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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
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残暑の憂鬱 04

「………サバトだ」

 寮に行って、入寮の手続きを済ませた俺は、軽くシャワーを浴びた後、咲華に連れられて食堂に来たまでは良かった。

 誰かが無礼講で宴会だーと騒いだのが運の尽き。サプライズパーティーが一転サバトと化した。

 目の前を人外が行き交う……あれ?普通の人間って俺だけ?

 いや、皇と咲華もいるにはいるが、………アレを人側に置いてもいいのか判断に迷うことはある。だって、ねぇ……。

 そんなことよりも、改めて周りを観てみる。

 さっきの鬼女こと源撫子と蛇女の間部綾女がテーブルの端に居て、騒ぎの中心となっている。同じテーブルの反対側である俺たち4人は静かに食を進めていた。

 源と間部の周りには、伝承で聞いたような奇々怪々な面々が集まっている。遠巻きに俺たちをちら見しながら警戒しつつも軽快に騒いでいた。

 古今東西の妖怪か……。人が望みし形の結晶。持たざるものには羨望を、持てるものには崇拝を。幾重にも折り重なったつづら折りの結果だ。

 だが、何故だろう。俺にはそんな畏怖すべき対象となるはずの者達を見てもなんら感慨すべきものが沸き起こらない。もちろん恐怖もその中の一つだ。

 これが俺の特殊能力ってんなら………余りにもあんまりだ。やり直しを要求したい。そんなモノを持っているかどうか解らないけどなっ。極々普通の高校である。

「がーはっはっはっ、そしたらさー痴漢だと思ってたやつがー──」

 源たちの“何気ない”会話に3人が反応した。

「主よ……」

 最初に言い寄ってきたのは柊だ。

「何故、妾にしないのだ」

 ソンナコトイワレテモー。

「皇、皇、柊に何かいってやっ……」

 眉を逆ハの字にして睨まれていた。

 やっ、やだなー。ボクは至って紳士ですよー。えー、ホント何故こんなに紳士なんでしょうかねー。不思議です。不思議でしかたないですぅ。

「変態つるつる痴漢魔神」

 ぼそっと咲華が呟く。なんですかだんだん長くなってきてますよ、その詐称。

 あれー、なんですかー、なんで針の筵になっているのかなー、ボクなんにも悪いことしてないよねー。

 何故か糾弾会に変貌した俺の退院祝いであった。


「一体なんですのこの乱痴気騒ぎはっ」

 食堂の片隅で始まったサプライプ(にならず)パーティーが、今や半分くらいのスペースを占拠するまでに至ってた。

 それを見かねたのか、参加していない人が糾弾してきた。

 金髪碧眼の美少女だった。

 あーなんだか、見覚えがあるようなないような……ナクテイイデスネー。キノセイデスー。

「弥生、貴方が居てこの騒ぎ、どういうことですのっ。咲華も何故諫めないのですか」

 バァァンと、先頭に立つその女性は、見た目はあのエリザベスに瓜二つであったが、性格が真逆のようである。彼女だったら一緒に騒ぎそうだよねぇ。

 その後ろにぞろぞろと、日本人ではない者たちがづらづらと続いている。妖精のような少女や、エキゾチックな女性。色とりどりである。妖精のようなというように、耳が尖っていたりする。ロバの耳ではないぞ。

 その中で一際目を見張ったのが………甲冑??

 ………えーと、どう解釈していいのだろう。甲冑に身を包んだ中身のある人なのか、甲冑がそのものなのか……人外の中にいると判断に困ること請け合いだ。

「誰?」

 皇に聞いてみた。

「彼女はメアリー・ウィンザー」

「ウィンザー……?」

 そういえば、エリザベスの姓って確か同じウィンザーだったけ。

「姉妹?」

「エリザベス・ウィンザーとは腹違いの妹。そして……貴方の許嫁」

「………え?」

 とーさんかーさん、俺にまた新しい許嫁ができたようです。

「いやそれ面白くないから」

「我が冗談を云うと思うか?」

 イワナイデース。

「たまには言ってみないか?」

「了解した」

 何が了解だか……。

「咲華、これで全員か?」

「はい、そのようです」

 椅子から立ち上がるなり、俺の後ろに廻った。

 俺の腰を両手で掴み……持ち上げ……肩車した。

 ……!?

