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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
79/193

なんかようかい 01

なんかようかい


 朝だー。

 今日から二学期が始まる。入院と夏休みを挟んで、ほぼ二カ月ぶりの登校になるのか。

 入院中に、お見舞いに来てくれた人達へ挨拶せねばなるまい。

 始業式終わった辺りで廻ってみよう。

 ついでに生徒会室にも行って、苦情の一言もかまさなければならない。

 それにしても……、怒濤の展開ばかりだな。俺の人生こんな感じで突き進むのだろうか。

 まぁ朝一から鬱な事考えない考えないっ!

 先ずは飯だ。

 以前と同じく、着替えて食堂に向かう。もう頭の中では寮の地図はできあがっている。なんせ、昨日お宝を探して徘徊したからな。

 俺の部屋は3階。4LDK、トイレ風呂別と、この間までいた寮より豪華だった。部屋も10畳分はある。

 何故部屋が豪華なのかってのは、この寮生たちのおかげだ。

 ぶっちゃけ、広くないと部屋に入れないのだから。

 しかも、この寮。食堂、風呂といった定番だけでなく、レクリエーションルームや教室っぽいものまで備わっている。それが1階と2階に地下でと割り振られていて、他の寮とは規模が違いすぎていた。

 ここで、外に出ないでずっと学生やってけるかもしれない。

 住込みの学校といっても差し支え無さそうであった。


 着替えて洗面所で身なりを整える。

 あのまま入院だったけど、服は綺麗である。咲華がやってくれたと、入院中に聞いた。

 感謝しなければならないが、俺の秘蔵の宝物の件がある。感謝できねーつーのっ。

 衣服類は大丈夫のようだな……。箪笥や洋服ダンスを開けて確認する。

 ハンカチも綺麗に折り畳まれて……なんかいい匂いがするぅ。

 シャツも襟と袖に糊が効いていて、ぱりっとしている。凄く手際がいい。とても感心した。

 自分も洗濯してアイロンがけまではするが、糊付けはしたことがない。

 身なりの整頓は、軍では絶対やらなければならない項目の一つであるが、手を抜くところは抜いちゃうんだよねぇ。高校だからまだ緩いってことは聞かされている。これが本当の軍ではどうなるか……ミリ単位でシーツをーとか毛布をーとか綺麗に片づけないと、飯食っているときに上官が窓から捨てるとかなんとか。本当かどうかは知らないが、目茶苦茶厳しいのは事実だ。

 生活リズムも雲泥の差というし、そうしなければならない理由は座学で嫌と言うほど教え込まれている。この先生き残れるだろうか……。もっとも、こんな処で躓くつもりはサラサラないけどね。

 それにしても、こんだけ出来るなら嫁に欲しいと思わせられる。

 だが、駄目だ。性格で却下だ。アレで付き合いたいと思うような酔狂な奴なぞ現れることは金輪際未来永劫有り得ない。なんだったら全裸で校庭を20周でも30周でも走ってやるぜ。

 ふはははははっ。

 と、いかんいかん。時間を気にせねば。

 夏服だから、シャツにスラックスで……いいんだったけ?始業式である。正装でなければ駄目とか?

 ふむぅ、何も聞かされてないからシャツとスラックスでいいや。正装なんて暑苦しいだけだ。

「ま、こんな感じだな」

 洋式ダンスの鏡で確かめる。

「やーいい男、今日から新学期だって?ヨロシクナ」

 ウインクしてみたり。うへぇ人には絶対みせれんわ。

 鞄、中身確認よーし。さぁ食堂へ………。

 振り向くと、そこには皇、咲華、柊が開いた扉の前で立っていた。

 ギァァァァァスッッッ。


「呼びにきたなら声を掛けてくれたっていいじゃないか。つかどこから見てたんだ?まさか着替えてる辺りとかじゃないだろうな」

「“ま、こんな感じだな”と聞こえたので扉を開けた。そこまで無粋ではない」

 今更お前の裸見たところでという感じで、咲華が告げた。

 この判定はセーフ?それともアウト?

