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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
81/193

なんかようかい 03

 おー、確かに安西と平坂がいるー。

 それに霧島書記も本当に居た。

 顔見知りであるからして、三人は教室の隅に固まっていたから直ぐに解った。

 他の面々は寮生か。見知った顔がしっかりいる。

 俺は三人に挨拶をする。

「重役出勤だな。しかも、お供を侍らしてお殿さまかよ」

「ハッハッハッハッー開口一発面白い冗談だな」

 安西が早速悪態をついてきた。

 それにしても機嫌が悪そうだ。なんというかフラストレーションが溜まっているときのような感じだ。

 そうか、自動車部のこともあったな。結局、手伝うことが出来なかったしなぁ。

「自動車部のことは済まなかったな。なんせ入院で身動き取れなかった。色々と尻拭いしてくれたようでありがとな」

「そんなことは一切関係ないっ」

 プピーって音を慣らしながら湯気をおったてたヤカンのように迫ってきた。

「お前がこのクラスになるって聞いたから、了承したのに、サクヤがないってどういうことだっ」

 了承?サクヤ?

「僕にサクヤを触らせろ、いじらせろ、分解させろ、舐めさせろーー」

 普段のやつからして到底想像のつかない迫り方……ではないか。メカが絡むとこんなもんだったな。

「ちょっと待て、言っていることの意味がわからないぞ」

「そうだ落ち着けって」

 平坂が割ってはいる。菩薩さまかと思うほどにこやかな顔をして……。いや、そうではないな、そういうのを通り越して、路を歩いていただけで通報されそうな、危ないところまできている顔だ。こいつも何があったというのだ。……どっかに通報した方がいいのだろうか。

 そしてもう一人。

「おはようございます。お見舞いありがとうございました。単位落とさなかったのは霧島さんのお蔭です。本当助かりましたよ」

 こんなことになってしまったのは生徒会のせいであると、義務感を露にして、マンツーマンで献身的に徹底的にしごいてくれました。何をって勿論頭の中をですよ。入院している夏休みに勉強を見てもらったのである。

 半端なかったが、お蔭で補習の試験もなんとかクリアでき、今の俺がいるといっても過言ではない。

「はいっ榛名は大丈夫です」

 ……あれ?

 霧島書記もなんかおかしい。視線が忙しなくあっちいったりこっちいったり。

 緊張している?いや、というか怯えている?何故だ?

「霧島さん、なにかありましたか?」

「はいっ榛名は大丈夫ですっ」

 全然大丈夫じゃねー。

「ちょっとちょっとどうしたんですか?何があったんです」

「はいっはるなはだいじょうぶ…で……す」

 だ、だめだこりゃぁー。

 メーデーメーデー!!衛生班っ衛生班応答せよッって、そんなんいねーよっ。誰か誰か……辺りを見回して……フッ居ませんよね。

「変わって下さい」

 言ってきたのは咲華だった。

 そうか、咲華なら咲華ならなんとかしてくれるか。

「すまんが、頼む」

 位置を入れ換えた。

 咲華が霧島書記の傍らに立ち、徐に顔を近づけて耳元で何か囁きだす。

「……まだ大丈夫。慌てる……ではありません」

 ぼそぼそと呟いているので何を言っているのか聞き取れない。なにか安心させるような事を言っているのだろうと推測しておく。

 仕方ない、霧島書記のことは咲華に任せて、俺は安西に事情を聞く。

「はん?知らないよ。入ってきてずっとあーだったぜ。それより、サクヤはどうなってんだ?何時戻ってくるんだ?夏休みずっと期待して待ってたのに、新学期始まってもまだ何も連絡がないんだぞ。どういうことなんだ」

 険を最大にして詰め寄られた。

「そんなの昨日まで入院してた俺が知るわけないだろう。大体当分乗れないんだ、あっても仕方ないだろうよ」

「乗れない?どういうことだ」

「今の俺、FPPがDランク」

「………理解した」

 破裂寸前だった風船が、一瞬にして萎んだ。

 そのまま机に突っ伏して動かなくなった。

 心中お察しするが、俺のことも察してくれよな。

 普通ならFPPは特訓すれば上がり、使っていなければ下がる。でもそれは程度こそあれCだとして+か-になる程度で大きく変動することはない。そう普通なら、大体そう変わることが無いということだ。

