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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
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残暑の憂鬱 03

 改めて二人と向き合った。

 一人は2メートル半を超え、頭頂部に一本の角が生えた鬼女。

 もう一人は胴体から先の下半身が7~8メートルはあろうかという蛇女である。

 なんというか、こっち側で目撃するような存在じゃないのは確かだが……もう見慣れた気がするのはどういうことなんだろうな。

「そいや、こいつって俺たちを見てなんとも思ってないようだな」

「撫子にしては、鋭い観察力」

「んだとごらぁ」

 そろそろ、寮へ向かいたいのだが、どうしよう。このまま放っておいていいかなぁ。

「で、お前は誰なんだ。こんな所にのこのこやってきたばぁかは」

「この先に有る寮に今日からお世話になるためにやってきただけだよ」

「はぁ?」

 撫子が綾女の顔を見る。首を振る綾女。知ってるか?知らないって感じのやりとりだな。

「君たちも寮生なの?」

「そうだが、なんで女子寮に野郎が来るんだ。寮管なのか?」

「いや、寮生……って、今なんっていった、女子寮??」

「ちゃんと聞いてんじゃん」

 あ、ありのままに………は、もういい。

「別に女子寮ではない。女しかいないだけ」

 さほど変わらない事実を綾女が告げた。まぁ女子専用でないだけマシのようだ………本当に??

