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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
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残暑の憂鬱 05

 配膳が終わると、メアリー達の海外組も席に着き料理を嗜み始めた。

 最初は、日本組との無言の牽制もあったが、酒が入ると……またサバトに戻っていった。

「そういや、メアリーが俺の婚約者って、あれも冗談?」

 皇に確認してみた。

「いや、冗談ではないらしい」

「らしい?ってどういう…」

 あ゛ーーーー。くっそ思い出したくもないが、思い出した。

 エリザベスとのやりとりを…。

「つまり、あれか…あの海外組は全員エリザベスが寄越した俺への?」

「そこまでは知らぬ」

 ふむん、詳細までは伝わってないのか。

 メアリー達の海外組を眺めた。

 どういう経路でこんだけの人数を揃えたかは解らないが、どうせ種馬が一枚噛んでいるに違いない。手の込んだことをしやがって。

 それにしても……、気になったのは4つ。

 先ずは、メイド服を着た一団。エリザベスめ、ピンポイントに攻めてきやがった。褒めてつかわそう。

 更に尖った耳をした妖精、エルフというやつか?初めて見た。

 それにオリエンタル系というかエキゾチックな褐色肌の女性で割と露出が高めである。

 あとは……ただ一人、甲冑を纏った人物。それはこの中全体を見ても、異様であった。なんと表現すればいいのか…有機物の中で一人無機物だからであろうか?席に座ってはいるが、並んだ料理に手を着けていない。もし中身があるなら、面をあげて食べるのだろうが、それもない。

 ただ座っているだけだった。本当にあの甲冑が本体なのだろうか?


 とりあえず、それはおいといて、この状況だ。

 どうしてくれたものか。

 目茶苦茶流されている。

 人が入院してる間に、あれやこれと手を回されて……入院してなくてもやられてたか。

 ええい。

「皇、後で話がある。理由は解るな」

「解った」

 大体予想はついているが確認しておきたいことである。というか、覚悟を決める的な?ヤツの無茶振りに付き合わされる身にしてみれば、もう半分以上諦めている。ただ、隊長ってことで、いっちゃん上の立場だったのは、まだ逃げ道がありそうだ。

 訳が解らない奴らに命令されるのは御免被る。

 逆に、彼女たちにしてみれば、それが俺にあてはまる訳で、気をつけるならそこになる。個人での戦闘能力でいえば、俺が一番下になる。バンザーイどう足掻いても勝てる見込みなんてない。いや、ホント命令権だけでも……後ろから撃たれないようにしないとなぁ。

 そもそも彼女たちを押さえているのは、柊だ。以前聞かされたイイトコの血筋ってのをまざまざと見せつけられた格好になる。海外組にはメアリーがそれにあたり、その二人を抑えるのが皇となるわけか。

 みそっかすだなぁ……俺の存在。居なくても問題ないって所が。

 ノーコンテストになったが、ロボテクスの武闘会には最後まで勝利した。結局、中江先輩との対戦はできなくて、本当の意味での勝利を得たとは言えないけど。

 そも、そのロボテクスに今は乗れない。FPPがDランクで、接続することができないのだから。

 時間が経てば戻るとは云われたが、その時間が何時なのかハッキリしない。死ぬ間際とかなら戻らないのも同然だ。

 では、軍人としては?はははっ落ちた体力で、普通に着いて行けるかどうかも怪しいもんだ。

 これからの人生設計が狂いまくりという他に言いようがない。なんとか卒業まではごまかしていくしかないだろう。

 ………気が重い。こりゃ早々に胃に穴が空くな。

「そんなに呑んで大丈夫か?」

 皇が、聞いてきた。

「何が?」

 俺の手元の杯を指差した。

 ありゃ、いつのまに…。横には横に倒された徳利が3つほどあった。

「少し休むか?」

「んー、らいじょうぶ、らいじょうぶ」

 ありゃ~?呂律が奇怪しいような…大丈夫だろう。大丈夫だ。大丈夫と言えているんだ。大丈夫に違いない。大丈夫なんだから問題なく大丈夫。

「あー、ちょっと、ちょいれー」

 席を立つ。

 世界が揺れていた。地震が起きているのか。まぁ大丈夫だろう。さっさと用を済ませてくるべ。

「主?」

「ちょっといれー」


 スッキリ!

