは、俺が指導をするつもりがないということだ。つまり、それはここでも当てはまる。うん、そんなの柄じゃないね。

「俺は遠慮する。上に俺が立っちゃ本末転倒だ」

「はーまたぞろ、放棄中ってことか」

 的確に安西が事情を読んできた。

「そうなると、話はがぜん難しい事態に陥るな」

「どういうことだ?」

 したり顔をして安西は続ける。

「大まかにここには3つの勢力がある。特A組と留学組と僕たち普通の勢力だ。これで僕たちが主導を取らなければどうなるかというと、力ある2つの勢力がぶつかり合うということだ」

 御高説は続く。政治家の息子だけあってそういうのは得意ということだ。

「特Aが取る。自然、留学組が反発することになる。特Aの事情でクラスが運営されるからだ。僕たちとしては2つの勢力がやり合うのを、怯えながら過ごすことになるだろうね。逆に留学組でもそれは同じことだろう」

 云いたいことは解った。つまり、なんとしても争を避けるためにも俺たちの誰かが主導を取らなければならないと。

 俺たちならば、両方を立てることができる。いや、しなければならない。そいつは相当精神が強靱なやつになることだろう。合掌である。

「それでも、皆を引っ張っていくことができる人物となると、僕や平坂では無理だ。霧島さんは生徒会役員だから除外されるし、残っている者となると……」

 安西と平坂が俺を見つめる。

「そういう意味だと俺も駄目だな。彼女たち全員俺の隊員だ。朝に俺はそういうことはしないと言ったんだ。それなのにクラス委員長に立候補となると、掌返しもいいとこだ」

「それって……」

 平坂が怪訝な顔をする。

「そうだ、さっき言ってた奴だよ。まさかこんなことになるとはね」

 肩を竦ませる。

「いらんことを……そのまま権力握っておきゃ何事も無く済んでたのに。ほんとお前は政治家にはむかんよな」

 嘆息する安西。

「うるせっ」

「じゃーだれがやるんってんだ?」

 平坂が急かす。

 視線は自然と、皇、咲華、柊に向く。

「却下だ」

 にべもなく安西が否定した。

 まぁそうなるよな。

「それじゃ、誰も適応者がいないって事になるなぁ」

「うーむ……」

「駄目だと最初に言ってたが、安西か平坂が適任なんじゃね?」

「何故だ?」

 平坂がびっくりして聞いてきた。

「平坂の場合、家系が軍人だろ?生徒を率いるってことなら、軍の学校だ。ほら適任適任」

「いやそれは、余りにも短絡すぎるぞ」

 抗議する平坂では有るが、話は聞かない。

「次に安西。お前も政治家の息子だ。人をまとめ上げる手管は解っているだろ?ほら適任適任」

「そんなの家と僕とでは全然違うよ」

 安西も拒否してきた。

 まぁ誰もめんどくさいことやりたくないわな。

 では誰が一番なのか……。改めて周りをみる。予想通り特Aと留学組で固まっていた。

 源が兄貴と先生に向かって言ってたっけ。その線から彼女が名乗り出る可能性は高いと踏む。

 留学組はメアリーで確定だろう。彼女たちを実質率いているのだから。

 なんともまぁ喧嘩の種には困らなさそうな雰囲気だ。

 んー、どうするかなぁ無難で皆が納得するような人物って……。こういうとき長船ならなんとしたことだろう。

 奴は絶対自分が委員長になんかならない。そうなれば、誰かを委員長に仕立て上げることに全力を尽くすだろう。奴が狙う人物……。わっかんねーつーのっ!!妹ラブなら皇にってやってきそうだってのが思い浮かんではいたが。