 あれ?なんかデジャヴー。

「聞けーい、皆のもの。お前たちの眼前にいる者こそ、お前たちの主となる者だ。以後見知り置け」

 號音が轟いた。

 水を打ったように静寂が流れた。

 視線が俺に集まる。騒いでいたもの、新しく入ってきたもの全員だ。

「今日はその為の宴会だ。皆の者無礼講だ。思う存分騒いでくれ賜え」

 ………えーと、サプライズって退院祝いのパーティーで俺を驚かせて……じゃーなくて??

「寮母殿、皆の者に料理を運んで貰えないか。今日はめでたい日である、酒も存分に振る舞ってくれ」

 怒声が降って湧く。

 そらそうだ。俺だって怒鳴りつけたい。

 そういう冗談は寿命が縮む。

「あー、弥生さんやー。そういう冗談は洒落にならないからやめて欲しいなー」

 見下ろして云う。

「我が冗談を云うと思うか?」

 皇が見上げて云う。

「マジ?」

「マジだ」

 じっと皇を見つめる。

 マジかっ。

 遅れてきた衝撃が俺を襲った。

「これ、全員と俺が?えっ、聞いてないよっ」

「そうだっ」

「嘘だろ?」

 体がもちません!!!

 大体、あの甲冑といたすって俺の身体は鋼でできてないぞ。

「冗談だ」

 ファッツ!?

「中々に冗談というのは面白いな」

 皇が笑った。

「くそっやられた。いきなりハーレムなんて騙されたわ」

「だが、主というのは嘘でも冗談でもないぞ」

 ………どういうことだってばさっ。

「静粛に、私から説明いたします」

 よく通る声が横合いから発せられた。咲華だった。

 だが、怒声は止まない。

「静かにせよと云ったが、聞かぬのは誰じゃ。妾この手で粛清してくるぞよ」

 怒声の前部分がぴたりと止んだ。

 代わりに目立つのが後ろ部分の怒声だ。それは、メアリーたちの一団である。

「こちらも静粛にですわ」

 右手を挙げ、メアリーは黙らせた。実際騒いでいたのはその中でも半分にも満たなかったが。

「咲華よ続けるが良い」

 皇が話を促す。

「明日、始業式をもって、貴君等は日本帝国、皇軍左翼大隊第13独立部隊に編入されます。異議あるものは今のうちに退学届を用意してください。始業式が始まれば、異議は認められません」

 しめやかに咲華が告げる。

「いきなり横暴だ」

 怒声が再度鳴り渡る。

 うーん??こうぐんさよくだいたいだいじゅうさんどくりつぶたい???どっかできいたような気がする。なんだったけ?

 記憶の彼方を弄るが、思い出せない。いやー、どっかで聞いたことがあるんだがなぁ。

「韜晦しないでください。貴方の隊ですよ」

 咲華が言ってきた。

「そうはいっても身に覚えが……あったわ……そんな設定」

「設定ではありません」

「マジで!?」

「マジです」

 咲華に云われて思い出した。

 ── 本日18時付けで、貴殿は皇軍左翼大隊第13独立部隊長に任命され、階級は少佐と決まった。異議は認めない──

 ── まぁしゃーないんだ。お前がベス倒しちゃったから。そういう訳だ──

 いつかのやりとりが脳裏をよぎる。

「マジだったのか……あれって」

「静かにしろと妾は云ったが、聞かぬやつは誰じゃ」

 ドスの効いた柊の声が再び響くとあっと言う間に静かになった。

「隊長の御前であるぞ、全員気をつけ、敬礼っ」

 皇が絞めた。

 威圧感のある声に反射的に全員が直立不動、踵を揃え敬礼する。

「って何故に私までっ」

 メアリーが異議を唱えた。

 が、皇の一睨みで再度敬礼をする。

 シュールだ……。なにがシュールって肩車された俺に対して皆が敬礼をしている。咲華と柊も俺に向かって敬礼している。

 唯一してないのは、俺と皇だ。

 皇は俺を肩車しているせいであるからできないのだが。

 シーンと静寂が食堂を支配する。

 みなして黙って俺に向かって敬礼している。

 ………いつまでこの状態??