 御用を済ませて廊下に出た。

「少し、話をいいだろうか」

 背後から声をかけられた。振り向くと……黒い霞に覆われた女の子が立っていた。

 煙?埃?誰か暴れでもしたのか?

「はーい、あんですかー」

「汝が余のマスターか?」

「ますた?」

「そうだ、そう問うている」

「あー、酒場の?」

「違う」

「職人の?」

「違うっ」

「むー、難問だな…。難問といえば、勉強できる人」

「それも違うっ」

「じゃぁ武芸の達人っ」

「全然違うっ」

「んー、もしかして隠語?」

「in go?何を言っているのだ」

 肩をはたかれた。

「おっナイス突っ込み。ありがーとさーん」

「貴様、何を言っておるのだ」

 霞に覆われた女の子が近づいてきた。

 ドンと押されて、壁とサンドイッチ状態になった。

「ナニってナニ?」

「愚弄するかっ」

 怒鳴ってきた。いい芸人になりそうな人だ。

「まぁまぁそない怒りなさんな、可愛い顔が台無しだ」

「な・ん・だ・と」

 更に近づいてきた。ちけーちけー顔がちけー。

 あー、でも、霞がかってちゃんと見れない。

 ふーしちゃいましょーふー。

 息を吹きかけた。霞が薄らぐ。

「なんだか面白れー。そら、ふーふーっ」

「っ!!!」

「そら、可愛い顔が見えたーみえたぁ」

 割と可愛いと認識した。しかし……身体の方がまだ黒い霞で覆われている。邪魔だなー。

 手でその霞を掻き取る。はたき落とす。

 女の子の身体を廻して、片っ端から黒い霞を剥ぎ取った。

 随分、汚れが取れてきた。凝視する。でもまだ汚れがあるな。

「綺麗綺麗しちゃましょー」

 ハンカチを取り出し、汚れを拭き取る。

「わっ、わっ」

 んー、いい感じー。更に拭く。

 むぅ、なんだこれ、酷く汚れの硬い所がある。

 ハァーと息を吹きかける。少し滲んできた。よしっ今だっ。ハンカチで追撃だ。

「ほーら、ふきふきふきふきふきー」

 よしっぱーぺきー。どんなに硬かろうが俺の手にかかれば、汚れなぞ一網打尽だ。

「えへんっろごれは見事らいじしたー」 

 ふぅ、一仕事したから疲れたぜ。

「あ、なんだったけ、らすたー?」

 そいや、何か聞かれていたっけと、目の前の女の子を見る。もう黒い霞は無く、視界良好、肌色全開。

 女の子は顔をあわあわとさせていた。

「見事、錆びは消えうせラスター」

 両の手を取って、一緒に万歳した。

「いーーーーーやーーーーーーーーーーー!!!!!」

 耳朶を絶叫がアサルトライフルで射撃してきた。

 思わず耳を塞ぐ。

 次に頭に衝撃がやってきた。

 むーん、おやすみさんかくさよならしかくぅ。


 目が醒めた。

 ここは何処?

 辺りを見回す。いや本当どこだよここ。

 見覚えのない部屋にいる。暗い……。

 えー、俺誰かに拉致されでもしたのか?いやいや、それなら手足が拘束されていてるはずだろうが、何もされていない。

「ふあっ」

 あくびが出た。

 !!!

 なんだこりゃっ、酒臭ぇー。どこの誰だ。再度見回すが誰もいない。

 ふぅー。どうなってん……だって、この臭いの元は俺かっ。

 えーとだな……、何があったのか思い出そうと記憶を探ってみる。

 ………。

 思い出せない。

「待て、順を追って思い出そう。先ずは退院してからだ」

 順を追えばなんとか記憶を思い出せてきた。

「そうか、ここは新しく入った寮の一室か」

 多分……きっと……。

 思い出せたのは、宴会でトイレに立った辺りまでだった。

「この辺で酔って倒れた感じかな…」

 部屋に運んでくれたのは、咲華だろうな…。借りができちまった。

「……処で、着替えどこだ?」

 よーく思い出そう。確か一回部屋に入って、段ボールが山積みになった中をあさってだな…。

 部屋の電気を点けるが、そんなものは部屋になかった。

 あれーー??じゃぁここどこー??