 死ぬほどの猛特訓や命の危険があったとき、稀にCからBへと大幅に上がることはある。同じようにそれが下がる時とはつまり、大怪我や大病を患ったときだ。

 そういう意味では退院した現在、回復したと見て、FPPは時間が経てば元に戻るだろうという診断なのではあるが……。何時元に戻れるかは定かではない。

「嘘ですわよね」

 それに異議を唱えてきたのが背後にいるメアリーだった。

「本当ですよ」

 振り向き、答える。

 しかし、それはまるで信じていない顔だった。

「それでは、何か特殊な能力を持っているのですか?」

 なんだか食い下がられる。

 特殊……特殊ねぇ。

「今日まで生きているのが特殊能力…なわけないよな」

 それならそれで悲惨すぎる。なにそれだ。

「こんな状況でものほほんとしているのが、お前の特殊能力だ」

 机からのそりと頭をあげて安西が言う。

「お前だって、全然動じてないやんけ」

「あー僕?だって興味ないし」

 その一言を平然といえるだけで立派に特殊な才能だよ。

「それじゃ、平坂は?なんだかお花畑にいる感じだが」

「そりゃ、霧島さんがいるからだよ。で、その霧島さんはあんなふうになっている。このクラスの異様さに圧倒されりゃ、あーなるのが普通だと思うな。尤も彼女の場合はそれだけではないようだけど」

 どういうことだ?ちらりと霧島さんを見る。咲華に何か囁かれている……がどうなっているのかまでは解らんな。

「そういう訳で、メアリーさん、こいつの能力は驚くべき順応性だよ。2~3日すれば、君も解るだろうさ」

 云い終わるなり、またばたんと机に突っ伏した。

 解説ありがとう。ホントニナッ!

「ちょっと貴方、何故私がメアリーだと解ったのですか」

 血相を変えて問い質してきた。

「だって、エリザベス殿下とそっくりときたら解らないはずがない。ついでに、ウィンザーでしょ。同じ汝だ。」

 顔も上げずにさっくり答えてきた。

 いやぁ名推理だ。

「こっこっこっ……」

「こけこっこ?」

 つい、言ってしまった。関西人根性が染みついているなぁ俺。

 勿論睨まれた。

「この者は、私をウィンザー家の者と知っててこの態度ですか?」

 俺に詰め寄られても知らんがな。

「そもそも、長船の結婚相手とでしか知らないよ。そっちの御家事情なんて知ったこっちゃない」

 ぐぐぐと握りしめた拳を胸元まで持ち上げ、一気に脱力した。大きな溜め息がその後に続く。

「どうして、どうして…全然思った通りにならないなんて……」

 ぶつぶつつぶやきながら、去って言った。

 お付きの者がやってきて、何か言っているようだが、話は聞こえてこない。

「中島、メアリーってあれか?お前の」

「どうにもそうらしい」

「……御愁傷様」

 泣けるぜ。


 始業の鐘が鳴ると程なくして先生がやってきた。

 とりあえず適当な席に座って先生を迎える。

 教壇に立つ先生。なんとも物々しい雰囲気が醸しだされていた。

 2メートルはあろうかという身長。丸太のような手足。筋骨隆々な肉体が安物のスーツとあいまったちぐはぐな感じ。

 しかも男性であった。渋み……違う凄味のあるニヒルな顔だち。

 色めき立ったのは日本側のあっち側、特Aの生徒達だ。

 彼女たちはあーいったのが、好みなんだな。どうでもいいけど。

「あー、今日からこのクラスを担当することになった、六道慎紅朗だ。卒業するまで面倒を見ることになった。よろしくな」

 ん?卒業するまでって……。クラス変えないの?どういうことだ。

「既に見知った奴もいるが、これまで通り甘やかすつもりは毛頭ない。留学組もそのつもりでいるように」

「了解でありますっ」

 日本側の特A達が声を揃え一斉に答えた。

 つまり、顔見知りとは彼女たちがそうというわけか。

「とりあえず号令かな。そんじゃ源、お前やれ」

「了解です兄貴」

「兄貴と呼ぶなと言っただろう」

「合点承知」

「いいからやれ」

 ん?んんんー?

