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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
78/193

残暑の憂鬱 06

「なぁ~~~~んて、無っ理ぴょ~~~~ん」

 簡単に諦めてたまるかってんだ、チキショーメッー。

 深夜も寝静まった時間、俺は部屋を後にした。

 さっきまでぐっすり眠っていたせいで、眠れねーんだよ、チキショーメーツー。

 そんな愚痴はとりあえず置いといて、俺は寮のごみ捨て場へと移動する。

 開封したのが、今日である。ならば、まだ捨てられたとしても、ごみ捨て場に残っている筈である。

 フフフ、名推理っ。つまり、回収するなら今のうちである。

 ざまーかんかんかっぱの屁ー。

 しかし、これ見つかったら不審者以外の何者でもないな……気をつけねば。

 抜き足差し足忍び足。慎重に、だが大胆に廊下を駆け抜ける。目指せゴールはもう少し。

 まさかこんな処でレンジャー技術が役に立つとはお釈迦様でも思うまいて、クックックックッ。

 ※まだ、そんな高等技術は受けておりません。


 それにしてもあれだ、ってどれだっ。

 この先どうなるんだろうね。

 まさか、エリザベスの奴があんなに大量に人を寄越すなんて思っても見なかった。精々多くても4~5人くらいだと思っていた。それが20人近くいるとはね。

 あの時ちゃんと観察してれば良かったぜ。って無理だね。肩車されて晒者状態で、そんな精神力なぞ持ち合わせていない。

 ま、適当にやっておこう。

 そういえば、彼女たちってこっちの人外達については驚いていなかったな。

 なんだか当たり前のような雰囲気だった。エルフとか向こうにもいたからか?こっちに比べて、向こうはその辺おおらかだったりするのだろうか?伝え聞く話とは違うもんだ。

 百聞は一見にしかず?

 まぁ今はどっちでもいいや。

 話を整理するとして、婚約者として明確に寄越されたのはメアリー唯一人ってことか?

 それとも、全員そういう話をされてきているのか?いやいやそれは流石にないだろう。数が多すぎる。

 そこらへん確認しておくんだったな。拒否することには変わりないが……、いくらなんでもねぇ…身体がもちません。

 メアリーは話は聞いている。皇が断言していたからな。と、なれば、他の面々はというと、メアリーのお付きでついでに寄越された可能性がある、あのメイドっ娘なんかがそうだろう。

 なら、他は、エルフを筆頭にする妖精の娘さんたち。……無いな。恐らくメアリーの護衛だろう。甲冑っ娘なんかその最たるものだ。いかにも護衛が主だろう。

 となれば、残りは……思いつくのは褐色の肌をした女の子たちとなる。そもそも、UKの人間であるのか?移民政策で雑多では有るが、どうにも英国人って雰囲気ではない。第一あの衣装だ。露出が高かったり、民族衣装だったり様々だった。英国=スーツってイメージがあるからかもしれないけど。

 つまり、UK以外から連れられてきたことになる。ふむん、可能性は高いとみていいだろう。UK繋がりで考えるならインド連合国辺りか。色々事情がありそうな予感でいっぱいだ。

 一体、エリザベスと長船某は何を考えてんだ。

 考えるまでもないか、新たな波瀾を呼び起こす積もりなんだろうな。

 いい加減ヤツの息の根を止めねばなるまいて。


 くそっー無い。無いったら無い。全ての階のごみ捨て場を漁っても影も形もありゃしねぇ。どういうことだってばさっ。

 考えろ俺っ。

 ごみ捨て場になければ、何処にある?

 寮の見取り図を頭に浮かべる。

 ………まさかっ。いやしかし、そうであれば絶望的過ぎる。

 まだだ、まだ終わらんよっ。諦めるには未だ早い。この目で確かめねばならない。

 こっそりと一階に降り、玄関から外に出る。

 抜き足差し足忍び足。

 こそこそと、裏手に廻る。一縷の望みに掛けてみる。

 目的の場所にやってきた。

 目の前にあるのは焼却装置だ。

 未だ燃やされていなければ………。

 ゆっくり、音を立てないように慎重に鉄の扉を開ける。

 中を覗いてみる……。暗くて何も見えない。まーたそんなオチ!

 だーがしかし、こんなこともあろうかと、懐に忍ばせていたペンライトがあるっ!

 ペンライトを焼却装置の中へ入れ、灯を点ける。

 ………無いッ!マジカッ此処にも無いなんて、くそっどういうことだっ。チキショーメースリー。

 中を確かめる。余熱的なものは無ければ灰も無い。つまり、今日焼却装置は使われていないことになる。

 ならば、何処に隠されたってんだ。考えろ、俺………もっと深く考えるんだ。

 咲華が、箱から出す。秘蔵のお宝を発見したとして、どう行動する?