 それで先程撫子が言った同年代の男がいないって理由が解った訳では有るが…。

「そいや、昨日からぞろぞろと人が来てたっけ。お前もそのお仲間なのか?」

「いや、知らない。今日、転寮を告げられてやってきたんだけど」

「だろうな、あいつらはどうみても、あっち側の奴らだ。お前とは接点なんかありそうにもないもんな」

 あっち側というのはどういうことだ?同じ人外仲間であるならこっち側というはずだし、俺のような普通の人間とも違うようだし。

「行けば解る」

 綾女が簡潔に正論を告げた。

 そらそうだ。いつまでもこんな所に居るわけにもいかない。とっとと寮にいって熱いシャワーでも浴びたいところだ。

「そうだな、いつまでもこんなところでぼさっと突っ立てるってのも馬鹿な話だ」

 撫子が俺と同意見とばかりに相槌をうつ。

「そんじゃま、俺は中島政宗。今日から寮のお世話になる一年だ。これからよろしく」

「あ、ああ、俺は源撫子。同じ一年だ」

「私は間部綾女、一年」

「へぇ同級生なんだ」

「で、お前は何物なんだ?俺たちは見てのとおり鬼と蛇だ」

「何物って、ただの人やけど?」

「……嘘だろ?」

「いや、嘘ってなんでそんな嘘つかんとあかんねん」

 思わず突っ込んでしまう。

「だって、なぁ……」

 源は間部に視線を送る。

「君、ここが何処だかわかっている?」

 間部が詰問するようでもなく、怒っているようでもなく、中性的な……まぁ簡単に言うと感情のこもってない感じで聞いてきた。

「軍学校の寮への路?」

 呆れたとばかりに、大仰に両手を挙げるのは、源だ。

「お前本当にただの人間なのか?」

「至ってごく普通の……最近まで入院してたけど、病み上がりの人間だ」

「くはっびびって損したぜ。俺を押さえつけることができたんだ。てっきり他に何か有ると思ったのに……」

 態度が一変する。

「ただのご馳走じゃねぇか」

 ずいっと一歩力強く、足がでる。

 二つの眼が俺を睨み付ける。

 俺はその目を覗き込む。約1メートルの身長差は見上げる形になって首が痛い。

「……おい、何故お前はびびらない?」

 顔を赤らめて、源が聞いてきた。

「そんなこと云われてもな……慣れただけ?」

「はぁ、慣れただと?普通、俺らを見たら普通の人間は小便ちびって逃げ出すぜ。俺様の覇気ってものが解らんとか?こんだけ睨み聞かせたら、腰ヌカしてもいいじゃんか」

 なんだか、駄々をこねる子供のような言いざまだ。

「今……」

「おっ、どうだ、流石に物分かりがよくなってきたか」

「ちょっと可愛いと思った。とても同じ歳とは思えないところに」

 あぁこの時の源の顔といったら、最後にとっておいた好物を横から掻っさらわれて絶望したというのに相応しい表情だった。

「かっ、可愛いだとぉー」

 真っ赤になって地団駄を踏み出した。どう受け取っていいのやら……困るなぁ。

「撫子の負け」

 そういって近づいてきたのは、無論のこと間部である。

 しゅるしゅると俺に巻きついてきた。

「はっ、蛇子お前も参戦か?」

「撫子煩い」

 尻尾の先で平手打ちされてた。

「君、一つ聞いていいかな」

 状況を確認しよう。

 蛇の胴体が身体に巻きついている状況だ。そのまま絞められたら、ぽっきんだな。いや、それ以前に……。

「はい、なんでしょう」

「彼女いる?」

「へっ?」

 予想外の問いがやってきた。

「居るの?居ないの?」

「居るような居ないような………」

 思い浮かぶ面々はあるのだが、はっきりといっていいのかどうか……認めたくないだけなんだけどさ。

 ずっと流されっぱなしなんだよな……。

「はっきりしないのね」

「はっきりしてないんですよね」

「そう。なら、私なんかどう?」

 胸を目の前に差し出して強調してきた。そんなに大きくはないが形はよさそうだ。って!ブラだけじゃん。水着だけど。

 改めて気がついた。片やマイクロビキニ。片や、胸だけビキニの女性に絡まれているのである。

 状況だけだと、後ろから指されそうなもんである。

「えーと、そういうのはまだ早いというか。卒業してからですかね。大体さっきはその気にでなかったのに何故そうなるんだ」

「美味しそうだから?我慢できなくなった」

 俺だって据え膳喰いたいー。でもちらつく彼女たちの影。一人とは卒業してからと約束もしていたりする。割と理不尽ではあるが…。だから、今、この時点で他とどうこうってのはもっての外だ。人類存亡の危機になる…よね?