「起立っ」

 澄み渡る号令に反応し全員が立ち上がる。

「礼」

 判を押したように綺麗に腰を曲げる。ちらりと前を伺うと六道先生も礼をしていた。

「着席」

 席に座った。

「そんじゃ出席を取る。呼ばれたら返事をするように」

 あいうえお順に名前が呼ばれていくのを見送った。


「さて全員いることを確認したし、今日の流れを説明するぞ。先ずは始業式だな。全員校庭に並ぶ。順番はさっき呼んだ名前の順番で並ぶように、多少ずれても構わんが列を乱すことは厳禁とする。もし乱した場合、全員で校庭10周走らせるからな肝に銘じておけ。それから──」

 入学式と似たような説明が続いた。

 他の先生では見たこともないごっつい先生ではあるが、やることは他の先生と同じようだ。

 まぁそらそうか。先生毎に変わっていたら生徒もたまったもんじゃない。

「そこ煩いよ」

 言った途端、源が吹っ飛んだ。

 真っ直ぐに飛んで天井にぶち当たって落ちる。

「あだっ」

 そこは源、持ち前の運動性能を駆使して綺麗に着地した。

「六道先生、痛いであります」

「なら静かに座っていろ、お前らはいつもそうだ。少しは大人しく話を聞くことを憶えろ」

「了解であります」

 何事もなかったように、源は座った。

 ざわ………。

 騒いだのは、留学生たちだ。今何が起きたのか、という混乱だ。

 六道先生は生徒を見回してから言った。

「俺もお前たちと同じだ、意味は解るな。それでも俺は先生としてここに立ってている。ちなみに、今のは先生からの愛の鞭だ。言うことをきかないやつにはびしびしと指導を与える。解ったか?」

「了解であります」

 クラス全員が呼応した。彼女等の手綱を握るのは何も俺だけの役目ではなかったようだ。

 どっちかというと六道先生がメインで俺の方が保険といったようなものか。

 少し安心した。もし、何かあったとき、学校で部隊がーとかいって無理やり押さえつけるようなことになるから、できればそんなのしたくない。

 チキンと思うなかれ、ことなかれ主義です!

 学校ではしっかりと六道先生が抑えてくれるなら、こちらもやることがなくてよしっなのです。


 始業式も先生がかましてくれたお蔭で、つつがなく特段騒ぎも発生せず静かに終了した。

 やはり校庭10周というのが、はったりじゃないというのをみんなして理解したお蔭だろう。 

 教室に戻る時、見つけておいた中江先輩の所へと向かった。

 いつもペアでいる東雲副会長は生徒会役員として、廻す方にいるので列にはいない。

 逢うと話が長くなるから、いないことに感謝しつつ話しかける。

「お久しぶりです」

「本当にね。あんまりお見舞いにいけなくてごめんねー」

「いえいえ、レースで色々と忙しかったのですから、気にしてません。そうそう3位おめでとうございます。余り役に立てなくて済みませんでした」

「入院しちゃってればね。気にしないでいいよ」

「ありがとうございます」

 感謝を込めてお辞儀する。

「気にしない気にしない♪」

 頭を撫でられた。

「わっなっなにを」

 思わず頭をあげる。

「あら、もうちょっと撫でさせてくれても良かったのに」

 ……確かに失敗したぁぁぁ。びっくりして頭あげるんじゃなかったぜ。

 後悔先に立たず。もうちょっと堪能できたのに。勿体ないお化けが出る。

「それじゃ、またね」

「はい、またよろしくお願いします」

 去っていくのを見送った後、俺も教室へと脚を向けた。


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