 そのままゴミ捨て場に出せば、誰かがそれを見つける可能性もある。俺とて気付けば探しにいく。

 ……まて、ダレカガミツケル。つまり、犯人は寮生だっ。

 ってそれを見つけたところで持ち帰ってナニすんじゃ。エンガチョされるだけの話でしかない。逆に考えよう、咲華がそこらへんに捨てなかったお蔭で俺は助かったのだと。寮には男は俺一人、アレの持ち主が誰かなんていっぱつだ。

 そうとなれば、ゴミとして捨ててはいない。直接ここにきて焼却……もやっていない。

 ではどこにあるのだ?

 俺は一つの結論に達した。

 ヤツだ奴がガメたままなんだ。外に出さないように、こっそりとどこかに隠し持っているということだ。

 取り返さなければなるまいて。

 そう、俺の秘蔵のお宝は、咲華が隠し持っているという結論に至った。

 ってぜってー無理だーーー。バスティーユ監獄に忍び込むより危険すぎるってもんだ。

 涙を飲んで諦めるか、死を掛けて秘蔵のお宝を選ぶか二つに一つ。しかも成功の可能性は限りなく低い。一つ間違えれば、ただでは済まない。死よりも恐ろしい何かが待っている可能性もある。

 だがやらねばならない。他の誰に聞いてもそう答えるだろう。山が有れば登るのは道理。宝が有ればダンジョンに潜るのも道理。道理道理、道理である。生きていく上での必須事項だ。息をするのと同等の道理だ。

 めらめらと心を燃やして決意する。

 そう、俺は冒険者だ。未知の危険が待っていようとも、俺は俺の秘蔵のお宝を目指さなくてはならない。

 そうのうものである。

「捜し物は見つかったか?」

「いや、此処には無いが、ある場所のアタリはつけたところだ」

「そうか」

 !!!!!

 …………DA・RE・DE・SU・KA。

 反射的に振り向き、声のした方へとペンライトを向けた。

 そこには………。

 皇弥生が立っていた。

 キョーテンドーチ。怒濤の衝撃が俺を足元から天へと向かって駆け抜けた。

「運ばせた荷物で何か無くなっていたものがあったとか?」

 一歩一歩、皇が近づいてくる。

「いや、大丈夫だ。問題はほぼ解決した」

 本当は全然してねーつーのっ。だが、それを皇には言えない。言える訳がなかった。

 落ち着けー俺、いまの状況を悟れてはいけない。

「そうか、ならいい」

「それにしても、何故?もう寝ていたんじゃなかったのか?」

「政宗が後で話しがあるというから待っておったのだぞ。それなのに、なんだ。夜中にコソコソと出かけていくではないか」

 あれー、とゆーことはー。

「もしかしてずっと後をつけていたりした?」

「そうだな」

 死にたくなる瞬間ってのはあるもんだ。今すぐ殺してくださいお願いします。心の中で血の涙を流した。

「それで、話だが、今でよいのか?」

 汚れた心を必死に隠しつついいと答えた。

「場所は……ここじゃなんだから…そういえばこの先に花壇があったはず。そこのベンチでもどうだ?」

 焼却場では流石にアレすぎる。

「ん、解った。行こう」

 二人並んで目的地に向かった。


 ベンチに座る。その横に皇が腰掛け、俺に身体を預けてきた。腕に手を回されてしっかり固められた。

 なぜにっ。抜こうと試しにもがいてみたが、断固として揺るぎはしなかった。

「それで話しとは?」

 瞬間沸騰装置の如く俺の心臓は跳び上がって熱せられた血液を体中に目まぐるしく流し込んできた。

 艶やかな声、それだけでくらくらしてきた。

 何を話したかったのか……なんだったけ。血は巡るが思考は廻らない。

 あぁそうだ、アレのことだ。気をしっかり持て俺。鼓舞する。

「第13独立部隊のことについてだ」

「そのことか」

 声に残念の感じがあった。……御免、本当に御免。だがこの事はどうしても確認しておきたいことだ。

「確かあれって俺を少佐にしたついでにできた名目だけの部隊じゃなかったのか?」

「最初はそうだった」

「だよな」

「だが、長船とエリザベスが彼女たちを寄越すことになり、話が変わった」

「まーた奴のせいか」

「そういう意味ではない」

「と、いうと、どういう意味なんだ?」

「やってきた彼女たちは、向こうで忌み嫌われている人外が主だ。そんな彼女たちが普通の留学生という立場だけで、抑えきれるかという問題が起きた」

 つまり、ささくれた感情のままに騒ぎを起こして迷惑をかけないかってことか。確かにそれは十分有り得る話しだ。

 しかも人外の範疇であれば、ちょっとした諍いがあったとして、手加減して“撫でた”つもりでも、それは相手にとってはハンマーでぶん殴られたことになりかねない。

「それに、彼女たちは軍というのもを余り知らぬ。普通の人間ではないからな。そんな彼女たちが、エリザベスの策略でこちらに寄越された訳だ。学校の方も扱いに困ってしまった。そこで元凶である政宗に一任した方がなにかと問題は片づくであろうということになった」