 ……深く考えない方がよさそうだ。

「そうか、今度からはノックしてから扉を開けてくれよな」

「了解した」

「とりあえず朝餉でも賜ろう」

 4人で部屋を出て、食堂へと足を向けた。

 新学期か。クラス変えなんだよな。

 霧島書記は、特A確定だとして、他の面子はどうなんだろ。学力でいったらこの二人は間違いなく特Aとなる。

 なるが………まぁ行かないだろう。なんとなく安心している自分がいた。

 となると、安西と平坂の二人は……ふむ、どうでもいいか。なんとっ友情の薄い俺であった。

 ま、クラスが変わったところで関係は変わらないだろうという目算はあるからだが。

 それよりも俺がどこに入るかだ。特Aはまず無い。なんせ学期末ぶっちだし、ずっとベッドの生活を送ってたわけで、そんなのが特Aになれるなら、皆特Aになっちまう。

 おそらく下位クラスだよなぁ。

 中間の成績がどこまで反映されるか。できるなら上位クラスの方がなにかとよろしいのではあるが……望むべくもない。

 憂鬱だ。

 持って回った星の巡りを恨んでもいいですか?

 そんなことを考えながら一階まで降りてきた。

「全員起立っ、敬礼」

 すわっ何事?

 反射的に俺も踵を合せ敬礼する。誰か来たのか?視線だけで辺りを見回す。

 ………あれ?

 皆の視線が……俺???

「政宗よ、皆はお前に対して敬礼している」

 皇が言ってきた。

 うん、なんとなく理解しました。

 毎朝これをしてくるのか?うぜぇ………。

「おはよう、諸君。我に構わず食事を続けてくれたまえ」

 定番の台詞だな……。これ毎日言わないと駄目?勘弁願いたい。

 ふむ……そうだな。

「咲華、ここに全員いる?」

「ええ、揃っています」

 そうか、ならば。

「あー、諸君。食事を続けながら話を聞いてほしい」

 うう、視線が痛い。こんな切り出しでは皆も続けられんだろうなぁ。

「本日付けで、第13独立部隊に配属にはなったが、我々は学生である。ならば、非常時以外は階級は無しとしよう」

 ざわざわと声が聞こえる。どういうことかといった疑問の声だ。

「いいのですか?」

 横合いから咲華が言ってくる。

「いいんだよ。態々、学校でも見せびらかすような真似はしたくないし、そもそもそういうのを抑えるためのロボ大会だったんじゃん。ここでも同じだ」

「そういうことなら、了解しました」

「意見の具申を申してよろしいでしょうか」

 一人が質問してきた。

「はいどうぞ」

「それでは我々ば上官殿とどのように接すればよいのでしょうか。まさかタメ口を聞くようなマネは出来ないと思います」

「普通にしてください。尊敬できる相手と思えばそのように、出来ないと思えばそれなりに」

「本気でいっているのでありますか?」

「僕たちは学生です。他の学生と同じように接してください。非常時になれば話は別ですが、普通の時は普通にいきましょう。それでいいですか?」

「了解でありますっ」

 ビシッと踵をならして敬礼された。いや、それを止めて欲しかったんだけど。

「おーおー大将は豪気な御方だ。皆、そのつもりでな。後、勝った奴は取り分ちゃんととっとけよ」

 別の一人が、豪快に笑いながら後に続いた。

 人を賭けの対象にしてたのか……。

 あん?そいや、どっかで聞いた声だと、その人物を見てみれば………誰?ん、そういえば、昨日とは打って変わって……。

 食堂にいるのは普通の面々だ。いや、姿だ。

 海外組は制服姿で昨日のような民族衣裳やなんやらではなく、殆ど変わりはないように見えたが、日本組が違う。

 2メートル半超えの源や、下半身蛇の間部といった人外達が居ない。

 あれ?そいやさっきの豪快に笑ってた奴の声って源の声だったような?

「主よ、ここに来られる奴は皆化けることができる。妾と同じようにな」

 キョトンとしてた俺に解説をくれる柊だった。

「化ける?」

「…もしかして、今まで気付いておらなかったのか?」

「何を?」

「……今、改めて主の偉大さを思い知ったわい」

 良く分からん……。

 ん?どういうことだ?化ける?柊を見る。最初逢った時って確か…八咫烏で、その後、柊……あぁぁぁ。

「すっかり忘れてた……。柊って烏だったけ」

「………主よ、今物凄く殴りたくなった衝動はどうしてくれようぞ」

「ごめんごめん」

 頭を撫でてやる。

「つまり、さっきの威勢のいい奴って、もしかして源か?」

「そのようじゃな」

 改めてその人物を見つめる。……嘘だろ。

 俺はどこに訴えればいいのだろうか。ムキムキ鬼女が、これ??

 いうまでもない美少女であった。言動がとても残念であるが、容姿端麗である。どういう理屈であーなるんだ?