「うーん」

「難しい問題だな。全員が立候補させてしまって各自自分以外の誰かに投票するってのはどうだ」

 平坂が名案だろと意気揚々と言ってきた。

「あーそれは一番やっちゃいけないパターンだ。委員長になったやつは票を入れた奴を優遇するだろう。あと自分側の者も満場一致でない限り、しこりの元になる」

「たかだか委員長決めるだけってのに、難しいこと考えるよな」

 げんなりした顔で平坂が言う。

「この1年の間の権力だ。下手な奴に持たせればどうなるか……。2学期もてばいいほうかもしれないよ」

「怖いことをいってくれる」

 誰かを選ぶって本当面倒くさいな。

 それでも一票は無駄にしたくない。もしかして、六道先生はこういうのを見越して10分の時間を与えたのだろうか……。

 勘繰りすぎかねぇ。

「それじゃ誰がいいんだ?」

 平坂が不平をこぼす。

「そうだね……無駄に行動力があって、誰の利害も考えない。敵も味方もひっくるめて懐に呑み込むような……馬鹿」

「居るわけないだろ」

「そうだよね」

「もう、安西がやれよ」

 平坂が突っ込んできた。

「御免被る。僕はメカをいじってたいんだ。余計な仕事はしたくない」

 議論という名の押し付合いは尽きない。


「少しいいかしら」

 言ってきたのはメアリーだった。

「待てまて、俺たちも話がある」

 割って入ってきたのは、源と間部の二人だ。

 三人が睨み合いになる。見えない火花が散っている。

「委員長のことか?」

 三人は頷く。

「中島少……さんは立候補しないのですか」

 メアリーが話しかけてくる。

「あぁする気はない。それで誰に投票しようか話してた所だ」

「それでしたら、私に入れてくれません?皆の前で推薦をお願いしたいのです」

「待てや、俺たちだって大将に票を入れてくれって話なんだ。邪魔はするなよな」

 今度は、源が言ってくる。

 俺は、安西を見た。どうすりいいんだと目で訴える。

 知るかと口が動いた。

 ですよねー。

「んーそれじゃ、両方ともに聞くが、俺が推薦するメリットはなんだ?」

「そりゃ日本人なら、頭は日本人がいいだろ?だから俺たちの候補に入れるのは当然だろ?」

 源の主張である。

「貴方は私の許嫁なのですから、私に投票するのが筋ではなくて?」

 メアリーの主張であった。

 素でいっているのか、含みがあって言っているのか、悩む所だな。

「それはメリットとは言わないよね」

 にっこり笑って返答してあげた。

「なら、俺を好きにするってのはどうだ?このあいだの続き、いいんだぜ」

 何を勘違いしたか、源がノリノリで言ってきた。確かにこの姿なら……問題はないのかもしれないが。

 俺はまだ死にたくない。いやもう、突き刺さる視線で既に死にそうです。

 メアリーが噛みつこうとするのを制して俺は言う。

「それはお前のメリットなだけだ。手込めにされるつもりはない」

「ああん、俺に魅力がないってのか?」

 凄味を聞かせて脅してきた。

 なので、俺は防護策を講じる。問答無用だ。

「柊、源がお前に話があるそうだ。ちょっと話し合ってきてくれ」

「解ったのじゃっ」

「ちょっ、あっ、えぇーー」

 引きずられて退場していった。

「さて、メアリーさんのほうは?」

 水を向けられ戸惑いだす。

 おどおどする姿を見て思う。エリザベスよりチョロそうだと……。彼女ならもっと違うやり方で攻めてくる筈だ。姉妹だとしても全然違うものなのだと感じた。

「意見がないようですので、飛ばして次、間部さんどうぞ」

 漸く真打ち登場ってところか、心の中で身構える。

「では、私達はメアリー率いる留学組が委員長にならなければ問題ないと考える」

 ばっさりと来たな。

「その心は?」

「今まで私達だけでやってきた。だから部外者に荒らされたくない」

「ふむ、じゃぁ“俺たち”の誰かが委員長になるのは?“君たち”から見れば“俺たち”も部外者ではないん?」

 態と区切りを引いて聞いてみた。

「そこは妥協する」

「なるほど、了解だ」

「話が早くて助かる」

「なんとなく、間部さんなら、そういう流れを言ってくるだろうと思っただけだよ」

「あら、私って理解されてる?」

「おっと、それ以上は駄目だぞ」

「残念。とても残念。すごく残念」

 そこっ、舌なめずりしないっ。

「そんじゃ、メアリーさん、いいかな」

 メアリーは俺と間部を見やる。

「私達も、彼女たちに指揮権を取られるのは良しとしません。留学組が下とされるのは屈辱ですわ」

「別に上も下もないと思うけど」

「ありますわっ」

 あるそうです。

 どの辺に上下があるかなんて所までは追求しないでおこう。意地悪したかった時間がない。

 何故だろう、妙に嗜虐心をそそられる所が彼女にある。

 それは置いといて、話を進めなくては。

「それじゃ、間部さんにも聞いたが、俺たちの誰かが委員長になるのはどうだ?」

「………それは」

 彼女からすれば、自分が委員長になるのが規定路線だった筈だ。それがけんもほろろに却下となった。ここで再度押しても引くわけがないのは解っているだろう。

「私が委員長になれば……クラス全員を分け隔てなく……」

「往生際が悪い」

 すかさず間部が突っ込みを入れてきた。俺もそう思う。

 言葉が詰まったメアリーは助けてくれとばかりに俺をみるが、同意できるはずもない。

「なによっなによっなによっ」

 どうにもならなくヒスを起こしやがった。

 流石に想定外の出来事に一瞬思考が固まる。

 その後は反射的な動きだった。

 メアリーに抱きつき、口を押さえる。

 周りがざわついた。

 そらそうだ。いきなりこんなことしたら何事かと思うのは当たり前だ。

 それでも六道先生は動かない。にやにやした顔でこちらを見ていた。

「そろそろ時間だぞ、どうするかそろそろ決めておけよ」

 言うのはそれかよ。

 それはそれで助かるのだが、なんとも放蕩な先生である。

「ちょっと落ち着こうか」

 メアリーを見つめる。

 ゆっくりと塞いだ口から手を離す。

 何も言ってこなくて助かった。これ以上暴れるようなら収拾がつかなくなる所だ。それは彼女にとってもマイナス要素だろう。

「そんじゃ、話を戻すぞ。メアリーさんたちの留学組の意見を言ってくれ」

「……わ、私達も日本の人外組から委員長がでなければ、問題ないです」

「了解した」

 とりあえず、落ち着く所に納まってくれた。なんだかんだと、俺が決定権をもっちまったようだ。後は誰を委員長にご指名するかだが………それ全然決まってなくね?


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