 話を総合するに俺の形だけの部隊に彼女たちを編入させて、学校という枠より一段高いしばりをつけたってことか。

 “軍”という縛りがあれば、ちょっとやそっとで暴れ出すこともないだろうという思惑か。

 だが、普通の部隊として編入させるのは論外。その部隊が大迷惑を被る。普通の学生としても論外。ならば、名目だけの部隊に押し込めれば丸く治まるという算段か。適当すぎるぜ。

「ついでに、こちらの特Aの彼女たちも編入させた。外で暴走するよりも内で暴走し合ってくれたほうが被害は少ないと判断されたようだ」

 特A……あーあったなそんな話が。全部をごたまぜにしてしまえば、外に目を向ける前に中に目がいく。しかも実力は伯仲している。中で無駄に体力を消耗させれば外にまで被害は及ばないだろうということか。

 そういうことだったのか。

「あー処でそう判断したやつってのは……」

 なんとなく解っているが聞いてみた。

「生徒会の者だな。先生たちは危険すぎると反対に廻っていたが、それ以上にどうするかの案は無く、なし崩し的に決定された」

 やっぱりそうだったか。

 古屋会長のしたり顔が思い浮かんできた。くっそー良い笑顔じゃねーか。とりあえず長船種馬と同様に抹殺リストの上位に突っ込んでおく。

 ん?ちょっと引っかかるものが……なんだ、この違和感というか焦燥にも似た感覚は。

「済まない、政宗。少し眠く……」

 言い終わる前に、俺の腕にしがみついてた皇は寝息を立て始めた。

「おーい、こんな処で寝ると風邪を引くぞー」

 ……起きない。

 軽く揺すっても起きる様子はない。

 右腕はしっかりと皇に絡め取られて、ちっぽけな抱き枕となっている。

 くっ………俺の左腕が疼きだす。

 肩に頭を乗せて、安らかに寝ている。

 つまり、無防備ってことだ。

 静まれっ俺の左腕よ。

 抑えに動かなければならない右腕は、現在微動だにできない。疼く左を抑えるものは存在しなかった。わきわきと俺の意志を無視して蠢きやがる。

 本当ならこの衝動を開放するべきは、俺の秘宝なのだが、それも存在自体が失せている。

 心臓の鼓動が高鳴る。充填率120%!

「くっ静まれっ俺の左腕よ」

 二つの膨らみ目掛けて、ゆっくりと動く左腕。

 自分ではもう制御できないまま、熱い衝動に呑み込まれ掛けている。

 あぁもうどうにもならないのか。どうにかなっちゃうのかっ。どうにかしちゃいましょう。

 葛藤が心の中で暴れるが、それも直ぐに欲望という名のものにあっさりと呑み込まれた。

 だっても糞も無い。今まで病院にいたんだ。何もできなかった衝動が今、まさにこの時点で爆弾の導火線に火が点いてしまった。

 許せ、皇。こうなってはもう遅い。俺にもどうにもできないことだった。


「うん、まさむねぇー」

 皇が甘く俺の名前を呼んだ。

 途端に血の気が雪崩をうって引いた。

 今か今かと暴れる寸前だった左腕も静まった。

 ふぅ。危機は去った。安堵の息を零した。

 辺りを見回す。

 冷静になって考えると、咲華ならどこかそこらへんに居そうな気がしたからだ。

 しーんと怖いくらいに静まり返っている。虫の音も一切合切ない。

 とりあえず……とりあえず、皇を部屋に戻そう。

 って今更起こすなんてことはできないしなぁ。

 アレをやるのか。やるしかないのか?

 またぞろここに居て、蒸し返すようなことになれば、今度こそ俺は駄目になってしまう。そうなる前にも皇を部屋に連れて行かねばなるまい。

 覚悟を決めた。

 ゆっくりと慎重に右腕を彼女から抜き、背に廻す。そして、屈み込んで左腕を膝裏にまわした。

 花の匂いに一瞬心を奪われる。

 ええいっ、ここで躊躇しないっ。

 ゆっくりと慎重に慎重を重ねて皇を抱えたまま立ち上がった。

 お姫様抱っこ。パートツー。

 もうやらないと決めていたのにあっさりとそれは破られた。

 自嘲の笑いが漏れる。

 ケセラセラ。

 さてさて、とっとと姫をベッドに運んで、俺も寝ることにしよう。

 皇を抱えて寮に戻った。

「まさぬね、らいぎであるぅ」


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