「なんとなく、言いたいことはその顔を見れば解るのー。とりあえず説明は後じゃ。まずは食事にしようぞ」

「そうだな」

 柊の後に続く。

 もう一度、食堂の面々を眺める。確かに普通……ではなく、美女軍団が勢ぞろいだ。だが中身はアレな訳で、頭がおかしくなりそうだ。理屈にあわーーん。

 もう一度、源を見る……。昨日の出会いを思い出しながら、顔を比べてみる。

 ふむん、そういや、あいつってイケメンな顔立ちだったっけ。その後が最悪だったから、修正されてたようだ。

 どっちの方面へかは説明するまでもないが、確かにあれを女性化すると、あーいった風になるか……。でもなぁ、なんか納得いかないよな。

 ん?そいや甲冑の娘が居ないな。彼女もまた化けているのか?いやいや、甲冑を脱いだ可能性もゼロじゃない。

 まぁおいおい解るだろう。

 あれ?そういえば、昨日トイレから出てきた時に甲冑の娘から話しかけられてきたような気が……その時何かあったようななかったような……んー思い出せん。

 まっいっか、思い出せないってことはそんなに重要なことじゃなかったのだろう。そんなことより、飯だ飯。

 

 席に着くと、源がやってきた。隣にもう一人見知らぬ女性を従えて……ってあれは間部か。

「源撫子であります。改めてよろしくお願いしまっす」

「間部綾女です」

「おはよう2人とも」

 やはり隣の子は間部であったか。

 こっちは、上半身は昨日のまんまだな。視線を落とす先、下半身は人の脚をしているた。スラリとした色白な脚だ。

「変態つるつる淫欲痴漢魔神」

「わっ、ちげーよ。昨日と比べてたんだよっ」

 目敏く咲華が突っ込んできた。

「へんたい?つるつる??」

「何でもない気にするな。極秘事項だから聞かなかったことにしておいてくれ」

 間部が聞き返してきた。それだけは広めるわけにはいかん。

 口の端がにやりとつり上がった気がした。

「なんだ?何か云ったか?」

「なんでもない。気のせい。挨拶が済んだのなら行きましょう」

「あ、ああ、それじゃ大将、またな」

 本当にフランクな態度になりやがってる。その方が気疲れしないのでいいのだが、ころっと変わる態度はどうにも苦笑いだ。

 去り際に間部が“カシデスネ”と口が形を作った。

 うへぇ女は怖いですぅ。

「咲華よー。いらんことを云うなって」

 ぼそっと、怒りを告げる。

「失礼しました。級友を毒牙から守らなくてはならないと思いまして」

「何が毒牙じゃっ、いわすど」

 じっと目を見つめられた。それは氷山から吹き下ろす風のような厳寒を思わせる視線であった。

 ………さて、飯を喰おう、そうしよう。

「頂きます」

「へたれ」

 あーあー何も聞こえないー。

 食事は静かにたべませう。


「つまり、学校に行くときは普通の人に化けておかなければならないと、そういうことか」

「そうじゃな、妾がなぜこの姿でいるのか考えれば察しがつこうというもの」

 そうでした。八咫烏の格好で教室の机にちょこんと座っている姿を想像して納得がいった。

 シュールすぎるわ。それに無用の混乱を巻きかねないしな。人の姿をとるのは極当たり前の対応である訳だ。

「となると、実は級友の中にも柊と同じようなやつが今までもいたってことか」

「……主は何も聞かされておらんのか?」

「聞かされるってなんのことだ?」

「もう一つの特Aについてじゃ。妾は正体を隠しておるが、ここの者どもは最初からいるのじゃぞ」

 もう一つの特A……。そういえば、なんか話を聞いたことがあるような……。

 随分ご無沙汰なもんで、すっかり忘れている。二カ月も学校にいってないとこんなもんなんかね。

「その説明は今日の始業式にされるでしょう。今は説明している時間はもうなさそうです」

 腕時計を片手に、咲華が言ってきた。

 俺も腕時計を見た。

 やっべ、のんびりしてる暇は“もうなさそうな”時間だ。というかここから学校に着くまでの時間が解らん。前と同じような距離なら、そろそろやばい。クラス分けがどうなっているか掲示板を見なくてはならないとなると時間は足りない位だ。

 周りを見ると他のものは既にいなかった。

「うわわ、初日から遅刻とかしゃれにならん、喰い終わったならさっさと行こう」

 慌てて、食器を片づけ、俺たちは寮を後にした。


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