 記憶にある部屋の間取りと同じだ。ではどこか別の部屋ということか。処で今は何時だ?外を見るとまだ暗い。ついでに腕時計なんてものは持ち合わせていなかった。シャワー浴びるときに外したまんまである。

 部屋の壁にも時計なんてものはなかった。

 ……ふぅ仕方なし。

 こっそりと部屋の外を覗く。

 暗かった。

 そらそうだ。

 照明のスイッチはどこだ?壁をまさぐりつつ進む。


 と、目の前で扉が開いた。

 誰かいたのか。視線を扉の中へと……。

 バスローブ姿が視野に飛び込んできた。誰だ?よく確かめようと顔を…ノーーー。

 飛び込んできたのはアイアンクローだった。

 視界を塞がれ、ミチミチと頭蓋骨が悲鳴をあげる。

「痛い、痛いですっ」

「ちっ」

 舌打ちされた。

「静かに死になさい」

 オーノー。

「訂正、静かにしなさい」

 オーイエー。

「その声は、咲華?」

「そうです、変態つるつる淫欲痴漢魔神」

 なんか増えてるぅー。

「そっそうだ、ここは何処?俺の荷物どこいった?」

 アイアンクローに更に力がこもった。割れるっ割れるっ、割れたら汁が飛び出るぅー。

「静かに死になさいといった筈です」

「そ、それは訂正されたはずです」

 小さな声で反論した。


「………という次第でございますです。はい」

 絶賛土下座中です。

 土下座しながら、今まで憶えている経緯を説明した。

「そうですか」

 返答は短かった。

 ここは先程までいた部屋。

 ダンボールまみれだったのを、整理してくれたのは咲華であった。おかげで見覚えがなくなっていた訳では有るが…この際、置いておくとしよう。感謝もしないがなっ。

「それで、トイレに立った後、俺ってどうなった?」

 恐る恐る聞いてみた。

「明日、本人に聞いてみるのがいいでしょう。聞けるものなら」

 ……え?

 一体なんのことだ?

「もしかして、酔っぱらって誰かに何かしちゃったのでしょうか」

「知りません」

 にべも無かった。

 そうだコイツはこういうヤツだった。皇以外に関することは眼中にない。他がどうなろうと関係ない奴だ。

 と、いうことは、俺は皇にだけは何もしてなかったことになる。

 良かった。一つ懸念が消えてくれた。って処で一つまた懸念事項が増えた。

「もしかして、咲華がここにいるということは……」

 恐る恐る聞いてみる。

「そうです」

 察しが良かった。

 いや、この場合、いいのだろうか?

「そうなの?」

「そうです。二度も同じことを言わせないでください」

 どうやら、また皇たちと同じ部屋ってことが確定した。

「さて、経緯は理解しました。夜も遅いことですし、今日はこの辺にしましょう」

 理解したのは、咲華だけで、俺の方は全然理解できていないのが確定した。

「着替えはそこの箪笥に入れてあります。湯に浸かるなら静かに願います。もう皆は寝ていますから」

 そういって、咲華は出ていった。

 生きた心地がしなかったぜ。漸く一息入れられた。

 とりあえず部屋を物色する。

 確かに箪笥には着替えがきちんと折り畳まれて入っていた。丁寧な仕事だ。

 机には教科書関係と目覚ましや腕時計などの小物が入っている。これまた綺麗に納まっていた。

 洋服ダンスの方には制服等の大物があった。

 ………後は…。

 無いっ。無い、無いーーーー。

 アレが無いっ。秘蔵のお宝が全然何処にも欠片もなかった。

 ちくしょーーー、こんなのってあんまりだーーーーー。

 声を大にして叫びたかったが、そんなことすれば、何をされるか解ったもんじゃない。

 さめざめと思わず泣いてしまった。

 こうなったら咲華をネタに……。

 ………………ンー。

 ……………ンンー。

 …………ンンンー。

 ン!ン?ン!ンッ?

 フッ、するべき所がナイデスネー。

 ドンッ。

 いきなり壁を叩かれた。もしかして隣の部屋は咲華なのか?

 ドンッ。

 何故俺の考えていることが解るんだっ。こうなったら、絶望的だろうが無理にでもっ!

 ドンドン、ドドンッ。

 俺っ!終了!!


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