「政宗、なにかいってやれ」

 ぼそりと皇が俺に向かって告げてくる。

 えっ?俺??俺がなんか言わないといけないのか?

 もしかして俺が何か云うまでこの状態が続くってことか?

 再度、周りを見渡す。

 なんというか、敬礼っていっても皆ちゃんとできていないね。入学したての頃さんざっぱらやったはずなのだが、姿勢とか崩れている者がいる。つか源がそれだ。ぞんざいな態度で適当こいてやがる。背が高いだけに一際目立っていた。

 他の姿勢が整ってないのは、まぁ夏休みもあったことだし、仕方ないか。

 皇に小突かれた。

「皆さん姿勢を崩して椅子にでも座ってください」

 緊張の解けた息が聞こえる。そらそうだ。俺だって突然敬礼とかいわれて、ずっとそのままの体勢じゃな…。

 ……悪いことをしました。済みません。心の中で土下座する。

 もう宴会とかいう雰囲気はどこへやら、明後日の方向へ飛んでいった。

「えーとそれじゃ、咲華さん続きをどうぞ」

 咲華が俺を見る。瞳に温いわねと訴えがありありと見て取れる。

 やめてください。柄じゃないし、今の今まで綺麗さっぱり忘れてた設定なんだから。大体人に命令するなんて、今まで思いもしなかったんだし。

 確かに軍である。命令をする立場になることもあるだろう。でもそんなのはずーーーと先の話だし、つか、卒業したら任官せず就職することしか考えてなかったんだぜ。無理すぎるってもんだ。

 とかなんとか考えてたら視線が痛いくらいに刺さってくる。

 そいやずっと肩車されたままだ。このままではいけない。俺としてはもっとあれだ。フレンドリーに接したい。

 これからのこともある。女子の中で一人男ってのは何かと気苦労が大変だ。クラスでたった三人のときでも心労はきつかった。あまつさえ長船糞蟲野郎のせいで、胃に穴が空かなかったのが不思議でならないくらいだ。

「皇さん、そろそろ降ろしてくれないかなー」

 ぼそりと呟く。

 代わりに来た反応はがっしりと足を固定された手応えだけだった。

 デジャヴッ。

 いつまで続く、この晒者状態はっ。

挿絵(By みてみん)


「───以上で説明を終わります。皆さん宴会の続きをどうぞ」

 咲華の説明が終わると同時に寮母さんが料理を運んできた。和洋中の色とりどりの料理だ。酒も日本酒からビール、ワインまで色とりどりだった。

 ここで漸く肩車から開放された。

 足に血が通いだす。どんだけ締めつけてたんだよ。足裏がじわじわとむず痒い。

「それにしても、いいのか?寮で酒ってのは」

「なに、問題ない」

 皇は言い切った。

 まぁ、酒煙草は義務教育が終了した16から解禁されてはいるが、学生の身としてはいまいち抵抗がある。

 海外じゃ別段年齢制限もないところもあるとはいえ……。

 ついでだが、フォースパワーの恩恵の一つでもある。薬物に対して強い抵抗力がついているのである。下戸なんて今の時代居ない。どんなに浴びるように飲んだところで、翌朝にはすっかり抜けきっている。逆に麻酔とかは相当強くないと効かないって弊害もあったりするが…。元々フォースパワーのおかげで病気なんてものは余程のことでないかぎり引かないのではあるが。

 だが、それもCランク以上のことだ。

 今現在、絶賛Dランクの烙印を押されている俺にとっては、どうなるやら……。自前の耐性だけが頼りなのはいうまでもなかった。

 昔の人はそのDランクにもならなかったんだから、多少はあるのかもしれないが……うーん、周りにDランクのやつなんて見たことがないから良く分からん。

 その見たことがないDランクに俺がいる。人生どうなるか解らないものである。

 呑んで喰ってみれば、結果が伴う。体験するしかない。

 あーでも明日は始業式。二日酔いで酒の匂いをぷんぷんさせて現れたらどうなるか…考えるまでもなかった。


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