「なら、お試しってのはどう?先に相性確認しておくのも大事だとは思わない?」

 耳元で囁かないでください。血が充電されちゃいます。

「待てや、それなら俺の方が先だっ」

 割って入る源。

 そのまま俺と巻きついている間部を押し倒す。

「お試しだ、お試し。ちょっと先っちょだけでいいから」

 そんな血走った目で云われると、即効で充電しだした血が失せた。

「そうね、三人でってのもいいかも」

 間部がなんの感情もなく云う。いやん、変なとこ締めつけないで。

 折角散った血が集まってしまうじゃないか。

「おまっえらっ。いきなり発情してんじゃねー」

 なんということでしょう!世間話から一変、襲われるとはっ。

 じたばたともがくが、巻きつかれている身ではいかんとも抜けれない。

 いきなりの貞操が危機に陥った。先程までのやりとりはなんだったのか。

「いいじゃねーか、俺らを痴漢しようとしたんだろ。その延長ってことで」

「マテコラ。してねーし、冤罪だし、捏造だっ。裁判を要求するっ!」

「ぐへっへっへっ、生娘じゃあるまいし、いいではないか、いいではないかっ」

「なんだその台詞、マジやめろ」

 両の手で顔を押さえつけられ、舌なめずりした源が近づいてくる。

 アッー。

「ア゛ッーーーーー」

 ドカンと一発。大きな音を立てて、源が吹っ飛んでいった。


「あ?」

「主よ、遅いと思って見に来れば、何をやっておるのじゃ」

 吹き飛んでいった源に変わって現れたのは柊だった。

「とんだ巻き込まれ体質ですね」

 その横には咲華も居た。ついでにその後ろ、皇もいるではないか。

 命の危険を感じた。冷や汗がだらりだらりと流れだす。

「どうしてここが解ったのだ?」

「妾の眷属が教えてくれたのじゃ。ほら」

 上を指し示すと、カーと鳴いた。なるほど理解できた。つまり入って即効見つけられていたのね。

「それでこの状況はなんじゃ?」

「いや、これはだな……はぐあっ」

 蛇の胴体が急に締めつけられた。ガチガチと震えているのが伝わる。

「ひっ姫様」

 後ろを振り向いた間部が素っ頓狂な声を挙げた。

「蛇よ。何をしておる。はやー離れんか」

 拘束が緩む。

 そのまま、とぐろを巻いて縮こまって平伏する間部。額を地面に擦りつけ、土下座する。

「助かったよ」

 のろのろと立ち上がって謝辞を述べる。

「全く……」

「誰だ、俺様を蹴たくったやつは」

 怒濤の勢いで駆け勇んできた。と、思ったら目の前で硬直した。

「姫様っ」

 状況を確認する源。

 どうやら、先程から姫々と言っている相手は柊へに対してのようだ。

「頭が高い」

 2メートル半超えと、150センチもない柊と比べたらそらね……。

 云われて間部と同じように、瞬時に源は平伏した。

 なんですか、このシチュエーション。

「姫様に置かれましては、本日もお日柄もよくっびゃっ──」

 舌を噛んだようだ。

「黙っておれ」

「ははっ」

 柊が俺を見る。期待に目を膨らませて。

 はいはい。

 頭を撫でてやった。

「てめぇっ何をっ」

 源が立ち上がって、俺を掴もうと手を伸ばしてきたと思ったら、飛んでった。

 勿論、柊のせいだ。飛び蹴りをかましたからだ。

「柊、手加減しろと何時も言っているだろ」

「したぞ?」

 ………んー、この……。

「ならいい」

 納得した。ことにした。

 とぼとぼと元気なく戻ってきて、再度平伏する源。

「姫様、恐れ多くも、問うてよろしいでしょうか」

 間部が平伏したまま言ってきた。

「なんじゃ?」

「この御方は何方様なのでしょうか。見るに一般の人間のように見受けられますが」

 ふむん。彼女の言いたいことが察せれた。

 これが遠野の階級社会(力が全て)というやつか。

 柊が視線をちらりと寄越す。

 駄目、絶対。と、視線で会話する。

 うん解ったと頷く。

「彼は、妾の旦那じゃ」

 ………視線の会話は通じなかったようだ。いや、通じようが通じなかろうが同じことか。

 心の中でため息をもらした。

「ついでに云うと、この二人ともじゃな」

 平伏した二人はちらりと視線をあげ、咲華と皇を見上げる。

 誰って感じだな。

「待て、まだ正式に──」

 皇がこちらを射貫くように観る。

「正式に判を押した訳でないから……」

 俺弱ぇー。

「ということは、許嫁ということでございましょうか」

「へっ?こいつそんなお大臣なの?」

 素っ頓狂な声を上げて、源は俺をみる。

 彼女からすれば、そう受け取られてもしかたないのか。さっきから言ってるのに……ただの一般人だと。

「うむ、この妾に勝ちし勇者である」

「はぁっ?」

 平伏も何処へやら二人は俺をまじまじと見つめる。

「いや、そんなことあるはずがないっ」

「有り得ません」

 うわーお、俺って低評価。

 俺だってそう思うがなっ。

「あの熱き戦い、妾を組しだき、負けを認めさせた豪腕は──」

 チョップを入れた。

「はいそこー捏造しない」

「痛いのじゃー」

「テメェっ姫様になんて事を──」

 立ち上がる。手が伸びる。跳び蹴り。吹き飛ぶ。とぼとぼと戻ってくる。

「少しは学習するのじゃ」

 無言で平伏する、源。

 確かに彼女は頑丈だった。平坂なら最初の一撃で保健室送りだもんな。

「埒があかぬの」

 確かに。

「とりあえず、寮に行こうか」

「そうじゃな、折角のサプライズパーティーが台無しじゃ」

「サプライズ?パーティー?」

 しまったとばかり、口に手を充てる柊を見て俺は気がついた。

 この場に柊、皇、それに咲華がいる。そういうことだったのか。

「それは済まなかったな」

「主は知らなかったのじゃから、謝る必要はない」

 頭を差し出す柊に、俺は苦笑いしつつ再度頭を撫でてやる。

「じゃ、行こうか」

 今もびしょ濡れの鞄を持って、柊たちに視線を送る。

「そうじゃな」

 踵を返し、柊が歩きだす。

「あ、待って、この2人どうすんの?」

 3人は平伏したままの2人を見る。

 どうすんのと俺に5人の視線が集まった。

 はいはい。

「袖擦り逢うも多少の縁、来なよ」

 2人を招待した。

 3人は、そうなるとばかりに納得した。

「へっ?いいんか?……いや、いいのでございますでしょうか」

「そういうのはいいから、同じ一年だ。普通に話かけてくれないかな」

 2人は柊を見る。

 俺が言っても、意味がないようだ。

「好きにすれば良かろう」

「ははー」

 更に平伏する2人であった。


仕事の関係でペースはちょっと不規則になりそうです。

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